12 引きこもり伯爵令嬢、国家レベルの探し物の幕開け
翌日。
セシルは屋敷で身支度を整えていた。
衣装は落ち着いた王宮用の装い。髪は自分で整え、メガネもきちんと掛けてみる。
横では侍女のサラが、手際よく荷物の確認をしていた。
「……お嬢様、なんでメガネなんて掛けてるんですか?」
「形から入るのも意気込みの一つよ」
セシルは真剣な顔で言い放つ。
「でも度入ってませんよね、それ」
「雰囲気メガネってやつよ。なんか“できる女”って感じがしない?」
「“気合だけ強い女”には見えます」
「ぐぅ……!」
「お嬢様、準備は万端です」
赤毛のアメリが微笑みながら鞄を手渡す。
(この子の方が有能オーラ出てる気がするの、気のせいよね?)
セシルは深呼吸を一つ。
「よし……いざ、王宮へ。“なくしもの”を探しに行くわ!」
「なんか、軽くないですか?」
「うるさい、行く前から心折れそうなのよ!」
「骨は拾ってあげるので、安心してください」とサラが笑う。
「縁起でもないこと言わないでよ!」
「さあさあ、セシル様行ってらしゃいませ!」
二人の侍女に背中を押されるようにして、セシルは屋敷を出た。
屋敷の外では、アランの部下、リオとテオドルがすでに待機している。
ーーー引きこもり令嬢のまさかの国家任務が、こうして幕を開けた。
王宮へ向かう馬車の中。
セシルたちは打ち合わせのため、同じ馬車に乗り込んでいた。
「……えっと、今日はお姫様との顔合わせだけでしたよね?」
緊張のあまり、手袋の端をいじりながらセシルが尋ねる。
「はい。そのつもりです」
リオは無表情で答える。
「今日だけでアンナ姫に関わる全員と会うのは難しいですが、できるだけ早く、関係者一人ひとりをチェックしてもらいます」
「チェックって……どうやって?」
「感情を読めるんですよね?それがあなたの役目です」
「え、まさか……“盗みました?”って直接聞くんですか?」
一瞬の沈黙。
リオの冷ややかな視線が、スッ……とセシルに向けられる。
「……そんな聞き方をするスパイがいるなら、すぐに捕まるか警戒されます」
「ですよねぇ!!」
セシルは両手で顔を覆い、膝の上で小さく丸まった。
(初日からもう社会不適合者の烙印押されそう……!)
その様子を見たテオドルが、向かいの席で笑いながら言う。
「まぁまぁ、落ち着いてくださいよお嬢様。俺たちがフォローしますから!」
「……なんかその言葉が一番信用できない気がするんだけど」
馬車は石畳を軽やかに進み、帝国の中心――
アスラン王宮へと近づいていくのだった。




