21話 パンツ、浄化しておきました
(── ノエルのパンツを盗ってこい)
……数秒の沈黙。
(え、えぇえぇえええっ!?)
その静寂を破ったのはモボンだった。いつもより小刻みにぷるぷる震えている。
(……そ、それは……その……っ、いけない、ですっ……! ノエルちゃんの……その……名誉がっ……!)
リーヴの内部で処理が走る。
(── 応。人型下着の取得動機を解析中……結論:犬に対する適用性なし。目的:不明)
リーヴの返答に、モボンが同調する。
(そ、そうです!!理由が!わけがわかめです!)
モボンも少し反応がおかしくなっていた。
ポロは冷静に── いや、履かねえよ?とだけ答えた。
そして、んー……と少しだけ悩んだ後、これだ!と言わんばかりの悪い顔をして、リーヴにこう言った。
(なんだぁ?女児のパンツ盗んのも出来ないってのか?── リーヴさんよぉ)
リーヴに煽り耐性など存在しない。
そんなことも出来ないのか?と聞かれれば当然。
(── 指定対象:ノエル。行動:盗取。倫理審査:保留)
こうなる。
ポロは、少しだけリーヴの扱いがわかってきた。
(ちょ、ちょっとまってくださいリーヴさん!? それは──! そ、それは……絶対だめです!)
ポロが笑いを堪えきれずに転がる。
(っはははははっ!! ほらほら、モボンがんばれよ〜! 新人教育は先輩の役目だぞ〜?)
(ぽ、ポロさんっ……! そ、そんな教育ありますかぁ……!)
(── 理解。新人教育:下着の奪取)
(違いますぅぅぅ!!!)
ポロはそれを見ながらゲラゲラと笑う。
リーヴといると腹が保たねぇよ、といいながら、本題に入ることにした。
(── でもまぁ、安心しな。ちゃんと"理由"もある)
(……下着を盗む理由なんてロクでもないに決まってます)
(そう言うな。まあ、見てろ)
そういうと、ポロは体をプルプルプル!と大きく揺らした。
すると……
パサッ
ポロの毛の中から何かが落ちた。
パンツだった。
……。
しかし。
この衝撃的な光景を目にしても、モボンは何も言わない。
いや、なんだかぽよんぽよん、と跳ねて訴えかけてはいる。
「── ワンッ!」
ポロが吠える。
そして、ポロは落ちたパンツを口に咥えた。
(現行犯ンンンンンンンン!!!!)
すると、モボンの動きとリンクするように言葉が聞こえてくる。モボンはポロに飛びついた。
べちょっ、とポロはモボンに押しつぶされ、口からパンツがまた地面へと落ちる。
「── ワンワンッ!」
まるで、そこをどけ!と言わんばかりの吠えだったが、モボンが退こうとしないので、ポロはスッとモボンの押し潰しから抜け出すと同時に、パンツを咥え直した。
(いってぇな!!!なにしやがる!!!)
(こ、こっちのセリフです!既に前科があるじゃないですか!)
ポロの抗議に、すかさずモボンが抗議し返す。
そんな中、リーヴは、ポロが"何を伝えたかったのか"を分析し始める。
(これは"エレノーラ"のだ!ノエル嬢のじゃねえよ!)
(ろろ、、論点は"誰のか"じゃないです!)
── 対象:ポロ
── 所持スキル"魔会感応"の発動トリガー
── 女性下着との接触時のみと判定
そして、その結論をモボンにも伝える。
(判定。対象:ポロ。"魔会感応"発動条件:女性下着接触時のみ)
(……ふぇ!?)
(いや、気付けよ)
ポロは観察力のないモボンにため息をついた。
(はぁぁぁ…… 言いたかなかったが、"俺の秘密の一つ"、だ。魔素の媒介がねぇと、俺はスキルが使えねぇんだよ)
(この、私達と話しているスキル、ですか?)
やっと話を聞く気になったモボンに、ポロは、信用ねぇなあ、と思いながら返答する。
(そうだ。だから"パンツ"がいる!)
ドン!とポロは胸を張っているようだ。
まるで、俺は正しい!と言わんばかりだ。
いやいや…… と、モボンはポロに指摘する。
(魔素の媒介がパンツって意味が分からないんですが……)
すると、ポロは、はぁ?とでも言いたそうな表情をする。
(知らねぇのか?人族の魔法使いや魔導士みてぇなやつは、魔力が高い。その魔力はただ生活しているだけで体内から漏れ出し、着衣している衣服にも影響が出る。"魔素を帯び"んだ。下着は一番体に接触している部分で、特に、寝てる間なんかは無防備だから一番魔力が漏れやすい。俺からすれば魔素の塊みてぇなもんだ)
それでもな、と続ける。
(魔素を使やぁ、帯びた魔素は消える。消費しちまえば、ただのパンツだわな。今もこうしてスキルを使ってるわけだから、魔素を消費し続けてんだよ)
(だから、いいな?)
── わかったよな?と言いたげな顔をし、再度、神妙な顔をする。
(── ノエルのパンツを盗ってこい)
(いいわけないですぅぅぅぅぅ!!!)
(まだ分かんねぇのか、このデカブツ!!!)
(何偉そうなこと言ってるんですか!!結局パンツ泥棒じゃないですか!!ノエルちゃんみたいに、川からお水汲んでくるぐらいの努力したらどうですか!!)
(おめぇと違って浄化スキルなんて持ち合わせてねぇわ!!それにいつも体びしょ濡れになんじゃねえか!!!雑巾の匂いになんだろ!!!)
(笑い転げて泥まみれじゃないですか!!!ちょうど良いです!!!川に入って洗い流してください!!)
(よーし!!喧嘩だ!!喧嘩だな??いいな??リーヴ、いいよな??)
ファイ!と言わんばかりに、ポロはさっきのお返しとモボンに飛びかかる。
「──うぅぅぅぅ!!ワンワンっ!!!」
その瞬間、ポロが咥えていたエレノーラのパンツがパサッ……と地面に落ちる。
犬とスライムの喧嘩という奇妙な光景をよそに、リーヴは、"相当の気合い"に答えるべく、行動を取った。
リーヴは、まずエレノーラのパンツを体内で"浄化"し、汚れを取り除いた。
続けて、ノエルの魔素を含ませる工程に入る。
リーヴが寝床にしている布団。これはモボンと同様、ノエルが以前使っていた布団である。ノエルの体が触れていた布団には、衣服と同様、少量ではあるがノエルの魔力が帯びていた。
リーヴは、寝床の布団から魔素を感じ取っており、既に吸収していたのである。その魔素と、草や石から拾い上げた魔素の粒を合わせ、エレノーラのパンツに付与した。
更にだ。
── スキル"魔会感応"を使用します
── 起点:リーヴ
── 対象:ポロ、モボン
(── はぁぁぁぁ!?)
(えっ?)
取っ組み合いをしていた二匹の動きは、その異常に気付き止まる。リーヴは、先程構築した"魔会感応"でポロとモボンを繋いだのだ。
一番驚いていたのは、当然ポロである。
(おまえっ!なんでっ!!!使えんだよ!!!)
その言葉を待っていた、とばかりに、リーヴはある音を再生した。
(── 音声再現)
(── (ははっ、ぷぷっ、マジウケる。なんだよ、同種同士で会話もできねえのかよ?なんだよ〜〜、奥手同士ってことかぁ?オレ、犬だぜ?犬。犬でも喋ってんのに、お前まさかそれ、できないとか言わねぇよな〜?))
(あん?俺の声?)
(── 再生終了)
そして、ポロにこう答える。
(── 応。魔物同士での会話、可能)
リーヴなりの、ポロへの仕返しだった。
(いやいやいや、おかしいだろ)
しかし、認めようとしないポロ。
(それに、俺がどんだけこのスキル取んのに苦労──)
と言いかけたところで、モボンも口に出す。
(初めまして、の状態でそんなにズカズカ聞くのは聞くのは野暮じゃありませんか?)
ぽよん、とモボンは跳ねる。
ポロは、はぁぁぁぁぁ……と大きなため息を吐いた。
(わーーーかったって。降参だ。俺が悪かったよ。それと、パンツの件も合格だ。……お前、本当に何者なんだよ)
(── 本体識別名:リーヴ)
本日何度目か分からない、リーヴなりの挨拶だった。




