僕と娘と写真の君との夏祭り
※なろうラジオ大賞4投稿作品。
初応募。初めて書いた小説なので、温かい目で読んでいただけると幸いです。
「たっだいま~」
と真っ暗な部屋に娘の元気な声が響く。
電気をつけると、いつものように写真の君が笑顔で迎えてくれる。
「はぁ~楽しかったー」
そういって娘は、浴衣姿の写真の君を元の場所に戻している。
「あ!たこ焼き食べよー」
とキッチンへ行く娘。
ふぅーと、一息つき、寝転がった僕は、君を下から眺める。
写真が趣味の僕のベストセレクションの数々。娘と君の色々な場面が収められている。
「はい、パパの分」
と分けたたこ焼きを持ってきてくれた。
「はい、ママにもね」
と君の前にも置いている。
美味しそうに、大きなたこ焼きを口いっぱいにつめている娘。
「花火きれいだったねー」
と夏祭りの話をしていた。
楽しい思い出になってよかったと、ほっとする。
昨今の状況下で、3年ぶりの開催となった夏祭りは、君がいなくなって初めての夏祭りだった。
娘はいつものように元気にはしゃいでいたが、僕は正直、娘の隣にいるはずの君の姿を思い出しては、なんだか寂しい気持ちを抱える。娘には悟られないよう平然を装い、いつものように娘の姿を写真に収める。
~ヒュ~ドーン~
花火が始まった。久しぶりの花火はやっぱり綺麗だった。
しばらく2人で花火を見ていたが、娘が口を開く。
「ねぇーパパ、ママにも花火見えてるかな?」
「3人で見たかったなー」
と言う娘の瞳からは涙が溢れていた。
思わず娘を抱きしめ、背中をポンポンする。
「そうだなー、空からは、めちゃくちゃ大きい花火が見えてるんじゃないかな、なんかずりーな」
と言う僕も、声がうわずり、泣きそうになるが、精一杯明るく振る舞う。
「形は変わってしまったけれど、ちゃんと3人いつも一緒だからな!」
と娘に声をかけ、写真の君を娘に渡す。
それからは、写真の君も一緒に3人で夜空を見上げ、笑顔で楽しめた。
「う~ん~ パパ、ママ次はかき氷食べよ~」
と娘の寝言で、回想の世界から引き戻された。
夢の中では3人の夏祭りを楽しんでいることだろうなと思いながら、娘の髪をそっと撫でる。
「君が命をかけて守ってくれた、僕たちの宝物はちゃんと大きくなってるよ」
と写真の君に話しかける。
もうすぐ10歳になる娘、いずれパパなんてと言われてしまう日は、まだ想像したくない。
今度は写真の君も連れて、何をしようかな。
形は変わってしまっても、僕たち3人の日常は続いていく。