幼なじみの距離【手描きイラストあり】
(っˊᵕˋ)╮=͟͟͞͞ 「いちご」「部活帰り」「飲料水」
病院の待ち時間に、娘からみっつのお題をもらって書きました。
ふんわりとした約600字掌編です。
「おい待てって! 苺」
学校からの帰り道。家が隣同士の苺は陸上部の練習で。俺は落語研究会の会誌作りに忙殺され、ずいぶんと下校時刻が遅くなった。河川敷の向こうでオレンジの夕日が沈む。
「あっちぃ……」
あいつのちいさな背は遥か前方。緩やかなカーブを駆け抜けて豆粒みたいに遠い。はて、『一緒に帰ろう』と言われたのは気のせいだったのか?
頼むからさ、俊足一年のホープさんは文化部の幼なじみをもっと労っていいと思う。
視線をそらし、川べりを見ながら汗を拭っていると軽やかな足音。戻ってきた。
「ごめんね、はい! 水分補給大事だよ、飲んで?」
「えっ」
今すぐCMのオファー来ちゃうから、そういう顔やめなさい――(※ノット芸能人)
そんな陳腐な台詞を飲み込み、差し出されたペットボトルの緑茶を受け取る。
つめたい……けど、あぁ、顔あっっっつ。
「サンキュ」
俺はズレたメガネのブリッジを指で正常な位置に戻し、ついでにそっぽを向いて一〇〇メートルは向こうにある自販機を眺めた。
「お礼……奢る。やっぱ今でも苺ミルクなわけ?」
「! も〜、なんで幼稚園のときの好物とか、いまだに言うかなあ!?」
――――――
きゃらきゃらと笑う聞き慣れた声に、こんなに心が浮き立つ。
それが心地よくて、くやしくて。
夕焼け空の縁、川面の残照がやけに目に焼き付いた。
頬にくっつけたペットボトルのなかで、冷えた茶がちゃぷん、と揺れる。
「オチなんて、まだ要らねえんだよなー……」
呟きは、蝉の声にまぎれて。
(※このあとめちゃくちゃ倍返しを要求された)
〜おしまい〜
お読みくださり、ありがとうございました!