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36話 それはママに聞いてくれ


「── よし。じゃあ、ノエル。またここでクイズだ」


アリオスは少し楽しそうに笑って、ノートを閉じた。


「スライムは、どうやって増えると思う?」


 


「えっ……えっとぉ……」


ノエルは少し考え込み、真剣な顔で答えた。


「……コウノトリさん?」


 


「…………」


一瞬、アリオスの口元が引きつる。


「……それじゃあ、空が“運ぶ鳥さん”だらけになってしまうな……」


「えっ、絵本にはそう描いてあったよ?」


「ちがうぞ」


 


ノエルは「えぇ〜〜」と不満そうに唇を尖らせたが、アリオスは軽く咳払いをして話を続けた。


「実はな、スライムっていうのは、“魔素の濃い土地で自然発生する”魔物なんだ」


「しぜんに……ってことは、自然系ってこと?」


「いや、それは違うな」


 


アリオスは机の端に置いてあった紙とペンを手に取ると、簡単な図を描きながら話し始めた。


「これは知っておくだけでもいいんだが…… 魔物は、“どうやって生まれるか”によって、大きく四つに分けられるんだ」


 


ノエルはペンを構え直し、「三つ……」と小さく復唱する。


 


「まず一つ目。スライムやウッドのように、“魔素が自然に集まってできた”魔物。これが、自然発生型だな。これらは、人の手を介さず、魔素の濃い土地で人知れず生まれる」


「ふむふむ……」




「二つ目。生き物が“魔素の影響で魔物になる”パターン。これが自然由来型。牛や狼が魔物になる場合や、人族が魔族に変化するケースもある」


「ええっ!? 人も変わっちゃうの!?」


「人間だけ特別、っていうのも変だろう? 逆に、魔物が人型に変わることもあるくらいだからな」


「えっ! てことは、モボンやリーヴも私みたいに人になったりとか……?」


「どうだろうな…… 見た目はあくまでスライムのままだと思うが、人型に変化する可能性はゼロではないだろう」


「へ〜〜〜〜!!!」




「それじゃ、三つ目だ。“人の手によって作られる魔物”。ゴーリム……つまり、フォルドなんかがそうだな」


「フォルドっと……」


ノエルはノートに小さな丸を四つ描いて、魔物の種類を書き込み始めた。


「……あれ、一個足りないよ?」


「ああ、まだある。ノエルが言った“コウノトリさん”に関わるのが……」


アリオスは少し苦笑して、視線をそらした。 





「四つ目、種の生存本能に従い増えるパターン。分裂するような種もいるが……基本は人間と同じように── 交配して増える」


 


「こーはい?」


ノエルはペンを止め、きょとんとした顔でアリオスを見上げた。




「えっと……“おしべ”と“めしべ”が……いや、ちょっと違うな……」


 


アリオスは珍しく言葉に詰まった。魔物の構造の説明よりずっと難しいことを話そうとしていた気がする。





「……これはな、うん、ママが詳しい。エレノーラに聞くといい」


「えー!? パパ、おしえてよ〜!」





「……ママがな、絶対にうまく教えてくれるはずだ。なにせ、俺よりもこういう説明が……得意でな……」


アリオスはしどろもどろになりながら、目線をあちこちに泳がせていた。どうやら、今日の授業でいちばん難しい問題が現れたようだった。




 

アリオスはノエルから目をそらしたまま、咳払いをひとつする。


「……と、とにかく、ママに聞いてくれ」


「え〜、やっぱりパパじゃダメなの〜?」





「うむ……それは……」


ノエルの追及から逃げるように話題を変え、アリオスはノートを開き直す。


 




「さて── 今の話の続きだが」


アリオスは強引に真面目な声に戻り、話を進める。


「こうして生まれた“新たな魂”には、親の“因子”が受け継がれている。つまり、魂を構成する命素やスキルの素地が、子に引き継がれるわけだ」


ノエルはまたペンを構え直し、ふむふむと頷く。


「……だがな。実は、それ以外にも“もうひとつ”引き継がれるものがあるんだ」


「えっ……まだあるの?」


「ノエル、なんだと思う?」


 


ノエルは「うーん……」と考え込み、しばらくしてから── こう答えた。


「……しんちょう!」


「ふむ、それは“命素”に含まれるな。身体的な特徴は肉体を構成する部分だから、確かに引き継がれる」


「じゃあ……なまえ!」


「……む?」




アリオスは真面目な表情を保ったまま続けた。


「確かに名前も、引き継がれることはあるな。“父の名を受け継ぐ”なんて文化もあるくらいだ」




「やった、当たり?」


「いや、それはそれで面白いが……俺が言いたいのは別のことだ」


「え〜〜〜〜、なに〜〜?」


ノエルが身を乗り出すと、アリオスはふっと微笑んで、静かに告げた。


 


「── “属性”だ」



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