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00 無愛想副団長、引きこもり令嬢の部屋をノックする

今日も世界は平和。

少なくとも、セシルの部屋の中では。



紅茶とお菓子を片手に、恋愛小説の最新巻を読みふけっていた。

ページの中で、完璧な騎士が姫君に跪き、愛を誓う。

セシルは頬を押さえながら、思わず小さく身をよじった。


「ふふっ……やっぱり王道って最高……」


そんな平穏な時間をぶち壊すように、部屋の外で誰かが騒がしい。


「セシルお嬢様!帝国騎士団の方がお見えです!」

侍女の声に、セシルは紅茶を盛大にこぼした。



「え、き、騎士団!?何かやらかしたの!?私、税金ちゃんとはらってるわよ!?」


慌てて髪を整えるも、ふわふわの寝間着姿ではどうにもならない。

そのとき、扉の向こうから低い男の声が響いた。


「アラン・フォン・ガブリエル。帝国騎士団副団長だ。入ってもいいか」



……その声だけで空気が変わった。


セシルは一瞬で心拍数が上がるのを感じる。

一生関わることがないと思っていた“本物の騎士”が、今ここに。



「ま、ままま、待ってください!まだ準備が――!」

叫ぶ間もなく、扉が静かに開いた。




現れたのは、灰色のマントを羽織り、鋭い瞳をした男。

筋張った細身の腕、無駄のない動き、そして何より――

想像よりずっと格好いい。


「陛下の命令だ。君の力を借りたい」


「ちょ、ちょっと待ってください、え、私の“力”って……引きこもりは何もお役に立てません……」


「君は人の心を読めると聞いた」


セシルは頭を抱えた。

小説のヒーローみたいな男が、よりによって自分をスカウトしに来るなんて。

そんな現実、ファンタジーにも異世界転生にも書いてない。


「……あの、外、まぶしいので無理です」

「……五分で支度しろ」


アランの声は低く冷静だった。

なのに、なぜかその一言が、胸の奥を少しだけくすぐった。


――この人、怖いのに、少し優しい。

そんな予感がした。


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