33話 はじまりの仲良し大作戦!
(ふむ……ついに時が来たな)
ポロは、まるで大義でも背負うように中庭の一角で立ち止まり、鼻先を天へと向けた。
(……時、ですか?)
モボンがとろんとした声で問い返す。
(『リーヴとノエルのなかよし計画』、決行のときだ)
どこか得意げに宣言するポロに、モボンの目(のような部位)がぱちぱちと瞬く。
(え? まだ計画も何も立てていませんけど……)
(そういうと思って、事前に練っておいた計画がある)
(なんか嫌な予感がします……どうするんですか?)
モボンの素朴な問いに、ポロは「ふっ」と鼻を鳴らしてみせる。
(そんなの決まってるだろ。まずは── 接触回数を増やす。これに限る)
(それだけですか!? というよりも、普段ノエルちゃんと…… その、リーヴさんって殆ど一緒にいますよ?接触は、確かにあんまりないかもしれないですけど……)
モボンが"リーヴ"と発する際、少しの逡巡がその言葉に滲んでいた。だが、ポロはそれを気にも留めなかった。
(接触だよ、接触。そこが大事だ。犬の社会でもよくあるだろ? ちょっと一緒に横で走りゃ仲良くなるもんなんだよ)
(でもそれ犬の話ですし、触れ合ってないですよね……?)
(ばっか、お前。誰が本当に並んで走らせる、つったよ)
(では、計画というのは……?)
(見てろって。まずは第一段階だ。……よし)
ポロはくるりと向きを変え、真剣な顔を作って言い放った。
(まずは、おれがノエルの入浴中に突入し──)
(却下です!!!!)
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それは、何気ない日常から始まった。
「ワンワンッ!」
夕暮れ、涼しい風が吹き始める頃。このオレンジ色の空こそ、ポロとノエルのお散歩の合図なのである。
「それじゃ、ポロ。 行こっか!」
ノエルはいつも通り、お散歩用の靴に履き替え、準備ができたことをポロに伝えた。だが、その日は何かが違っていた。ポロはその場で振り返り、後ろをじっと見つめている。
「?? どうしたの?」
その瞬間、ポロは後ろ側にいたリーヴに魔会感応を飛ばす。
(おい、リーヴ。今日の散歩ついてこいよ)
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結局、あの後──
(……分かりました。私が作戦を考えます)
とモボンがいい、半ば強引に決めた計画がこれである。
ズバリ、モボン命名──『急接近!?一緒にお散歩で心も体も縮まる距離!?大作戦』である。
(お前のセンスも大概だよな)
(ポロさんよりマシです!!!)
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しかし、リーヴは当然のようにポロの誘いを拒否。
(── 応。対象:ポロ。脱糞の視認を強要と判断)
(アホか、マーキングの話をするな。今日は歩くだけだっての)
普段は、リーヴとモボンは中庭で留守番をしている。ノエルとポロの時間── という暗黙の了解がある。だが、この作戦では、ポロがまずリーヴを散歩に連れ出さなければ進まない。
ポロはリーヴに聞こえない“つもり”で、モボンにだけ魔会感応を繋げる。
(── おいモボン、なんか言え。うまいことリーヴを連れ出せ)
ポロからの言葉に、モボンはわずかに戸惑いつつも、慌てて思いつきの言葉を口にした。
(えっと、その……屋敷の周りって、魔素がたくさんあって吸収しがいがあるんですよねっ!)
ポロはモボンにだけ聞こえるように責める。
(……なんつー下手な芝居だよ。大根役者が)
(予定にない反応だから仕方ないじゃないですかっ!)
モボンからの発言に、少しだけ考えるリーヴ。
(── 判定:信憑性不明。観測価値:微少ながら有。同行を許可)
こうして、リーヴの「調査目的の同行」が成立。「嘘だろ……」という顔のポロと、「やった!」と喜ぶモボンの表情は、対照的だった。




