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3話 知謀

 魔力は、無い。だったら何故、【一秒停止】を使ったのか。


 簡単だ。〝魔力がゼロ=スキルが発動出来ない〟という等式が成り立つのかを試したかったからだ。


 …その結果。


「グォオオオオオ!!」


 やはり、時間は止まらなかった。


「……」


 触手が真っ直ぐ飛んでくる。今度は二本同時。


 速さは、さっきより遅く感じる。負傷したことにより、アドレナリンが分泌されたからだろうか。死が近付いてきているから、走馬灯のようにゆっくりと見えているからだろうか。


 まあどちらにせよ…()()()()()


「……」


 最小限の動きで、避ける。


 焦るな。判断をミスったら、そこで終わる。今は取り敢えず、避け続けろ。


「ゴウェエエエエエエエエエ!!!」


 叫ぶ鎌触手。激昂したのだろう。巨大な化物が、その巨大な鎌を横薙ぎに払ってきた。


「ッ…」


 姿勢を低くして、躱す。


 だが更に、触手による追撃。


「づっ…!?」


 触手により肩を軽く抉られる。血が、四散する。


「はぁ…はぁ…」


 呼吸が荒い。どうやら、そろそろ限界に近いらしい。


 …だが、まだ足りない。


「グォオオオオオ!!」


 紅ゴリラからも攻撃が来る。幸い、動きは遅い。負傷していても、見極めれば問題無い。


「っ、ふっ、はっ…」


 繰り出される拳一つ一つを、丁寧に対処する。


「ゴウェエエエエエ!」

「グォオオオオオオ!」


 …今度は連携攻撃。紅ゴリラが跳躍からの着地で地面を揺らし、そこを鎌触手の怪物が攻撃してくる。


 足場を揺らされては、まともに回避出来やしない。一本目、二本目の触手は身体を捻って回避できた…が、三本目は。


「がぁっ!?」


 腹部に…命中。強烈な痛みが迸り、口から吐血する。


 そして、触手は引き抜かれ、腹部からも血がとめどなく溢れ出る。


 …意識が、朦朧としてくる。まともに思考も出来なくなってくる。


 …駄目だ、ここで思考を止めてしまっては。勝てなく、なってしまう。


「グォオオオオオオ!!」

「ゴウェエエエエエ!!」


 どうやら、お互いが好機と捉え…紅ゴリラは俺の頭上へ跳躍しヒップドロップ、鎌触手の怪物は鎌を薙いで攻撃して来る。


 …鎌を避けたとしても、ヒップドロップで潰される。ローリングでギリギリ避けられるか?いや、速度が足りない。


 ヒップドロップを回避しても鎌で斬られ、鎌を避けてもヒップドロップで潰される。…為す術が、無い…?


 __いや。あるだろ、一つだけ。もう、そろそろ。


 __最後に魔力が回復してから、1時間が経過している頃だろうが…!


「【一秒停止】ッ!!!」


 渾身の、【一秒停止】。一縷の望みに賭け、絞り出した、生死を分つスキル。


 …だが。


「グォオオオオオ!」


 紅ゴリラは、止まらなかった。…だが鎌触手は、止まった。鎌触手だけが、色を失っている。


 …中途半端な、発動。


「くっ!」


 直ぐ様地を蹴り、ヒップドロップを躱す。


 …ヒップドロップを躱して安心するんじゃない、急いで鎌の攻撃範囲から抜け出せ…!


 ダンッ!


 更に地を蹴り、鎌触手の股下を潜って背後に回る。紅ゴリラは、ヒップドロップの反動で麻痺状態にあるようだ。


 …そう。俺が、何故こんな無駄な行動をし続けていたのか。その答えが、今分かるだろう。


 __準備、完了。


「さあ…動け」


 その瞬間、一秒が経過し…鎌触手は動き始めた。


 スパァン!!


「グォ…?」


 紅ゴリラの胴体が、真っ二つになった。


 …作戦、成功。これが、俺の狙っていた策略だった。


 まず、いくらなんでも2対1は分が悪い。だから、数を減らしてから戦おうと思った。無駄な攻撃は控え、回避で〝その時〟が来るまで持ちこたえた。


 重症を負ったのは想定外だったが、そこで好機到来。上手く行けば、紅ゴリラを落とせるビジョンが見えた。


 俺は【一秒停止】を鎌触手の怪物〝のみ〟に付与し、攻撃の時間差を利用して、鎌触手に紅ゴリラを斬らせた。


「これが…」


 俺は鎌触手の方へ振り返りながら、言った。


「〝神楽坂愁(本来の俺)〟だ」





神楽坂愁 クラス【一秒使い】


レベル1→12

生命力5→60 攻撃5→60 防御5→60

魔攻5→60 魔防5→60 魔力量5→60

敏捷5→60  隠密5→60 知覚5→60

巧緻5→60 幸運5→60  使役5→60

(総合値60→720)


所持スキル

【言語理解】【一秒停止】【瞬間睡眠】【拡縮する秒針】





 レベルアップ。ステータス、上昇。どうやら自分で倒さなくても、レベルアップは可能らしいな。


 傷も、魔力量も全回復したみたいだ。傷口は塞がり、身体に活力が戻ってきた。


 ステータスは、まだ弱い。だが…()()()


 …そして。新スキル【拡縮する秒針】を取得。全く検討もつかないスキルだが…。


「ゴウェエエエエエ!!」


 …鎌触手が、触手を鞭のように振り回してくる。不規則且つ、さっきよりも格段に速い。


 だけど…避けられる。レベルアップで、知覚、敏捷、巧緻の項目が上がったお陰だ。


 …そして。


「【一秒停止】、【瞬間睡眠】」


 魔力量が上がったから、スキルの連発が可能。


 魔力消費1の【一秒停止】と魔力消費2の【瞬間睡眠】。【一秒停止】で作った俺だけの一秒間で【瞬間睡眠】によって身体を保つ。


 つまり俺は、不要なスキルを使わなければ、魔力消費3である程度永続的に戦い続けられるということだ。


 …そして【拡縮する秒針】だが…使ってみようか。


「…【拡縮する秒針】」


 …すると。脳内で、突然。


《拡縮選択と拡縮倍率設定を行って下さい》


 …?拡縮選択と拡縮倍率設定?


《拡縮選択:拡大 or 縮小》


 …秒針を、拡大か縮小ってことか…?だったら。


「当然…〝拡大〟」


 拡大を選択。


《拡縮倍率設定:2から現在のレベルまでの整数の範囲で選択出来ます》


「…12倍だ」


 現在の最大値…つまり現在のレベルの数値を言う。


《認証。今から一秒間、一秒の概念を12倍に拡大します》


 …やっぱり、そういうことだな。


 この【拡縮する秒針】というスキル…どうやら一秒間、〝一秒の概念〟を書き換えられるらしい。


 俺は一秒を12倍に拡大した…つまり今からの12秒間は、一秒とカウントされる…よって。


「…【一秒停止】」


 【一秒停止】によって止められる時間は…実質、12秒。


 12秒間、このモノクロの世界が継続する。


「…まずは弱点把握…考えるのはそれからだ」


 俺はぐるっと、鎌触手の周りを走り、鎌触手の身体をざっと観察した。


 あれだけの巨体。普通に倒すのは不可能だ。だからこそ、弱点を見つけ、そこを攻撃する。


 …そして、6秒後。能力値が上昇していたからか、停止時間の半分を残すことが出来た…が。


「…特に無し、か」


 弱点は、見当たらなかった。そもそも、紅ゴリラにも弱点らしき弱点というのは見当たらなかったか。


 …つまり。


(ここはまだ…俺が来ていいレベルの所じゃない、ってことか)


 恐らく、俺がエストから出ようと、外へ向けて歩き続けた所為だろう。外に向かえば向かう程、魔物が強くなる。俺達を此処から、出させないかの如く。


 もし、危険度をE〜Sに区分するなら。あのドロドロはE。紅ゴリラはD〜Cくらいだろう。


 …つまり、まだ〝底辺〟。そもそも、レベル1だった俺が攻撃を避けられていた時点で、たかが知れている。


 上はもっと、俺が太刀打ち出来ない程強い筈なのだ。


「…なら」


 この鎌触手は、恐らくは中堅辺りに位置する魔物。


 現在の俺の能力値を鑑みると、無謀。勝率は0%。


「…一旦…逃げるしかない、か?」


 現在、奴に対する有効打は全くと言って良い程、無い。


 有効打を獲得するには…レベルアップによる能力値上昇と、新スキル獲得。それが必要になってくるだろう。


 レベルアップするには、俺達の世界で言う〝経験値〟が必要になるだろう。魔物と戦う事で得られる、経験値が。


 魔物と戦うだけでいいのか、それとも殺さなければいけないのか。俺としては恐らく後者だと思う。そうでなければ、紅ゴリラが死んだ瞬間に一気に11もレベルアップをしなかっただろうから。


 ダメージ量で経験値が手に入る可能性も否めないが、どちらにせよダメージは与えられないだろう。


 つまり、〝戦う術は持っているが、勝つ術はない〟。


 【拡縮する秒針】は、効果こそ強いが…攻撃スキルというより、スキルの汎用性を高くする、言うなれば強化系スキル。決定打、とは言い難い。


「…仕方無い…逃げるか」


 逃げるは恥だが役に立つ。死を恐れて、俺は逃げる。


 残り5秒。逃げ切るのは、かなり簡単だった。






 …世界が色を取り戻す。約50m、距離が取れていた。そのまま曲がり角を曲がり、鎌触手の視界から完全に姿を消した。


「〝能力確認(ステータス)〟」





神楽坂愁 クラス【一秒使い】


レベル12

生命力60 攻撃60 防御60

魔攻60 魔防60 魔力量45/60

敏捷60  隠密60 知覚60

巧緻60 幸運60  使役60

(総合値720)


所持スキル

【言語理解】【一秒停止】【瞬間睡眠】【拡縮する秒針】





「…随分魔力を使ったな」


 【一秒停止】を1回、【瞬間睡眠】を1回。【拡縮する秒針】を使ってからの【一秒停止】を1回。


 【一秒停止】の消費魔力は1。【瞬間睡眠】の消費魔力は2。【拡縮する秒針】の消費魔力は…11か?微妙な数字だな…本当に11なのか?


「…試してみれば分かるか…【拡縮する秒針】…〝2倍拡大〟」


 …そして、2秒後。俺の魔力量を見てみると…。


「…1、減ってるな」


 44/60。つまり、【拡縮する秒針】の消費魔力量は、拡縮の設定倍率によって変わる…?


 さっきは12倍で11消費。今は2倍で1消費。…設定倍率の−1が、消費魔力量か。


 これは、考えどころだな…これからはこのスキルの使い方が、重要になってくるだろう。


 このスキルを使い熟せれば、勝てる。


 ……ただ、悠長なことは言ってられない。


 もうかれこれ、1日は食事も水分も摂っていない。これ以上は、レッドゾーン。


 水分は水魔力の適性があれば充分摂れると思うが…俺は適性が無いな。


 魔力適性が無ければ、魔法は使えない、かもしれない。断定はしないが。


 ゲームにも扱う武器の種類があるだろう。銃なら、SMGやARなど、そのキャラに合っている武器があるんだ。


 銃を人間、弾丸を魔法。魔力適性が高ければ、銃口が靭やかで形が変化しやすい。つまりある程度好きな弾丸を詰め込める、ってわけだ。


 俺の場合、銃はあるが銃口は無い。つまり弾丸を詰められない、という状況である。最早、銃と言うのが恥ずかしいレベルである。


 …まあ、そんなことはどうでもいい。食糧問題だったな。


 そう言えば、救世主の中には食に関するクラスを持っている奴が居たんだ、能力値は低かったが。


 …そいつの所に辿り着ければ、生存確率がグンと上がるだろう。性格も悪くないから、快く食事を分けてくれる筈だ。


 ……生きていればの、話だが。


「ゲオゥ?」

「……来た、か」


 デカいカエルの、魔物。普通のカエルと違うところは、長く鋭い爪を持っていることだ。


 その形状は、まるでナイフ。


「…さて」


 __どうするか?


「ゲゴオォ!!」


 爪ガエルは、その爪で斬撃を飛ばしてきた。


「【一秒停止】」


 止める。一秒あれば、回避は容易い。


 俺は先程の斬撃の方向を予測し、横跳びで軽く射線から外れる。


 そして__世界が色を取り戻した。


 __だが。


「!?【一秒停止】ッ!」


 すかさず、また【一秒停止】。


 …射線から外れた筈の斬撃が、俺の方に迫って来ていたからだ。


 …追尾式の、爪の斬撃だったのか。


 追尾式なら、かなり厄介だ。斬撃が無くなるまで、延々と追いかけられる。


 その場合、俺が先に疲弊する。さっきのを見る限り、【一秒停止】を使わないで避けきれる自信は無い。俺より斬撃の速度の方が速いから。


 …ならば、さっさと終わらせよう。


 __再び、世界が元に戻る。


「【一秒停止】ッ!」


 三回目。俺は、爪ガエルの後ろに回り込む。


 …もう、俺がやろうとしていることは分かっているだろう。


 __世界が色を取り戻し…そして。


 ザシュッ!


「ゲ…ゴ…?」


 その斬撃は、爪ガエル自身が受けた。


 …やっぱり、これは典型的なパターンだ。


 追尾式の弱点、〝追尾対象と攻撃の間に挟まれれば自身が攻撃を喰らう〟。ゲームなんかで良くやる戦法だな。





神楽坂愁 クラス【一秒使い】


レベル12→13

生命力60→65 攻撃60→65 防御60→65

魔攻60→65 魔防60→65 魔力量60→65

敏捷60→65 隠密60→65 知覚60→65

巧緻60→65 幸運60→65 使役60→65

(総合値720→780)


所持スキル

【言語理解】【一秒停止】【瞬間睡眠】【拡縮する秒針】





「…レベルアップ、か」


 ただ、そこまでレベルは上がらなかった。多分紅ゴリラの方が強かった、ということなのだろう。


 …俺は普通にこいつの方が手強そうだと感じたのだが…まあ。爪ガエルの武器は爪の斬撃しか無さそうだったし…恐らくフィジカルが弱かったんだな。


 紅ゴリラはフィジカル特化のところがあった、物理防御力も高いと伺えた。鎌触手の攻撃力が高かっただけで、鎌触手に紅ゴリラを攻撃させてなかったら、爪ガエルの方が弱いと感じただろうか。


 …まあ、過ぎたことを考えても仕方無いな。


 俺は深呼吸をして。


「…よし、このまま鎌触手との距離を取りつつ、魔物を倒していくか」






[視点変更:一青舞菜]


 エストに飛ばされてから、約一日。


「一青先生…どうですか?」


 漣さんが居てくれて助かった。偶然近くに転移されたらしく、飛ばされてからすぐに出会した。実力も申し分無いし、この状態なら固まって行動した方が良いからだ。


「…駄目ね…そもそもこの街、ずっと曇天らしいわ。星は見えないし、声も届かない」


 【星天のお告げ】。このスキルは何回も試してみたが、全く作用しなかった。恐らく、星が見えてないと扱えないのだ。


 …何故かこの街はずっと雲に覆われている。この世界には天候の変化は無いのだろうか。地球で言う偏西風の役割を果たす風も、吹いていないように見える。


 星が見えない以上、私が扱えるスキルの大部分が使用不可となる。星を経由しないで扱えるのは【薄命予告】【光魔力超適性】の2つ。


 【星魔力超適性】はこの天候で使えるかどうか正直分からない。というか、【光魔力超適性】と【星魔力超適性】に関しては、魔法を習得していないのでそもそも使えない。


 つまり扱えるのは【薄命予告】一つのみ。効果は〝危険や不幸を察知する〟程度。とても攻撃性に欠けたスキルだ。


「〝能力確認(ステータス)〟」





一青舞菜 クラス【星詠み】


レベル4

生命力200 攻撃200 防御200

魔攻200 魔防200 魔力量200

敏捷200  隠密200 知覚400

巧緻200 幸運400 使役200

(総合値2800)


所持スキル

【言語理解】【星天のお告げ】【薄命予告】【星宙の庇護】【闇を穿つ流星群】【光魔力超適性】【星魔力超適性】





 漣さんが弱らせた魔物をこちらに回してきているお陰で、私もレベルが上がっている。寄生しているみたいで気が引けているが、漣さんは「一青先生のスキルが今後の生存確率を左右する」と言っていたから、今は気にせずに戦っている。


 と言ってもレベルアップの経験値配分の条件はいくつかあるらしい。〝与えたダメージでのボーナス〟と〝撃破ボーナス〟と言えば分かりやすいだろうか。他にも何かあるかもしれないが。


 経験値が入る条件は〝撃破〟のみだが…その過程で与えたダメージと撃破で経験値配分が変わってくるのだ。


 漣さんが弱らせる、つまり漣さんがダメージを与えて、私が撃破する。そうすると私も漣さんも経験値が手に入る。


 その配分は意外に調和が取れているらしく…私が弱らせて、漣さんが倒すという逆の行動をしてみたが、経験値配分は殆ど変わっていなかった。つまり、〝ダメージボーナス≒撃破ボーナス〟と表せる。


 ただまあ、クラス毎に〝経験値補正〟なるものが隠されているのか、レベルの上昇率は漣さんの方が早い。さっき私が魔物を弱らせる行動を取った時、撃破時の経験値は私よりも漣さんの方が高かったから。


 …そう考えると、【勇者】というクラスの強い理由が、分かってくる。さっき、漣さんのステータスを確認した__ステータスは、こうだった。




漣静波 クラス【勇者・白銀】


レベル8

生命力800 攻撃800 防御800

魔攻800 魔防800 魔力量800

敏捷11520 隠密800 知覚1200

巧緻1200 幸運800 使役800

(総合値21120)


状態:敏捷値補正+60%、敏捷値3倍


所持スキル

【言語理解】【鑑定・白銀】【勇者の双剣・白銀】

【白ノ剣】【止血促進・白銀】【全魔力適性】【土魔力超適性】【無尽蔵・白銀】【高速回復・白銀】

【魔力覚醒・白銀】【衝撃耐性・白銀】





 敏捷値だけまるで桁が違うが…これは元のステータスよりも〝状態〟と呼ばれる項目が影響しているらしい。


 敏捷補正値+60%に加え、敏捷値3倍。


 漣さんが【鑑定・白銀】で確認すると、どうやら【無尽蔵・白銀】の効果で敏捷補正値が+10%、【高速回復・白銀】の効果で、生命力がMAXの時に敏捷補正値+50%。更に【勇者の双剣・白銀】で双剣を顕現している時のみの効果で敏捷値を3倍しているらしい。


 …つまり、【勇者】の強みは、〝経験値補正〟と〝バフ〟。自身のステータス強化を武器に戦うスタイル。


 漣さんの【勇者・白銀】は〝敏捷値のみを強化して戦う〟スタイル。これが、イディさんの言っていた〝【勇者・白銀】は速度特化〟ということなのだろう。


「…どうやって、この街から抜け出しますか?」

「この街は広すぎる…普通に脱出を試みても困難でしょうね。あちこちに魔物も蔓延っているから、時間がかかる。常に警戒しないと行けないから休息が取れない…抜け出す方法は、正直言って無いかもしれないわね…」


 常に警戒を続けていて、精神的にも参っている。普通の感性を持つ私にとっては、本当にキツい。


「そうですね…私も、これ以上は危険な状態になるかもしれないです。スキルの効果で、疲弊しなかったり傷や魔力の回復速度が速くなったりしてますけど…睡魔だけはどうしようもないですから…」


 やはり、一番の問題は睡眠かもしれない。


 いくら私達が強かろうとも、睡眠時は完全なる無防備状態。


 漣さんの【無尽蔵・白銀】は疲弊しないスキル…だが、睡魔までは排除出来ない。睡眠は、避けては通れない。


「…早いところ、水と食糧を探さないと、ですね」


 少し前、漣さんは私を背負って【無尽蔵・白銀】の効果を利用して街を出ようとしたが…やはり広すぎて不可能だった。


 …このままだと飢餓で、死んでしまう。


 …どうしたら。





[視点変更:神楽坂愁]





神楽坂愁 クラス【一秒使い】


レベル13→18

生命力65→90 攻撃65→90 防御65→90

魔攻65→90 魔防65→90 魔力量65→90

敏捷65→90 隠密65→90 知覚65→90

巧緻65→90 幸運65→90 使役65→90

(総合値780→1080)


所持スキル

【言語理解】【一秒停止】【瞬間睡眠】【拡縮する秒針】【瞬間千里眼】【瞬刻の回帰】





「…よし」


 継ぎ接ぎの鎧を纏っている魔物を倒し、レベルアップした。


 倒した方法は単純、【拡縮する秒針】と【一秒停止】で鎧の中の魔物の動きだけを止め、鎧を少しずつ剥がしただけだ。


 防御性能はあったものの、攻撃性能はあまり無かったらしく、装甲が無ければ大した脅威になり得なかった。だから、直接戦闘でも案外余裕で倒すことが出来た。


 経験値もかなり高かった為、一気に5レベルアップした。


 …そして新スキル【瞬間千里眼】と【瞬刻の回帰】を取得。


 どちらも補助スキルだろう。戦闘に使えるかどうかは分からないが…中々に使える。


 …【瞬間千里眼】。〝千里眼〟、ということは、文字通りならば。


「…この街の広さが、分かるのか…?」


 かも、しれない。試してみるか。


「…【瞬間千里眼】」


 そう宣言すると…視界が、一気に…。


「…見え、た」


 スキルの効果は一秒で消え、視界は直ぐに戻った。


 ここから、約3000km。大体、七五〇里。そこに、街の門が見えた。


 運が、良いのかもしれない。俺が向かって歩いていた所は、丁度門の正面だったからだ。他の所は、途轍もなく高い壁に阻まれていた。とても、よじ登れる高さではなかった。門の方向でない方を歩いていたら、出られなかった可能性もある。


 …だが、逆に運が悪かったのかもしれない。


「…なんだ…あれ」


 一瞬、見間違いでなければ。


 …ヤバいのが、居た気が…。


「ポオォオオオ!」

「っち…!」


 次から次へと…今度は、良く分からない白い魔物。焼いて膨れた餅に手が生えたような見た目。頭に煙突みたいなものも付いている。


「スゥゥゥ__ポオォオオオオオオ!!!」

「ッ…!?」


 煙突部分から、何か飛ばしてきた。


 __溶岩だ。


「くっ…!」


 ギリギリで避ける。熱気が肌を刺激し、強烈な痛みが伴ったが、なんとか大丈夫だ。


「スゥゥゥ__」

「連続、かっ…!」


 再び、溶岩を放とうとしている。


「【一秒停止】ッ!」


 直ぐに詰め、【一秒停止】を発動。


 …この餅。溶岩を放つ際の動作で、身体全体が元より更に膨れ上がっている。だったら、そのまま攻撃すれば__


 ドゴォン!


 攻撃する直前に世界が元に戻ったが、蹴りを入れるのは成功した。


「プゥ…?」


 そんな変な声を漏らす餅。更に膨れ上がって…そして。


「!?__【一秒停止】!!!」


 何かヤバい気がした。だから、咄嗟に時を止め、距離を取った。


「プゥウウウウウウウ!!!!」


 ドカァアアアン!!!


「…あ、ぶなかった…」


 大爆発。【一秒停止】を使って、距離を取ってなかったら、あるいは直前にレベルアップで能力値が上昇してなかったら。


 __死んで、いたのかもしれない。


「……」


 真面目に。少し、恐怖を感じた。


 鎌触手と相対しても、そこまで恐怖は感じなかった。初見殺しなんてものは、無かったから。


 …でも、この餅は。


「…気を付けないとな」





神楽坂愁 クラス【一秒使い】


レベル18→20

生命力90→100 攻撃90→100 防御90→100

魔攻90→100 魔防90→100 魔力量90→100

敏捷90→100 隠密90→100 知覚90→100

巧緻90→100 幸運90→100 使役90→100

(総合値1080→1200)


所持スキル

【言語理解】【一秒停止】【瞬間睡眠】【拡縮する秒針】【瞬間千里眼】【瞬刻の回帰】





 レベルは2アップ。ステータスは、オール100に到達した…か。


 レベル20で、オール100。ついさっきまでレベル1でオール5だった俺が、もうここまで上がったのか。


 素のステータスだけなら、レベル1の【勇者】クラス。そう、考えても良いだろう。スキルの関係上、全然届いていないかもしれないが。


 …最初の頃より、20倍強くなった。それは、間違い無い。スキルも、消費魔力量が少ないから、連発出来る。


 実際、俺は魔物達に勝つ事が出来ていた。以前より、余裕を持って。


 …だからこそ、思うんだ。


「…あいつ等との、差がデカ過ぎる…」


 成長倍率。レベルが1上がると、能力値はレベル1の時の能力値から乗算される。だから、成長倍率は他とは一切変わらない筈。


 仮に俺がレベル100になれば、総合能力値は6000。神崎がレベル100になれば、恐らく総合能力値は変わらず俺の27.5倍である165000。


 …倍率にすれば変わらない…が。差にすれば、どうだろうか。レベル1の時の俺と神崎の差は1590。レベル100の時の俺と神崎の差は159000。当然、差も100倍になる。


 …1590と159000とでは、明らかに違う。レベルが上がれば上がる程…他の救世主との差が、大きく感じるのだ。


「…っ、やめだやめ…考えるな」


 上下関係なんて、気にするな。虚しいだけだ。


 そう自分に言い聞かせ、再び前を向く。


 ドカーーーン!


「…?向こうから、か?」


 前方約700m先。爆発音が聞こえた。煙もそこに立ち込めている。


 …と、いうことは。


「誰かが…そこに居る、ってことか…?」


 魔物と交戦中の、何か。もしかしたら、クラスメイト(救世主)かもしれない。


「…行って、みるか」


 【瞬間千里眼】を使ってみたが…どうやら此処からだと【瞬間千里眼】で見えないらしい。障害物があると、見えないそうだ。


 イディが言っていた、〝スキルの進化〟をしたら、障害物があっても対象を見られるだろうか。


 …さて。救世主ならば万々歳だが…そこに居るのが誰か…だな。


 四月一日や神崎だとハズレ。一青先生や漣は当たり。クラス【調理師】を持つ救世主…枢木(くるるぎ)(みやび)は大当たり。その他はいずれでもない。


 四月一日や神崎は、確実に俺を嫌っている。気分次第で殺されかねない。ステータスも恐らくあいつ等の方が圧倒的に高い。まず出会ったら勝ち目は無い。


 一青先生や漣は、俺と敵対はしないと考えて良い。更に、一青先生のクラス【星詠み】の【薄命予告】が、生き残る上で役に立つ。漣のクラス【勇者・白銀】なら、俺のクラス【一秒使い】との相性が良さそうだ。


 枢木のクラス【調理師】のスキルには【可食化】というスキルがあった。美味さはともかく、食えるならそれに越したことはない。本人の能力値に関しては、悪くは無い。生きている可能性は、高いだろう。ただ、あんな爆発を起こせるかは不明だから、あそこに枢木が居る可能性は薄いな。


「…さて…鬼が出るか蛇が出るか…」


 一体、その爆発の正体は、何なのか。俺は走って、そこに向かう。






 数十秒後…そこに着いた。隠れながら、爆発の正体を探す。


「………」


 …見つけた。制服姿…ということは、救世主。


 人数は、一人。


 …一人で、大爆発を起こせる奴。限られるな。


 …灰色の、髪。


「あ?…誰だぁ?」

(…気付かれた、か)


 俺の隠密値が、奴の知覚値より低い、ということ。奴の片手には、剣。無数色の、剣。


 …そして、あの口調…間違い無い。


「【元素融合】」


 …四月一日(ハズレ)だ。

3話終了です。


静波の能力値がインフレしてる感はありますが、クラス【勇者】は大体そんなもんです。でも【勇者・白銀】は敏捷値しか上げないので、然程火力は出ない…レベルが上がれば、違いますけどね。


ということで今回はここまでです。では。

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