22話 使役スキルのちがい
「実践って、いったい何をするのかな……?」
ワクワクと不安が混ざった気持ちを抱えて、ノエルは中庭に立っていた。昨日の勉強会の続きというには、少しだけ、様子が違う。昨日までは机や椅子があり、勉強会、といった印象だったが、今日は何も用意されてはいない。
「── よーし。今日は使役スキルの実践だ」
アリオスの掛け声に、ノエルはぴょんと跳ねるように背筋を伸ばす。
「はい!今日は何するの?スキルをつかうためにいっぱい運動するとか!?それとも ──」
「おっと、そんなに張り切らなくてもいい。今日は“使役スキル”を意識してもらうだけさ」
「えっ、でも……パパはそのスキル、《従繋帯》だっけ? 使えるけど……わたしにはまだよく分からないし……」
ノエルは不安そうに俯く。以前、モボンがノエルに同調して動いたあの行動── それが本当に“スキル”によるものなのか、彼女自身にもまだ確信はなかった。
「うん、それでいい。今日は、それを“確かめるための日”なんだ。でもね、実はパパ── このスキルを“教える”ことはできないんだよ」
「ええー!? 教えられないのに、実践って言ったの?」
ノエルは前回、アリオスに覚悟しておけ、と言われていたので、少女なりに構えていたのである。しかし、自覚出来ていないスキルの実践をするのに、教えてもらえないというのは無謀だと思い、アリオスに抗議した。
アリオスは、ふっと笑う。
「だから、“見せる”んだ」
家のドアが開く音とともに、静かに、重たく足音が中庭へと響いた。ノエルは思わず目を見張る。
「え?フォルド?」
フォルドは、そのままアリオスの隣まで歩き、ノエルに対面して静止する。
彼女にとってフォルドは、父とともに屋敷の奥にいる存在。めったに自分の前に出てくることはなかった。
「ちょっと協力してもらうんだ」
アリオスは、その場でクルッと180度体の向きを変え、ノエルに背中を見せている状態になる。
「さて── グー・チョキ・パー、知ってるな?」
アリオスはノエルに背を向けたまま問いかける。
「うん!」
ノエルは元気に頷くと、手のひらをパーの形に広げて見せる。
すると ──
アリオスは、手を挙げて彼女と同じ形に広げた。
「んん〜?」
「次」
「ええー、ちょっとまって……はい!」
ノエルがチョキを作ると、アリオスも一拍遅れて同じチョキを作った。ノエルは、アリオスがこちらを見ていないのにも関わらず、同じ手の形をしていることに気がついた。
「うそー! なにこれ、なんで!?」
今度はアリオスがノエルを向き、代わりにフォルドがノエルに背を向ける形になる。
「さて、じゃあ、もう一度だ」
「今度は見えてるでしょ?」
「いいから、やってみなさい」
ノエルがじゃあ……と、手を広げパーを作ると、フォルドがゆっくりとその腕を持ち上げ、パーを作った。
「……うわぁ……! すごい!」
「これは、パパの使役スキル《従繋帯》の力だ」
アリオスは静かに語り始めた。
「パパのスキルは“同調型”といって、魔物と五感を通じて繋がる。フォルドの目で見て、フォルドの手を動かせる。逆に、フォルドが見たものも、パパの頭の中に映るんだ」
「じゃあ、さっきのは、パパがフォルドの目で見てズルしてたんじゃない?」
アリオスはコテッとこけそうになる。「ず、、、ズルではないが……」と訂正しようとしていると、ノエルが、でも…… と何かに気付く。
「私はモボンの見てるもの見えないよ?」
「そう。ノエルとパパのスキルは、おそらく同じ使役スキルでも型が違うんだ。だから、教えられない、ってことだよ」
「なるほど〜…… でも、教えてもらえないならどうすればいいんだろ……」
うーん、と悩むノエル。そこに、アリオスが既に考えていたことをノエルに伝える。
「ノエルのはたぶん、“共鳴・共感・共有型”のどれかだ。モボンと一緒にいた時、何か“お願い”するような気持ちで話しかけたこと、あるだろう?」
「……ある……!」
「モボンがノエルの気持ちに応えようとした。それが、“スキルの兆し”なんだよ」
アリオスはノエルの頭をやさしく撫でる。
「パパのスキルは見せられても、同じようには教えられない。でも、ノエルはノエルだけのスキルを見つければいい」
「うん……」
「そして、もし何かがあっても── パパがそばにいる。だから、安心してやってごらん」
ノエルは、大きく息を吸って── コクリと頷いた。




