4話 夏の風物詩について
放課後の教室の窓際で汗で濡れた服を洗っていた彼女が、舞島が軽く咳払いした。
「今日ずっとそんな感じだけど喉痛いん?」
消しゴムのカスをごみ箱に捨てに行くついでに聞いた。
「んー、というか夏風邪かな?鼻水も止まらないし」
そういうと今度ははなをすすった。ティッシュを出さないあたりどうやら持っていないらしかった。
「私昔からこういう季節の病気っていうの?弱いんだよね」
「寝るときにちゃんと服着ないから…じゃないん」
ゴミ箱の上の棚に置いてあるポケットティッシュをとり彼女に渡すとすぐさま2枚ほどそこからティッシュを取り出して鼻をかんだ。
「服着るの面倒だから、それはどうしようもないよ」
自分の席に向かいながらどうしようもなくないだろと思った。
「ていうか季節の変わり目とかそれだと大変だね。インフルエンザとか」
「いやインフルエンザはかかったことないよ」
「じゃあ季節の病気ってなんなんよ」
洗った服をロープにかけて少し考えてから彼女は答えた。
「5月病とか?」
「5月病って…」
もっと病気らしい病気が出てくると思っていた僕は左足から力が抜けて転びそうになった。
「しらない?体が重くなって何もする気が起きなくなるやつ。結構つらいんだよ」
「しってるけど…それ病気じゃないんよ。気持ちの問題なんよ」
「えっ。でも『病』ってついてるよ名前に」
彼女は自分のバッグを右肩にかけると僕の椅子に座った。
「通称ってやつなんよ。5月になる精神的なやつだからって」
「じゃあ季節の病気って何があるの?時期とか季節が名前に入ってるのってそれくらいじゃない?」
「うーんたしかにそうかも。花粉症とかそういうのは名前に季節が入ってないもんね」
自分のバッグにライトに水筒、筆記用具などそこまで多くない荷物を詰める。
「花粉症かーあれはそもそも時期がわからないよね。私はあれ春だと思うな。虫とか多いしすごい飛んでそう」
「やっぱり人によるんじゃない?僕の知り合いには1年中花粉症って人もいたくらいなんよ。ずっと目薬持ってたりしてたな」
「ていうかそっちはなんともないの?一緒に寝てるけど」
彼女を見るとの口元にクリームが付いていた。いつ開けたのか、その手には売店で買ったと思われるメロンパンがあった。
「うーん。僕のほうはいたって普通なんよ。そこまで病気する方じゃないからね」
僕が自分のバッグを持ち上げるとそれと同時に彼女も立ち上がった。
「いやーそんなことないでしょー。いつもなってるじゃん」
教室のドアを開けて彼女が先に外に出た。
「いつも?別に特に体調悪かったりとかはしないけど」
「中二病」
核心を突かれて動揺したのか僕は教室のドアの段差に躓いて派手に転んだ。