表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

殿下(婚約者)の知らない私(公爵令嬢)と殿下の7日間戦争。

作者: 朱井笑美

私、マレシアナは公爵家の長女として産まれ、母が王妃と親友だったせいで、少し先に産まれた王子殿下と0歳児の頃から付き合いがあったの。お陰で3歳になると殿下と一緒に王族教育まで受けさせられて、ほぼ殿下の婚約者として育ってきたわ。

 私もそうなんだと思っていたし。


 でも殿下が王太子として立太子した時、周囲の高位貴族が私以外にも、殿下に他の令嬢との出会いの場も作るべきだと婚約者候補を募ったの。

 私は不安だったけど、殿下は他には目もくれず私だけを側に置き、いつも優先してくれたから、私も殿下を信頼してずっと付いて行こうと思ったわ。


 これだけ一緒に過ごしてきたのだから、お互いにいつか飽きても仕方ないのでは?と思ったこともあったのよ。でも、もう2人には他人には分からない絆みたいなものもあったし、2人でいないことの方が違和感があって彼は私の半身なんだと感じてた。きっと彼もそうなんだと信じて。


 しかし学院に入学して1年後、新入生で入ってきた子爵令嬢によって、ゆっくりと時間をかけてそれが崩されていったわ。最初の半年くらいまでは様子を見ていたの。ただの殿下の気まぐれで終わるんじゃないかって。

 それに、かつて彼女より優秀で美しい高位貴族の婚約者候補が集められても見向きもしなかった殿下だったから、直ぐに私のところに戻って来るわって期待してた。


 けれど、いつまで経っても殿下は彼女と過ごすことを止めず、むしろ、まんざらではなく楽しそう。その様子に高位貴族の側近たちも図に乗り彼女の取り巻きのようにチヤホヤし出したの。


 私の場所が…殿下の横が…奪われる危機。そろそろ限界を感じたわ。手を下さなくては、自分の場所は自分で守る。私の立場はこれまで殿下の好意に甘んじていただけだったのだと思い知ったわ。

 傍観などしていたら後悔する。相手は子爵家。こっちは公爵家だ。持てる力を全て使って殿下と私の場所を取り戻さなければならない。まずは情報ね、あらゆる人を使って彼女の情報を得る。

 そして人を采配する。両親も第二の母と慕う王妃様も私の本気に「好きにしなさい」って言ってくれたわ。



 そうして始まる【1日目】

 まずは殿下から距離を取るわ。側に居たって、子爵令嬢と取り巻き達の不快な顔を見ないといけないのだから。たまには離れて殿下の様子も見たいし。

 私は普段学院内で過ごす場所を高位貴族専用のサロンに変える。そして女性の友人達と過ごすことにする。

 次に学院内の情報の統制をしないとね。それには公爵家傘下の貴族を使うけど、私達に付きたい貴族も使うわ。数は多い方がいいし。

 今のところ学院内に広まる噂は、あの子とその兄が殿下達のお気に入りってことだけ。でも油断はできないわね。私があの子を虐めているとか噂が立ったら大変だもの。

 あの子を気に入らない他の貴族も調べないと。私に罪をなすり付けられたら溜まったもんじゃないわ。

 

 それより殿下は私が居ないことに気付くかしら?


 「マレシアナ様、伯爵家から返事が来ました」「ありがとう」そう彼は隣国から明日には着くのね。ちょうど良いわ。

 私の傍らにはあの子の兄の子爵令息がいる。彼は妹のせいで私が自分の家を潰すのではないかと心配してやってきた。何でも協力するという。早速、使わせてもらうわね。



 【2日目】 殿下、いつも登校から下校まで一緒にいる私がいないことに気づいているのかしら?

 今日から彼が来るわ。あぁ今、挨拶に来たわね。ふん、隣国に渡って少し精悍になったんじゃない?

 当時も学院内のカーストの上の方で上手く遊んでいたわよね。その技術、隣国でも磨いたかしら?

 上手く使って欲しいわね。さあ!あの子のお兄様も出動よ!上手くあの子を取り込んでね。

 

 私はとりあえず授業に行くけど、殿下とはクラスが一緒だから教室では会うわね。本当は会いたくないけど上手く立ち回りましょ。席は離れているから、殿下の後から入って話し掛けられないようにするわって、そんな心配要らなかったわね。

 殿下、私がいなくても側近達と楽しそうね。あなたの護衛兼ご学友だけが済まなそうに私を見てるわよ。彼は以前から優秀よね。

 私は要らない側近達も、この機会にまとめて処分することに決めたわ。


 放課後、殿下達は学院内のお気に入りのカフェテラスで過ごしている。でも私のお友達の話だと、今日は珍しいことに子爵令嬢の姿が見えないそう。早速、動き始めたかしら?

 あ、護衛の彼が来たわね。私の方に取り込まなければ。一緒に潰すには惜しいから。



 【3日目】 今日も教室では楽しそうね殿下。でも私は2時間目から外すわね。できれば気づいて欲しいけど。

 私のお友達の話では午前中は気付かなかったというより、私の存在を探すこともなかったみたい。どうせ公務で外してるとか思っているのかしら?私のスケジュールも知っているはずでしょう?


 ランチにもあの子は来なかったらしい。まあランチは授業の関係で毎回じゃなかったしね。

 私は放課後までずっとサロンで過ごしてる。もちろんただお茶をして過ごしているだけではないわよ。やる事多いもの。

 護衛の彼は放課後から私の後ろに控えている。誰の言うことを聞くべきか、さすが分かっているのね。あいつらは今まで甘やかし過ぎたわ。

 

 今日の放課後も子爵令嬢は殿下のいるカフェテラスには来なかったみたい。お友達の話では、側近達が口々に「どうしたのだろう?」と心配していたみたい。

 

 ああ、子爵令息来たのね。「そう報告ありがとう」今日も2人は会ってるのね。



 【4日目】 まあ殿下が話し掛けてきたわ。「忙しいのかい?」だって。ええ「とっても忙しいわ」と言っておいたわ。その通りだもの。

 殿下は何か気付いたかしら?ヒントをいっぱいあげてるでしょ? 私はずっとサロンに引っ込んでいるし、あなたの護衛兼ご学友と子爵令息も側にいないでしょ。子爵令嬢も2日間も来ていない。いつもなら2日も明けないのに今日も来ていなかったでしょ?

 さすがに何かあるかと思うのじゃないかしら?彼女じゃなくて私のことを想ってくれるといいけど。


 お友達の話では、教師として入り込んだ彼はすでに下級生にモテモテみたいね。まだ3日目なのに。やるわね。成功報酬も悪くないしね。


 あら?私のお友達が慌ててやって来たわ。あいつらが今日も来ないのはおかしいって?呼びに行くって?どこに?探しに行くの?見つけられないと思うわぁ。だって教師といるのよ。

 なんか笑えてきたわ。え?怖いって?失礼ね。久しぶりに笑ったのよ。

 

 側近の中で婚約者がいないのは公爵令息だけね。あとは婚約者の令嬢に任せようかしら?私の大事なお友達たちだしね。情報を渡してあげて、婚約解消しても心配するなって言ってあげないとね。

 できれば上手く側近に残って欲しいわね。私も味方は多い方がいいしね。



 【5日目】 殿下、やっと何かに気付き始めたの?ちょっと遅い気もするけど、まあいいわ。サロンに抜けようとする私に「今日は一緒に昼食を取らないか?」だって?どういうメンバーで?いつもの面子はゴメンよ。

 ご飯が不味くなるわ。私は殿下と一緒にいる側近達を見渡して丁寧に詫びる「もうお友達と約束があるから」って。

 殿下は捨てられた犬のような顔をしてたわね。気まずそうな側近もいたけど、潰すと決めたヤツらはキャンキャンうるさかったわ「殿下に失礼だろう!」ってさ。「ねぇ、あの子爵令嬢はどうしたの?彼女と昼食を取るといいわ」って言ってさっさと出てきたわ。面倒臭い。


 彼のモテっぷりの噂が上級生の私達にも伝わってきたわ。さすが隣国で外交の仕事に就くだけあるわね。学生なんて赤子の手を捻るようなもんでしょ。彼女と上手くいっているようだけど、関係を上手く隠している。

 

 そう言えば、さっき殿下の側近の一部の様子が神妙だったのは婚約者の令嬢達が頑張っているのかしら。ご褒美は要らないでしょ。側近のままでいたいでしょうからね。



 【6日目】 「マレシアナ、今日は君と過ごしたいんだ」「子爵令嬢がいないからですか?」速攻で返したわ。絶句する殿下を置き去りにしてサロンに来たわ。私だって身を切る思いよ。でも少しザマァとも思ったわね。乙女心は複雑なのよ。「マレシアナ様がですか?」って、私を何だと思っているのよ!お友達の令嬢達も私の心が鋼でできているとでも思ってるの?冗談よ。


 下級生の方から情報が来たわ。あいつら子爵令嬢の教室に行ったみたい。あの子はヤツらを断ったみたいね。まあそうでしょうね。新しい恋を与えてあげたんだから。今はそっちに夢中でしょ。

 何も知らないあいつらは身分なんか気にするなとか言ったみたい。一番身分を気にしているヤツらなのに笑っちゃうわ。

 でも「公爵令嬢に悪いから」って、「!、私を出したの?」私を理由に出すなんて、なんて腹立つ!それであいつらが私のことを何て思うか計算してやっているのだろうか?こっちは穏便にお前を排除してあげてるのに。

 

 私の無言の怒りに、子爵令息が必死に詫びてくる。彼の美しい顔は恐怖で歪んでも美しいのね。お陰で頭が冷えたわ。あの子が言い訳するには私が丁度いいからというのは分かるわよ。

 でも許さないわ。将来の王妃を理由にしたのよ。チェックメイトだわ。


 そして愚かな側近達は私に言ってきたわ。「あの子が俺達の側に来なくなったのは、お前のせいだろう!」って。だから何なの?

 お前達もチェックメイトね。その発言がヤバいと思わないのかしら?彼らの親達は卒倒するわね。まー仕方ないわ、そんな風に育てたんだもの。

 立場も婚約者も失ったわね。



 【7日目】 殿下が朝から公爵家に迎えに来たわ。今までは私が迎えに行っていたけど止めてたからね。でも何も無い顔して馬車に乗って「あら、殿下!わざわざお迎えにいらしてくださるなんて」にこやかに言ってやったわ。

 馬車が動き出して直ぐ、殿下に頭を下げられたわ。「マレシアナごめん。君ほど大事な人はいないよ。どうかまた私と一緒に過ごして欲しい。何でもするから」“何でもするから” 案外、簡単に手に入りましたわね。


 私はニッコリ笑って「殿下、愛しておりますわ。私が殿下から離れることなんてありませんわ」と言った。“何でもする”の言質も取ったけど、何より殿下からの初めての“謝罪”いただきました。


 午後、私は粛々と側近整理をしたわ。

 そして子爵令嬢は2度と殿下の前に現れなくなったし、数ヶ月後、学院も辞めていたわ。

 私は溜め息を吐く。王妃になるんだもの、小さな学院くらい掌握できて当然よ。

 卒業後は社交界も手中にしないとね。殿下との結婚は20歳の予定だから、あと2年間だけど、大丈夫。

 もうたくさんタネを撒いたから。社交界では刈り取るだけだ。

 マレシアナは優雅に微笑みを浮かべた。


これは殿下が知り得なかった私だけの7日間に渡る戦争だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ