11話 名前をもらった日
それは、まさに偶然の出来事だった。
モボンがこのスライムを包み込んだことにより、スキルが使用できる発動条件が整ったのだ。
── 自動ユニークスキル「光織環」を起動します。
── 対象との接触を確認。ユニークスキル「 魂写環」を連動起動します。
── 判定完了
── 個体名: モボン
── 大分類:天族系魔物
── 分類: スライム
── 種族: グラン・セラフスライム
── 属性: 水/聖
── 刻印: 従魔の証
── 技能:
── スライムスキル『液体体質』『魔素吸収』『再生核』
── 種族スキル『浄化』『天涙』
──
── 核内部に、同波長の魂因子を検出
── 対象の魂構造を解析中……
── 対象情報:因子《グラン・セラフスライム:水聖体ノ位階》
── 魂写完了。活性化、開始。
── ……対象因子を模倣し、身体構造の再構築を開始します。
── 魔素環境、安定化完了。
── 現在の形態を上書き・再構造中……
── 状態:活動可能と判定。
*
「……あれ?」
ノエルが、モボンの中に包まれていたスライムの異変に気づいたのはその直後だった。
いつの間にか、どろりと澱んでいたはずの身体が澄んだ淡水色に変わり、まるでモボンを小さくしたような姿へと変化していたのだ。
「モボン、おねがい……出してもらえる?」
ノエルがそう頼むと、モボンはぽよんと一度跳ねてから、その身体をほどくようにしてスライムをテーブルの上にそっと転がした。
「……えっ」
ノエルは目を見開いた。ついさっきまで、動くこともままならなかったスライムが、わずかに、しかし確かにぷるんと震えたのだ。
彼女は何も言わず、そっと手を差し伸べた。震えるスライムは、その指先にぴとりと触れる。冷たいのに、どこかあたたかさを感じさせる、不思議な感触。
ノエルはスライムを見つめながら、あの日を思い出していた── モボンと出会った時のことを。
*
少女は、その巨大なスライムが安全だと分かっていた。
まるで夢でも見ているかのように。
じっと、スライムを見つめて、口を開いた。
「──。」
*
今回も同じだった。
「大丈夫、怖くないよ。わたし、ノエル。あなたと── 友達になりたいの」
その言葉が届いたかのように、スライムがふるりと震えた。
── 自動ユニークスキル『光織環』
── 使役対象の言語パターンを検出
── 使役要請を受理
このノエルの言葉は、無自覚にも使役スキルの契約と結びついていた。スライムは『光織環』で最善の行動を移すようになっている。当然、使役要請など本来受け付けるわけがないのだ。
だが ──
模倣したモボンの魂因子に触れたことにより、その因子を元にして作られたこの身体には、ノエルを護る対象であると判断する材料になっていた。
── 使役主:ノエル・アルステリア
── 該当対象、使役関係を受諾。
── 刻印生成中……
── 刻印完了:従魔の証
── 現在の魔素親和先:ノエル・アルステリア
── 新たな主を認識します。
何も言っていないはずなのに、ノエルはわかっていた。
この子が、もう一人ぼっちじゃないってこと。
彼女の言葉に、ちゃんと応えてくれたということ。
「リーヴ。……あなたの名前は、リーヴだよ」
ぷるん。
リーヴは、その言葉に反応して静かに揺れた。
追加説明
《浄化》
効果:触れた対象の表面に付着した魔素の穢れ・毒素・異常を洗い流し、身体を清める。
解説:効果範囲は触れている部分から半径1m。疲労回復効果も含む。
《天涙》
効果:一度だけ、致命的な状態・呪い・死の気配を“流す”ように除去する特異反応。対象に触れた状態でのみ発動可能。
解説:触れている者を使用者の"涙"で覆い、窮地を救う。涙は触れている者へと移る。極めて稀な聖属性スライムにのみ確認されている。
《再生核》
効果:体の一部が失われても、時間経過または魔素の補給によって自己修復する。
解説:核に損傷がなければ、溶けても再構築が可能。しかし、魔素を大量に消耗する。




