8話 蒲焼について
「最近地震多いよねぇ」
昼休み、メロンパンのクリームを口元につけた彼女が、舞島が言った。
「そうだね。おおいね地震」
誰もいない校庭を眺めながら僕はそう答えた。
「ナマズってどれくらいの大きさ何だろうね」
「急に話が飛んだんよ。どうしたんよ」
「いや見たことないなぁって思って」
メロンパンを食べきった彼女は窓の側に自分の椅子を持ってきて僕の隣に座った。
「だからなんで地震が急にナマズになるん……あ、地面の下のナマズが何とかみたいな話?」
人差し指で自分の口元を指さしクリームが付いていることを彼女に伝えた。
「そうでしょ、ウナギは地震起こさないでしょ?」
右手の親指でクリームをとると彼女はそれをチュっと吸った。
「もしかして地震ってナマズが起こしてると思ってる?」
「違うの?」
「本当に高校生?」
「よく昔のこと覚えてないからなぁ」
彼女は少し恥ずかしそうにあははと笑った。
「それにしてもさすがにひどすぎるんよ。日本っていう地震大国に住んでるんだからいまに後悔することになるんよ」
「いや~ならないでしょ。何とかなるよ。で、ナマズってどれくらいなんだろうね」
急に彼女が僕の左の口元を人差し指でなで、さっきと同じようにまた吸った。
どうやらチョココロネのクリームが付いていたようだった。
恥ずかしいから指摘してくれればそれでいいのにと思った。
「ん。ウナギと同じくらい?僕もよく知らないんよ。絵だとよくひげが書かれてる気がするけど大きさは知らないんよ」
「じゃ、ひげのあるウナギがナマズか」
「かもしれないんよ」
「じゃあさ、どじょうが大きくなったらナマズかな」
「うーん生き物あんま詳しくないからわからないんよ。図書室行った方がわかると思うんよ」
「え~本読むの面倒だから聞いてるのに~」
そもそも図書館の場所知らないし、とも言ったような気がした。
「もうちょっと本とか読んだ方がいいと思うんよ…昔のこととか思い出すかもしれないし」
「思い出すって……記憶喪失じゃないんだから!あ、記憶喪失で思い出したんだけどさ私キャンプしたい!」
「また連想ゲーム?」
「いや全く関係なく!あるじゃんそういうの。テントとか泊まってみたいし~。キャンプ飯っていうの?作ってみたいし~」
それからそれからと彼女はやりたいことを次々にあげていった。
「どうせテント立てるのも料理するのも僕がやることになるんよ……」
「私だっててつだうからさ~。やろうよ~」
「まぁ必要なものは調達できるしできなくはないんよ」
「じゃあ決まりで!膳は全然っていうし今度の土日にやろう!校庭で!」
「急すぎるんよいつも。まぁいいんよ。許可とったり場所作ったりとかのことは僕が やっておくから」
真田広之のことは無視した。
「最高!楽しみだね」
その時、また小さな地震があった。
「うわ、これは……どじょうかな?」
「きっとウナギなんよ」
僕はその地震が起こったであろう方角を向いた。
正直言うと小さくても地震は怖かった。
またなにか失ってしまうような気がした。