青とは言えない青春
登場人物
私
真面目な女
地味目な男
器用で飽き性な男
「行けるわけ、ないじゃん」
そう言って笑ったのは、真面目で、嘘がつけないくせに、夢だけは器用に隠す子だった。
屋上。
鍵がかかっていて、立ち入り禁止。
そのくせ、漫画やドラマではやたら出てくる、青春の象徴みたいな場所。
「……行ってみる?」
独り言のようにまた誰かが言った。
今度は誰も否定しなかった。
放課後の校舎を歩きながら 、3階の屋上へと続く扉を目指す。
たどり着いた扉には当たり前に鍵がかかっていた。
「やっぱり無理かー」
私がそう言ったとき。
「あのさ、裏手の階段、昔不良の先輩が壊して仮の鍵なんだよね」
地味目な彼がぽつりと呟いた。
無口だけど、校内の無駄な知識だけやたら詳しい彼。
回り道をして、裏手の階段を登る。
薄暗くて、錆びた鉄の匂い。
上まで行くと、確かに仮の南京錠だけがかかっていた。
「これなら外せるかも」
器用だけど、飽き性な彼はそう言って
私にヘアピンを要求した。
「昔取ったなんとかってね」
そう言いながら手際よく鍵をいじる彼。
カチッ
想像していたよりも、小さい音と共に鍵は外れた。
「...やば、マジで外れちゃったよ」
「開けるよ」
思っていたよりも広い場所
思っていたよりも普通の景色
「...来ちゃったね」
真面目な彼女が複雑な笑顔でそう言った。
みんなで笑った。
みんなで走った。
笑いながら不思議と泣きそうになっていた。
見上げた空は黄金色の夕焼けだった。
季節は冬、思いでの景色は赤かったけど。
きっとあれは青春だった。