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04.いくつかの物語文学

 古代ローマの物語イピスとイアンテを基にした中世の物語イダとオリーヴは神の奇跡により片方が男になって結ばれる。こうしたシナリオは他の作品でも採用されていて例えばトリスタン・ド・ナントゥイユの登場人物ブランシャンディーヌも神の奇蹟によって男になって女と結婚した(※イダとオリーヴほどには尊くない。恋人のクラリンデがブランシャンディーヌのことを疑って風呂に入らせようとしたからだ)。



 しかし16世紀以降、神は奇跡をあまり示されなくなる。

 例えば『狂えるオルランド』25編において女騎士ブラダマンテへ向けられたフィオルディスピナの恋は、ブラダマンテと一晩を共にして彼女が女であることが分かっても燃え尽きず、神に祈っても性転換の秘儀は生じなかった。そしてその解決法として彼女の従兄弟リヒャルデットが女装することになる。

 『アマディス・デ・ガウラ』の諸サイクルやフィリップ・シドニーの『アーケイディア』には、女装した主人公に好意を持った女性の話もある。いわゆるTS百合だが、その大本にはギリシャ神話のゼウスとカリストーがある。そしてそれを受け継いだローマ神話のユピテルとカリストーをテーマにしたTS百合の版画もこの頃には描かれていた。(※Hendrick Goltzius,1590やFrancesco Primaticcio,1560-70など)

 こうした割と望ましくない傾向の百合展開の典型としてシェイクスピアの十二夜がある。この話ではオリヴィアと男装したヴァイオラ(シザーリオ)の恋が、シザーリオそっくりな双子の兄セバスチャンの唐突な登場によって決着する。

 分類的にはこうした作品は入れ替わりものの一つとして扱われていて、古代ローマのプラウトゥスの作品に起源がある。16世紀の作品としては、モンテマヨールのディアナ物語や十二夜の元になった騙された人々もこれに該当するだろう。


 数少ない神の奇蹟は『ガラティア』という劇で示された。

 1592年の作品で、著者はジョン・リリー。主人公のガラティアとフィリダの二人が結ばれるまでの話だが、サッポーの詩の引用が見られる点やフィラニス(※古代ローマの百合を参照)への言及がある点など女同士の関係を意識した作品になっている。また二人とも異性装をしていて両勘違いから始まるという点も特徴的である。

 二人は互いが若しかしたら女の子であるかもしれないと思いつつも恋に落ち、相手が女の子ではないことを祈る。終幕で真相が明らかになるのだが、二人がそれでもお互いを愛していると誓い合うと、女神ヴィーナスがどちらかを男にすることを提案する。そして教会の扉を入った瞬間に二人のうちどちらかが男に変わるというが、どちらが男になったのかについて観客には明かされない。



 シェイクスピアの作品にも時代の風潮に合わせて女同士の深い関係を描くものとして、1600年に発表された喜劇『お気に召すまま』がある。この話は、1590年にトーマス・ロッジによって書かれたロザリンドを元にしている。

 その主人公の一人ロザリンドとその友人セリアは姉妹以上に親しい間柄で、ロザリンドが宮廷から追放されたときに連れ立って逃避行をする。ロザリンドは男装してガニメデと名乗り、セリアも偽名を使った。二人は森の外れの牧場を買い取って一緒に暮らそうとするが、そうはならなかった。ロザリンドはかつて出会った貴族の男オーランドのことを忘れられず、彼と森の外れで偶然の再会を果たす。一方で恋に浮かれるロザリンドに否定的な態度を取っていたセリアもオーランドの兄と結ばれることになる。


 マッダレーナ・カンピーリアの作品『フロリ』も女同士の深い友情を表現している。これは恋愛に大きくウェイトをかけた作品である。

 物語としては、アマランタという最愛のニンフと死に別れたニンフの主人公フロリが、親友リコリに慰めと新たな愛を求めるところから始まる。リコリは懸命に諭そうとするが、フロリは憔悴し、そんなフロリに対してリコリも思い悩む。

 ところが第三幕においてアマランタの葬儀が行われた際にフロリは羊飼いアレッシィと出会ってしまい、最終的に彼と高潔な愛を誓った。


 とはいうものの、フロリの続編としてカリサという短い詩があり、そこでフロリはカリサという名のニンフに高潔な愛を求めている。このテキストはフロリの物語と言うよりマッダレーナと彼女の支援者である貴族女性イザベッラとの理想的な関係性を描いているともいう。

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