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月夜譚 【No.301~】

放課後の教室で 【月夜譚No.364】

作者: 夏月七葉

 わざと忘れ物をしたことがある。

 その日はスマートホンのアラームをかけ忘れて寝坊し、慌てて学校に向かったせいで歩道橋の階段に躓いて転び、抜き打ちの数学の小テストはボロボロ、体育の授業ではバレーボールを額で受ける――とまあ、散々な一日だった。

 放課後、いつものメンバーで教室を出て校門を潜ろうとした時、私は「あっ」と声を上げて、忘れ物をしたから先に帰っていて欲しいと友人に告げた。こんな暗い気持ちで友人達と楽しく会話なんて、休み時間だけで力尽きたのだ。

 一応、本当にペンケースを机の中に置いてきた。誰もいない夕陽の差す教室に戻って、予定調和のそれを手に取る。

 その途端、視界が滲んだ。見ている人がいないと思ったら、涙腺が壊れたみたいに後から後から溢れてくる。

「あ……」

 声がして、振り返る。扉のところにクラスメイトの男子が立っていた。

 いつも笑顔で人気者の彼の表情は硬くて、困らせてしまったと思っても涙は止まらない。

 どうしようかと焦っていると、男子は黙ったまま少し離れた席に腰かけた。何をするでもなくただそこにいる彼の背中に、私は何故だか安心して涙を流れるままにした。

 夕陽が落ちて教室が暗くなり、私の頬が乾くまで、彼はそこにいてくれた。

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