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09話 鑑定不能のスライム

朝食を終えたテーブルの上で、通常のスライムとは違うドロっとしたような形状をし、何とも言い難い、例えるなら、汚れた水のような色をしたスライムが置かれている。ノエルはじっと視線を向けて、そわそわと落ち着かない様子でアリオスの言葉を待っていた。


エレノーラは台所で手を拭くと、静かに椅子に腰を下ろし、夫の表情をうかがう。アリオスは、エレノーラが用意した食後のコーヒーをひと口飲み、少し間を置いて口を開いた。


「結論から言う。このスライムの鑑定結果は――不明だった」


ノエルは目を丸くした。


「えっ!? 鑑定してもらったんでしょ!? 鑑定屋さんに持ってったって……」


アリオスはうなずく。


「ああ、確かに見てもらった。ノエルは知らないと思うが、鑑定には二つの方法がある。ひとつは鑑定スキルを持つ人物、もうひとつは“鑑定石”を使う方法だ。今回使ったのは後者だ」


「……え、それってどう違うの?」


ノエルが眉をひそめて問う。


「鑑定石は、扱いやすいが万能ではない。近所の鑑定屋が使っているのは二等級の石でな、普通の物なら問題ないが、異質な存在だと正しく鑑定できないことがあるそうだ」


アリオスは、ふと目を伏せながら続ける。


「……ただ、属性の判定に使う“属性石”という別の石を使ったところ、すべての属性に微弱な反応があった。その中でも水属性が最も強かったため、“水属性寄りのスライム”と見なされた。このスライムについて分かったことは、とりあえずこれだけだ」


ノエルはスライムを覗き込む。


「だから、この色……?」


「そうだ。“色が澱んで見える”理由は、おそらくそれだ。水属性を主として持っているが、それ以外の要素が魔素の中で干渉し合ってる。……鑑定士は、『これは生まれつきのものではないか』と言っていた」


エレノーラが静かに頷いた。



「普通のスライムは一属性で生まれるものよ。草属性なら緑、炎なら赤……。複数属性を持つ個体は、スライムに限らず魔物全体でもかなり稀少なの」


アリオスの表情には、まだ何か言いかけているような含みがあった。だが一度それを飲み込むようにして、話を続ける。


「それと――鑑定士は医者じゃないが、魔物を専門に診られる良い先生が、今イルーシャの町に滞在しているらしい。もし診てもらいたければ、紹介すると言われた」


「いく!!!」


ノエルは食い気味に叫んだ。


「私が助けてあげたいって連れてきたんだもん。最後までちゃんと面倒見てあげないと。それに、モボンも元気にはなったけど、お医者さんに見てもらった方がいいと思うの」


アリオスはうーん……と考え込むように唸ったが、ふと何か思い出したように話を切り出した。


「――そういえば、妙なことを言っていた。鑑定士のところ、今かなり忙しいらしい」


「忙しいって……それがどうかしたの?」


ノエルがキョトンとして聞いた。


「ここ数日、立て続けに“飼っている魔物が急に元気をなくした”という相談が来ているそうだ。鑑定してみると、どれも“魔素不足”が原因らしい。しかも、発症した魔物はこの地域一帯に集中しているらしいんだ」


エレノーラとノエルの顔が同時にこわばった。


「それって……まさか、モボンも?」


「可能性は高いだろう。ただ、このスライムについては少し状況が違うと思う。ノエルが汲んできたヒュグラ川の魔素を多く含む水で、モボンは明らかに回復した。だから、魔素不足ということだろう。だがこのスライムは……」


アリオスは、目の前の澱んだスライムを見つめながら、言葉を選んだ。


「……別の原因で弱っている可能性が高い」


今すぐに元気にしてあげられない。

その現実に、ノエルの心がわずかに沈む。でも――


「お医者さんに診てもらえれば、きっと何か分かるよね」


彼女はスライムを見つめて、優しく微笑んだ


「私、絶対にこの子のこと、あきらめないから」


その言葉は、ノエルの揺るがぬ決意だった


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