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2話 矛盾と地獄

 …違和感の正体が、分かった。


 まず、俺達を此処に呼んだ…召喚した時。イディは開口一番、こう言った。


『漸く…成功したんですね』


 違和感は、全く無い。それだけ長い時間を掛けて、俺達を召喚したのだろう。


 …ただ、〝漸く〟という言葉から考えて。研究者達は()()()()()()()()()()のだ。


 俺はこれを〝初めての成功だった〟もしくは〝何度目かの召喚だったが、今回は余程の急ぎであり、且つ失敗が何度か続いた〟という2つの意味合いに捉えた。


 …だが後者の場合。俺達にその事を教えないメリットは無い。焦りでメンタルがやられる可能性は否めないが、それでもごく少数だ。


 …だが、それは焦り過ぎで忘却していたのかもしれない。


 …だからこそ問題は、覚醒付与の話。


『本来、これはこの世界の人間に使うと、覚醒自体は出来ますが身体に負荷が掛かり過ぎる為、即死に至ります』


 まあ研究者たるもの、被験者は必ず必要になってくる。効果を試すなら、な。


 …だったら、()()()()()は?


 神崎や漣の【勇者】は1億人に1人の割合、四月一日の【元素魔剣士】は数万人に1人と。そんな割合が出ている。


 …だったら、その数値はどうやって割り出した?答えは単純、〝実際に試した〟から。よって確実に、多くの〝犠牲〟の上で研究されているのだ。


 覚醒付与が1人の被験者で何回も実験されている線もあるが…なら〝○人に△人の割合〟ではなく〝○回に△回の確率〟と言う筈なんだ。


 つまりこの研究者達は…〝人を殺しすぎている〟。自身達の研究の為だけに、人を殺しているんだ。


 …そして、さっき述べた救世主召喚の際言った言葉。あれは…〝この世界の人数が減ったから、新たな実験体が欲しい〟そして〝かなり時間が掛かったが、なんとか成功した〟と。


 あの〝漸く〟には、そんな意味があったのではないか…?


 …そして、それが確証に至ったのは…あの、狂気じみた笑みだ…。






「__君達、人生御愁傷様…♪」


 口調が、声音が、雰囲気が変わった。


 …何か、ヤバい…!


「っ、【一秒停止】ッ…!」


 そう唱えると、世界がモノクロになった。


 …頼りないスキル。一秒しか止められないスキル。


 …だけど、一秒あれば。


(この距離なら、止められるっ…!)


 イディを殴って、止める。イディが、この転移の魔法を発動しようとしている筈だ。証拠に、イディの手には光の素粒子のような物が集まっている。なら、殴ればそれを止められ__


「邪魔だよ、君」


 ドゴォッ!!


「が…ぁ…!?」


 俺は、イディに腹部を思い切り殴られた。


 なんで…?まだ、一秒経って__


 その瞬間、世界が色を取り戻した。


「「「「「「ッ!?」」」」」」


 周りからは、俺とイディが瞬間移動したようにしか映っていないのだろう。そんな、声にならない声を上げた。 


「神楽坂君!?」

「ぁ…ぐ…来るなっ…!!」


 駆け寄ってくる一青先生を、手で制止する。


 …コイツ。なんで、止まった世界で動けた…?


「アハハッ♪ボクが君程度のスキルに影響されると思った?」

「ぐっ…くそっ…」


 腹に、良いものを貰った…悶絶するしか、出来ない。


「うっ…!」


 イディが、俺の服を掴んで、魔法陣の方へ投げ飛ばす。


「それじゃあ、精々足掻いてね〜♪…」


 …そして、俺達は。


 …淡い光に、包まれた。






「っ…」


 目を開く。どうやら…転移、されたらしい。


「此処は…なん、なんだ…?」


 廃れた、寂れた大きな街。此処が、エスト…?


 〝調律の街〟と呼ばれる片鱗すら無い。ただひたすらに、瓦礫が散乱している街。


 …それに。


「…なんで、皆が居ない…?」


 周囲に、人は居なかった。同じ魔法陣で転移をした、その筈なのに。


「…っ、一先ず状況把握だ…」


 焦るな。ここで焦っても何も変わらない、周囲の状況を確認することが先決。


 …まず、此処は何処か。トールは、エストと言っていたが…その評判とは真逆の街。とても、聞いていた話とは違う街だ。だったら、此処はエストではないのか?


 …と、考えていると。ふと、ある物が目に入った。


 …そう、看板。完全に古びていて、灰色の街と同化しているが…そこに書いていたのは。


「…〝エスト〟…か」


 どうやら、此処はエストで間違い無い。更に周囲を良く見てみると、同じ様な看板が沢山あった。


 …此処はエスト。あの〝調律の街〟のエスト、か。


「…にしても、この世界の文字も読めるんだな」


 【言語理解】のスキルの効果だ。文字も解読出来る。さっきまでも、違和感なく話せて__


「…ん?」


 また違和感。


 …そうだ。覚醒付与の前には【言語理解】のスキルなんて無い筈だ。なら…どうして()()()()()()()()


 研究者達はこちらの世界の人間だから、覚醒付与は出来ない。日本語を知っていた、というのもおかしな話。翻訳魔法でも掛かっていたか?いや…さっき見た感じ魔法の発動の有無は判断出来る、それも違う。召喚された者の特権か…?


 …どうにも、辻褄が合わない。


「………仕方無い。考えるのは後にするか」


 答えの出てこない問題に、時間を浪費するわけには行かない。そもそも、この現状をどうにかしない限り、俺に待っているのは〝餓死〟だ。


 この廃れた街では、とても水や食糧なんて見つけられたものじゃない。取り敢えず、この街から出なければ。


「…流石に歩けば街からは出られるだろ」






 と思っていた…が、数十分後。


「……この街、広すぎないか…?」


 どれだけ歩いても、この街を抜け出せる気配が、無い。歩いても、瓦礫の山や窓ガラスの割れた建物が続いているだけ。


 変わらない景色。ループしているようにも感じられる。


「…何処もかしこも、同じ様な景色で頭がおかしくなる…」


 ゲシュタルト崩壊。長時間同じ形を見続ければ、知覚がおかしくなる現象。今まさに、それが俺の身に起こっている。


「…早く抜け出さないとな…」


 精神がおかしくなる前に、抜け出さないと。






 …そして、更に数十分。


「……長い…」


 もう既に、脳内はぐちゃぐちゃだった。思考能力が低下し、意識が朧気だ。


 同じ光景を何回も見せられるのが、こんなにも苦痛だとは。


 …あれからずっと歩いているのだが、やはり街の端さえ見えない。


 前まで、栄えていた街だったのだろう。なら、何故こんな状態になったのか。


 …十中八九、イディが関係している。そうでなければ、街内で争いが起きたのか。


 そんなことを考えていたのだが…やがて。


「くっ…」


 俺は歩くことすらままならなくなった。体感、2時間。それだけ歩いたような気がする。もしかすると、極度の精神疲労で気が付かなかっただけで、その倍の時間は歩いているかもしれない。


「…少し休憩を挟まないとな…」


 いくらこの街に何も無いからと言って急ぎで出てしまえば、ぶっ倒れてしまう。少しは身体を大切に、だ。


 …と、そう思って休憩に入ろうとすると__


「…ッ!?」


 肌を刺す、何か。ドロドロとした、憎悪か、あるいは殺意か。


 とにかく、負の感情。それが俺に向けて放たれた。


「…ぅっ…!?」


 不快で恐ろしい感情を向けられて、えずいてしまう。


 …不気味だ、不吉だ。嫌な予感が、する。


「…!」


 ガタッ、と。音がした方を向く。


 …瓦礫の1つが落ちた音だった。


 …些細な事でビビり過ぎだとは思うが、用心するに越したことはない。


「………」


 ……数秒後。


「…気のせ__」


 ドカアァァァァン!


「__!?」


 突如、瓦礫から何かが凄い勢いで飛び出してきた。


「ぐぁるぉぉ…」


 …異形の、怪物。ドロドロに溶けた、怪物。


 …アレが…〝魔物〟…?


「ゔぉぉお゛お!!」


 そんな咆哮を上げる、化物。


「…くっ…!」


 どうする?どうする?どうする?


 言葉が通用するか?体術が効くか?理性があるか?無ければ…もう。


「ゔぁお゛おぉお!!」


 その異形の化物は、俺に向かって突進して来た。


 …動きは、遅い。恐らく対処可能。


「!」


 ドロドロの拳であろう部位が飛来してきた。速度は遅くはないが…見切れる。


「っ、はぁっ!」


 迫りくる拳を回避し、蹴りを叩き込む。すると…。


 べチョン


 そんな汚い音が鳴った。


「効いてないっ…!?」


 そう、俺の蹴りの衝撃は、この化物の身体を覆う液体によって吸収されてしまった。


 この感触。例えるなら、泥濘(ぬかる)んだ土に攻撃しているような、そんな感覚。


 …しかも。


「っ、脚が…」


 そのヘドロが、俺の脚に巻き付いた。脚に絡みついて離れない。


「くっ…!離れ、ろっ…!」


 必死に抵抗をするが…底なし沼のように、一度嵌ったら簡単には抜け出せない。


「ゔぉるるるっ…」


 化物は、顔に該当する部分を俺に向けて近づける。


「…ま、さか…」


 捕食、しようとしているのだろうか。


 こいつがどんな生物か分からない以上、人間を喰らう生物かどうかも分からない。


 もしかしたら、人間を養分とする可能性も…。


「っ…!」


 早く、抜け出さなければ。


 抜け出せなかったら、最悪…死ぬ。


「こ…のっ…!」


 全力で引き剥がそうと、ヘドロから全力で脚を抜こうとしたが…粘着力はかなり強かった。攻撃をしようにも、あの粘着力では自分の首を絞めるだけだろう。


 …そして、眼前まで顔が近づいて__


「【一秒停止】ッ…!」


 最期まで足掻こうとする執念か。俺はそれを使っていた。心許ない、俺の最弱クラスのスキル。


「ッ!」


 俺は()()()()()()()()()、距離を取った。


「え…抜け出せ、た?」


 __世界が色を取り戻す。【一秒停止】を使ってから、一秒が経った合図だ。


「ゔぉ…??」


 化物も、何が起きたのかさっぱり分かっていない様子。


 …さっきまで俺が【一秒停止】を使おうと思わなかった理由は、捕まっている時点で抜け出すことなど不可能だと思ったからだ。


 拘束されていれば、時を止めても振りほどけない。そう思ったからこそ、無意味だと切り捨てて【一秒停止】を使わなかった。


 …だが。いざ使ってみたら、図らずも簡単に抜け出せた。


 これが【一秒停止】の効果なのか…?


「っ、また来る…!」


 俺が思案している内に、混乱から抜け出したのか。その化物は再び俺に向かって突進して来る。


 …が、今度は。


「ゔぉおおおっ!」

「は!?」


 身体中のヘドロを、あちこちに撒き散らしながらの、突進。


 辺りにベタベタとヘドロが張り付く。…そして。


「うっ…!?」


 俺自身にも、それは掛かった。


「【一秒停止】…!」


 白黒の世界を展開し、直ぐ様抜け出す。そして余った停止時間で、瞬時に周囲を確認。


 …ほぼほぼ隙間がないくらいに、ヘドロが散っている。…前進は不可能だ。


 …と、なれば。


「くっ…!」


 俺は化物から背を向け、逃げ出す。その瞬間に、世界が元に戻る。


「ゔぉ?」


 【一秒停止】を使う前、俺はヘドロが全身に付着していた。つまり、()()()()()()()()()姿()()()()()()()()状態にあった。


 だから化物は【一秒停止】を使う前に俺が居た位置に向けて攻撃を放った。


 …だが、空振った。だから、瞬間的に困惑した。


 …逃げるには、最高のタイミングだった。






「ふぅ…此処なら身を潜められるか…?」


 廃れきっている路地裏。瓦礫に埋もれかけていたので、暫くは見つからないだろう。


「……」


 疲れている。疲労もあるが、大きいのは疲弊の面でだ。


 憔悴しかけているのだ。脳に情報を詰め込まれ過ぎたり、錯覚を見せられたり。


 流石に、整理しないと、まずい。


「…寝ないと、いけないな…」


 ただ…此処で寝るというのは、自殺行為に等しいのではないか?


 此処には、さっきの化物が徘徊している。もしかすると、さっきの化物や他の化物が、この街にまだまだ、存在するかもしれない。


 …だが疲弊した状態で、此処を抜けられるのか?判断力が鈍ってしまえば、それこそ生存確率が低くなるのでは?


 死のリスクを背負って寝るか、判断力を捨てて此処を抜け出すか。


 どちらにせよ、死に近しい行為。進退窮まる、ジレンマ。


 …一体、どうしたら…。


「…あ、そう言えば…〝能力確認(ステータス)〟」


 俺はステータス画面を開く。





神楽坂愁 クラス【一秒使い】


レベル1

生命力5 攻撃5 防御5

魔攻5 魔防5 魔力量5

敏捷5 隠密5 知覚5 

巧緻5 幸運5 使役5

(総合値60)


所持スキル

【言語理解】【一秒停止】【瞬間睡眠】





 相変わらず、低い能力値。だが、俺の視線は1つのスキル項目に注がれていた。


 …【瞬間睡眠】。俺の数少ない【一秒使い】の個性。


 最初は一秒で何が出来るのだろうかと思っていたのだが…存外、馬鹿にできないのかもしれない。


 …一秒で睡眠に入れるなら、数分だが睡眠に入る時間をショートカット出来るだろう。


 数分、と言えば大した事では無いのかもしれない…が、この極限状態に等しい環境では、数分が生死の分水嶺となる可能性だってある。


 …とどのつまり。僅かだが、生存できる確率は上がる。


「…どちらにせよ尋常じゃないリスクのデカさだが…やるしか、ないか」


 今俺は、手段を選んでる程余裕があるというわけじゃない。寧ろ、考えれば考える程徒爾な時間を過ごすことになるだろう。


 …だったら、俺は。と、俺は目を瞑って。


「…【瞬間睡眠】」


 …………。


「…んぁ?」


 なんだこれ…眠らないぞ?


「…なんで__」


 そこまで言って、気付く。今の俺は、妙に落ち着いている。さっきまで、余裕が無かった筈なのに。


「…もしかして」


 もしかすると。【瞬間睡眠】とは〝一秒で眠りに就ける〟ではなく〝一秒で睡眠を完了させられる〟ということなのではないだろうか?


 だとしたら、俺が今冷静で居られるのにも納得が行く。睡眠にはリラックス効果がある。不安を和らげたり、身体のコンディションを整えたり、記憶を整理したり。


 突然此処に連れてこられた混乱と不安、そして休まず歩き続けた疲労、知らない情報を詰められてパンクした脳。此処に来てから、俺が負ったマイナス。それら全て、充分な睡眠で解決出来るものだったのだ。


 そう、〝充分な睡眠〟。一秒目を閉じただけが〝充分な睡眠〟とは言えない。つまり、〝一秒寝た=充分な睡眠〟の式が成り立っている事になる。


 それを可能にするのが、俺のスキルということなのだろう。


「…まあなんにせよ。実質的に睡眠がほぼほぼ必要ないのはありがたい」


 この状況では、睡眠が命取りだったのだ。その心配すらなくなったので、これから気兼ね無く、エスト脱出へ向けて行動出来る。


「…さて…じゃあ」


 俺は軽く身体をほぐして、そして。


「…この〝調律の街〟を、抜けるとするか」






[視点変更:神崎悠斗]


 俺は、飛ばされていた。その、〝調律の街〟とやらに。


「…随分廃れた街だな…あいつらも全員居ない。っち、手駒が居れば色々楽だったんだがな。にしてもイディ…俺に対して生意気な言葉を吐きやがって。俺が、此処で生を終える器だと思っているのか?ハッ、甘いな、俺は【勇者】だ、【勇者・蒼白】だ。この程度の窮地、抜け出せてこそ本物の勇者だ」


 そう、俺は救世主の中でも選ばれし最強クラス【勇者】。その【勇者】の中でも最強の【勇者・蒼白】。漣の【勇者・白銀】も強そうだが…それでも俺には届かない。何故なら、この俺が最強であるから。


 それにこれだけの力、漣はおろか他の連中も使い熟せるわけがない。


 そう。技を悉皆、扱えるのは俺だけだ。無駄無く、本来の使い方を。余すこと無く扱えるのは、俺しか居ない。これは、確定事項。


「ガルルルッ…!」

「…あ?」


 俺の背後から、狼型の化物…魔物が、迫って来ていた。


「駄犬が。力の差も理解出来ないのか?」

「ガルルル!」


 狼が、俺に向かって突進して来た。半端なく鋭利な犬歯をギラつかせ、喉元を噛み千切ろうとして来る。


「【勇者の剣・蒼白】」


 そう唱えると…俺の手許に、蒼の剣身で金の柄…神々しさが特徴の、剣が現れた。


 この俺に相応しい、良い剣だ。


「【蒼ノ剣】」


 続けて、そう唱える。


 すると…顕現させた剣が、燃え盛るような蒼いオーラに包まれた。


「はぁっ…!」

「グルォオ!?」


 俺はその剣で、狼を断ち切った。一刀両断。


「ハッ…これなら、楽勝だな」





神崎悠斗 クラス【勇者・蒼白】


レベル1→3

生命力100→300 攻撃400→1200 防御100→300

魔攻400→1200 魔防100→300 魔力量150→450

敏捷200→600 隠密100→300 知覚100→300

巧緻200→600 幸運100→300 使役100→300

(総合値2050→6150)


状態:攻撃値2倍、魔攻値2倍


所持スキル

【言語理解】【鑑定・蒼白】【勇者の剣・蒼白】【蒼ノ剣】【干渉耐性・蒼白】【局所的筋力増幅】【全魔力適性】【水魔力超適性】





 …これが、俺の力だ。


 …そう、俺は救世主として召喚された、3-Fの誰よりも早く…〝レベルアップ〟をしたのだった。






[視点変更:四月一日慶二]


「おらおらおらぁ!【元素融合】〜!」


 そこらで魔物に遭遇しやがった。面白そうだから、スキルの実験台となって貰ってたぜ。


 この【元素融合】は実に愉しい。元素についてまだ良く分かってねえが…とにかく色んな元素をテキトーに当てはめて相手に放ったら、馬鹿みたいな威力が出やがる。


 【元素武具生成】で剣を作って【元素融合】を纏えば、振るうだけで【元素融合】の斬撃も飛ばせる。まさに馬鹿げた破壊力。最高じゃねえか。





四月一日慶二 クラス【元素魔剣士】


レベル1→2

生命力80→160 攻撃50→100 防御50→100

魔攻100→200 魔防100→200 魔力量100→200

敏捷50→100 隠密50→100 知覚50→100

巧緻100→200 幸運50→100 使役50→100

(総合値830→1660)


所持スキル

【言語理解】【元素融合】【元素燃料】【元素亜空間】【元素武具生成】【全魔力適性】





「うっしゃあ!レベルアップ〜!」


 魔物を倒し、レベルアップした。まさかの全能力値が2倍!?いや〜、マジで良いわ。これぞ異世界!そして主人公感溢れるスキルも重畳!


「これなら…そろそろ時間の問題かもなぁ?」





[視点変更:神楽坂愁]


 …俺はひたすら、街の外に向けて歩いていた。途中、様々な化物を見かけたが…なんとかやり過ごす事が出来ていた。


 …だが。何時間歩いても、何回【瞬間睡眠】で休息を入れても。まだまだ一向に、外の壁すら見えない。


「…なんで、こんなにも広いんだ…」


 これだけ栄えているなら…此処、エストは間違いなく〝調律の街〟と呼ばれていたのだろう。


 ただ…衰え、そして廃れた理由までは全く分からないわけだが。


「…昔は、これだけの規模の街…って、事だったんだよな?」


 …そういう、事だろう。


 俺が知らない、平和で賑やかな街。是非とも見てみたかったな。


「っと…そろそろ疲れてきたな…【瞬間睡眠】」


 定期的に【瞬間睡眠】を入れる。


 …途中で気付いたが…どうやら。





神楽坂愁 クラス【一秒使い】


レベル1

生命力5 攻撃5 防御5

魔攻5 魔防5 魔力量2/5

敏捷5 隠密5 知覚5 

巧緻5 幸運5 使役5

(総合値60)


所持スキル

【言語理解】【一秒停止】【瞬間睡眠】





 魔力量の項目。いつの間にか、〝2/5〟と表示されるようになった。


 どうやら、スキルの発動には魔力を消費するらしい。【瞬間睡眠】の場合、必要魔力量は2だ。


 そして、魔力は時間経過で少しずつ回復するらしい。俺の場合、体感では1時間と少しで1回復する。これがデフォルトかは分からないが…魔力量によって回復量に違いがあるかもしれない。


 というか違いが無ければ、レベル1時点で魔力量が150の神崎が0から全快まで1週間程度掛かる事になる。なら十中八九、違いがあるだろう。ということは恐らく、魔力は時間経過で割合回復するのだろう。


 俺の魔力量では、ほぼほぼ回復しない。そこが、悔やまれるか。


「……ッ」


 前方に、影。色までは視認できないが…人の形でないのだけは、分かる。


 …此処に来るまでに見た化物と同様の、化物。


 …なの、だが。


「デカ、くないか…?」


 今までは、人間と同等、もしくは少し大きいくらいだった。だけど…目の前に見える化物は。


「……」


 建物の高さから計算すると…体長、約4m。〝化物〟と聞いて連想する化物そのものだ。


 …影しか見えないが、何か、触手のようなものが三本蠢いている。巨大な体躯の所為で細く見えるが、相当な太さだろう。


 …あんな奴に見つかったら、一貫の終わりだ。


「さっさと、離れ__!?」


 瞬間、俺の背後から、殺気。


「しま__」

「グオォオオオオオオオオオオオオオ!!!!!」


 …目の前の奴に、気を取られて。


 すっかり、後方への警戒が緩んでいた。


 背後に立っていたのは、全身が赤黒い毛に覆われている、ゴリラ。人を狩る、と言わんばかりの黒く濁った、殺意に塗れた双眸。


 …こいつも、体躯が他と比べてデカい。体長、約2.5m。普通に考えて、こいつにも勝てるわけがない。


 …しかも、さっきの叫び声。


「ウォ?」


 紅ゴリラとは反対方向から、そんな声が聞こえてきた。


「まさ、か…!?」


 失態だ。さっきまで見ていた怪物が、俺の姿を視認した。


「ゴウェエエエエエエエエエエエエエ!!!!!」


 姿が、露わになる。茶色い身体。硬そうな殻に包まれた盾状の左腕に、殺す事に特化した鎌状の右腕。背中には紫色の線を巡らせた触手が三本。


「ッ!?」


 触手の一本が、飛んできた。


 動きは真っ直ぐ、単調に…だが問題はその速さ。反応出来ても、躱しきれるか。


「ッ、【一秒停止】ッ!」


 触手を避けながら、【一秒停止】を発動させる。


 そして直ぐ様、全力で逃走する。


 …ただ、一秒じゃそんなこと出来なくて。世界が色を取り戻した瞬間。


「ぐあぁっ!?」


 触手が、俺の右脚を貫いた。


「グォオオオオオ!!」


 そして連携するように、紅ゴリラが拳を叩き込もうとして来る。


「【一秒、停止】…ッ!」


 痛くても。思考は、止めない。動きは、止めては行けない。


 止めた瞬間…死ぬ。


「ぅ、ぐっ…」


 時を止めている最中は、どうやらこの触手も無視して動けるらしい。触手は脚からすり抜けたのだ。


 そして、世界が戻る。なんとか、少しだけ延命出来た。


 …だが、ここで問題がある。





神楽坂愁 クラス【一秒使い】


レベル1

生命力2/5 攻撃5 防御5

魔攻5 魔防5 魔力量0/5

敏捷5 隠密5 知覚5 

巧緻5 幸運5 使役5

(総合値60)


所持スキル

【言語理解】【一秒停止】【瞬間睡眠】





 魔力が…もう、残っていない。1すらも、残っていない。


 魔力が無ければ…スキルは、発動すら出来ない。


「詰み…なの、か…?」


 最弱クラスで、最弱ステータスで、最弱スキル。俺が、今まで〝持ち得なかった〟もの。


 …そう、俺はこんなに()()()()()()()()()()()()()()


『いいか、愁。〝完璧過ぎる〟というのは、時には人の恨みを買ってしまう。その完璧超人を、陥れようとする輩が、必ず現れる。それによってお前が貶められた時、お前は周りから〝出来損ない〟と言われるだろう』


 …こんな時に、()()()()の言葉かよ。


『だが。それしきのことで自分を責めるな。周りからの評価じゃない、お前(自分)お前(自分)を評価しろ。自分の価値は、周りが決められる物では無いんだ。だから、不佞と罵られようがどうだっていい。大切なのは__』


 __ああ。分かってるよ、親父。


 俺は、立ち上がる。


 右脚は穴が空いている、手許に武器も無ければ、スキルという武器も魔力の関係上、ゼロ。


 …詰み?いいや、そうじゃない。それは、俺の考えじゃない。


 そうだ。俺は、客観的に考え過ぎてたんだ。ちっとも、主観的に考えていなかった。いつも周りの目を気にして、自身の意見を主張出来なかった。


 …だったら、やってやるよ。


 無茶だなんて言わせない、どうせ死ぬなんて言わせない。


 前に親父が、俺に言った言葉を、紡ぐ。


 …大切なのは__


「【一秒停止(自分を見失わない事だ)】」

2話終了です。


神崎をとにかく自分に酔っているように書きました。徹底的に噛ませ犬に仕立て上げてる感じになってますが果たして…。


 次回は鎌触手と紅ゴリラとの戦闘からです。では。

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