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18 帰路の小さな違和感

姫に挨拶をするため、セシルは案内されて部屋に通された。

扉の前で、ふと足を止める。


(……やっぱり緊張するな……)


少しだけ深呼吸をして、心を落ち着ける。

目の前に広がるのは、先ほどと同じ淡い光の差し込む空間。

その中で、アンナ姫が静かに座っていた。


「あら、セシル様、もうお帰りになるの?」


その笑顔は、先ほどの笑顔とどこか違う。

ほんのわずかに冷たさを帯びていて、セシルは違和感を覚える。


セシルはぎこちなくお辞儀をし、無難に言葉を返す。

「はい……ご挨拶を、と思いまして……」


アンナ姫はくすりと微笑み、少し首をかしげる。

「あら、そう。残念ね」


その声の端々には計算された鋭さが隠されていて、セシルは思わず肩をすくめる。


(……うん、この笑顔は昨日のやつだ……!)


少し背筋を伸ばし、礼を尽くすセシル。

挨拶を終え、部屋を出ると、外の石畳に足を踏み出す。

風が頬を撫で、緊張がわずかに解けた。


(……うーん?そんなことある?)

セシルは眉をひそめつつ、リオとテオドルの待つ廊下へ歩みを進めた。


塔の廊下でリオとテオドルと合流すると、リオは真っ直ぐセシルを見て、声をかける。


「どうでした、セシル様?」


セシルは眉をひそめ、腕を組む。

「……窓を開けてきたわよ」


リオとテオドルは互いに目を合わせ、首をかしげる。


「は?」


「は?」


セシルは一歩前に出て、両手を広げる。

「ええ、空気の入れ替えよ! それ以上でもそれ以下でもないわ!」


テオドルは肩をすくめ、いたずらっぽく笑った。

「……なんか、すごく地味な成果すっね」


リオは小さくため息をつく。

「セシル様、その“成果”の説明、もう少し……こう、他にありませんか?」


セシルは唇を尖らせ、二人を睨む。

「別の言い方も何も、窓を開けただけよ!」


――でも、心の奥ではまだ考え込んでいる。

(……あの姫の笑顔は……?)


「あの、アラン様に確認したいことがあるのだけど」

セシルは小声で尋ねると、リオが少し考え込むように眉を寄せ、静かに答える。

「今の時間なら、王宮の騎士団本部におられるはずです。団長や副団長もいるので、必要であれば確認できると思います」


セシルは小さく頷き、心の中で決める。

(……よし、今のうちにちょっと確認してみよう)


セシルは少し躊躇いながらも、リオに目を向けた。

「なら、案内をお願いできませんか?すぐに確認したいことがあるの」


リオは小さく頷き、すぐに応じる。

「承知しました。ご案内いたします、セシル様」




◇◇◇


重厚な扉の前でリオが足を止めた。

「アラン様は、ちょうど執務室にいらっしゃるはずです」


扉の前には、銀の紋章が刻まれている。

規律と威厳、そして……どこか息が詰まるような緊張感。


セシルは深呼吸をひとつして、扉をノックした。

「セシルです。少しお時間をいただけますか?」


中から低い声が返る。

「入れ」


重い扉を押し開けると、アランが机の前で書類に目を通していた。

陽光が窓から差し込み、鋭い横顔を照らす。


「どうした、もう報告か?」


セシルは少しだけ間を置き、口を開いた。

「……アラン様。ひとつ、確認したいことがあるんです」


アランはペンを置き、顔を上げる。

「言ってみろ」


セシルはそっと唇を噛んでから、真っすぐに言った。

「今日お会いした“アンナ姫”――あの方、本当に、姫様ですよね?」


部屋の空気が、ぴんと張り詰めた。


「どうしてそう思う?」

アランが眉をわずかにひそめる。


「え?声の色が違います」

セシルは真剣そのものの顔で答えた。

「例えるなら……緑と黄緑、みたいな感じです」


「…………」

アランは一瞬、理解が追いつかないといった顔をする。


「どういうことだ?」


「だから、色が違うんです。同じように見えて、まったくの別物。まるで……二人いるような……」


言葉の続きを飲み込んだその瞬間、

――パチ、パチ、パチ。


不意に背後から拍手が響いた。

セシルが振り返ると、そこにはカールが満足げな笑みを浮かべて立っていた。

リオとテオドルの姿は、いつの間にか消えている。


「いやぁ、相変わらず見事な力だね」

カールは愉快そうに口角を上げた。

「使わないようにしてるから、もう鈍ったんじゃないかと心配してたよ、セシル」


「な!お兄様?」

セシルは思わず振り返る。


兄は軽く手を振り、まるで挨拶代わりの冗談でも言うように笑った。


そして、くるりとアランの方へ視線を向ける。

「ね?アランさん。妹の力、ほんとだってわかったでしょ?」

その口調はどこか砕けていて、挑発めいている。


アランは腕を組み、ほんの一拍の沈黙を置いてから答える。

「……あぁ。どうやら“本物”らしいな」


(そういえば、アラン様……半信半疑って言ってたんだった)

セシルは少しむっとしながらも、胸の奥がくすぐったくなる。


「なら、みなさん、姫が二人いるって知ってたんですか!?」

セシルは思わず声を上げた。


アランは淡々と首を横に振る。

「いや。知らない。王族を含めた、ごく一部の重臣しか知らん」


「……は?」

セシルの眉がぴくりと動く。

「えーと、お兄様やアラン様は知ってたんですか?」


カールが軽く肩をすくめて笑う。

「まぁ、少し前にね。騎士団の中では団長と副団長と僕だけだよ」


一拍置いて、さらに身を乗り出す。

「まさか……わざと?私の力を、試したんですか!?」


アランは少し目を伏せ、短く答える。

「……確認の意味もあった」


「確認って!心臓止まるかと思いましたよ!」

セシルは思わず机を叩いた。


横でカールが愉快そうに笑う。

「いやぁ、でも立派に見抜いたじゃないか。さすが俺の妹だ」


「もうっ、そういう問題じゃありませんっ!」

セシルは思わず立ち上がり、ぷんすかと頬を膨らませる。


短い沈黙のあと、アランは静かに口を開く。

「……力を試したのは悪かった」


その声はいつもの冷たさよりも、少しだけ低く、重い。

「だが、生半可なやつを巻き込みたくなかった。これは、遊び半分で触れていい任務じゃない」


セシルは言葉を失った。

アランの瞳には迷いがない。そこにあるのは、冷徹な判断と、わずかな――“期待”だった。


「……だから、確かめたんですか」

セシルは小さく息を吐く。


「そうだ。お前の力が“本物”かどうかを」


(……本当は力なんて使いたくなかったのに…)

胸の奥で小さく呟きながら、セシルはそっと視線をそらした。


アランはしばらく黙っていた。

その沈黙が、かえって重く響く。


セシルが息を飲み、問いかけようとした瞬間――

アランはゆっくりと口を開いた。


「……姫は、双子だ」


その一言が、空気を切り裂くように落ちた。

誰もが息を詰め、言葉を失う。


セシルの心臓が、ドクンと大きく跳ねた。

「双子?でも、記録には……」


アランは静かに首を振る。

「生まれた時から“片方”は存在しないことにされた。王宮でも、ごく一部の者しか知らない」


カールが腕を組み、低く笑う。

「な?そりゃあ驚くよな。まさかこんなに早く見抜くなんて思ってなかったよ」


セシルは呆然としながら、口を開く。

「つまり……今日会ったのは、“もう一人の姫”だったってこと?」


アランはわずかに頷いた。

「そうだ。お前が感じ取った“色の違い”――それが、証拠だ」



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