07話 そういえばお風呂
ノエルはいつものように、鳥のさえずりでも朝陽の眩しさでもなく、どこか“ドロッ”としたような、“ぬるっ”としたような感覚と、布団以上の重みに目を覚ました。
「ん……うぅ……」
うめき声を漏らしながら瞼を開くと、目の前にはぷるんとした淡水色の物体が、まるで掛け布団のように広がっていた。
「……モボン?」
声をかけると、モボンは嬉しそうにぷるん、と軽く跳ねた。
「お、おはよう……って、ちょっと待って……」
ノエルは寝起きのぼんやりした頭で、目の前のスライムを見つめる。
「モボン!元気になったんだね!」
そう、なぜ上に乗っているかはさておき、昨日まで気怠そうにしていたモボンが、以前のように活発に跳ねている。それだけでノエルは胸があたたかくなった。
モボンは誇らしげにぷるぷると横に揺れる。……なんだか、ちょっと美味しそう。齧ってもいいかな?という誘惑が一瞬よぎったのは内緒だ。
次にノエルは、素朴な疑問をモボンにぶつけた。
「モボン、どうして私の上にいるの?」
普段は、ノエルが起きるまで自分のベッドでおとなしくしているモボン。今日は目を覚ますと、自分の上に――まるで毛布のように乗っかっていたのだ。
だが、次の瞬間――さらに奇妙なことに気がついた。
身体が、すべすべしている。
「……あれ?」
昨日は疲れて、夕飯もお風呂もすっ飛ばして寝てしまったはず。それなのに、汗も泥もまったく感じない。肌はさらさらで、髪も絡まっていない。
「……え、モボン。もしかして、キレイにしてくれたの?」
またぷるん、と跳ねるスライム。
上で飛び跳ねられるとちょっとだけ苦しい。でも、それ以上に驚きが優っていた。
「うわ、すごい!そんなことできたんだ!」
ノエルは素直に驚いた。身体はまるで朝風呂を済ませたように爽やかだ。モボンがそんなことが出来るなんて知らなかった。いつもはそんな状態で寝ることなんてなかったので、モボンがそんなことが出来るなんて知らなかったのだ。
そして、思い出したように部屋の端に目をやると、魔素入りの瓶が―― すべて空になっていた。
「あれ? 1本しかあげてないはず……全部飲んだの!?」
モボンは先ほどとは打って変わってしれっとしている。
(元気になってる……)
ノエルは嬉しそうに微笑む。
でも、ふと昨日のことを思い出す。
「そうだ……あの子、どうなったのかな……」
ママに聞かなくちゃ……
そう思ったノエルは、モボンの重さからすり抜け、スリッパも履かず、寝間着のままバタバタと部屋を飛び出した。