39話 四光石が映すもの
「ここだ」
アリオスは短くそう声に出した。
ノエルは鑑定屋全体の外側を見渡すように首を動かす。屋敷とは全く異なった外観に、戸惑いながらキョロキョロと珍しそうに眺めた。そして、ハッと気づいたように、両手でリーヴを抱きかかえると、モボンの方にも視線を向けて、釘を刺すように言った。
「今日は初めましての人に会うから、ちゃんと今日はお行儀よくしてるんだよ? リーヴも、モボンも、静かにねっ」
ノエルがそうモボンとリーヴに伝えると、アリオスが頷く。そして、一行はリィ=セランの庵の暖簾をくぐった。
「失礼する」
ノエルは、足を踏み入れた瞬間、ぴたりと動きを止めた。庵の中に漂う香草の匂いと、少し薄暗い空間が、まるで別の世界に入ったような気分にさせる。
(……なんか、ちょっと……こわい……かも?)
ノエルの腕の中にいるリーヴは静かに周囲を警戒し、モボンは入り口のすぐそばで控えるように佇んでいる。店の奥には椅子に座った老婆が腰掛けていた。
「アリオス、そう言うのは…… おやぁ……?」
そして、老婆はアリオスに隠れるように足に引っ付いているノエルを見つける。アリオスは、そんなノエルを横に立つよう手で促し、ノエルの姿が老婆からはっきりと見える位置に移動させた。
「ノエル、ほら。挨拶を」
アリオスが優しく声をかける。ノエルは一拍おいて、ぺこりと小さく頭を下げながら、挨拶をした。
「こ、こんにちは……です」
すると、店の奥から柔らかな声が返ってきた。
「えぇ、こんにちは。いらっしゃい、お嬢ちゃん」
鑑定士リィ=セランはノエルを笑顔で迎えたが、その目線は冷静で鋭い。ふわりとした笑顔の下で、リーヴとモボンをじっと見定めていることをノエルは感じ取った。
(……パパ〜〜!!)
ノエルは内心アリオスに助けを求めつつも、“お店”という場所への興味を抑えきれなかった。何も言わず店内を見渡す。その視線が、部屋の中心に置かれたひときわ輝くものへと吸い寄せられる。
「パパ……あれ」
ノエルがそれを指刺しながら、アリオスに声をかける。それを察して、アリオスは短く、そうだよ、と返した。
「思ったより……なんだか、きれい……」
それはまるで、波間に揺らめく光を閉じ込めたような透明な石だった。リィ=セランが、わざと目立つようにこの透明な鑑定石、"四光石"を台座に飾っておいたものだ。
「今日は何のようだい?」
リィ=セランが、わざとらしくアリオスに問いかける。
「ノエルの属性を、見ておきたくてな」
「あぁ、そういうことなら……お嬢ちゃん、おいで」
リィ=セランは椅子に座ったまま石をそっと持ち上げ、ノエルに差し出した。
「リーヴ、ごめんね? ちょっとだけここにいてね」
ノエルは手に抱えていたリーヴを石の置いてあった土台に代わりに置き、石を受け取った。
「これに、少しだけ魔力を込めてごらん。込め方は分かるかい?」
「う…… はいっ」
ノエルは緊張しながらも、深呼吸をひとつして、石にそっと手を添えた。そして、エレノーラとの練習を思い出しながら、緊張を紛らわせるように小さく口元で呟いた。
「まぁるく……ぐるぐる……」
「……ほぉ」
その瞬間──
石がふわりと淡く光り始めた。水面の底から差し込む陽光のような色だ。水色の光とも言えるその色は、ゆらゆらと揺れ、波打つように広がる。
「わぁぁぁぁ……!きれーーー!」
光が庵全体を照らす。ノエルは目を丸くして、まるで海を覗き込むように石を覗き込んだ。
アリオスはその様子を見ながら、険しい顔をする。そして、確信を得たようにその名を呼んだ。
「……リィ姉さん」
リィ=セランも興味深げにしながら口角を上げた。
「そうさ、あんたの想像通りだねぇ」
そんな様子を見て、ノエルは頭にハテナを浮かべながらリィに声をかけた。
「あの…… わたしの属性は何でしたか?」
その問いに、リィはただ事実だけをノエルに伝えた。
「お嬢ちゃんの属性は、水── それから、“聖属性”だよ」




