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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

伝説の剣はメイドに変形しますが使えません  2

作者: MAYAKO

2 です。

1 もよろしくお願いします。

 今日もD.ルイワは薬草摘みである。

 昨日も摘んでいた。

 たぶん、明日も摘んでいるであろう。

 恐らくその次の日も。

 薬草摘み、ギルド依頼の大切な仕事だ。


 広々とした平原、吹き抜ける風、雲の隙間より覗く太陽。

 遠くに見える森、小川のせせらぎ。


 彼の横には伝説の剣、メヘイド・ケイン・愛染・メイドバージョン。

 薬草摘みに専念しているご主人様の後ろを、ぴょこぴょこ歩いてついてくる。

「あついですねぇご主人様」

 

 伝説の剣を手にして、なんで薬草摘み?

 活躍の場、おかしくね?

 ダンジョンは?

 討伐は?

 

 しかしルイワにとって、華々しい活躍よりも、今日のご飯が大事である。

 人間、食べないと死にます。

 お金がないと、サキュバスのおねーちゃんやダークエルフのお姉さんに会えません。

 夜の街の薄暗い照明の下に生息する彼女たちは、お金がないと会ってくません、微笑んでもくれません。一緒にお酒を飲んでくれないのです!

 時には*****(自主規制)を***(自主規制)したりしますが、そんなこともできません。


 ルイワは思った、世の中金だ。


 ぷちぷちと薬草を摘むルイワ。

「手伝え」

 ぷちぷち。

「どれが薬草か分かりません」

「それでも伝説の剣か?薬草摘みもできぬとは、使えんな」

 ふっと鼻で笑うルイワ。

「え~っ私職業『剣』ですよぉ、薬師ではありません」

「俺だって職業は冒険者、分類上は冒険界―闘門―人網―武人目―戦士属―剣種―剣士だ」

「……すみませんご主人様、もう一度言ってください。覚えきれません」

 ぷちぷち。

「二度も言わすな、俺も覚えていない」

 ぷちぷち。

「ご、ご主人様てきとー過ぎますっ!」

「あん?たりめーだ。人生てきとー、俺の座右の銘だ、これは覚えられるな?」

 ぷちぷち。

「あの、ご主人様」

「なんだ?」

「お、お手伝いします。私にも摘み方、教えてくださいっ!」

 チラリと一瞬見るルイワ。

「いいけど」

「お、お願いします。この白い小さな花を摘むのですか?」

 見よう見まねで白い小さな花に手を伸ばすメヘイ・ドケイン。


 パシッ!


「え?」

 伸ばした手は、ルイワに摑まれる。

「まだ何も教えてはいない、かってに1年を摘むな!」

「え?え?」ご主人様、目がマジだ。

「薬草摘みを、簡単に考えてもらっては困る」

 私の手を摑んだ!?推定1兆馬力、最低使用剣技レベル50の私の手を!

 レベル3のご主人様が?!

 

 ぱこん。


 次は頭をはたかれる。

「うぎっ!ご、ご主人様がぶったぁ!」

「ちゃんと人の話を聞いているか?教えてくださいと言ったのはお前だぞ?」

 ご主人様、目がマジだ。

 手伝え、と言ったのはルイワだが、もう忘れている。

「はい、しくしく」

「これはニガニガ草という2年草なのだ。2年で枯れる薬草なのだ」

 腰袋から一本取り出して見せるルイワ。

 それは20㎝くらいの植物で、先端に白い小さな花が咲いている。

 葉は細く、ひっそりとした感じだ。

(はい、そこの読者さん正解。モデルは当薬、センブリです)

「ふんふん」

「効能は主に胃腸関係だな。二日酔いにもいいし暴飲暴食、胃もたれにもいい。あと健康促進か?使い方では脱毛にも少々効果がある」

「ふんふん」

「夜通し馬車を走らせる時など御者は眠気覚ましにこれを噛むのだ」

「え?そのままですか?」

「そうだ、するとあまりの苦さに目が覚めるそうだ。ま、乾燥はさせるがな」

「ふんふん」

「貴重な薬草だから、みんな欲しがる。アホな採取者はあるだけ全部摘んでいく。すると来年は無い」

「!」

「人は欲の塊で自分のことしか考えないから、みんな摘んでいくのだ(ルイワ目線)俺は植物大好き人間だからそんなことはしない、2年目だけを摘み1年目は残す」

「!」

「するとまた来年、ニガニガ草の恩恵が受けられるのだ。今年の一年生は来年2年生になり、周辺にまた新しいニガニガ草が生える」

「ご、ご主人様!凄いです!」

「いいか、2年生は大きくて茎が硬い、1年生は小さくて茎が柔い、よく見て摘めよ?いいな?」

「はい!」

 

 メヘイド・ケインは嬉しそうに薬草を摘む。大好きなご主人様の背中を見つめて。

 ご主人様の役に立つ!それが嬉しいのだ。


 ちょっとお二人さん?剣と剣士の話はどうなりました?伝説の剣が薬草摘んでていいの?使い方、それでいいの?いや摘んでもいいのだが、活躍の場、違ってね?

 そう、間違っているのだ。D.ルイワは薬師になるべきなのだ!その豊富な薬草の知識、採取だけではなく育成繁殖、またその薬草に繋がる昆虫、動物の生態、王宮薬師を軽く凌駕する知識を有しているのだ!

 しかし彼は冒険者の道を選んだ。

 それも戦士職の剣士。死亡率№1の職業だ。

 なんで冒険者に?

 いやぁ俺にむいているかなぁと思って、彼は言った。そう、彼は気づいていない、その能力に。

 世の中には自分の能力に気づいていない者が多くいる。彼もその一人だった。


「どうしたのですか?ご主人様?」

「声がしなかったか?」

「いえ、メイドイヤーに反応はありません」

 なんだそれは?とは、つっこまない、D.ルイワはそんなヤツだ。

「女の子?女性の声だ、綺麗な声だ。骨格がいいな、頭蓋骨がいい、歌手に向いているな。身長は168㎝、体重はちょっと重いか?」

「ご、ご主人様?なにを?私には何も聞こえま……!」

「どっちだ?方向が分からん」


 焦り出すルイワ。

 そうルイワは、耳はいいが方向音痴なのだ!


「6時方向!エルフ族が2人、ゴブリンの声もします!ゴブリン3匹!ご主人様!」

「行くぞ!メヘ!」

「はい!」

 声のする方向へ猛ダッシュする二人。


 メヘイド・ケイン心の声。

 女の子の悲鳴!ゴブリン!救出に向うご主人様!

 ああ、このお方が我が主!とメヘイド・ケインは感動し酔いしれた。

 助けを求める者に、必ず駆け寄る!

 これぞ剣士!これぞ戦士!まさに騎士!我が主!


 D.ルイワ心の叫び。

 女性の悲鳴、この声!艶のある哀愁に満ちた声!この独特の声の響き!絶対ダークエルフのおねーちゃんだ!格好良く助けて、おねーちゃんとわはははっとは考えていない、ルイワは考えていない……はず。


「わははははっ!!!!」

「ご、ご主人様?ご主人様のウォークライは笑い声みたいです?」

「わはははははっ!!!」

 もはやメヘイド・ケインの声は届かない。

 彼の頭の中は、見目麗しき艶のあるダークエルフおねーちゃん一色である。

「わはははははっ!!!……は?」

 彼らの目に映ったのは、倒れた女の子と明らかに子供用の弓を構える小さなダークエルフ。


「お、おねえちゃん!おねえちゃん!逃げて!逃げて!」


 襲いかかる3匹のゴブリン!

 突然止まる、ウォークライ。

 

 ……おねーちゃんが違う。


 ルイワにとっての、おねーちゃんとは、一緒にお酒が飲めるか飲めないか、である。

 飲酒年齢に到達していない者は全て子供、と判断する。


 そして孤児であるD.ルイワは自称、全ての子供の守護者である。


 子供の頃、街を襲った魔族の群れ。

 D.ルイワは一人生き残った。

 子供一人、生き抜くにはこの世は地獄だ、とは考えない。どうにかなる、と思い今まで生きてきた、そして今日も生き抜いている。

 

 D.ルイワはそんな男だ。


 距離がまだある!このままでは間に合わない!

「メヘ!モードチェンジ!」

がちょんがちょんがちょんがちょん!

 メヘイド・ケインは幅広の大剣に変形する。

 その剣をむんず、と摑み!

「あん!そ、そこは……突撃ですね!ご主人様!」

「ああ、行ってこい!」

「へ?」

ルイワはおもいっっっつつつつきり、伝説の剣をゴブリン目掛けて投げつける。

「ご、ごしゅじんさまあああああああああああ」

 なんでぇえええ!と悲鳴を上げながら飛んでいく剣。

 わたし剣なんですけどおおおおおぉぉぉぉっ。


 ばちこーんとゴブリンにヒットする伝説の剣。

 ヒットと同時にメヘイド・ケインは質量増減の異界法則を使い、自重を数千倍に増加させる。

 メヘイド・ケインはご主人様に合わせてその形、質量、重心を変える。

 ご主人が一番使いやすい剣に、その姿を変えることができるのだ。

 巨人族がご主人様ならば巨大に、フェアリーがご主人様ならば小さく。

 変化自在の名刀、それがメヘイド・ケイン・愛染である。


 プチッ。


 ゴブリンは自重、数トンの剣と共に大地にめり込み、プチッと潰され退治される。


 残2匹。


 虚を突かれたゴブリンに、一気に詰め寄るルイワ。

 大地にめり込む伝説の剣を軽々と引き抜き、真横に薙払う!

 

 ばちこーん!


「んぎっ!い、い、痛いですうっぅぅぅ!!」

 悲鳴を上げる剣、吹っ飛ぶゴブリン!

 

 剣とは?

 

 そのカオスな状態を、呆然と見つめるダークエルフの少年。

 

 そう、前作を読まれた尊い読者様はご存じで、先程も書いたが伝説の剣メヘイド・ケインは使用剣技レベルが設定されている。最低使用剣技レベルは50、ルイワはレベル3である。

 

 したがってルイワはこの伝説の剣では何も切れない。

 はい、大根1本切れません。


 残1匹。


 残りの一匹は、素早く強かった。

「ご主人様!彼、ポイズン・ゴブリンです!」

「彼?知り合いか?」

「は?知りませんよ!ゴブリンに知り合いなんていません!」

 紛らわしいんだよ!とは言わない、それどころではないのだ。

 このポイズン・ゴブリンは動きが速く、その毒が滲み出る長い爪で連続攻撃を仕掛けてくる。

 手数が多いのだ。


 キン、キンッと剣で爪を弾くルイワ。

 キン!

「あん」

 キンッ

「やだ!」

 キン!

「だめ!」

「おい、楽しんでいないか?変態ナマクラ!」

「じ、冗談ではないですっ!あの爪!ちくちくして気持ち悪いですっ!早くぶった切ってください!」

「むーりーだーろー」

「どーおーしーてー」

「剣豪でレベル10、剣聖で40だぞ?50なんて、称号すらないレベルだぞ!」

 その時、ダークエルフの子供が放った矢が、ポイズン・ゴブリンに突き刺さる!


 勝機!


 力を込め、伝説の剣を振り抜く。


 ばちこーん!


 ポイズン・ゴブリンに深くめり込む剣。

 ふとルイワは思った。ん?剣、曲がった?

 振り抜かれた剣はポイズン・ゴブリンを彼方へ吹飛ばす!

「ぐげっええええ!」←ポイズン・ゴブリンの断末魔。

「ぐげっええええ!」←ひん曲がった伝説の剣の涙の悲鳴。


 残0匹、勝利である。


「大丈夫か?」


 !!!ご、ご主人様がわたわたわたわたしに私に、大丈夫か、と……。

「だ、大丈夫です、一日もあれば元に戻り……」


「怪我をしているな、これは酷い。ポイズン・ゴブリンの爪か」

「お、おじちゃん!おねちゃんを助けて!」

 ………………………………………ま、私の扱いはこの程度か。

 …………………………ええ、ええ、知っていましたとも、しくしく。

「小川が近くにある、そこで治療しよう。メヘ、モードチェンジ」


 がちょギギギがちょんガガガガがちょメリメリがちょん!


「ん?どうした?」

 明らかに不機嫌なメヘイドケイン。

 腕や脚が、少し変な方向を向いているからだろうか?

 私だって頑張ったのに。と顔に書いてあるようにも見える。

「この子を小川まで頼む、おれは毒消し草を探してくる。小川付近は崖が多いからミスるなよ?いいな」


 太ももの傷口を見て猛反省するメヘイドケイン。


 腐食が始まっているのだ、このままでは数分で死に至る。

 傷口は緑色に変色し、腐臭を漂わせている。

「おじちゃん、おねえちゃん助かるよね?」

「ああ、助かるさ。心配するな。メヘ、ズボンを破り、脚を洗っておけ、いいな」

 そして少年はメヘイド・ケインを見る。

 剣に変形するゴーレム?ゴーレムに変形する剣?

 その目には明らかに光り輝き、尊敬の眼差しを送っていた。

「大丈夫です。私と、私のご主人様にお任せを」

 メヘイド・ケインは少女を優しく抱き上げ、小川へと向う。

 

 時間が無い。早いところ毒消し草を見つけなければ。

 ポイズン・ゴブリンの毒は特殊で厄介だ、普通の毒消し草では解毒できない。

 しかしルイワは焦らない、急ぐだけだ。

 山の地形、季節、陽の当たる位置、月の光に照らされる場所、風、今年の雨量、そのほか全てを脳内でまとめるルイワ。

 一直線に進み、大木と岩影が重なるところで、毒消し草の群草を一発で見つける。

 すぐに小川まで戻り、3人を見つけ治療を開始する。

「傷口は洗ったか?」

「はい」

「これを磨り潰せ、できるだけ細かく」

「え?え?」

「川の石を使うんだ」


 使えないメイドだ、とは思わない。

 初めての作業で完璧にできるヤツなど一人もいない、ルイワは知っている。

 だから怒らない、馬鹿にしない、ルイワはそんな男だ。

 磨り潰した薬草を傷口に塗る。

「お前、魔力が使えるだろう?この薬草を強化するんだ」

「え、え?ぼ、ぼく?」

「そうだ、このままでも治るが、傷跡が残る。ダークエルフならば強化魔法使えるだろう?この薬草を極限まで強化するんだ。俺が処方した毒消し草と、傷薬だ。必ず効くしお姉さんは治る」


 ダークエルフの男の子は右手を腐敗した傷口に添え、震える左手で、おねえちゃんの手を摑んだ。右手から流れ出た魔力は薬草を強化し左手に戻る。戻った魔力は更に強化され傷口の薬草と傷ついた細胞を癒やし左手に戻る、初歩の循環魔法だ。

 暫くすると、少女の青い顔色は赤みを増し、浅く早かった呼吸も落ち着いてきた。

「ご、ご主人様凄いです」

 そうか、そうか、俺は凄いか、とルイワは思わない。ルイワは魔法が使えないのだ。

 魔法が使えれば、世界でも稀なヒーラーが誕生していただろう。


 あと一つ、条件が揃えば、それを成し遂げたであろう。しかしそれが無かった。世の中のあるあるだ。


「おい、少年」

「は、はい」

 緊張するダークエルフの男の子。

「頑張ったな。で、お前、なんであんな場所にいた?」

「そ、それは……」

「これが欲しいのか?」

 そう言ってニガニガ草を見せるルイワ。

「!」

「半分だけだ」

 ニガニガ草を半分渡すルイワ。

 何故欲しいのか聞かない、ルイワはそんなヤツだ。

「メヘ、モードチェンジ」


 がちょんギギギがちょんガガガガがちょんメリメリがちょん!


「ん?壊れた?使えん伝説の剣だな」

「ひ、酷いです!ご主人様の使い方がダメダメだからです!それに私は形状記憶超合金、ヒヒイロカネでできていますから、ちゃんと治ります!」

「多少ひん曲がっても、自然に治ると?日本刀みたいだな」


 すっとメヘイド・ケイン構えてみるルイワ。

 それを尊敬の目で見るダークエルフの少年。

「ん?」

 違和感を覚えるルイワ。


 突然降ってくる矢の嵐。


 その正確無比の矢はルイワの身体を貫く


「ぐっ」

 転がり剣で矢を防ぎ、弾き、子供達と距離をとるルイワ。

 メヘイド・ケインは瞬時に幅広の剣に形を変え、盾のようになり矢を弾く。

「ご、ご主人様!これは!」


 右足に2本、左肩に1本、貫かれた矢から赤い血が流れ落ちる。

 メヘイド・ケインにも数本刺さっている。

 え?私に矢が刺さる?


「じゃぁなガキ共」


 転げ回り、血だらけになりその場から離れ森に逃げ込む。


「……メヘ、モードチェンジ、俺を運べ」


 ギギギギッ!


「ごめんなさい、ご主人様、歪みが酷くて……矢が抜けなくて、ごめんなさい、ごめんなさい、メイド・モードになれません!」

 

 使えない伝説の剣だなぁ、と、ルイワは考えない。


「そうか……ま、俺の手首を守るため、曲がったのだろう?しかたないか」

「ご、ご主人様……」

 切れない剣は、負担でしかない。

 肩、肘、手首、膝、腰、足首、全ての関節、全身に負担をかける。


 手首など軽く骨折する。


 メヘイド・ケインは自身が折れることで、ご主人様を守った、つもりだった。

「あの矢はいったい、なぜ私達を?」

 ルイワは意味を求めない。おそらく剣を構えたのが原因だろう。

「戦場で、間違って仲間に切られる、よくあることさ」

「そ、そんな!」

 刺さった矢に意味を求めるより、生き延びることを考える。

 ルイワはそんな男である。


 それに、今夜は約束があるのだ。

 ニガニガ草クエスト報酬、銀貨2枚。

 一枚は美味しい焼肉食って、うほほほほ~い!

 一枚はサキュバスおねーちゃんのお店で古酒を飲み、わははははっ!

 前回の傷が治り、やっと動けるようになったのだ!

 今夜、店に行くと約束したのだ。

 矢の2、3本、刺さったくらいで立ち止まるわけにはいかない。

 焼肉と彼女の笑顔(営業スマイル)が待っているのだ!


 ときに欲望と執着は、人を強くする。


 どのくらい歩いたか?方向音痴のルイワは今ここがどこか分からない。

 追っ手は感じられないか?

 まあ崖から3回ほど落ちたのだ、追跡は無理だろう。

 出血と発熱、剣を杖として進むルイワ。

 意識が遠のく。


 そして思い出される朝の風景。


 いいドラゴンの肉が入ったんだ、食いに来ないか?気のいい焼肉屋のオヤジ。

 はい、いきます。肉、お肉、焼肉!

 

 あら?お久しぶりね?他の街(遠い遠い帰ってこられない世界の隠語)へ行ったのかと思っていたわ。

え?銀貨1枚!?いい古酒があるのよ、今夜いらっしゃい、ニッコリ。

 いきます!ルイワ、行きます!


 以上朝の風景終。


 しかし、もう限界のようだ。

 その時。

「ルイワ?」

 森の中で知り合い、いたか?

 森?どこだここ?

 その声はどこかで聞いたことのある声。

 カラン、滑り落ちるメヘイド・ケイン

 ルイワは静かに倒れた。


 目が覚める。

 ルイワは思った。

 知らない天井だ。

 いや、ホントに知らないぞ?どこだここ?

 何日過ぎた?

 焼肉、間に合うか?ああ、サキュバスおねーちゃん、怒っているかな?

 ん?身体が動かん。

 身体はマミーみたいにぐるぐると包帯に巻かれ、目しか動かない。

 俺、生きてる?

 デジャビュ?(前回参照)

 目に映るモノで判断する。ここは……分からん、民家?

 小さな窓、ガラスは割れ板が打ち付けてあり、外はよく見えない。

 破れたカーテンには沢山の落書きや、当て布が目立つ。

 ここは?かなり狭い部屋だな?

 ん?家具は質素だか綺麗に清掃してある。あ、花瓶だ、コスモスか。ドレッサーがある?女性の部屋か?子供の声?多いな……多すぎる!20人以上はいるぞ!?学校か?ああ、ここは孤児院だ。


 衣擦れの音がする。


 目を動かすと、そこには一糸纏わぬシスターが……いた。


 え?いるの?


 ルイワに背を向けお着替え中のシスター。

 うわっウエストほそっ!蜂ですか?とかルイワは思わない。

 その優しく動く背中を見つめるルイワ。

 シスターの背中には、大きな火傷の痕があった。

 2年前、魔物の襲撃で孤児院が焼けたときの傷だ。


 治療したのはルイワである。


 俺に魔法が使えれば、この傷は残らなかった。とかは思わない。

 ふ~ん、ブラってああやって付けるんだ。パンツはく仕草はヤローと同じか?


 一瞬で元気になるルイワ。


 今、メヘイド・ケイン(推定1兆馬力)に殴られても全然痛くないだろう。

 コンコン、ドアをノックする音。

「誰だ?」シスターが問う。

 その声は低く、聞き取りにくい。

 火事の時、喉や肺、声帯も焼けたのだ。

「私ですシスタールジー」

 幼い可愛い声。

「ドクターミンミンか、入っていいぞ」

 カチリッとドアを開け入ってきたのは、自称天才医術士のミンミンだ。この小柄な女性はよく子供に間違えられる。孤児院で子供達と遊んだりすると、同化してしまい居場所が分からなくなったりする。しかし医術士、ヒーラーとしての彼女はとても優秀で、歩く蘇生教会と言われている。


 そして彼女の父親は薬神と呼ばれる薬師で、子供のルイワに薬草の知識を授けた人物でもある。


 お前に、魔法が使えれば……薬神の口癖である。


「あ、ごめんなさい!お着替え中でしたか」

「いい、気にするな。子供達と釣りをしていたのだが、足を滑らせてね」

「シ、シスタールジー駄目ですよ、ルイワさんが起きていたらどうしますっ!」

「は?こいつは弟みたいなもんだ、火傷の時も散々裸に剥かれて、いろんなことされたしな。身内だ身内!」

 切れ長の目、薄く鋭さのある唇、引き締まった体躯、黒豹を思わせる容姿だ。

 そのシスタールジーがルイワを弟と、言う。

 こいつは弟……こいつは弟……ルイワは年上のお姉さんに、弟扱いされるシチュエーションに少し……いや、かなり萌えた。


「弟、ですか?私はお兄ちゃんですね、駆け出しの私に良質の薬草、いつも採ってきてくれますし。お兄ちゃん、お金はいらないって言うから、最近はギルドを通して頼んでます」

 お兄ちゃん……お兄ちゃん……ルイワは妙齢の女性から、お兄ちゃんと呼ばれるシチュエーションに少し……いや、かなり萌えた。


 ここは天国かっ!


 がちゃ。

「ご主人様~起きてますかぁ包帯変えますねぇ」


 気分は一気に霧散する。


「ああ、ご苦労」

 ぶっきらぼうに返事するルイワ。

「え?お兄ちゃん、おきていたの?」

 意識が戻ったことを、素直に喜ぶドクターミンミン。

「あ?ルイワ、起きていたのか!?」

 見たのか?私の着替え?氷の瞳で睨むシスタールジー。

 ちゃっちゃっと慣れた手つきで包帯を変えるメヘイド・ケイン。

「明日には動けますよ」優しく微笑むドクターミンミン。

「金貨1枚ってところか」

「え?お金はいいよ」

「ドクターミンミン、プロなら金を取れ。当然の報酬だ」

「……薬草は?」

「う」返事に詰まるルイワ。

「ルイワ、借りにしておけ」

 すかさず助け船を、両方に出すシスタールジー。


 ルイワは密かに大人の女性ポイントを一つ、ルジーにスタンプした。


「ここの宿代は?」

「日頃の寄付で無しにしてやるよ。子供達が心配していた、元気になったら一言、いいか?」

「心配したのはシスタールジーもですよ、お兄ちゃん。森でキノコ狩りをしていたら突然……」

「ミンミン、その辺で……」

「もう泣いて、叫んで大変だったんだか……!」


 ギヌロ!


 シスタールジーの魔物のような睨みに、思わず口籠もるドクターミンミン。

「メヘ、包帯上手いな?どこで覚えた?」


 ギヌロ!


 シスタールジーの魔神のような睨みに全く気がつかないルイワ。

 ルイワはそんな男である。

「ルジー」

「ななななんだ」

「助けてくれたんだな、ありがとう」


「……」


 ぽろぽろ。


 とんでもなく大きな涙が、その切れ長の目からボタボタと落ちる。

「子供達も心配したんだ、お前は!お前は剣士に、冒険者に向いていない!すぐやめろ!これ以上皆を泣かすな!本当に死んでしまうぞ!」

「やだ」

「子供じゃないだろう!」

「だめだ、その話は前もした。俺は止まれない」

「……馬鹿者」


 ルイワは馬鹿者である。


「それより、なぜここに運んだ?他の部屋でもいいし、ドクターミンミンの診療所でもいいはずだ」

「!」

「そ、それは……」

 違和感を覚えるルイワ。

「メヘ、状況報告できるか?」

「はい。完全武装したダークエルフ50名が大剣の戦士を探しています」

「なんだそれ?」

「その一味はダークエルフの村の井戸に毒を落とし、村の宝の石を盗んだそうです」

「石?」

「おそらく金剛石です」

「俺、もしかして犯人?」

「「ちがうの!」」


 綺麗にハモるシスタールジーとドクターミンミン。


 俺、疑われて、ここに隠されていたのね……人望無し?とルイワは考えない。

 まあエルフの矢が刺さっていたんだ、しかたあるまいと思った。


 その夜、ルイワはメヘイド・ケインに聞いてみた。

 俺のこと話した?犯人とは、ちゃいまっせーとか?

 するとメヘイド・ケインは言った。


 いえ、ご主人様の個人情報は一言も漏らしません。守秘義務です。


 ぷち。


 はあああああああ?時と場合によるだろおおっ!このなまくらああああっ!街中皆が俺のこと疑ってんだぞおおおおお何考えてんねん!何考えてんねん!もうひとつなあああにかんがえてんねん!ちがうだろおおお俺はたすけたんだよおおおおい!ちびちゃんをおお!薬草もただで、ただであげたんだよおほほほい!なんで痛い目に遭って、隠れなきゃあかんねん!おかしいだろおおおおっ!!!犯人は他にいまっせ~だろうがっ!!


 とは言わない。ルイワは過ぎたことには諦めが早いのだ。


 そうか、の一言で終わった。


 そして次の日、犯人が見つかる。

 それは孤児院の皆に礼を言い、敷地を出るときだった。

「まだお家にいてよ、ルイワお兄ちゃん!」

「いろいろあるからな(焼肉、サキュバスおねーちゃんと古酒)また来るよ」

「約束だよ!」

「!」

 

 二人の冒険者とすれ違うルイワ。


 一人は大剣を装備し、一人は直刀だ。

 二人ともマントで身を包みその表情は見えない。

「ん?」ルイワの鼻が動く、ぴこぴこ。


 かすかなダークエルフの匂い?それと、このハーブ臭は?毒草だ!


 徐にメヘイド・ケインで二人をぶったたく!


「うごっ!」

「っぎゃっ!」

 不意を突かれそのまま倒れる二人。

 その腰袋から零れ出る大量の金剛石。

「これは!」驚くシスタールジーと子供達。

「うわ~綺麗な石!」

 そしてルイワは袋の中に、とんでもないモノを見つける。


 小さな龍の鱗。


「ミンミン!足、早かったよな?」

「?」

「ギルドに走れ、龍の鱗だ、それも子供の!騎士団要請だ!」

「!」

 猛ダッシュで走り出すドクターミンミン。


 緊急事態である。


「ルジー、子供を連れて街へ行け急げ!」

「どうかしたのですか、ご主人様?」

「龍の鱗は高く売れる。ただし抜け落ちたモノに限る。これは子供の龍から剥ぎ取ったものだ!親が怒り、取り返しに来る。二度と起させないように、見せしめで街一つ焼かれるぞ」

「えええっ!」

「このばかども!」

 倒れた二人を蹴りつけるシスタールジー。

「そんなやつらほっとけ、早く街へ」


 バリバリ。


 上空から鱗の擦れる音がする。

 ルイワはため息をつき、空を見上げる。

 そこには巨大な龍が浮いていた。

 あ、終わった、とは思わない。まだ終わってないからだ!


「そこにいる二人が犯人だ。好きにしていいから他は許せ龍」

「……」くいっくいっ。


 頭を横に振る龍。


「子供の鱗は1枚だ、生きているんだろう?こいつら二人で許せ」


 両手で器用にサムズダウンする龍、くいっくいっ。


「子供にちゃんと教育したか?危険な人間もいると、危ない場所とか、時間とか?人間は弱いとか、なめていなかったか?大事な子供、ちゃんと見ていたのか?目を離したのではないのか?」


「我にも責任があると?」


「無いと言い切れるのか?」


 自称、全ての子供の守護者である、D.ルイワ。もちろん龍の子供も含まれる。


 徐に業火を吐き出す龍。


「メヘ、巨大化!」

 孤児院よりも大きくなるメヘイド・ケイン!

 全身でその業火を受け止める。

 悲鳴を上げる子供達。

「きゃあああ」

「ちびども!ルジー集まれ!剣に寄れ!焼かれるぞ!」

「あちいいいいいいいいっアチ!アチ!アチ!あついですうううぅううっっ!」

真っ赤に染まるメヘイ・ドケイン!

「メヘ頑張れ、お前だけが頼りだっ!」


 メヘ頑張れ、お前だけが頼りだっ!メヘ頑張れお前だけが頼りだお前だけがお前だけがお前だけが×∞


「は、はい!がんばり………む、むりですううあちいいいいですうううう」

「せめて騎士団が来るまで頑張れ!」

「いつ来るですかあああっ騎士団はああああっ!アチ!あち!あちいいい!」

「申請後、およそ2日で来る!」


「むーりーだーろー」

「がーんーばーれー」


「無理です!駄目です!あきませんです!なに言っているですかぁあああ」

「根性みせろ!」

「んなもんありませんですぅ!」


 業火の激しい音に紛れ、聞こえてくる足音。

 その数およそ50人。


「あ」


 その数字に、覚えがあるルイワ。

 ずらりと並ぶ完全武装したダークエルフ50名。

 一糸乱れぬ動きで弓をかまえる50名。


 駄目だ、子供達、ルジーが巻き込まれる!

 問答無用で放たれる矢。


 くそっ、何が子供の守護者だ!何もできないではないか!

 なぜ俺はこんなにも無力なんだ!

 次々に刺さる弓。


 悲鳴を上げ龍。


「は?」固まるルイワ。


「龍よ、悪しき人間は焼かれて死んだ、もうよいであろう?その者達に罪は無い。これ以上は龍の名折れである」

「……」

「まだ抗うか?なれば、ダークエルフ代々伝わる最強の弓、メヘイド・ケイン・大威徳・2番艦がお相手いたす」

「え?」思わず声が出る愛染。


「ダークエルフの長よ、我に弓を引いたな」


「火の龍よ、我が恩人に火を吐いたな」


 殺気が場に満ち始める。


「チッ……今日は去るとしよう、愛染の持ち主よ、よい友を持ったな」

 龍はふっと空に溶け込み消え去った。

 同時に子供の鱗も消え去る。


「娘が世話になった、まさに命の恩人だ。しかしその者に確かめもせず、弓を引き、傷を負わせるとは、痛恨の極みだ許せ」

「気にするな、こちらこそ助かった。ありがとう」素直に言葉が出るルイワ。


 ありがとうエルフさん!と口々に感謝を述べる子供達。


「長、宝物はみな回収しましたぞ」

「そうか、今日は去る、日を改めて挨拶に来る愛染の持ち主よ」

 そう言い残しダークエルフの一軍は去って行く。

「メヘ、動けるか?」

「放熱中です。明日の朝まで無理です」

「頑張ったな、ありがとう。俺はギルドに顔出ししてくる」

「は、はい!」


「おいルイワ」

「なんだシスタールジー?」

「あの二人、よく犯人と分かったな?」

「ああ、ハーブとエルフの匂いがしたからな」

「え?たったそれだけで判断したのか!?間違っていたらどうする!」

「ん?その時は更にぶったたいて黙らせるか、ごめんなさいと謝るかだな」


 絶句するシスタールジー。

 猪突猛進のルイワは、そんな男である。


 ルイワはポケットの中のニガニガ草を握りしめギルドに向う。

 銀貨2枚ぃ~焼肉まだ残っているかなぁ~サキュバスおねーちゃん、怒っているかなぁ~。

 色々なことが起こったが、ルイワは気にしない。

 今は肉と古酒とサキュバスおねーちゃんである。

 D.ルイワはそんな男である。


 伝説の剣は切れなくても、活動するだけで世界が変わる。

 ただ持ち主は苦労するが。

 ルイワはそのことに薄々気が付き始めた。

 だが気にしない、D.ルイワは……。


 伝説の剣はメイドに変形しますが使えません 2


    おわり



次回予告


冒険者ギルドに依頼が届く。


その依頼は身体に刺さった矢を引き抜き、治療してくれ、とある。

依頼主は火の龍。報酬、龍の鱗1枚。

さらに依頼書の裏には、断ったら火の海ね、と走り書きされていた。

冒険者ギルドは国王に報告し、D.ルイワは国王に指名される。

龍の鱗1枚+超法規的報酬金、金貨10.000枚に目が眩み、わはははははははっと引受けるが……?

ドケチで有名な国王、治療が終わったら冒険者は事故に遭い、死亡するシナリオ。

世の中、謀略がいっぱいだ!

ルイワは?メヘイド・ケインは?

というお話を考えております……年内投稿予定ですが、できなかったらスミマセン、気長にお待ち下さい。





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