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10話 最悪の阻止

「──ぐっ…!?」


 俺は世界を止めた。ただ、そんな事をすればどうなるか。


 俺は漣の身体をすり抜ける。しかし、運動量は保存されたまま。


 馬鹿みたいな速度で、飛ばされる…だがこのお陰で、俺はスキルを使って四条の許へと向かえる。停止した世界で動けるのは、俺だけだから。


「──ッ!」


 世界が解除される直前…前方に、魔物が居る事を確認した。その魔物は…倒れている四条に向かって、歩み寄ろうとしているのだろう。


 …そして、世界の歯車は動き出す。


「おらっ…!」


 ドゴオッ!!!


「ぐぁっ…!?」


 俺は猛烈な勢いのまま、その魔物に蹴りを入れた…代償は、相当な痛覚。


 先程の漣の敏捷値は、俺の200倍程度あった。自身の限界を超えたスピードで放った蹴りは、それこそ自分で出せる威力ではない…だがそれと同時に、反作用で自身に掛かる脚への負担は、想像を絶する程だった。


 脚は、恐らく折れた。ステータスがそれなりに上がったから、脚が捥げる事は無かったが…それでも、目を開けられない痛みだ。


「グゥ…!?」


 …それでも、その魔物はまだ立ち上がっていた。


「くっ…〝能力確認(ステータス)〟」





神楽坂愁 クラス【一秒使い】


レベル78

生命力191/390 攻撃390 防御390

魔攻390 魔防390 魔力量389/390

敏捷390 隠密390 知覚390

巧緻390 幸運390 使役390

(総合値4680)


所持スキル

【言語理解】【一秒停止】【瞬間睡眠】【拡縮する秒針】【瞬間千里眼】【瞬刻の回帰】【瞬間鑑定】

【一秒鈍化】【一秒経過】【瞬間冷凍】【瞬間生成】





 …流石に、ダメージは重い。衝撃が全身に伝播したからか、生命力値の減りが半端じゃない…だが寧ろ、この程度で済んで良かったまである。下手したら、身体中がバラバラになる程の速度だったからな…逆になんで五体満足なのかが疑問だ。


「大丈夫!?」


 漣と一青先生が俺の許へと合流する。一青先生の心配の声は、四条だけでなく俺にも向けられていた。


「…神楽坂君。私は何も【一秒停止】を使ってなんて言ってないのだけれど…」

「そりゃあ、すまない…っ」


 脚の痛みを堪えながら、なんとか立ち上がる。折れている足だが…


 …まだ、あの魔物は生きているわけだからな。


「グォオオオ…!」

「…漣、任せても良いか?」


 俺は漣にそう訊ねる。理由は単純、負傷している状態でこの魔物と戦う事が困難だと感じたからだ。


 この魔物…強化状態の能面蒟蒻と同程度の強さだ。肌から感じる圧が、そう感じさせる。


 能面蒟蒻のような厄介な固有能力があるのかどうかは分からないが…俺の一撃でそれなりに体力は持っていかれた筈。漣なら軽く倒せるだろう。


「分かったわ…【双剣乱薙閃・白銀】」


 シュババババババババッ!!


「グルォオオオオオ!?」


 漣の【双剣乱薙閃・白銀】…俺は詳細を聞かされていないが、相当なものだと言う事は分かる。


 魔物は斬り刻まれ、身体中に刺切創を作っていく。鮮血が四散し、俺達の視界が紅に染め上げられる程。


「グゥ…グォオオ…」

「…まだ、死なないのね…」


 …それでも、その魔物は死んでいなかった。…中々に、しぶとい。


「ッ、【一秒鈍化】…!」


 俺はアシストとして、【一秒鈍化】を発動した。異形がセピア色へと染まる。


 …〝そんなもの必要無いだろう〟と思った奴も居たかもしれない。だが、俺はこうすべきだと判断した。理論では説明出来ない、感覚的なものだが。


「グゥオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!」

「「「──!?」」」


 突然、魔物の身体の傷が塞がり…そして、全身が紫色へと変貌した。


 …固有能力か。恐らく強化系統で、筋肉に作用するのだろう。膨大な筋力の増幅によって、傷が塞がったと見て良い。


「ッ、右!」


 【星詠眼】を発動していたのだろう。一青先生が少し焦った様子で、俺にそう叫んだ。


「グオオオオオ!!」

「速いッ…!?」


 中々の速度。【一秒鈍化】の効果がまだ及んでいたからこそ、反応出来ているが…それが無かったら、漣くらいの速度にはなるのだろう。


 …魔物の固有能力には、最大限警戒しないといけない。


 俺は使えない脚を使わず、器用に攻撃を避ける。


「【一秒停止】」


 そして俺はその異形の色彩を奪う。


 …コイツの固有能力が単なる筋力強化なら、【一秒停止】の干渉は効く筈。鎌触手のように馬鹿みたいな個体値でも無い限り、このスキルの中で動く事は出来ない。


「ふっ…!」


 シュバババババッ!!


 その隙に、漣が斬り付ける。


 …そして、一秒後。


「グルルル…!」

「…傷が浅い…」


 漣が斬り付けた箇所…そこには多少の切創があるものの、依然として血は一滴も出ず。血管にまで届いていない証拠だ。そもそも魔物の体内構造を知らないから血管の位置なんて分からないが…恐らく深い位置にあるから、かなり深く傷を入れないといけないんだな。


 …だが、あの筋肉を見ると…それは難しそうだ。


「ッ…!」


 魔物の爪が、漣の頬を掠る。


 …此処ら辺の魔物は強い。それこそ、漣が軽く怪我をする程に。俺がまともに相手すれば、命が幾つあっても足りない…。


「はっ…!」


 シュバババッ!!


 …漣はカウンターの連撃を放ち、距離を取る。


 …漣の傷は既に塞がっていた。【止血促進・白銀】の効果だろう。敏捷値に応じて、止血の速度が上がるスキル。


 失血でスピードは落ちる。だから止血は大事…まさにスピード特化のクラスだ。


「…神楽坂君」

「なんだ?」


 漣が俺に声を掛ける。


「…【拡縮する秒針】の〝52倍縮小〟を使って」

「は?何言って──」

「良いから早く…!」


 漣は俺を急かしてくる。


 …その必死な様子で、俺は漣の言葉を理解した。


 …そうだ。これは能面蒟蒻とは違う系統の強化。能面蒟蒻がエネルギーを使って強化するのに対し…恐らくコイツは無条件の制限時間付きの強化なのだろう。恐らくどこかのタイミングで、漣が鑑定したな。


 …だったら。


「【拡縮する秒針】、〝52倍縮小〟!」


 …そして。


「ふっ…!」


 シュバババババッ!!


 …一秒…経過。


「グ、ォオオオオオオ!?!?」

「…なんだ?」

「え…?」


 俺と一青先生はその異常な光景に目を瞠る。


 …()()()()()()()()()()()。それと同時に、出血もしていく。


「…ああ、そうか」


 一瞬その光景に驚いたが…これが漣の狙いだったと分かったら、なんとなく納得した。


(…〝縮小〟…ねえ…)


 〝縮小〟の方は使って来なかったからな…〝拡大〟の効果が〝一秒の設定倍率分増大〟に対し…〝縮小〟の効果は〝設定倍率秒数の一秒化〟か…。


 …俺が使ったのは〝52倍拡大〟…つまり、本来52秒分の時間を一秒に凝縮した、って感じか。


 …どうやら〝縮小〟も馬鹿には出来ないらしい。


「…ありがとう、神楽坂君」


 シュバババババッ!!


 …強化状態が解けた異形に、漣が後れを取る事は無い。異形はあっという間に斬り刻まれ…そして、絶命した。




漣静波 クラス【勇者・白銀】


レベル32→33

生命力3200→3300 攻撃3200→3300 防御3200→3300

魔攻3200→3300 魔防3200→3300 魔力量3200→3300

敏捷74880→77220 隠密3200→3300 知覚4800→4950

巧緻4800→4950 幸運3200→3300 使役3200→3300

(総合値113280→116820)


状態:敏捷値3倍、敏捷値補正+160%


所持スキル

【言語理解】【鑑定・白銀】【勇者の双剣・白銀】

【白ノ剣】【止血促進・白銀】【全魔力適性】【土魔力超適性】【無尽蔵・白銀】【高速回復・白銀】

【魔力覚醒・白銀】【衝撃耐性・白銀】【網斬波・白銀】【勇者ノ白雷】【双剣乱薙閃・白銀】【疾風迅雷・白銀】





一青舞菜 クラス【星詠み】


レベル28→29

生命力1400→1450 攻撃1400→1450 防御1400→1450

魔攻1400→1450 魔防1400→1450 魔力量1400→1450

敏捷1400→1450 隠密1400→1450 知覚2800→2900

巧緻1400→1450 幸運2800→2900 使役1400→1450

(総合値19600→20300)


所持スキル

【言語理解】【星天のお告げ】【薄命予告】【星宙の庇護】【闇を穿つ流星群】【光魔力超適性】【星魔力超適性】【星詠眼】【星天守護者】【星魔力自動供給】【赫星の槍】【碧星の盾】【翠星の加護】





神楽坂愁 クラス【一秒使い】


レベル78→80

生命力390→400 攻撃390→400 防御390→400

魔攻390→400 魔防390→400 魔力量390→400

敏捷390→400 隠密390→400 知覚390→400

巧緻390→400 幸運390→400 使役390→400

(総合値4680→4800)


所持スキル

【言語理解】【一秒停止】【瞬間睡眠】【拡縮する秒針】【瞬間千里眼】【瞬刻の回帰】【瞬間鑑定】

【一秒鈍化】【一秒経過】【瞬間冷凍】【瞬間生成】





 …折れた脚は、元に戻った。レベルアップして良かったな…本当。


 …そういえば鎌触手との戦闘の時もそうだったが…【星詠眼】で補助に徹していた一青先生も、鎌触手に一切ダメージを与えられなかった漣もレベルアップしていた。今回の場合、【一秒鈍化】とかで補助に徹していた俺も、レベルアップしている。


 …経験値取得の要素が良く分からない。経験値分配に関してもだ。何故かレベル差が二倍以上ある俺の方が、漣や一青先生よりもレベルの上昇率が高い。レベルが上がるにつれて、次のレベルアップに必要な経験値は上がる筈だが…。


 更にはステータス差。例えば俺と漣の攻撃値が8倍以上開いているが…それでも攻撃の威力に関しては、あまり差が無いように思える。まるで能力値が御飾りであるかのようだ。


 隠しステータスのようなものがあるのか。一青先生も似たような事を言っていたな…経験値補正なるものがあるかもしれないと。


 経験値補正以外にも、様々な隠しステータスがあるとしたら…それが俺のクラス【一秒使い】の特化ステータスだとしたら。


「──ッ、四条さんをどうにか…!」


 ──考えている暇は無さそうだ。


 俺達は四条の許へと駆け寄る。


「四条さん…こんなに…」


 四条の身体は…もう、ボロボロだった。


「………」


 顔色を見て…そして体温と脈を測る。それで、分かった事は…。


「脱水、飢餓、疲労…漣、鑑定しろ」

「ッ、分かったわ。【鑑定・白銀】」


 …少し確認しただけでも、死に至るような症状が多い。鑑定系のスキルで見た方が良い。


「…どう!?漣さん、何か分かった!?」


 …冷静では居られない一青先生は漣を急かす。


 …目の前で生徒が死にかけているからな。善人の一青先生では、落ち着ける筈が無い。


「…神楽坂君の言った症状も原因ではあるけど…こうなってる一番の原因は〝毒〟ね」

「…毒…?」

「…つまり四条は毒に当てられた、と?」

「そうね…と言っても魔物を食べた訳じゃ無い。あくまで毒を持った魔物に噛まれたとか、そういう感じ」


 …毒、となれば。俺達では解決出来ない。対処出来ない問題なのだ。


「生命力値がどんどん減っていってる…このままだと…」

「…どのくらいで、死ぬ」


 俺は静かに、漣にそう訊ねた。


「…あと…一時間」

「ッ…!四条さん…!」

「くっ…毒の持続時間は…!?」

「──三、時間…」

「…クソっ…!」


 …あと、一時間…?そんな短い間で、四条の解毒が出来るのか…?


 地球の法則と、この世界の法則は全く違う。毒の元素も地球のものじゃない筈だ。解毒剤なんて此処にも無いから、全て自力で解決しなければならない。


 …3-Fの中に、一青先生以外の天才は居ない。その一青先生も医療に関する知識は乏しい。


 …俺だって、そうだ。俺は誰かを助ける知識なんて身に付けた事は無い。全部、自分が助かったらそれで良い、と思っていたから。


 …以前にその考えは変わったのだが…それでも学ぶ時間は無かった。


(クソっ…どうすれば…どうすれば良い…!)


 四条がこの状態ならば、戦えない。レベルアップも無理だろう。


 【瞬間冷凍】で冷凍する事も考えた…だが、果たしてそれだけで解決するような問題なのか…?そもそも冷凍したらその後四条はどうなる…?【瞬間生成】での調合も、知識が無いから扱えない。解毒剤を作るなんて、不可能だ。


 何も、解決策が思い浮かばない。


 ──頼れると、するならば。


「……」

「神楽坂君…?」


 俺はゆっくりと立ち上がる。


「…二人は、四条を看ていて下さい」

「ッ、何を言って…」

「時間が無いんだ…直ぐに、行かないと」


 本当に、時間が無い。今から一時間で、やるべき事をやらないといけない。一縷の望み、なんて賭けよりもずっと厳しいが…それでも、可能性があるなら。


 俺は、行かなければならない。


「──大丈夫、必ず戻って来る」


 ダンッ!!


「「神楽坂君ッ!?」」











 …駆ける。駆けて、駆けて、駆け抜ける。


「【瞬間千里眼】…!」


 辺り一帯を見渡す。


(出来るだけ魔物の多い方へ…!)


 一刻も早く、俺がレベルアップをしないといけない。一刻も早く、俺が四条を助けなければならない。


 …クラスメイトを、悲しませない為にも。


「ヴァァアアアアアオ!!」


 脚の生えた鯨の魔物。個体値だけで言えば…強化状態の能面蒟蒻レベルか…?


 …だが。


「【一秒鈍化】…!」


 ドゴオッ!ドガアッ!ボゴオッ!ドカァアアン!


 …相手が絶命するまで殴って…次。





神楽坂愁 クラス【一秒使い】


レベル80→81

生命力400→405 攻撃400→405 防御400→405

魔攻400→405 魔防400→405 魔力量400→405

敏捷400→405 隠密400→405 知覚400→405

巧緻400→405 幸運400→405 使役400→405

(総合値4800→4860)


所持スキル

【言語理解】【一秒停止】【瞬間睡眠】【拡縮する秒針】【瞬間千里眼】【瞬刻の回帰】【瞬間鑑定】

【一秒鈍化】【一秒経過】【瞬間冷凍】【瞬間生成】





 …【一秒鈍化】は世界に対して発動しても、魔物相手に攻撃出来る。世界に干渉しているという事は…四条の毒の巡りも鈍化している、という事。


 この【一秒鈍化】の鈍化倍率は物凄いものだ。だったら…。


「【拡縮する秒針】〝81倍拡大〟、【一秒鈍化】」


 …こうすることで…81秒を一秒に換算出来て、実質的に四条の毒の巡りが遅くなる。その間に、俺の目的を達成し、四条を助ける。


 …助けられる確率は限り無く低いが…これ以外の解決策は無い。


 ドゴッ!ガアッ!ズドォッ!ドゴォオオオン!


 セピア色の世界の中、舞うように魔物を屠っていく。


 …まだ、まだ。魔物を倒さなければ…。


「──ッ!」


 ドゴオッ!


 俺の【一秒鈍化】の中で、それなりに動ける魔物…か。


 現れたのは紅ゴリラ…では無く、蒼ゴリラ。紅ゴリラよりも相当な気力を溜め込んでいて、紅ゴリラよりも圧倒的な気配を有している。


 辛うじて防いだ攻撃…だが、その腕は痺れていた。


(…ッ、コイツに構っている暇なんて、無いんだが…)


 強い魔物程、経験値が多く入る…だが、経験値効率に関しては話が別。コイツを相手するよりは、そこら辺の雑魚を狩った方がレベルアップしやすいかもしれない…でも。


 ──コイツは、逃がしてくれそうにないな。


「ウゴォオオオオオ!!」

「ッ!?〝能力確認(ステータス)〟!」


 瞬時に感じ取った違和感に警戒し、ステータスを表示する。





神楽坂愁 クラス【一秒使い】


レベル81

生命力384/405 攻撃405 防御405

魔攻405 魔防405 魔力量324/405

敏捷405 隠密405 知覚405

巧緻405 幸運405 使役405

(総合値4860)


状態:戦慄・中(継続時間:残り00:03:00)


所持スキル

【言語理解】【一秒停止】【瞬間睡眠】【拡縮する秒針】【瞬間千里眼】【瞬刻の回帰】【瞬間鑑定】

【一秒鈍化】【一秒経過】【瞬間冷凍】【瞬間生成】





(〝戦慄〟…?どういう効果だ?)


 文字通りの効果なら…アイツに恐れ慄いてるのか?今のところは、そういった効果は現れていないが…。


「グルォオオオオオ!!」


 …にしても、コイツ。鈍化中でも普通に声を出せている。


 …抵抗値が、高いタイプか。


 ダンッ!!


「ッ…!」


 こんな事なら、漣の剣でも借りておくべきだったな…だが今戻っても間に合わない可能性が高くなるだけ。


 …それにコイツは武器じゃ傷付けられない。純粋な殴り合いで、ダメージを与えるしかない。


 ドゴオッ!ドガアッ!


「ぐっ…!」


 力では、完全に蒼ゴリラの方が上…純粋な殴り合いでは分が悪い。


 …かと言って、速度は俺がほんの少し速い程度。優位に立つには、まだ足りない。


 …だったら、そこに新たな要素を加えるんだ…!


「【瞬間睡眠】…!」


 俺は()()()()()()()()、スキルを放つ。


「ウゴォ…?」


 蒼ゴリラは睡魔に抗えず、直ぐに寝た。


 …ここだ。


(後頭部に一撃ッ…!)


 ドゴォオオオン!!


 …後頭部に特大の回し蹴り。最早今の俺が出せるような音では無かったが…これで。


「ゥ…ゴォォオオオ!!」

「っち…!」


 …ダメージは入っている…だが、応えてない。


 …やはり物理特化のゴリラ系統。生半可な物理攻撃では無理…か。


 …だったら、次の手だ。


「【瞬間冷凍】…!」


 …これは〝一秒間で対象を冷凍する〟スキル。つまり一秒経てば蒼ゴリラは氷漬けになる筈…。


「ヴォォオオ、オオオ!!」


 バキィイイイン!!


「マジか…!」


 力尽くで、強引に突破してきただと…!?


 スピードとパワーを兼ね備えたゴリラ…コイツ、最初に鎌触手と同時に戦った紅ゴリラよりも全然厄介だ…!


「ッ、おらあ!!」


 ドゴッ!


 …やはり、ダメージは通らないな。というより、だんだんダメージが入らなくなっている…?


 …まさか、これが〝戦慄・中〟の効果か?


「【瞬間鑑定】」


《状態:戦慄・中…時間経過につれて戦闘能力が低下。残り継続時間00:02:26》

《蒼猿…異常な身体能力を備える紅猿の上位個体。固有能力:【戦慄の咆哮】…対象に〝戦慄〟を付与する。効果と持続時間は対象の強さに比例する》

《蒼猿の次の行動:左側頭部への蹴り》


 …どうやらそうらしいな…だが。


(待て、次の行動って…ッ!?)


 そうこう考えている内に、蒼ゴリラからの蹴りが迫ってきていた。狙っている箇所は…()()()()


「っぶねえ…!」


 間一髪、躱せた。次の行動が分かっていなければ…躱せるかどうか分からなかった。


 俺は距離を取りながら、思考する。


(…なんで鑑定スキルで行動が予測出来るんだ…?)


 俺のクラス【一秒使い】…他のクラスと比べて、規格外だ。強さとかそういう次元の話では無く…存在の謎の大きさという次元の話だ。


 【鑑定】…本人でなくとも〝能力確認(ステータス)〟の権限を持つ事が出来るスキル。スキルの詳細を見られる事がメリットだが…それ以外に特別な事は無い。


 だが俺の【瞬間鑑定】の場合、本人のステータス表示より更に深く詳しい概要が見えたり、今のように未来予知すらも出来る。


 …到底【鑑定】だとは思えない性能。そもそも【鑑定】の派生ですら無いような気がしてくる。


(ッ、考えている暇は無い…!)


 こうしている間にも、時間は刻一刻と過ぎていくんだ…四条を助けるんだろ、俺は。


 …だったら…こんな思考は後回しだ。こんな事、いつでも考えられる。今俺にすべき事をやれ…!


 …目の前に、()()()()


(…また、この感覚)


 何もかもが、遅い。空気やオーラの流れが鮮明に分かる。全てが見える、全てが聴き取れる、全てが感じられる。


 …〝極限集中〟。どうやらそれなりに制御出来るらしい。


「〝能力確認(ステータス)〟」





神楽坂愁 クラス【一秒使い】


レベル81

生命力380/405 攻撃405 防御405

魔攻405 魔防405 魔力量321/405

敏捷405 隠密405 知覚24000

巧緻405 幸運405 使役405

(総合値28455)


状態:戦慄・中(継続時間:残り00:02:10)、極限集中(知覚値上昇)


所持スキル

【言語理解】【一秒停止】【瞬間睡眠】【拡縮する秒針】【瞬間千里眼】【瞬刻の回帰】【瞬間鑑定】

【一秒鈍化】【一秒経過】【瞬間冷凍】【瞬間生成】





 …どうやら鎌触手の時のような数値には行かなかったらしいが…それでも分不相応なステータス。俺には手に余る。


 …だが、これで。


(全部、分かる…!)


 ドゴッ!ドオッ!ガァッ!


 …デバフで威力が低くなっているが…相手が守りたい部位が、急所が…感覚で判る。


 いくら外側が硬くとも、急所は脆い。着実に、ダメージが蓄積されていく筈だ。


「グォゥ!?ゴォ!?」


 …蒼ゴリラは呻きながら無抵抗に殴られる。


 …急所に攻撃を直撃させる事で、呼吸や動きが一瞬止まる。それを連続で、絶え間なく叩き込む…そうすれば、コイツを完封出来る。


 …攻撃は最大の防御とはよく言ったものだ。急所を見極める集中力が続けば…半永久的にコイツを封じ込め、俺は攻撃を食らわない。


 …所謂、脳筋戦法だな。


 ドゴォッ!ドガァッ!ガゴォン!


 …威力も少しずつ上げていく。知覚値が上昇すると、何故か与えるダメージも上がるらしい。理屈は知らない。


 ドゴォオオオッ!!


「ゴォオオオオオ!?」


 …やがて、蒼ゴリラは立てなくなった。地に膝を付けたのだ。


(…ここで、仕留める…!)


 俺は一気に跳躍して…そして。


 ドゴオオオオオオオオオオオオオオン!!


 全力の踵落としを…叩き込んだ。


 攻撃値と遠心力…そして知覚値による謎のダメージ上昇により、蒼ゴリラの頭蓋骨は完全に砕け散った。骨を砕く感触が、俺の全身に伝播するのが分かり、それは勝利を確信する材料となった。





神楽坂愁 クラス【一秒使い】


レベル81→86

生命力405→430 攻撃405→430 防御405→430

魔攻405→430 魔防405→430 魔力量405→430

敏捷405→430 隠密405→430 知覚24000

巧緻405→430 幸運405→430 使役405→430

(総合値28455→28755)


状態:戦慄・中(継続時間:残り00:01:58)、極限集中(知覚値上昇)


所持スキル

【言語理解】【一秒停止】【瞬間睡眠】【拡縮する秒針】【瞬間千里眼】【瞬刻の回帰】【瞬間鑑定】

【一秒鈍化】【一秒経過】【瞬間冷凍】【瞬間生成】





 …どうやら〝極限集中〟による知覚値上昇の状態では、レベルアップでの知覚値上昇はしないらしい…まあ、出鱈目な数値になっているからな。レベルアップや上昇値、なんてもので測れないのだろう。


「…次だ」


 …この集中状態が続いている間に…もっと多くの魔物を、狩る。


 …そして、俺は。











[視点変更:四月一日慶二]


「【弱化元素】ッ!!」


 ザシュッ!!


 …レベルは上がらねえか。まあもうレベル25だしな…そろそろスキルを覚えてもおかしくねえんだが…。


「…ま、良いだろ」


 どうせ今の状態でも強えのには変わりねえし。


 …そういえば、さっき四条が脳内会話みてえなのしてたな。面白えスキル持ってんだな?まあ戦闘向きじゃねえから興味ねえが。


「おらおらぁ!こんなもんかぁ!?」


 シュバババババッ!


 全然手応えねえな!やっぱ此処の魔物は雑魚ばっかなのかぁ!?


「──んぉ?」


 ドゴォッ!!


 視界の端で捕らえたその脚が、俺へと放たれた。


 …咄嗟に剣で凌いだものの、衝撃で後退っちまった。


「ハハッ…!コイツぁちょっとヘヴィーか?【弱化元素】」


 …さてと。


「蹂躙の時間だぁ!!」


 シュバババババッ!


 弱体化させて斬る。王道でも邪道でもあるこのスキル…中々俺好みじゃねえか?


「グルッ…!」


 ザシュッ!


「お?やるじゃねえか」


 ソイツは怪我しながらも、凶爪を振るう…ソレが俺の頬を掠めた。


 …まさか【弱化元素】でパフォーマンスを相当奪って尚、俺に傷を負わせるとは。中々に面白えじゃねえか。


「良いなぁ!?次はコレだぁ!【元素融合】!」


 一応色々な元素を融合して物質を作れるからな。出鱈目な化学式で生成した毒物をぶち込んでやらぁ!


「グルォオオオオオ!?!?」


 …そして、ソイツはぶっ倒れた。


「っぱこの【元素魔剣士】はクソ強えなぁ!?」


 お陰でステータスで全然負けてても圧勝出来る。マジで当たり籤引いたぜ。


 …そして、レベルが上がる。


「…!?おいおい!レベル上がりすぎだろ!?」


 ──レベルが、一気に5も上がった。お陰でレベルは30だ。


 …さらに、新しいスキルを覚えた。それも、一気に三つ。


 …その中で、目を瞠るスキルがあった。


「──ヒヒッ…アハハハハハハハッ!!」


 興奮する程の、スキル。思わず笑いが漏れてしまう程の、スキル。


 …だって馬鹿みてえなんだもん。普通に考えて最強過ぎる。地球でも馬鹿みてえに有名なヤツだ。


「…しかも、このままレベルが上がれば…」


 もっと有用なスキルが、手に入るに違えねえ。それこそ俺がこの世界の支配者になって、女を抱きまくるような。そんな阿呆みてえな、スキル。


「アハハハハハハハ!マジ笑うしかねえ!」


 …もし、俺の予想通りだってえなら…。


「──マジでこの先、楽しみだなぁ?」











[視点変更:神楽坂愁]





神楽坂愁 クラス【一秒使い】


レベル94→95

生命力470→475 攻撃470→475 防御470→475

魔攻470→475 魔防470→475 魔力量470→475

敏捷470→475 隠密470→475 知覚470→475

巧緻470→475 幸運470→475 使役470→475

(総合値5640→5700)


所持スキル

【言語理解】【一秒停止】【瞬間睡眠】【拡縮する秒針】【瞬間千里眼】【瞬刻の回帰】【瞬間鑑定】

【一秒鈍化】【一秒経過】【瞬間冷凍】【瞬間生成】





「…〝極限集中〟が切れたか」


 ──俺が魔物を狩り始めて…40分程度。〝極限集中〟が切れた今では、これ程急速なレベルアップは出来ないだろう。


「──ぐっ…!」


 〝極限集中〟…その代償は、脳の使い過ぎによるキャパの限界突破だ。


 本来有り得ない程の脳の使い方をする事で、人智を超えた能力を手にする事は凄く魅力的だ。だが普通の人間にそんな膨大な情報量を処理出来る訳が無い。〝覚醒付与〟をして肉体の限界を超えた俺達救世主であっても、当然脳には限界があり、いずれは限界が来るのだ。


「ッ、これ以上は──」


 これ以上は、レベルアップ出来ても四条の許まで戻れる体力があるかどうか…。


 …だが、まだレベルが足りない。


 これ以上にレベルを上げないといけないのに、何も成果を得ずにおめおめと帰るなんて、俺には出来ない。


 …だが40分経った、と言っても。殆ど常に【一秒鈍化】を使っていたから…実際は殆ど経っていない筈だ。


 だから、まだ余裕がある。


「…【瞬間睡眠】………【瞬間睡眠】」


 …ここまで〝極限集中〟の消費は、一回の【瞬間睡眠】だけでは解決出来ない。だから二回使った。


 ──それでも疲れは少し残っているが。


「グルォオオオオオ!」


 ドゴォッ!!


「グォッ!?」


 …レベルが上がったお陰で、与えるダメージが規格外に増えた…だが、それだけではない気がする。


 確かに攻撃値が上昇している、確かに防御値が上昇している…だが、そう単純な問題じゃない。


 明らかにおかしいのだ。レベルが1変わるだけで、ダメージをそれ程与えられなかった相手に一撃で重症を負わせられるようになったり、目で追えなかった相手の動きがかなりはっきりと見えたり。


 …何か、変な気がしてならない。隠しステータスが存在すると仮定した以上、そういう事もあるのかと思ったのだが…にしても、不自然なのだ。漣のステータス上昇の時は、それ相応だと思った。速力の上がり幅が、ステータスと比例しているようだったから。


 実際、漣の敏捷値が5倍近くになった時には、速力もそれ相応の約5倍になった。だが俺の戦闘能力の上がり幅は…まるで漸化式のように、途轍も無い上昇曲線を描いている。


 …これが隠しステータスならば、とんだ馬鹿げたものだな。


「…考えても仕方無い」


 まだ四条の危機は去っていない。早いところレベルを上げて、そして戻らなければ。


 ……いけない、のだが。


「──最後の最後で、相当ヤバい奴が現れたな…」


 知覚値の上昇で、判る。


 ──今の俺が、勝てる確率の相当低い、魔物。


 ソイツが姿を現す…鎌触手のようにデカい奴ではない。俺と同じくらいの、比較的小さい魔物。


 …だが、ソイツが内に秘めているエネルギー…恐らく魔力。


 …それが、尋常じゃない。これ程の威圧感は…あの鎌触手と同等だ。


「アア…アァアアア…」


 …人型。例えるとするなら…シャイガイか?シャイガイの小型バージョン。


 …だけどヤバさだけで言うなら…それよりヤベエかもしれないな…。


「──くっ…!」


 身体が震えてしまう…鎌触手でも、震えなかったのに…震えて動きづらい。


「ァアアアアア!!」


 ドタァン!


 ドゴォッ!


「──は?」


 たったの刹那。瞬きする暇すら無いその時間。


「ぐぅっ…!?」


 ──俺は殴られた事を自覚する前に、途轍も無い力で殴り飛ばされた。

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