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20 馬鹿正直に聞いたらダメですか?

セシルは馬車の中でひたすら悩んでいた。


「……どうしよう。あのマリーさんに……どう“確認”したらいいのかしら……」


膝の上で指が忙しなく動く。

潜入調査なのに、聞き方ひとつ思いつかない自分に落ち込む。引きこもりには荷が重すぎる案件なのだ。


「……正直に『あなた盗みました?』なんて聞くわけにも……」


ぽそっと漏れたセシルの呟きに、「ダメに決まってるでしょう」リオが即座に切り捨てた。


真面目な顔で書類をめくりながら、眉だけがきっちり吊り上がっている。


「怪しまれるどころか、その場で拘束されますよ。潜入は“自然な接触”と“情報の積み上げ”が基本です」


「ですよね……」


セシルはさらに縮こまった。


隣でテオドルが、能天気に腕を組んで言った。


「なら、自然に話しかければいいんじゃないっすか?普通に仲良くなりたいんです〜って行けば、案外いけるっすよ!」


「テオドル、簡単に言うけど、それが難しいのよ……」


セシルが肩を落としたその瞬間ーー


「――そこで俺の出番、ってことだよね?」

にこり、と完璧な微笑みを浮かべながら、腹黒いオーラをまとったカールが声を上げた。


セシルは思わず一歩引く。


「さっきから思っていたけど…な、なんでお兄様までいるのかしら?」


「アラン様から適材適所とご指名いただいたのさ。公爵家相手なら、僕のほうが自然に動けるからね」



自然(=腹黒外交フル活用)



「……なんだろう、嫌な予感しかしない……」


セシルは頭を抱えた。


こうしてーー

マリーへ接触するための作戦会議は、カオスの気配とともに幕を開けたのだった。



「で、具体的にはどうするんですか?」


リオが話を前に進める。

その声音は相変わらず落ち着いていて、唯一この場の理性を保っている。


「そうだねぇ」

カールは指先で顎に触れながら、楽しそうに考える。


「まず前提として――“こちらが探っていると悟られたら終わり”だ」


「はい」

リオが即座に頷く。


「なので妹よ、君には――」


カールはにっこり笑った。


「“何も考えていない人間”を演じてもらう」


「……はい?」


セシルの思考が一瞬止まる。


「無害で、世間知らずで、少し抜けていて――

 警戒する価値もない存在」


「ちょっと待ってそれ、素の私じゃない?」


「だから適任なんだよ」


「褒めてないわよね!?」


テオドルが吹き出す。

「確かに、それなら余裕っすね!」


「テオドル!?」


リオは軽く咳払いをした。


「ですが理にはかなっています。

 警戒されないことが最優先ですから」


「うぅ……」


セシルはしょんぼり肩を落とす。


(否定できないのが悔しい……!)


カールはさらに楽しそうに続けた。


「そして“偶然を装って接触する”。

 例えば――貴賓室の確認、侍女業務の引き継ぎ、雑務の手伝い」


「……なるほど」


「その中で、相手の反応を見る。

 “地図”には触れない。あくまで周辺から」


リオが補足する。

「違和感があれば、そこを深掘りします」


テオドルが元気よく手を挙げた。


「じゃあ俺は後ろで見張るっす!」


「目立ちます」

リオ即答。


「えぇ!?」


「テオドルは“普通にいるだけで威圧感があります”」


「そんなことないっすよ!?」


「あります」


「ありますね」

カールまで同意した。


「ひどくないっすか!?」


セシルは思わず小さく笑ってしまう。


(……でも、少し気が楽になったかも)


けれど次の瞬間、現実に引き戻される。


「つまり私は――」


カールが指を一本立てた。


「“自然に近づいて、自然に会話して、自然に探る”」


「一番難しいやつじゃない!!」


思わず叫ぶ。


「大丈夫ですよ」

リオが淡々と言う。


「失敗しても、自然に見えますから」


「それフォローになってないわよ!?」


テオドルがにっと笑う。

「いざとなったら俺が場を盛り上げるっす!」


「余計ややこしくなる未来しか見えない!」


カールは満足そうに頷いた。


「いいね。完璧じゃないか」


「どこが!?」



計画として成立しているのか怪しいまま、

“自然体すぎる潜入作戦”が決行されることになったのだった。



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