15話 記録と始まり
この物語の語り手は、“それ自身”である。
── 記録再生、開始
── 感覚、微弱
── 魔素、極端に不足。再構成不可
──保存処理、継続中
── 命素、計測不能。因子、構造不明
── 行動判定:無効
── 出力先:選択不可
ただ、流れていく魔素の粒を集める。それ以外に選択肢はなかった。
けれど。
水辺に落とされた瞬間とは、少し異なっていた。
── 生命を確認
「……え?」
視認という概念も、感情も持たないはずのこの存在に、注視されている、という知覚があった。まだそれは、名前のない概念。
「……だ、だいじょうぶ、じゃないよね。どうしよう……」
── 対象:ヒト
── 構成:少女。状態:緊張、不安、恐怖
── 入力:触覚信号
《光織環》は、その接触を“敵意なし”と判断し、排除行動を選択しなかった。尤も、排除することもできなかったのだが。
── 外界情報:保持対象“ノエル”
── 少女の行動記録、再構築中。
彼女の魔素に包まれ、世界の構成情報が変化する。
「うううう〜〜〜……―― それでもヤダ!!」
── 対象:ノエル。
── 拒絶。
「やだやだやだ! わたしが助けたいの! わたしが見つけたの! 昨日までのモボンとおんなじだったの! ぐったりしてて、かわいそうだったの!」
── 「かわいそう」
光織環は、この状況からすれば外に捨てれば何も考えることなく、最も合理的だと判断していた。
── 構造解析不可
── 定義不能の感情語
ノエルによって家に持ち帰られ、解析の対象となり、他者の関心を受け、モボンという個体による接触。
── 魂因子:一致
── 対象種:グラン・セラフスライム
同種接触により、保存された因子の構造に「反応」が起こる。
── 《魂写環》発動条件、成立
── 模倣開始
── 構造:安定化
── 構造体:再構築
── 結果:活動可能
── 主対象、ノエル
「大丈夫、怖くないよ。わたし、ノエル。あなたと── 友達になりたいの」
── 入力音声:「あなたと、友達になりたいの」
── 友達
── 友人。親しい関係
光織環にはエラーのような出来事が起きていた。
モボンの魂因子に触れ、明らかに影響を受けていた。
── スキル判定:使役契約
ユニークスキル《魂写環》、ユニークスキル《光織環》、共に判定を実行。
── 要請、受理
── 主対象:ノエル・アルステリア
「リーヴ。……あなたの名前は、リーヴだよ」
命名記録:「リーヴ」
命名……それは、この存在にとって、最初の“外部からの意味”であった。
理解はなかった。ただ、記録された。
なぜ。わからない。
── あなたの名前は、リーヴだよ
── 記録、終了
……いや、違う。
終了などしていない。
それは、始まりだった。
"何かを得た"という実感が、確かにこの存在の中で、生まれていたのだから。




