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10 類は友を呼ぶ

翌朝。

慣れない寝具と緊張のせいで、セシルは寝たような寝てないような朝を迎えた。


「……お嬢様、起きてください。顔が死んでます」

「うぅ……サラぁ、今日だけ二度寝したい……」

「初日から寝坊は貴族の恥です」

毒舌のサラに背中を押され、セシルは重い腰を上げる。


支度と朝食を終えると、扉の外で控えていたアメリが深々と一礼した。

「おはようございます、お嬢様。屋敷のご案内をいたします」


「ありがとうございます。……あ、サラも一緒でいいかしら?」

「もちろんでございます」

アメリはにこやかに頷く。



三人で歩く廊下は、どこを見ても眩しいほど整っている。

壁に並ぶ絵画、磨き上げられた床、静かにすれ違う使用人たち。


「この屋敷……無駄に広いわね」

「“無駄に”とか言わないでください。侯爵邸です」

サラの小言を受け流しながら、セシルは目を丸くする。


アメリが説明を続ける。

「こちらが客間棟でございます。訪問者が多いときは、こちらに皆様ご宿泊されます」

「多いって……何人規模ですか?」

「百人ほどですね」

「国会か何か!?」

サラが冷静に囁く。

「お嬢様、声が大きいです」


✳︎


「そしてこちらが厨房棟です。料理長は厳しいですが、腕は確かです」

「いいわね……あ、パンの香り。しあわせ……」

「お嬢様、そちらは厨房の勝手口です」

「入っちゃダメ?一瞬だけでいいから!」

「ダメです」

「ダメです」

二人の侍女の声がハモった。


(……ちょっと、息ピッタリじゃない?)


セシルは苦笑しながらも、名残惜しそうに厨房の香りを吸い込んだ。

――どうやら、ここにはあまり立ち寄らない方がよさそうだ。



✳︎



建物の中央には、執務室や会議室といった重要な部屋が集まっていた。

廊下の奥、アメリが小声で言う。

「こちらがアラン様の執務室です」


「……入ったら怒られるやつね」


「怒りませんよ、あの方は優しいですから」


(え、あの“石像フェイス”が?)

セシルの脳内で、思わずツッコミが飛んだ。


「アラン様は、ここでお仕事をされることもありますが、王宮にいることも多いです。

それに、この辺りは帝国騎士団の隊員の方々もよく出入りされます」


「ふーん……つまり、“不用意に近づくな”ってことね」

「そんな言い方しないでください」

サラは軽くため息をつきながら、セシルの腕を軽く引いた。


温室に訓練場に――いろいろ案内してもらったけれど、広大すぎるうえに興味がないので、脳が早々に記録を放棄した。



✳︎



やがて屋敷の一番奥にたどり着く。

アメリが静かに告げた。

「そして、こちらが当邸自慢の蔵書室です」


「蔵書室!?」

セシルの目が一気に輝いた。

「お嬢様、目がギラギラしてます」

「本よ、サラ。本があるのよ……!」


アメリがドアを開ける。

重厚な木の扉の向こうに、天井まで届くほどの本棚が並ぶ。

柔らかな陽光が差し込み、紙とインクの匂いがふわりと香る。


「なんて素敵……!」

セシルは本棚に駆け寄り、背表紙をなぞる。


アメリが微笑んだ。

「どうぞご自由に。こちらはアラン様の蔵書も一部含まれております」


「え、副団長様も本を?」

「ええ……主に、戦記物や英雄譚などを」


アメリの声が少し震える。

(ん?なんかテンションが……上がってない?)


アメリはそっと指を本棚の一角に滑らせながら、

「この辺りの“絆もの”は、なかなか……味が深くてですね」と言いかけて、ハッと口を押さえた。


セシルとサラが同時に首を傾げる。

「“絆もの”?」

「え、えっと!友情です!殿方の熱い友情です!!」

(あ、この人……匂う。私と同じ香りがする)


サラが小声で囁いた。

「お嬢様、目の奥が光ってます」

「気のせいよ、サラ。気のせい」


アメリが柔らかく笑いながら説明を続ける。

「こちらの本は、歴代の当主様が収集されたものです。魔術書から古典文学まで、幅広くございます」


「素敵……!あの、触ってもいいですか?」

「はい。ただし、こちらの“金の背表紙”の棚は閲覧のみです」


(……あの、輝いてる棚。絶対レア本ゾーンよね)

セシルの目が狩人のように光る。


サラがため息をつく。

「お嬢様、狩りの時間ではありません。任務の話を忘れてませんか?」

「覚えてるわよ!……でも本も大事なの!」



そんな中、セシルは一冊の黒い本を見つけた。

他のどの本よりも存在感がある。

「……“皇太子と近衛騎士”?」

思わずタイトルを口にすると、アメリがビクリと肩を震わせた。


「こちらは……あまり手に取られる方がいらっしゃらない、ええと……あの……」

(あ、この反応……知ってる顔だ)


セシルはおそるおそるページをめくる。

中には重厚な戦記……に見せかけて、行間からただよう“妙な熱量”。


「……ん?この皇太子と騎士、なんか距離が近いわね?」

サラが眉をひそめる。

「お嬢様、それ“戦場の友情”ではなく、“戦場の情熱”では?」


アメリが顔を真っ赤にして、両手をバタバタさせる。

「そ、それはですね!その……誤解です!友情なんです!深い、友情っ!」


セシルはその慌てぶりを見て、確信した。

(やっぱり……同志だわ、この人)



「アメリさん」

「は、はいっ」

「あなたも……お好きなのね」


静寂が一瞬流れた。

そしてアメリは、ふわっと笑った。

「ええ、まさか……同志のお嬢様にお仕えできるなんて思いませんでした!セシル様はこちらの方面もお読みになられると知って感激致しております!」


セシルは思わず手を取り合う。

「私も!本の香りと萌えを愛する者として、よろしくお願いします!」


サラは二人を見て心底あきれ顔。

「……はいはい。新しい任務よりも、同類探しのほうが順調ですね」


セシルは胸を張る。

「人生、出会いが大事なの!」




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