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27話 魔素と円


「じゃあ── まずは、“魔素の流れを感じる”練習をしましょう」


「うん!」


ノエルは目を輝かせ、こくんと頷いた。




「ノエルは、既に魔素を感じたことがあるはずよ。どんな時でもいいわ。そのときのことを思い出してほしいの」


「んん〜〜……?そんなことあったかなぁ……」




ノエルは真剣な顔で考え込み、しばらくすると、はっと何かを思い出したように口を開いた。


「……あのね、前にヒュグラ川でお水をくんだ時……」


「うんうん……」


「あのときのお水── なんだか、すっごくきらきらして見えたの。普通のお水より、光ってて、冷たくて……きれいだったの」


「そう!その感覚と"イメージ"こそが大切なの。ノエルにとって、魔素は"キレイ"で"光って"いるイメージなのね。"冷たい"の感覚も……かしら?」


エレノーラは、優しく頷いた。





「魔素は、言葉や知識より、“感覚”のほうが整いやすいの。だから── “そのときの水の輝き”を思い出しながら魔素を感じるのよ」


「わかった……!」


ノエルは目を閉じ、両手をそっと胸の前で組んだ。




しかし、何も反応はなさそうだ。


「ちょっと分かんないかも……」


「それは、"魔素をどう使うか"、ノエルの中で"決め事"がないからよ。今からそれも説明するから、魔素の感じ方は、ノエルがヒュグラ川のお水で感じた感覚を思い出してね」


「わかった……!」



「では次に、"決め事"、魔法の基礎を説明します」


「はい!」


「魔法の基本は、“円”。流れる魔素を、ぐるぐると巡らせるようにイメージすることが大切なの。魔法の種類によっては、体に添うようにイメージしたり、もっと複雑な形をイメージしなければいけない制御の難しいものもあるわ。でも、そんな難しい魔法でも、初めの形は必ず"円"なの」




「えん……って、丸のこと?どんな丸なの?」


ノエルが首を傾げる。


「ボールとか…… それとも……絵に描くような平べったいまあるいの? 大きさとか、色とかは……?」




エレノーラはその質問にきょとんとした。そして、ノエルが今この瞬間また一つ成長していることを感じ、自然と笑みが溢れた。


(子供の感性って、なんて自由なんだろう……)




エレノーラは笑って、ノエルの質問に答えた。


「うーん……難しく考えなくても良いけど、あえて言うなら、“人による”かな。魔素の感じ方や見え方って、本当に人それぞれなの。だから自分にとって、これだ!っていう“円”を探すのが、一番の近道だと思うわ」


「えぇ〜!こっちも決まりがないの!」



「そうなの。だからこそ、魔法は素質がないと出来ない、と言われているわ。けど、ここで挫折しないで欲しいの。ママも、初めは全然出来なくて…… もうやだな、やめたいな、って思ったわ。でも、諦めずに続けたから出来るようになったのよ」


「……ママも最初は出来なかったの?」


「えぇ、そうよ」





しばらく、沈黙が流れる。ノエルの小さな肩が、ほんの少しだけ動いた。


「……ねぇ、ママ」


「なあに?」


「ママは、どんな"まる"をイメージしたの?」


その問いに、エレノーラの手がぴたりと止まった。


ノエルの問いは、ただの好奇心かもしれなかった。けれど、その一言は、思いがけず遠く懐かしい記憶を呼び起こす。


(わたしの、"円"のイメージ……)




その“円”は── エレノーラが、まだノエルくらいだった頃に、何度も感じた"挫折"と、"ある人物"との記憶だった。

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