14話 野蛮な鳶
…そして。
「──待たせた」
俺達は…そこへ合流していた。成宮を、引き連れて。
「──!成宮さん…!」
「まあ、なんだ、その…久し振りだな、先生…」
成宮と、一青先生の再会。
そういえば…一青先生は成宮と保科には特に手を焼いていたな。その分関わりが深かったから、成宮も一青先生に強く物を言えないのだろう…妙に後ろめたさというものを感じる。目を逸らし、小さな声で言ったのがその証拠だ。
「良かった…本当に…」
「は、恥ずいから止めろよ…ったく…」
…このような平和な会話が続けば、どれだけ良いだろうか。このような油断ならない場所でなければ、どれだけ安心出来ただろうか。
…だが、此処は違う。俺達が見た世界よりずっと危険で、ずっと油断ならない。
──だから、俺達は停滞しては居られない。鮪のように動き、進み続けなければ死ぬ…だから。
「──感傷に浸ってるところ悪いが…次は保科の所へ行く。成宮、お前は此処で英気を養っておけ」
俺達は全員でこの場所で燻っている訳にはいかない。
「わーったよ…」
成宮はすんなりとそれを受け入れた…今は、この雰囲気に浸っていたいというところだろうか。
…まあ、成宮は非戦闘員だ。運を使って戦う事が出来るといっても…それでも戦闘に関する幸運が続く事は無いだろう。必ずどこかで、不運が発生する…それを警戒するのもあるのだろう。
だからこそ…此処で休むのが最適解。それに、成宮は下手したら生存の最後の砦…余計な消耗をさせる訳にはいかない…成宮もそれを分かっている筈だ。
…そして、俺は更に話を進める。
「──保科の許には、俺と漣で向かう」
「え…?」
漣は呆けたような表情をした…まあ、普通ならここで四条と行かない理由は無いんだが…。
《…神楽坂君、そういう事?》
四条はどうやら分かったようだ。
《ああ…四条は休め。俺は〝漣の監視〟に着手する》
…四条から言われた、漣の様子について。四条は殺意を向けられていると証言していたから…四条と漣を一緒に居させるのはリスキー過ぎる。
かといって、このまま四条を俺と一緒に行動させれば四条はバテる。だから四条を此処に置いて、漣を連れて行く。
漣が俺に向ける感情は…少なくとも殺意では無いからな。俺と一緒の方が、害は出ない。
四条を休憩させると共に、漣の様子の変化を見る…それが、俺の考えだ。
それに…漣と行動をすれば、イレギュラーには対応しやすい。クラスの相性やステータスを加味すれば…扱いやすい。
「…ほら、どうした漣。行くぞ」
「え、ええ…」
一瞬困惑していた漣だったが…直ぐに立ち上がり、俺の後ろから付いてきた。
《保科君のいる場所は──》
俺は四条から保科の居場所を聴き…そして、俺は休む時間を作らずに、漣を連れて保科の許へと向かう。
【位置座標共有】により、保科が合流地点にかなり近い事は分かっている。遅くても、五分程あれば辿り着ける程度の距離。
今も保科はこちらに向かって進み続けている…問題は無いと、信じたい。
…でも、だからこそ。
(この場では…漣と共に行動をする必要がある)
…俺を中心として、強力な魔物が集まっているという仮説…この仮説を仮定した時…俺という存在が、足枷となってしまう。
俺が居る所に、災厄が集まってくる…もし、それが正しかったとしたら。合流地点に居る俺が、完全に邪魔だ。合流地点が一番危険などという、あってはならない事が起きてしまう。
…でもかと言って、俺だけが除け者にされるのは違う。少なくとも…俺を必要としてくれる生徒と教師がいるのだから。
…だから、漣を連れた。漣なら、俺がアシストをしてやれば死ぬ事は絶対に無い…そう、言い切れる。一応、そのくらいの信頼と自信がある。
…メインは監視だが…優秀な戦力として数えている。この極限で、仲間割れや疑心暗鬼を広めたくないのは確かなのだ。だからこそ…四条の漣に対する恐怖が、勘違いであって欲しいのだが…。
「…漣」
「…何?」
保科の居る方へと走っている中…俺は漣に声をかける。
「──お前から見て、保科はどんな奴だ?」
これは何の意図も無い質問だ。知りたい訳でも無い。
ただ…漣に対して探りを入れたいだけだ。
「…なんで急にそんな質問を…」
「単純にお前の見解が気になるだけだ」
「……」
…?なんか黙ってしまったぞ…?俺の意図が読まれているのだろうか…それともただ単純に俺に言いたくないだけなのだろうか。
「…まあ、言いたくないなら答えなくて良い」
そう後付をして、俺達は保科の居る方角へと向かう。
──走って、走って。
「…止まれ」
俺がそう、漣に指示する。
「…どうしたの?」
「敵だ」
…どうやら気配の察知は、現在では俺の方が上らしい。そう考えると…ステータスというのは案外お飾りなのか?俺と漣の知覚値では、漣の方が八倍以上ある…だが、それでも俺の方が敵を先に察知した。
…他のステータスも一部は、漣より優れている項目が無いにも拘らず実際には俺の方が優っている。本当不思議なステータスだ。
「ドルルルゥ…」
…現れたのは、二足歩行の巨大な亀。甲羅はニードルになっていて、触れれば痛そうだ。
カキィン!!
…思案している内に、漣が双剣を手にして、ソイツに斬り掛かっていた。だがその一撃は反応され、甲羅から飛ばされた一つの尖った岩に弾かれる。
「…硬い」
漣の速度を乗せた攻撃を弾く岩峰亀…どうやら、それなりに強い魔物のようだ。
…だが。
「【一秒停止】」
…俺は岩峰亀を対象として【一秒停止】を使用する。岩峰亀の色彩は貧しくなり、動きも封じられる。
──その隙に。
シュバババババババッ!!
漣が…斬る。
停止が解除された瞬間、岩峰亀は声を上げる暇すら無く絶命した。綺麗なまでに舞う血飛沫は地面に四散し、抽象的なアートを描く。
…やはり、クラスとスキルの関係上、俺と相性が良いのは漣だ。俺のクラスは物理現象や、一秒という概念を操るスキルを持ったクラス…それは全て、速度という物理現象、ひいては時間という概念をそれなりに扱う漣に近似している。
【一秒停止】【一秒鈍化】【拡縮する秒針】は対象の時間を捻じ曲げるスキル。当然漣の速度ならば、その効果は最大限に発揮される。【瞬間冷凍】【瞬間重力操作】は対象の物理現象に介入し、非現実的な現象を引き起こすスキル…エネルギーを操っているのだから、当然速度も操れる。やはり漣と相性の良いスキルだ。
…つまり、組み合わせ次第では戦闘において無類の強さを誇る。
漣静波 クラス【勇者・白銀】
レベル33→35
生命力3300→3500 攻撃3300→3500 防御3300→3500
魔攻3300→3500 魔防3300→3500 魔力量3300→3500
敏捷47520→50400 隠密3300→3500 知覚4950→5250
巧緻4950→5250 幸運3300→3500 使役3300→3500
(総合値87120→92400)
状態:敏捷値3倍、敏捷値補正+60%
所持スキル
【言語理解】【鑑定・白銀】【勇者の双剣・白銀】【白ノ剣】【止血促進・白銀】【全魔力適性】【土魔力超適性】【無尽蔵・白銀】【高速回復・白銀】【魔力覚醒・白銀】【衝撃耐性・白銀】【網斬波・白銀】【勇者ノ白雷】【双剣乱薙閃・白銀】【疾風迅雷・白銀】
…俺のレベルは上がらなかった。まあ経験値配分の差でもあるだろう。ダメージを与えたのは全部漣だからな。俺は【一秒停止】のアシストのみ…実質的な貢献度は、漣の方が圧倒的にあったと言うべきだ。
「…流石に相性最高だな、俺達は」
「…そ、そうね」
…恐らく俺が勘違いさせるような言葉を放った所為か…漣が戸惑っている。四条と違って、コイツには今までこんな事言ってこなかったからだろうな。
…実質的なタイムリミットがあるから、そんな馬鹿言ってないで進むが。
…大体三分程が経過した頃だろうか。保科の発信位置まで、あと少しといったところで。
「…敵だ」
俺は走る速度を落とし、それに釣られるように漣も速度を落とす。
…目の前に現れたのは…蒼ゴリラだ。
…まさか二体目とは。無視しても良いが…コイツの個体値であれば、倒しておいた方が良い。
「漣、止めだけくれてやる」
今の漣だと、恐らくだが攻撃力が足りない。それにコイツの速度は【一秒鈍化】を使ってもそれなりに厄介…攻撃が命中する回数が足りない可能性がある。
…まあ、漣ならなんやかんや倒せそうだが…それでも、単純にレベルを上げるだけなら撃破時の経験値を貰えば良い。
実戦経験は後から、余裕が出来てからだ。どちらにせよ、死の淵に立たされている今の状況では経験を積む余裕なんて無い。
「…ええ」
少し歯痒そうな間と言葉だったが、漣は了承した。
「…【刹那の帝】」
…使うのは初めてだが、四条のお陰で効果は分かりきっている。負担も大きそうだが…極限集中よりはマシっぽいな。
ドゴォッ!!
「ゴァ!?」
全力で地を蹴り、全力で拳を叩き込む。蒼ゴリラは後方にかなりのスピードで吹き飛んで…そして。
「【一秒停止】」
スキルで止めて…。
シュバババババッ!!
……漣が斬る。
【一秒停止】が相手に効くならば、このコンボは面白い程に決まる。動けない相手を、一方的に蹂躙するからだ。
神楽坂愁 クラス【一秒使い】
レベル120→121
生命力600→605 攻撃600→605 防御600→605
魔攻600→605 魔防600→605 魔力量600→605
敏捷600→605 隠密600→605 知覚600→605
巧緻600→605 幸運600→605 使役600→605
(総合値7200→7260)
所持スキル
【言語理解】【一秒停止】【瞬間状態回復】【拡縮する秒針】【瞬間千里眼】【瞬刻の回帰】【瞬間鑑定】【一秒鈍化】【一秒経過】【瞬間冷凍】【瞬間生成】【瞬間重力操作】【刹那の帝】
漣静波 クラス【勇者・白銀】
レベル35→36
生命力3500→3600 攻撃3500→3600 防御3500→3600
魔攻3500→3600 魔防3500→3600 魔力量3500→3600
敏捷50400→51840 隠密3500→3600 知覚5250→5400
巧緻5250→5400 幸運3500→3600 使役3500→3600
(総合値92400→95040)
状態:敏捷値3倍、敏捷値補正+60%
所持スキル
【言語理解】【鑑定・白銀】【勇者の双剣・白銀】【白ノ剣】【止血促進・白銀】【全魔力適性】【土魔力超適性】【無尽蔵・白銀】【高速回復・白銀】【魔力覚醒・白銀】【衝撃耐性・白銀】【網斬波・白銀】【勇者ノ白雷】【双剣乱薙閃・白銀】【疾風迅雷・白銀】
…【刹那の帝】…ステータスのオール5000化…総合値を60000にまで引き上げる、俺にとっては規格外のスキルであり、多くの救世主に優る事の出来るスキル。
…それを使っても分かったのだが…漣の方が、速い。
どこからどう見ても明確な差がある。感覚で言うと、漣の方が〝二割前後〟速い。逆にそれ以外は【刹那の帝】使用時の俺が〝数倍〟優っている…程度はともかく、ステータスはちゃんと反映されているのか。だったら一概にお飾りと言うのは違うらしいが…。
「本当に強いのね、神楽坂君」
「そりゃどうも」
スキルの効果が強いだけなのだが…それを俺の実力と言われるのはなんだかむず痒い。漣が同じスキルを有しているならば、俺より有効活用出来ていただろうに…俺みたいな、小賢しい奴じゃなければ、な。
《…神楽坂君、そろそろ》
《分かってる。保科は──》
…と、四条と念話をしている最中に。
「──【懶惰ノ槍】属性付与〝闇〟」
「ッ、【一秒停止】ッ!!」
スキル名らしきものが聞こえてきた瞬間、俺は即座にスキルで対抗した。使うスキルは言い慣れた【一秒停止】。世界が対象だ。
直ぐに後ろを振り返ると、恐ろしい程に禍々しいオーラの奔流が槍を模って俺に突き刺さろうとしていた。
俺とその槍の距離は約3m…刺されば一溜りもないだろうが、これならスキルで避け切れる。
──そう、思っていたが。
パキィイイイイン!!
「──!?」
発動から一秒まで、まだ半分程しか経っていなかったのにも拘らず、【一秒停止】が解除された。その槍は俺へと向かって再加速する。
(──避け切れない…!)
…グサアッ!!
「ぐぁっ…!?」
それは、俺の右手に突き刺さった。血が途轍もない量飛び散り、辺りに落ちる。
胴体に刺されると致命傷になる…だから咄嗟に手を前に突き出し、その槍を受け止めた。しかし、そこまでだった。それ以上の良い策は思いつかなかった。
「…!大丈夫…!?」
漣が駆け寄ってくる。漣は距離が遠すぎたのか、止めようとしたようだが間に合わなかったようだ。
「安心しろ、無事だ…【瞬間状態回復】」
俺はスキルを発動し、止血程度の治療を施す。
…今のがスキルだとすると…恐らく。
「──ククク、ざまあねえな神楽坂。テメェの生意気な面を剥がしてやったぜ?」
…クラス【魔法槍術師】、保科鳶夜。黒髪で黒眼、右手には長槍を持っている。傲岸不遜且つ傲慢不遜。救世主の中でもトップクラスの傲慢さを有している生徒だ。
…【懶惰ノ槍】…恐らくレベルアップで追加されたスキルだ。スキル名や実際の効果から察するに…救世主のスキルや魔物の固有能力に不具合を起こすスキルか?
…だとしたら、スキル依存の俺にとってはかなりキツい。俺のステータスは低いからな…どうしてもスキル頼りになってしまう。
「…貴方」
漣が鋭い目つきで保科を睨め上げる。
…イディに、殺されるべくして此処に連れてこられた以上、一応俺等は〝仲間〟と言う分類になる。だがその意識が保科には無い…更に俺を殺しに来ている…か。漣が怒るのは意外だが、普通ならキレる奴が居てもおかしくないか。
「なんだよ漣、俺がコイツをどうしようとお前にはなんの関係も無いだろ?放っておいてくれよ」
だが保科は漣を見下してくる。相手が強者であろうと突っかかってくる、戦闘狂…成宮とは違う。何故高校では成宮と行動を共にしていたのか、腑に落ちない。
「邪魔するってんなら──お前も巻き添えだぜ?【槍帝魔──」
「──【一秒停止】」
…保科が発したスキル名を確認し、【一秒停止】を発動。俺の予想が正しければ、【懶惰ノ槍】が救世主の天敵スキル…それ以外は、問題無い筈。
「──導穿】」
だが…止まらなかった。今回は保科を対象とした停止だったが…まるで意味を為していなかった。ただ俺の空虚な宣言が響いただけ。
ズドォオオオオオン!!
馬鹿げた速度と威力で飛んでくる槍は、まるで一条の光線。極太レーザーの如きソレは…少なくとも俺は、避けられそうにない。
「ッ!?」
漣は反応して避けたが…俺はどうだろう。普通ならどうやっても避けられない、今回に至っては受け止められそうにもない。
…だったら、スキルを貫通されない事に賭けて、一か八か。出来るだけの早口で、紡ぐ。
「──【瞬刻の回帰】ッ!」
…グチャアッ!!
「ハハハッ!!クソ弱え──あ゛?」
「──がはっ…!?」
俺は【瞬刻の回帰】を発動出来ていた。肉塊になったが、回帰出来ていた。
…だが、発動が遅かったか。
俺は発動前にバックステップをして、回帰時に出来るだけ傷を少なくしたつもりだ。だが右腕が僅かに前に出て…回帰する刹那、右腕と槍が触れた。
…右腕は千切れこそしなかったものの、不格好に穴が空いた。それだけの威力…途轍も無い。
…だが、【瞬刻の回帰】は発動していた…という事はつまり、【槍帝魔導穿】とやらにはスキル貫通系統の能力が無い…だったら、スキルの宣言を止められなかったのは…。
「ッチ、変わったスキルを持ってやがるな…だが、抉ったぜ?今度こそは──ッ!!」
カキィン!!
「……殺す」
最早俺の知っている漣ではない。殺意に塗れた漣は、保科に向けて双剣を振るっていた。それを保科は長槍で冷静に対処する。
カキィン!!カキィン!!
「ウゼエな…だがっ!!」
「!?」
…その瞬間…漣の双剣が消失した。鍔競り合いをしていた漣が武器を失った事により、優勢は保科に向く。
態勢を崩した漣に、蹴りを放つ。
「くっ…」
しかし漣は超反応を駆使し、紙一重で回避する。
…保科の【魔法槍術士】…ステータス値ではそこまで高くない。あくまで攻撃系統と魔力系統のステータスが高いだけ…それだけじゃあスピードに特化した漣を出し抜ける訳が無い。
…要因があるとするならば…。
「ぐっ…【瞬間鑑定】」
俺は痛む右腕を押さえながら、保科に向けて【瞬間鑑定】を発動する。
《保科鳶夜…レベル59。クラス【魔法槍術士】》
《保科鳶夜の敏捷値…2360》
《【懶惰ノ槍】…スキルや能力の機能を低下させ、綻びを生まれさせる槍を生成する。》
…レベルは高いが、それに対し敏捷値はそこまで高くない…それでも敏捷値が10倍以上離れている漣と渡り合っているならば…隠しステータス乃至スキルバフが関わっているのだろうか。
「…だったら…」
ダンッ!!
俺は地を蹴り、保科へと肉薄を試みる。
「──お前から寄ってくるとは好都合だ!【真紅ノ槍】!」
その宣言後、保科の持つ槍が炎に包まれ、保科はそれを薙ぐ。
(…普通にやったら避けられないが…)
俺は…普通にやる気は無い。
俺はスキルを発動する。今まで使った事の無い、スキルを。
「──【一秒経過】」
「ッな…!?」
そのスキルを発動した瞬間、俺は保科の懐へと瞬間移動していた。
…今まで碌な使い道が無いと思っていたスキルだが…〝移動後の座標〟へと経過させる事で世界に対する【一秒停止】のように生命体とかへの物理干渉を受けないと睨んだが…大正解だ。
…それに、コイツの【懶惰ノ槍】…やはり、常時発動している。だがその効果は〝【懶惰ノ槍】に干渉した場合にスキルをバグらせる〟といった感じか。
…そう、アイツが持っているあの長槍こそが…【懶惰ノ槍】なのだ。恐らく複数の効果があるスキル…【瞬間鑑定】ではそこまで見られなかったようだが。
…だったら、此処で。
「【刹那の帝】…!」
ステータスを底上げして、保科を止める…!
「チィッ…!」
俺の拳と保科の槍が交錯して。
………静寂の果てに。
「…が…ぁ…!」
俺の拳の方が…保科に入っていた。鈍い打撃音が、遅れてやってくる。
「ぐがっ…お前ェ…!巫山戯んじゃねえ…」
「…巫山戯てるのはどっちだ…お前、今の状況で戦力になり得る奴を殺そうとするとか正気か?」
手前味噌で申し訳無いが、俺は貴重な戦力になる。態々こんな場所でリスクを冒してまで殺す理由が無い。この野蛮人でも、そこのところは弁えてると思ったが…。
「しょうがねえだろ、が…!少しでも強くなって、舞い上がっちまったんだからよ…!」
…そういえば、コイツは強さに以上に執着していた。勉学や運動は二の次、ただただ喧嘩の強さだけを追求して…それで以前に俺に喧嘩を吹っ掛けてきた。無論返り討ちにしたのだが。
「悔しいが現実世界じゃお前に勝てなかった…だが、この世界でっ…人外の力を、それもお前より遥かに凄い力を手に入れて…お前を殺すって…決めてたのによ…勝てねえのかよっ…」
「…対峙した場面が悪かった。レベル差があるからな…残念だが、あの場面で扱えるスキルの手札はこっちの方が多かった」
「お前はいつもいつもウゼエなぁ、っ…ッチ…やめだ、やめ」
突然、保科はそんな事を言い出した。
「…何をやめにするんだ?」
「出し惜しみ…と言いたいが、生憎【懶惰ノ槍】以外に有効打が無いんでなぁ…敵対はやめにする…一時停戦だ」
…その言葉にほっとした俺は、保科から離れる。
「だが気を付けておけ…殺せそうなタイミングがあれば直ぐに殺しに掛かってやる」
「ああ、それで良い…【瞬間状態回復】、【瞬間状態回復】」
俺と保科に一回ずつ回復スキルを掛ける。
「本当便利だなお前のスキル。器用貧乏か?」
「悪いが全面的に突出してる」
「矛盾が過ぎるだろ、それ」
…とにもかくにも、保科を絆す事が出来た。
「……保科君…貴方、神楽坂君を傷付けておいてそんな虫の良い事が許されると…」
だが、漣はその事を良く思っていないようだった。保科は漣を軽く横目で見ると。
「なんだ?悪いか?だがソレを決めるのはお前じゃないんだよ漣…神楽坂が決める事だ」
そう返す。それに対し漣は、ただ威嚇する猫のように睨むだけだった。ぐうの音も出なさそうだな。
「…漣、もう良い…それに、今俺達が敵対すべきじゃ無いのは分かるだろ。俺達の目的は〝全員生きて帰る事〟だ」
「ハッ、甘ちゃんだな。大方、教師馬鹿の一青か、嫌われ者の四条が言ってそうだな」
「…後者が正解だ。だが、俺は出来ないとは思ってない。四条がクラスを纏める鍵…だからこそ、四条を生かしていればクラスメイトが死ぬ可能性は無い」
【生命共有】や【分散共有】があれば、パスを繋いでいる者の生命力値は尽きないと考えて良い。四条の性格的に生命力値を強奪するなんて事は無い…管理権限を四条が持ち続ける限り、俺達に〝死〟という概念は存在しない。
…まあ、それも四条と合流しなければ発動出来ないのだが。
「つくづくイライラするコンビだなお前等…まあだが…そのクソみたいな提案には乗ってやるよ」
「ああ、ありがとな、保科」
「ハッ、感謝するな気持ち悪い」
…こうして、保科を仲間に加え、俺達は──
「シャアアアアアアアアア!!」
「「「!?!?」」」
四条達が待つ許へと戻ろうとした時…なんの予感もせず…咆哮が谺した。
俺達全員が、周囲を警戒する。
随分近くで響いた…だが肝心の姿が見当たらない。
…咆哮は地鳴りがする程に反響した…と、いう事は…疑うべきは頭上、もしくは…。
「──下だッ!!」
保科がそう叫ぶと同時に、俺達は一斉に跳躍する。その瞬間。
ドカァアアアアアン!!
地面から…怪物が現れた。
…相当デカい蚯蚓…巨大ワームか。臙脂色の見た目が特徴的だ。
その臙脂蚯蚓は巨大な口を開き、俺達を喰おうとしていた。
「ッ、【瞬間重力操作】〝重力加速度20倍〟!」
俺は臙脂蚯蚓を対象として、重力加速度を書き換える。臙脂蚯蚓は改変された重力法則に則って落ちていき、這い出てきた穴に大胆に落下していく。
ドゴォオオオオン!!
辺りを大きく震撼させる地鳴りが発生した。そして、俺達は地面に足を付ける。
「どんな横暴なスキルだよお前…だが、これだけであの化物が倒されたとは思えないが…」
「そうね…あの魔物、大きいだけじゃないわよ」
「…だったら、次臙脂蚯蚓が出てくる時、俺に合わせてくれ、漣、保科。俺が動きを止めるから、高火力で一気に片を付けろ」
「臙脂蚯蚓って…即興で考えたにしちゃ中々ネーミングセンスあるじゃねえか…良いぜ、乗ってやるよ」
「…ええ、分かったわ」
…神経を研ぎ澄ませ、臙脂蚯蚓が出てくる時を待つ。地面に伝わる振動、蠢く殺意…それらを感じ取り、予測する。
…そこで、ソレを感じ取った俺は叫ぶ。
「──今だ!跳べ!」
俺達は再び跳躍し…そして。
ドカァアアアアアン!!
地面から出てきたところで…叫ぶ。
「【拡縮する秒針】〝30倍拡大〟、【一秒停止】!」
…臙脂蚯蚓を止める。続くように…漣と保科は矢継早に言葉を紡ぐ。
「【勇者の双剣・白銀】、【魔力覚醒・白銀】、【双剣乱薙閃・白銀】【網斬波・白銀】…!」
漣は剣を出し、バフを付与し、そして圧倒的な速度で臙脂蚯蚓を斬りまくる。
「【懶惰ノ槍】起動効果〝耐性懶惰〟、【乱打ノ槍】複製対象【懶惰ノ槍】、【槍帝魔導穿】」
保科は…懶惰やら乱打やら言ってて分かりづらいが、【懶惰ノ槍】を複製してそれら全てを【槍帝魔導穿】へと落とし込んで発射する。
ドドドドドドドド!!ドカァアアアアアン!!
一斉射撃は可哀想な程に臙脂蚯蚓に30秒間降り注ぎ…そして解除されると同時。臙脂蚯蚓は弾け飛び、明らかにオーバーキルだと悟った。
神楽坂愁 クラス【一秒使い】
レベル121→122
生命力605→610 攻撃605→610 防御605→610
魔攻605→610 魔防605→610 魔力量605→610
敏捷605→610 隠密605→610 知覚605→610
巧緻605→610 幸運605→610 使役605→610
(総合値7260→7320)
所持スキル
【言語理解】【一秒停止】【瞬間状態回復】【拡縮する秒針】【瞬間千里眼】【瞬刻の回帰】【瞬間鑑定】【一秒鈍化】【一秒経過】【瞬間冷凍】【瞬間生成】【瞬間重力操作】【刹那の帝】
漣静波 クラス【勇者・白銀】
レベル36→39
生命力3600→3900 攻撃3600→3900 防御3600→3900
魔攻3600→3900 魔防3600→3900 魔力量3600→3900
敏捷103680→112320 隠密3600→3900 知覚5400→5850
巧緻5400→5850 幸運3600→3900 使役3600→3900
(総合値146880→159120)
状態:敏捷値6倍、敏捷値補正+60%
所持スキル
【言語理解】【鑑定・白銀】【勇者の双剣・白銀】【白ノ剣】【止血促進・白銀】【全魔力適性】【土魔力超適性】【無尽蔵・白銀】【高速回復・白銀】【魔力覚醒・白銀】【衝撃耐性・白銀】【網斬波・白銀】【勇者ノ白雷】【双剣乱薙閃・白銀】【疾風迅雷・白銀】
保科鳶夜 クラス【魔法槍術士】
レベル59→61
生命力2360→2440 攻撃4720→4880 防御2360→2440
魔攻4720→4880 魔防4720→4880 魔力量4720→4880
敏捷2360→2440 隠密2360→2440 知覚4720→4880
巧緻4720→4880 幸運2360→2440 使役2360→2440
(総合値42480→43920)
所持スキル
【言語理解】【冶槍】【乱打ノ槍】【渾身の一刺し】【魔法天性】【全魔力適性】【真紅ノ槍】【蒼碧ノ槍】【深翠ノ槍】【懶惰ノ槍】【槍帝魔導穿】【全魔力耐性】
…俺の負傷していた腕は、完璧に元に戻っていた。未だにレベルアップの完全回復には目を瞠るものがある。
…それぞれレベルは上がった。保科のレベルは俺の半分だが、ステータスは表記上、低いもので4倍、高いもので8倍の差が出ている。総合値の差は6倍…まあ、そりゃあ先の闘いで劣勢だった訳だ。
…そして漣だが…【魔力覚醒・白銀】の効果で敏捷値が5倍になっていた。双剣で既に敏捷値が3倍になっていたから、敏捷値倍率は加算で6倍…敏捷値補正倍率が安定の60%プラスで100000を超えている。スピードだけだと到底勝てそうにないな…。
「…ハッ、意外に強えじゃねえか神楽坂、漣」
「そりゃどうも」
「……」
俺は軽く返す。漣に至っては無反応だった。
「…取り敢えず障害は潰した…それじゃあ、戻るとするか」
「ええ、そうね」
「ククク、了解だ」
…そして、俺達は保科という人間を引き連れて、今度こそ四条達の許へと戻っていく。
補正値に関する裏話をします。
補正値の反映ステータスは、基礎ステータス×補正値、それを現在ステータスにプラスするという設定で行こうとしました。
例を挙げるとするならば…基礎敏捷値が1000、強化状態は敏捷値3倍、敏捷値補正値20%だとします。そうなると敏捷値は1000の3倍の3000に、基礎値×補正値=1000×0.2=200をプラスし、合計3200となるようにしたかったのです。
ですが、本人の下らない勘違いによって補正値が第二の倍率強化として誕生してしまいました。1000×3×1.2=3600のようになってしまい、凄く面倒な事になってしまったのです。
恥ずかしい事に、気付いたのは最近です。なんかおかしいな〜と思っていたら、補正値を現在値に掛けてました。
だから補正値には新しい設定を設ける事で、通常の倍率強化と同一化を防いでいます。それでも致命的なミスには変わりありませんが。
因みに修整しようとは思いません。混乱させてしまいますので、このままで行きます。
以上、勘違いから生まれた補正値さんでした。




