表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

覆い隠す

ヨルシカ様より、「アルジャーノン」を、勝手にイメージさせていただきました。

 貴女には知られたくないのです。私が貴女を見ると、桜を思い出すこと。


 「おはよう」


 花漏れ日のような微笑みに、いつも苛まれて、私は自身に嫌気がさすのです。


 「おはよう。陽菜実ちゃん」


 二月が終わって、桜の蕾は600℃の蓄積を超えようと、太陽の光をその身に浴びています。


 私は小心者でありますから、花開く前にこの気持ちは伝えられません。


 「そのヘアピン、いいね」

 「そ、そう?えへへ、ありがとう」


 いいえ。伝えられない理由はそうではなくて、これはつまり、禁止事項のようなものでありますから、もっとわかりやすく言えば、考えてしまってもいけないのです。


 「もう、終わりだね」

 「……うん、あと、何日だろうね」


 呪いが、付き纏うのです。これは、呪いの感情。時雨の爽やかでなく、梅雨のじっとりであり、自分ではどうにもできない力であるということです。


 「さあ、でもずっと一緒にいようね」

 「うん。よろしく、お願いします」

 「あはは、何かしこまってんの」


 カッパを着る術を、私は知りません。除湿も排水もできず、今私は溺れて、そのまま終わりを迎えようといているのです。


 「おはよう」

 「おはよー、陽菜実。今日カラオケ行こー」

 「いいね」


 ずぅっと、腐れ縁とでもいうんでしょうか、この関係のままなんでしょう。でも、それでも良いんです。壊れるよりもよっぽど。


 「あ、麗奈も行く?」

 「え、清水さんもくんの?」


 メランコリーな感情を、避けるのです。届かぬ高嶺の花、というよりも、別の谷に咲く花に、私はここにいる嶺から、どのようにして登り行けば、その花弁に触れることが許されましょうか。


 「わ、私は良いよ、用事あるから……。陽菜実ちゃん、楽しんできてね」

 「……そっか。分かった。ごめんね」

 「い、いやいや、謝ることじゃないよ」

 「何だー、清水さん来ないのかー。残念」


 どう転んでも、私は地獄に堕ちます。


 思春期なんてものは、消えてなくなればいい。

 そうすれば、こんな風に苦悩することも、きっとないはずですから。


 「はぁ〜、長かった。麗奈、帰ろ」

 「へ?カ、カラオケは?」

 「断った」

 「……なんで?」


 きっと、彼女も嫌がっています。


 私のような人間と、幼馴染になんてなってしまったから。


 私は、孤独で生きることでしか、みんなを幸せにすることはできないのです。


 「麗奈と長くいられるのも、高校行っちゃったらなくなるじゃん」

 「え……?そんなことのために……?」


 嫌がっているはずなんです。この気持ちには、諦念を持ってして蓋をせねばなりません。そうであるはずなんです。


 「そんなこと、って、ひどいなあ麗奈。私、麗奈といるの、楽しいんだよ?」

 「そ、そう、なんだ」

 「そうだよ」


 同じ感情を持ち合わせていれば、なんて考える事は、常です。


 デートに行ったり、お風呂に一緒に入ったり、同じ布団で寝たり、ちょっと進んじゃったり。


 でも、そんなことを考えても虚しいだけ。


 「あと、十日くらいしかないんだって」

 「……そっか」


 貴女はどうして、側に居てくれるのでしょうか。


 「日曜日とか、絶対遊ぼ?」

 「うん、もちろん、でも、誘って、いいのかな」


 貴女はどうして、帰りを共にしてくれるのでしょうか。


 「うん。誘ってくれたら、すっごく嬉しいな〜なんて」

 「わかった。絶対、だよね」


 貴女はどうして、学校では話しかけてくれないのでしょうか。


 「絶対、断んないから。別の用事があっても、それを断ってくる」

 「それは、さすがに、別の日にも誘う、から」


 貴女はどうして、小学生のとき、話かけてくれたんでしょうか。


 「そう?でも、麗奈の方が大事」

 「そっか。なんか、恥ずかしいね。嬉しいけど」


 貴女はどうして、こんなにも愛らしいのでしょうか。


 「ねえ、麗奈?」

 「……どうしたの?陽菜実ちゃん」


 貴女は、私の進む迷路の先を、共にはしない。


 「わたし、私ね」

 「うん」


 貴女は、私を忘れていくだろう。


 「……」

 「陽菜実、ちゃん?」


 貴女が、好きよ。


 「貴女に会えて、良かった」

 「……私も、陽菜実ちゃんに会えて良かった」


 貴女はゆっくりと走っていく。


 それを追いかける資格は、私にはない。


 わたしは、ただ迷っている。


 「っ……!陽菜実ちゃん……?」

 「ごめん、ごめんね?ちょっとだけ」


 貴女はとても、温かいのね。


 安心して私は、眠ってしまう、ということにしよう。


 少しでも。


 このままで。


 居られるように。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ