13話 募る疑問
…暫くして、俺達は魔物から身を潜める場所を見つけ、そこで動く事なく他の救世主が合流する事を願って、待っていた。
「「「「………」」」」
俺達四人の間に、会話は無い…喋って無駄な体力を消費しない為だ。全員等しくデッドラインが近い…この状況では、これが最適解だ。
《…四条》
《…何?神楽坂君》
だから基本的な会話は四条のスキル【指定思考共有】でしている。【指定思考共有】は想像して指定した対象とパスを繋ぎ、思考リンクによる念話を可能とするスキル…パスを繋いでいなければ脳内会話を聞かれない為、聞かれたくない会話を周囲に漏らす事は絶対に無い。
スキルの発動には魔力を消費するが、どうやら体力等は消耗しないらしい。だからこうやって脳内会話をしていた方が楽だ。
《今【位置座標共有】で共有している救世主の位置座標──俺達と一番近いのは、誰だ?》
…四条は、それらしいスキルが無いのにも拘わらず、救世主の負傷の有無が分かったり、位置座標だけで誰かが分かったりする。
曰く、【位置座標共有】と【鑑定】を組み合わせる事で、救世主の状況を全体的に見られるとの事だ。
魔力の消費は半端無いらしいが…消費が多いのは発動時のみなので、発動し続けていれば然程問題にならないらしい。
…話を戻すか。
四条がそれぞれ救世主の現在地が分かるからこそ、俺は訊ねた。最初に俺達の許へ来る救世主は、誰なのか、という事を。
…これは、実は意外と大事な事なのだ。3-Fの大半の生徒は性格がお世辞にも良いとは言えない…だからこそ、合流の順番、組み合わせ。これが上手く噛み合わないと、無駄な軋轢を生み、体力消費も増える。
…もしそうなった場合でも、予め知っておけばいくらでも融通が利く。上手いこと立ち回って、破滅を免れる方法はいくらでもあるからな。
《えっとね…一番近いのは成宮ちゃんだけど…一番最初に合流しそうなのは、保科君かな》
…どうやら俺の意図が分かってたらしいな…流石は俺と一番関わってきただけはある。
《成宮と保科か…組み合わせ的には…少しマズいか》
《うん…この二人、ちょっと私的には怖いかも》
…成宮遥と保科鳶夜。3-Fでは話した事は何度かある…悪い意味でな。
Fクラス内でも差別や優劣は存在する。カースト底辺の奴は自分より下の奴を見て安心するように、落ちこぼれのFクラスの中で、更なる落ちこぼれを淘汰していくという摂理が、京極高校には存在した。
…そのターゲットとなったのが…四条、ついでに俺だ。
あの二人は俺達より後にFクラスに入ってきた…2年の7月頃だっただろうか。どちらも校則を破ってFクラスに送られたらしい。
…どんな事があったのかは、知らないが…それが余程気に入らなかったのだろう。Fクラスに入ってきて初日は荒れに荒れていた。
…だからこそ、貧民街出身と悪い意味で有名な四条をターゲットにした。
…勿論俺が間に割って入って、それは有耶無耶になったが…二人は偶に悪態をついていたな。
だから、四条はこの状況で仲間割れをしてしまう可能性があると思っている。個人の感情的な〝怖い〟ではなく…全員生還の妨げになる可能性がある事に〝怖い〟と思っているのだ。
《…一応訊くが、四条は全員を助ける方針なんだよな?》
《当然だよ…たとえそれが、間違いだったとしても》
…本当…どんな絵を描いたらこんな奴が生まれるんだ。特定の奴しか助けない俺にとっては、理解の及ばない境地のようなものだ。
《…そうか。なら──任せとけ》
《うん。頼んだよ》
…一応、他人を動かすのは得意だと思っている。成宮だって保科だって…四月一日や神崎だって、動かせる自信はある。
成宮や保科は俺達への嫌悪を利用すれば良い。四月一日や神崎は我が強過ぎて難しいだろうが…それでも単調だからな。冷静さを失わせればなんとか行ける。
…この状況から脱する方法を探す為にも、協力してもらわなければならないからな。俺が橋渡しの役割をするしかない…絶賛対立の渦中に居る俺が、だが。
…そして、会話が途切れた瞬間。
ドゴォオオオン!!
「「「「…!」」」」
…爆発音。それも途轍も無いものだった。
──近い…という事はつまり。
《…多分、成宮ちゃんの所だね》
四条はこの場の全員にパスを繋ぐ。
…一応こういう情報は共有しておかないと、変に思われる…特に四条を敵対視している可能性がある漣には、そういう違和感を残したくはないだろう。
《…成宮さんは大丈夫なの?誰か様子を見に行った方が良いんじゃない?》
一青先生がそう言う。
…ご尤もな意見だ。一青先生も四条と同じ、救世主を全員助けたいと思っている人だ。四条と違う点は、救う範囲の広さか。四条は見ず知らずの人でも助けそうだが…一青先生は生徒のみに対象を絞って助けるタイプだな。なら、本質的には俺に似ているのかもしれない。
《でも、誰が行くんですか?》
漣が訊ねる。確かに、ここで誰が様子見に行くのか…それは大事かもな。
…成宮の許へ行くなら、関係性がそこまで悪く無い奴が良いのだが…駄目だな…多分全員同じくらいだ。
俺と四条は先程言った通りターゲットにされていた。漣は基本的に無口で気味悪がられていたし…一青先生なら多少はマシだろうが、この極限状態では然程意味を為さない。
………。
誰も名乗りを上げない。一青先生は行きたそうだが…様子を見るだけならまだしもスキルが満足に使えない状況なので、万一強力な魔物が相手になるかもしれないと考えると躊躇するのだろう。
…漣は端から行く気が無いようだ。もう少し積極的な態度を見せて欲しいものだが…言い争っている暇は無い。
…ここは。
《──俺が行く》
そう、答えるしかないのだ。
《…大丈夫よね?》
《当たり前だろ…今のところ誰よりも勝ってるからな》
俺はこの短い時間で、魔物との戦闘をこの場の誰よりも繰り広げてきた。実戦とステータスの経験値は、誰よりも高い。
スキルの使い方を模索し、実際に勝利を積み重ねてきた…だからこそ、言える。
…〝もしもの為の戦力〟…この項目において、現状俺はこの四人の中で一番と言える。
《…そう。なら行ってきて》
《ああ》
…と、俺が行こうとした時。
《──待って!私も連れて行って!》
…四条が、そう言った。
《…四条?》
…一体、何を考えているのだろう…と。一瞬そんな疑問が浮かんだ。
…だが、その目は訴えていた。
…ああ、成程な。漣が怖いから、一緒に行きたい、と。そういう事なのだろう。なんというか、可愛いものだ。
《…駄目、かな?》
…まあ四条なら有用なスキルを持っているし…【生命共有】や【魔力共有】は消費が殆ど無い俺とも相性は良いだろう。
…それに、俺としては四条からの無謀でも無い頼みを断る理由が無い。今までコイツが頼み事をしてこなかった分も、出来るだけ聞いてやりたい。
《──分かった。じゃあ行くぞ、四条》
[視点変更:一青舞菜]
…神楽坂君と四条さんが、成宮さんの許へと行った。
…行った…のは、良いのだけれど。
「…………」
ずっと、漣さんの様子がおかしい。四条さんを神楽坂君が助けてから、ずっと。
…分かっている。漣さんが神楽坂君を好きって事くらい、視たから分かっている…だけど。
これは…明らかに、歪んでいる。
神楽坂君と仲が良い四条さんに…途轍も無い殺意を向けているのだ。生徒の様子をしっかり見ていた私だからこそ、それを感じた。底が見えない、暗い暗い闇…完全遮光した空間に漂っているような、殺意。
…少しでも目を離したら、その隙を狙って四条さんを殺してしまいそうなくらい。それでも表面では普通に振る舞っている事が怖い。
──だから、正直ホッとした。神楽坂君が四条さんを連れて行ってくれた事が。
神楽坂君が四条さんから目を離さなければ、四条さんは殺されないと思う。漣さんも、神楽坂君の前で四条さんを殺すなんて事をすると…どうなるか分かっているから。
……多分、神楽坂君と四条さんは勘違いしている。私は確かに、生徒達を信じている…だけど、盲目的に信じているからこそ分かるものがある。
──〝その中で、誰を一番信じるべきなのか〟。
そんな疑問が投げかけられると、答えは分からない…だけど、確実に。漣さんを第一に信じる訳にはいかないのだ…それだけは、分かっている。
…だから今は。神楽坂君と四条さんを、信じる事にしよう。
…本人にも、絶対に言えないけどね。
[視点変更:神楽坂愁]
現在、俺達は成宮の位置座標を頼りに、成宮の許へと走っている。
「そう言えば四条、もう走れるのか?」
「うん、平気。しっかり休んだから」
現在念話はしていない。その理由は…念話をした理由のメインが〝会話の秘密を守る為〟だったからだ。
そう、消耗を抑えるのはついでだ。そもそも本当に抑えられているのかなんて確認のしようもない、ただの詭弁だ。
それに、この程度で生存時間は変わりはしない…当たり前だ。少し喋った程度で生死を分つなんて事は有り得ないからな。
「でも折角ならまた背負って欲しいかな?」
「暢気過ぎるだろ…成宮が危険な可能性があるってのに…」
コイツ、善人的思考の割にはそこまで焦ってないんだよな…こんな状況でも俺を揶揄ってる余裕があるくらいだから。
…まあ、コイツらしいと言えばらしいか。マイペースなのは元からだしな。
「よっ、と!」
「おい馬鹿、乗るな!」
四条は背後から俺の背中に飛び乗ってきた。
…そういえばコイツ、走るの得意じゃなかったな。俺に背負ってもらって楽をしようという魂胆だろう。
…一応俺の負担が増えて、俺の死へのカウントダウンが近付く事を分かって欲しいのだが…。
「良いじゃん良いじゃん…そんな事より神楽坂君、新しいスキルの詳細知ってるの?」
四条はそんな疑問を口にする。
…〝そんな事〟と言ったのに対して言いたい事はあるが、今は無視しておこう。
「…【瞬間重力操作】と【刹那の帝】か…?いや、知らないが…多分問題無いだろ」
【瞬間重力操作】に関してはスキル名から予測出来るし、【刹那の帝】を使わなくとも他のスキルを使えば良い。
…そう、考えていたのだが。
「もう、駄目だよ?ちゃんと自分の事知らないと、いざと言う時に失敗しちゃうよ?」
…四条に説教されてしまった。心配してくれているから悪い気はしないが…。
「…分かった分かった、今確認する…【瞬間鑑定】」
四条に言われては仕方無い。俺は【瞬間鑑定】でスキルの効果を確認しようとする…が。
《次の生命力回復まで、残り00:00:26》
《神楽坂愁…レベル116、クラス【一秒使い】。卓越した才能と多種多様なスキルを駆使し、エストで足掻き続ける。》
《神楽坂愁の基礎能力値倍率…1.97》
「…いや、なんか気になる事はあるが…」
全然目当ての情報が得られなかった。
〝基礎能力値倍率〟なるものがあるのは分かったが…それがどんなものか分からない以上、〝そういうものがあるのか〟程度に収まってしまう。
…ただ、少し大事そうな情報だ。もしかすると、俺の能力値に関する情報が分かるかもしれない。
…でも、今は別にその情報は要らないんだよな…。
「悪い、四条…【鑑定】してくれ…」
「あ〜…無理だった?」
「魔力を無駄に消費したくない…普通に【鑑定】してもらった方が早い」
…結局は普通の【鑑定】でスキルの詳細を見てもらった方が早い。俺の【瞬間鑑定】は制約的に、非戦闘時では使い物にならないかもな。
「了解…【鑑定】、っと…どれどれ…」
四条が【鑑定】を発動して…そして、数秒後。
「…おぉ…良いスキルじゃん」
四条はそんな感想を漏らした。
「…そんなにか?」
「うん。【瞬間重力操作】は文字の通り、一秒間万有引力のベクトルを変えるスキル…なんだけど。重力の倍率の設定は魔力の消費量によるけど自由。力の方向を変えるだけなら消費魔力は1だし…相当強いでしょ?」
「…それは、まあ…」
突然重力方向や重力加速度を変えれば、相手の対応も困難。錯乱して勝手に自滅する事も有り得る。扱うとなると難しいが…俺なら使えるだろう。
「…なら、【刹那の帝】は?」
…【瞬間重力操作】だけでも中々なぶっ壊れスキルだが…だったら【瞬間重力操作】と同タイミングで手に入れた【刹那の帝】はどうなるのか。
「…【刹那の帝】は…どうやら一秒間、自信の能力値を最大レベル時の能力値にするらしいね」
「……え?」
俺はその言葉に困惑した。その理由は二つだ。
一つ目はレベルの最大値が存在した事。二つ目は最大レベルのステータスをこの状態で持てる事だ。
「最大レベルは1000らしいね…ってことは、レベル1000のステータスを一秒だけ使える、って事かな?」
「…成程…」
…レベル1000が、最大。まだまだ、到底届かない筈のステータス…それを、制約があれど体験出来るという事か。
レベル1000なら、恐らく俺の各能力値は5000、総合能力値は60000。現状の約九倍の強化を得る、という事だ。
…ただ、このスキル。レベルが1000に近くなればなる程、使用価値が下がりそうなスキルだ。
このスキルは自身のステータスをレベル1000の数値にしているだけ。ならばレベル1000の状態で【刹那の帝】を発動しても、ただ魔力を消費しただけになる。だからレベルが上がれば、使う頻度は減るだろう。
…それでも、今この状況では充分過ぎる程に強力なスキルだ。
「…だがこのスキル、反動凄そうなんだが…」
このスキルは、自分の現在の限界を突破し、未来の限界を引き出すスキル…そんなもの発動したら、身体がぶっ壊れそうなものだが…。
「だから一秒だけなんじゃない?一秒だけなら壊れない、って事でしょ」
「…そういう事なのか」
ただ、それを【拡縮する秒針】で時間拡大した場合はどうなるのだろう。本来一秒だけ解放するステータスを…秒数を書き換えて、持続させたら。
…身体は、壊れてしまうのだろうか?それとも案外平気なのか?
…試しは、しないでおこう。試した結果、死んだとかになったら洒落にならないからな。
「──そうこう話してる内に、そろそろ成宮ちゃんの所に着きそうだね」
【位置座標共有】のスキルで、俺達の脳内に位置座標は浮かんでいる。四条は【位置座標共有】と俺達救世主全員のパスを繋いでスキルを常時使用しているからな…四条の精神力には恐れ入った。
「…聞こえるな」
小規模の爆発音が聞こえる。つまり──戦闘中。
「急ぐぞ」
「うん!頑張って走って!」
「コイツ…!人任せしやがって…!」
…そして、俺達はそこに着いていた。
ドカァン!ドゴォン!ドドドドドドッ!
…そんな爆発音が無数に聞こえていた。あちこちからは焼け焦げた臭いが鼻腔を擽り、強烈な爆風が耳朶を打つ。
…そんな中で、ソイツは立っていた。
「──ふぅ…全く鬱陶しい。ただでさえアタシのクラスは戦闘向きじゃねえってのに…また運が良かったな…」
赤髪赤目の、男勝りな口調が特徴の生徒…それが、成宮遥。覚醒付与によって与えられたクラスは【運否天賦】…まあ要は〝運任せ〟のクラスだ。
運に全てが懸かっている、乾坤一擲のクラス…おそらく成宮のステータスを見ると、幸運値だけ突出しているのだろう。
「──あ?」
どうやら俺達に気が付いたようだ。
「久し振りだな、成宮」
「神楽坂に…四条?テメェ等、生きてやがったのか…って…」
成宮は俺達の方を見て…数秒後。
「か、神楽坂テメェ…なんで四条を背負ってんだ…?」
「…?ああ、そういえば…」
すっかり降ろすのを忘れていたな…コイツ結構軽いから、ステータスが上昇していると殆ど重さを感じないんだよな…。
「…ほら、降りろ四条」
「降りなきゃ駄目かな?」
「駄目って訳じゃ無いが…」
「なら落ち着くし、もう少しこのままで!」
「はぁ…そうか」
…こんな普通の会話をしていたが…それを凄く焦った様子で見ている女が一人。
「──おい待て待て待て!」
「「ん?」」
成宮が突然大声を出した。何やらほんの少し顔を赤らめている。
「テメェ等距離近過ぎねえか…?いや、此処に飛ばされる前から仲が良いのは知ってたが…普通そんなんならねえだろ…」
「…〝そんなん〟って…どんなのだ?」
「──いや、だから、その…」
…別に特段おかしな事は無いと思うのだが…成宮の目から見れば、これはおかしいと言うらしい。
「ふ…普通付き合ってもない奴同士でそんな事するか…?」
…ああ、成程。まあ確かに、傍から見れば〝付き合ってるのか?〟ってくらい距離は近いと俺でも感じるが…。
それでも、そういう関係では無いしな。俺達の間に、そういう関係は微塵も無い…とは言い切れないが、ほぼ無いに等しい。
「「……」」
俺と四条は互いに顔を見つめ合って…そして暫くした後。
「あはは…!成宮ちゃんって、意外と普通の女の子なんだね」
「──っな…!?な、何言ってんだ!?」
「…まあ止めとけ四条。初心な成宮にはこれが恋人同士の関係に見えるんだよ」
「ッ、テメェ等アタシの事舐めてんだろ!?そうなんだろ!?」
…てっきり成宮は、俺達を嫌っているのかとばかり思っていたのだが…どうやら俺達の方に語弊…というか、見落としがあったらしい。
成宮自身は、そう悪い奴じゃない。その場の感情に流されやすい奴ではあるが…ただ、それだけだ。それ以外は、きっと根は悪くない…多分、俺達をターゲットにし続けたのにも、俺達の予想以外の理由があるのだろう。
「──まあ、取り敢えず無事で良かったよ成宮」
「ッ…神楽坂テメェ、高校での事があったのになんでそんな事が言えんだ…」
…やっぱり、成宮は罪悪感を感じているようだ。俺達を狙った事に。
確かに、褒められた行為じゃなかった…だけど、俺達は。
「今重要なのはこの状況だろ。一々そんな事を根に持ってたら今頃死んでる」
「うんうん。そもそも私、大して害を受けてないしね。神楽坂君が私を護ってくれたってのもあるけど…神楽坂君も殆ど何もされてないし…ね?神楽坂君」
「そうだな…」
成宮達はあくまで俺達を〝ターゲットにしていた〟だけ。殆ど、虐めを実行に移してはいない。だったらそれに対してウジウジと言うのはお門違いだろう。
俺達はそれを気にしていない…だが、それを成宮達がどう思うのかは成宮達自身だ。
四条が危惧していたのは〝成宮と保科がこの絶望的な状況で俺達を排除しようとする動きを見せる〟事だ。コイツ等がこの行動を取れば、クラス全体が危険に晒される…それだけは避けたかったのだろう。
…だが成宮はそうでは無い。話も通じる。だったら…協力的関係を、築けるのだ。
「な、なんなんだよ…意味分かんねえ…」
「まあ、今は此処から脱出するのが最優先なんだ。成宮、力を貸してくれないか?」
俺は成宮に手を差し出す。
成宮が仲間に加われば…生還率は確実に上がる。【運否天賦】のクラスを持つ成宮ならば、運次第では今直ぐにでもエストから脱出出来る程の可能性を秘めている。
「て、テメェ正気か…?」
「はぁ…何度も言ってるだろ、気にしてないって」
諄いくらいに引き摺っている成宮に、俺は言う。
「…それに、四条がクラスメイト全員を救いたい、って言ってるんだ。だったら厚意に甘えとけ。文句も感謝も謝罪も全部──此処から脱出したら聞いてやるからよ」
「ッ…」
「…んま、そういう事だよ成宮ちゃん。神楽坂君もこう言ってる事だし…ね?」
四条の目は、協力を訴えていた。成宮に協力したい、と…そんな目だった。
…そう、〝協力したい〟。させたいのではなく、したい…あくまで自分が下手に出た訴え。他人を気遣える四条であるからこそ、このような事が無意識に出来るのだろう。
…そしてそれだけ誠意を見せられれば…。
「──わ、わーったよ!手を貸せば良いんだろ!?」
──当然、断りづらいに決まっている。純粋で、なんの企みも無い、自分にデメリットすら無い願いを、受けない道理が無いからな。
「ったく…言っとくが、アタシは戦えねえぞ…【運否天賦】だからな」
「…そうか。だったらお前は──」
…と、俺が成宮に指示を出そうとした時。
「グォオオオ!!」
…魔物の大群が、こちらへと押し寄せてきていた。
…大群ではあるが…20くらいか。それでもこのエストでは基本的に一体一体を相手にする事が多かったから、ここまで多いと…流石の俺も嫌だな。
「…四条、降りろ」
「了解」
流石にこの状況でふざけている暇は無い。下手したら誰かが殺される程の戦力が襲って来ているのだ…出し惜しみする余裕もあまり無さそうだ。
「…四条、成宮。お前等は下がってろ」
「下がってろ、って…テメェ、これだけの大群なんとか出来んのかよ…?テメェはハズレクラスを引いたって言ってただろ…大丈夫なのか?」
成宮は俺の心配をする…確かに成宮は俺の戦闘を見た事は無いな。だったらそのような心配をする事は至極当然…か。
…だけど、その心配は要らない。
「安心しろ…これでも、ここまで生き残れてるからな…【拡縮する秒針】〝60倍拡大〟」
…これで一秒は一分と化した…一分あれば、大体の脅威は取り除けるだろう。
…そして、俺は世界に向けて、発動する。
「──【一秒鈍化】」
瞬く間に、全てがセピア色へと染まる。
…【一秒鈍化】は【一秒停止】と違い…世界を止めてもこちらから殴れる。効果は【一秒停止】よりほんの少し弱くなるが…制約が無く、【一秒停止】より攻撃性に優れているスキル…それが【一秒鈍化】。
この世界では、俺以外の全ての波が遅くなる。俺はその中で普通に思考し、動く事が出来る。
…よって。
ドゴォッ!ドガァッ!ズドォッ!
一つ一つ丁寧に急所を狙い、絶命に至らせる…が。
(何体か、異様に硬い奴が混じっている…?)
大半は硬くない…寧ろ脆い。
だが、数体だけ俺の殴りや蹴りを弾く程硬い奴が居る。馬鹿げた硬度…流石に鎌触手の皮膚まではいかないだろうが、それにかなり近しい硬度だ。
つまり、現在の俺の物理攻撃では傷一つ与えられない。だったら、何か別の要素が必要となる。
…ならば。
「使ってみるか──【瞬間重力操作】〝重力加速度30倍〟」
…そして、【一秒鈍化】が解除された瞬間。
ズドォオオオオオオン!!
…急な超重力に対応出来なかった魔物達が全て、身体を地面に付け…そして、地面が崩れた。
「す、スゲエ…なんだ、これ…ってか、何が起きたんだ…?」
「あはは…神楽坂君、凄すぎ…」
後ろに居る二人も困惑している様子だ。成宮に関しては、【一秒鈍化】の事を教えて無いから、俺がただただ超高速移動をしているようにしか見えなかっただろう。
…そして、突然の重力操作。出鱈目な戦い方をする俺に、驚いても仕方無い。ましてや成宮は戦闘に不向きのクラス…全体的なステータスもレベルも高くは無いのが原因なのもある。
四条も同じようだが…四条は俺のスキルを一通り知っているから、成宮より驚きは少ない…だが、それでも反応は普通じゃなさそうだが。
…だが、俺の意識はそこに向いていなかった。
(…【瞬間重力操作】は他スキルと、指定対象が違う…?)
…さっき、【瞬間重力操作】を発動した時。頭の中で、言葉が響いた。
…《次のいずれかの内、対象を指定して下さい。(世界・範囲・単体)》…そう、確かに頭の中で聞こえた。
…〝世界〟や〝単体〟は【一秒停止】や【一秒鈍化】と同じ…だが、〝範囲〟はそのどれにも無い。
…先程俺は【瞬間重力操作】を範囲指定し…そして、範囲内に居る全ての魔物が重力30倍の影響を受けた。魔物はそのまま崩れた足場に埋もれ、這い上がる事は出来なくなった。
…恐らく数分もすれば、あの中の魔物は全員くたばるだろう。
…新たなスキル【瞬間重力操作】にのみある〝範囲指定〟…。
…中々、使えるかもしれないな。
「…ま、マジで大丈夫だったじゃねえか…」
「まあ、神楽坂君だから…ね?」
「四条、なんだその妙な言動は」
「いや、だって…」
…四条の動揺も分かるが…変に化物扱いされてる気分だ。いや、多分化物みたいなものなのだろうが…それでも元人間だからな。傷つくぞ。
「はぁ、まあ良い…成宮、付いて来い。比較的安全な地帯へ案内してやる」
「お、おう…」
「四条も戻るぞ」
「う、うん、分かった…!」
…え、マジで化物扱いされてるぞこれ。めっちゃ怖がられてるし、めっちゃ怯えられてる。
…どうにか、ならないのか…?
…俺達が漣と一青先生の許へと戻っている最中。
神楽坂愁 クラス【一秒使い】
レベル116→120
生命力580→600 攻撃580→600 防御580→600
魔攻580→600 魔防580→600 魔力量580→600
敏捷580→600 隠密580→600 知覚580→600
巧緻580→600 幸運580→600 使役580→600
(総合値6960→7200)
所持スキル
【言語理解】【一秒停止】【瞬間状態回復】【拡縮する秒針】【瞬間千里眼】【瞬刻の回帰】【瞬間鑑定】【一秒鈍化】【一秒経過】【瞬間冷凍】【瞬間生成】【瞬間重力操作】【刹那の帝】
先程埋もれた魔物が息絶えたのだろう。
レベルは上がって、120にまで達していた。ステータスはオール600…最弱ステータスからよくここまで伸びたものだ。総合値は7200…レベル4の神崎と良い勝負するレベルくらいか?そう言うと滅茶苦茶弱いが…隠しステータス次第では、それより全然強いだろう。
「うげ…神楽坂テメェ、何したら120になんだよ…」
「強い魔物が馬鹿みたいに俺達の許へ集まったからな…倒してたら、なんかこうなった」
基礎ステータスが俺より高いのもあるだろうが…他の救世主が一切死んでいない、という事は…恐らく強い魔物は俺達の許へ優先的に集まっている事になる。
鎌触手もシャイガイモドキも…漣を軽く凌ぐ程の能力を有していた。それ程の強い魔物が俺達以外の救世主の相手に回れば、確実に死者が出る筈。だというのに、現在まで死者は出ていない。四条の情報が正しければの話だが…まあ、間違ってはいないだろう。
…つまり〝強い魔物が俺達のみに回ってきていた〟…そう考えるのが普通だ。
俺がとりわけ強いと感じたのは…魔物やスキルを捕食して相手を追い込む能面蒟蒻、絶対的な防御力と殺傷力で屠る鎌触手…四条の傍で戦った短期決戦用の固有能力を持つ異形、鈍化状態で且つ極限集中をしないと勝率が低かった蒼ゴリラ、異次元のスピードど限界を超える固有能力を持つシャイガイモドキ…この、五体。
これだけ強い個体が居るのに…27人の救世主の中で、何故俺を中心として集まっているのかが、全く以て不明。異形に至っても、漣のスピードに揺られながら、普通あんな都合良く俺の視界に映るか?
…何もかも、理論で説明がつかない。此処が異世界の常識で摂理なのだからと、自己完結するしかないのか…いやそもそも、自己完結して済む問題なのか?
これじゃあまるで…魔物が俺を殺しに来ているような。
《…神楽坂君、どうかした?》
四条が思考中の俺の様子を察してか…念話で通じてきた。こういう時、念話は便利なんだが…。
《…いや、なんでもない》
流石に、四条まで巻き込むのは違うだろう…それに、本当にただの偶然だという説も消えた訳では無い。偶々、俺が進んでいた道に…強い魔物が蔓延っていた、という可能性も…否定出来ない。
このエストでは…街の外側に行けば行く程、魔物が強くなるのだから。
「………」
…そこまで考えて…そして、更なる疑問が募った。
(いや待て──俺はどうして、そんな法則があると思ってる…?)
〝進めば進む程、敵は強くなる〟…これはRPGでは基本だが…それが現実で適用される、なんて事があるのだろうか?
それに、俺はほぼ常に、エストの門へ向かって歩いていた。竜が張り付いている、といっても俺だけエストから出るならば世界干渉の【一秒停止】を使えば良いだけの事。実際はスキル無効化の固有能力がある可能性を危惧して、別の攻略を考えていたが。
…その門に向かっていた筈の俺だが…位置座標を見れば、10人以上が俺より門の近くに居た。RPGのような法則があるのであれば、流石に数人は死んでいる。
…だったら、魔物が俺を殺そうとしている説が、より濃厚になるのだ…。
(──ッ…今は合流に集中しろ)
大事なのは…全員生きてこの場から出る事だ。それ以外に、必要な事なんて…無い。
「…スピード上げるぞ。付いて来られるか?」
「うん、大丈夫…!」
「あたぼうよッ…!」
…そして、俺達は更にスピードを上げる。
──待っている二人と、合流する為に。




