19 色の違う姫
セシルはしばらく言葉を失ったまま、カールとアランを見つめた。
やがて、胸の奥から絞り出すように問いがこぼれる。
「……どうして、片方を“いないこと”にしなきゃならなかったんですか……?」
アランは一瞬、言葉を選ぶように黙り込み、やがて静かに口を開いた。
「……“双子は不吉”って、聞いたことないか?」
セシルはゆっくりと息を吸い、眉をひそめた。
確かに――“双子は不吉”という話は耳にしたことがある。
だが、そんなもの、どの文献にも明確な根拠はない。
「他国では、双子は“富と幸福の象徴”とされることもあります。一概に不吉とは言えません」
アランは椅子の背にもたれ、低く呟いた。
「まぁな。けど……今の皇太子殿下には男子がいない。権力争いだの、継承問題だの――余計なことを言い出す連中が必ず出てくる」
空気が一気に冷えた気がした。
セシルは胸の奥で小さく、何かがざらりと音を立てるのを感じた。
そのとき、カールが軽く手を叩いた。
「ま、そういう難しい話は偉い人たちに任せよう。僕たちは“今そこにある問題”を片づけるだけだ」
「今そこにある問題……?」
セシルが首を傾げると、カールはにやりと笑う。
「なくなった王城の隠し通路の地図が、どこにあるのか。そして、誰が持ち出したのか?でしょ?」
カールは唇の端を上げ、面白そうに言った。
まるでその事実をとっくに知っているかのような声音だった。
セシルは小さく息をのむ。
アランは視線を逸らさずに答える。
「そうだ。だがまだ“誰が”までは掴めていない」
カールの目がすっと細くなる。
「でも、だいたい察しはついてるんでしょ?アランさん」
アランは深く息を吐き、短く答えた。
「わかってたら、苦労してない」
低く、どこか疲れのにじむ声。
その言葉に、カールは肩をすくめて笑った。
「そりゃそうか。それでーー」
と、今度はセシルに視線を向ける。
「妹よ。潜入してみて、怪しい人はいなかったのかい?」
いかにも軽口めいた調子。けれど、その瞳の奥には冗談の色はなかった。
セシルは少し迷った末に、真剣な眼差しで口を開いた。
「……いました。姫付きの侍女、マリーという方です」
カールが片眉を上げる。
「どんな風に“怪しかった”?」
セシルは思い出すように、ゆっくりと目を伏せた。
「見た目は落ち着いていて、とても丁寧でした。でも……感情の奥が、まるで氷のように冷たくて。表面では姫を慕っているのに、奥では……利用しているような、そんな感じでした」
カールの笑みがすっと消える。
アランも険しい表情を見せ、腕を組んだ。
「マリー……。確か、公爵家関係の侍女だったはずだ」
セシルは慌てて付け加える。
「まだごく一部の侍女としか会っていませんし、他にも怪しい人はいるかもしれませんが……」
アランは静かに頷く。
「確かにな……。だが、調べてみる価値は十分にありそうだ。カール、頼むぞ」
カールは口の端をわずかに上げ、落ち着いた笑みを浮かべる。
「承知しました。できる限りのことをいたしますよ」
短い沈黙。
アランの視線が鋭く光った。
「――公爵家か。おそらく、その女が“地図”の鍵を握っている可能性が高いな」
その低く落ち着いた声が、部屋の空気を一気に冷たく引き締めた。
セシルは思わず背筋を伸ばす。
さっきまで柔らかく笑っていたカールの表情も引き締まり、重苦しい沈黙が三人の間に落ちる。
(“地図の鍵”……公爵家…?)
胸の奥がざわめき、セシルは小さく息をのんだ。
まるで見えない糸が、ゆっくりと自分を“塔”へと引き戻していく気がした。




