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彼女の家に御訪問

「じゃあ行ってくるよ」

 

「行ってらっしゃい」

 

僕は家族に見送られ家を出た。そう今日はさおりちゃんの家にお邪魔する日である。


着慣れない紺色のスーツに赤いネクタイ、ジェルで頭をオールバックに固めた僕は完全に別人である


高校生にもなって、これではまるで七五三の様なたたずまいだ。


両親に渡された手土産を持ち駅から電車で移動する、昨夜のドタバタでやや眠い


あの【ウリエル】のせいで睡眠不足なのだ、〈移動の電車で少し眠るか〉と考えていたが


その綿密な計画も予想外の展開で水泡に期したのである


電車内でも心なしか周りの人たちが僕を見てクスクスと笑っている様な気がしたのだ


やはり両親の言うことなど聞くのではなかった、あの人達は常識外れなのだ


そういえば美香は僕の姿を見て小刻みに震えていたな


今考えるとあれは笑いを堪えていたのに違いない……


アイツめ〜、わかっていたならばさっさと教えろよな、覚えていろよ


お前がそういう態度をとるのならばこちらにも考えがある


さおりちゃんにお前の悪口を有る事無い事吹き込んでやるからな、覚悟しろ……


僕は送られてきた住所を頼りにスマホのナビでさおりちゃんの家を目指す


高級住宅街の中をさまよい歩きながらようやく辿り着くことができた。


「ここか……でっけえ〜‼」


僕は目の前に聳え立つ豪邸を見上げながら思わずそう呟いた


高級住宅が居並ぶ中でも一際目立つ一軒家、いやお屋敷と言った方が適切だろうか?


どことなくファンシーな建造はさおりちゃんのイメージぴったりともいえる


同じ医療業界とはいえ都内に大きな病院を構えるさおりちゃんの親と


しがない薬剤師の父さんとではこの差も納得せざるを得ないか


建築費に一体いくらかかっているのだろう?


そんなゲスな考えをもってしまうほど目の前の豪邸に圧倒されてしまう僕であった。


建て売りの中古住宅を三十年ローンで購入した父とは天と地ほどの開きである


もしも世間でこれを普通の家というのであれば我が家は単なる兎小屋だ


資本主義における格差社会というものをまざまざと見せつけられた瞬間であった。


「あっ、いらっしゃい、慎吾くん」


呼び鈴を鳴らすと玄関から笑顔で迎えてくれたのはマイハニーことさおりちゃんである


白いブラウスに薄いピンクのロングスカート、頭に付けているピンクのリボンが何ともキュート


まるでシンデレラ城から出てきたお姫様である。


「思ったよりも早かったね、ここすぐにわかった?」


「うん、スマホのナビがあったから……それにしても凄い家だね、びっくりしたよ」


「私は生まれた時からこの家だからよくわからないけれど……ねえ慎吾くん、今日のその格好は……」


言葉を選ぶように申し訳なさそうに聞いてくるさおりちゃん


まるで珍獣を見る様な目で僕を見てきたのである。


やめて、お願いだから、僕の趣味ではないのです。


これは一時の気の迷いというか、若気の至りというか、魔がさしたというか……


ヴァンパイアの僕が〈魔がさした〉というのも何かシュールだな


いや今はそんな現実逃避している場合ではない、何か上手い言い訳を……


「い、いいじゃないかな?たまにはそういう奇抜なファッションも……


ほら、センスのありすぎる人の感覚は常人には理解できないって聞いたことがあるし……」

 

何という無理矢理なフォロー、逆に気を使わせてしまうとは……


ごめん、さおりちゃん。


そして父さん母さん、それと美香、今日帰ったら説教だからな、覚悟しておけよ‼︎


「やあ、いらしゃい、娘がいつもお世話になっているそうだね」


「何もお構いできませんが、ゆっくりしていってね」


さおりちゃんのご両親に初めてお会いした。


さおりちゃんには八歳上のお兄さんがいるとのことなので、ご両親ともにうちの親よりやや年上に見える


だが目の前に立っているだけでその品の良さが伝わってきた。


お父様は、物腰は柔らかいのに威厳があり、威風堂々としている感じだ


お母様はとにかく美しい、そしてどことなくさおりちゃんに似ている


いや僕の母さんも客観的に見れば美人なのだが、その中身の質というかオーラが違う


言い換えればどこかの国の王妃様と場末のキャバクラにいる人気キャバ嬢といったところか?


「は、初めまして、ぼ、ぼ、僕は竜ヶ崎高校二年一組、出席番号二番


沙織さんと同じ【黒板消し係】をさせてもらっています、赤川慎吾と申します


よ、よろしくお願いします‼︎」

 

僕は腰を直角に折り曲げ深々と頭を下げた。


数年後に〈僕にさおりさんをください‼︎〉という予行演習だと思えてきて凄まじく緊張してしまったのだ。


「赤川さんの息子さんなのだってね、彼には二度ほどあったことがあるよ


中々ユニークな人だよね?」


ユニークな人?こう言っては何だが、父さんにユーモアセンスは無い


そんな父さんを〈ユニークな人〉と評するということは……いや、これ以上考えるのはよそう。


「これ、両親からの手土産です、つまらないものですが」


僕はガチガチになりながら緊張する手で持って来た手土産を手渡す。


「あら、そんなお気遣いしていただいて、申し訳ないですね


何かしら、開けてみてもいいかしら?」


「は、はい、どうぞ」


僕の手渡した袋の中から包装紙に包まれた箱を取り出す


正直僕も何を持って来たのかは知らないのだ。


持ってきた重さから、おそらくお菓子か何かだとは思うのだが……


そういえば出かけ際に母さんがこんなことを言っていたな。


〈このお土産はパパとママが大好きな物だから大丈夫よ〉と


まあお菓子で失敗とか無いだろうし大丈夫だろう……


だが僕は自分の両親の感覚を甘くみていた事を改めて思い知った


包装紙を開けたさおりちゃんのお母さんの顔が一瞬強ばる


何だろう?と僕はその中身に視線を移すと、僕の脳天に稲妻が落ちた。


その中身は【まるもなか】という評判の最中であった。


もちろんそれ自体に問題はないのだが、それを


〈どこの誰に渡すのか?〉というのがというのが問題なのだ。


この【まるもなか】は大田区の名物土産としても有名で


テレビなどでも取り上げられているのを見た事がある


だが葛飾区在住の僕達が大田区の田園調布にお住まいの小暮家に大田区名物を持って来たのである


しかもこの【まるもなか】を売っているお店は


さおりちゃんのご両親が経営している病院と目と鼻の先にあるのだ。


これは言い換えれば米を作っている農家にお米をプレゼントするようなモノである。


これがジョークだというのであれば中々にウィットに富んだユニークなセンスと言えなくも無いのだろうが


重ねて言おう、僕の両親にユーモアセンスは無いしここでウケを狙いにいく必然性は皆無である


つまり素でやっているのだ。さっき謙遜で言ったつもりの〈つまらない物ですが〉という言葉を


すぐに回収する羽目になるとは……本当につまらない物だな、おい‼︎


「あ、あら、私達、この〈もなか〉大好きですよ……」


「そ、そうだな、なんやかんやで食べるのは久しぶり……かもしれないな……」


必死に言葉を探しながら何とかフォローしてくれるお気遣いのできる立派なご両親


この優しさがさおりちゃんに伝わり、あんないい子になったのであろう


遺伝の強さというか人格形成には家庭環境が大事だということを改めて知った


さおりちゃんを産んであんな良い子に育ててくれたご両親に感謝である。


それに比べてウチのバカ親はお土産を渡すだけで


さおりちゃんのご両親に気を遣わせるという離れ業をやって退けた


この馬鹿さ加減が僕に伝わらなくて本当に良かった


遺伝や家庭環境に流されなかった僕のメンタルに感謝である


そしてもう一度言おう、重ね重ねウチの両親が本当にすみません……


それから僕は昼食をご馳走になった、そこで僕は生まれて初めて


【特上の鰻重】というやつを食すことになる。


う〜ん、美味い‼僕が今まで食べてきた鰻とは全く別物だ


もしかして母さんがいつもスーパーで買ってくる物は別の種類の魚なのかな?


昼食を済ませようやく少し緊張も解けてきて会話も円滑に進めることができてきた。


さおりちゃんのご両親はとにかく温和で僕に気を遣いながら話してくれる


もちろん今日の僕のこの奇抜なファッションについて一切触れることなくである……


まあ、それはそれで少しむず痒い感じはするのだが。


「ねえ、慎吾くん、私の部屋に来ない?」

 

昼食後の歓談も一通り済ませ、さおりちゃんからの幸せなご招待を受ける


その瞬間、さおりちゃんパパの表情が一瞬強張った


やはり娘を持つ父というのは娘に対して特別な思いがあるのだろう


この辺りはウチの父さんと同じ様で少し微笑ましく感じた。


「沙織、その……何だ、お前はまだ高校生なのだからな


くれぐれも節度をわきまえたお付き合いというものを……」


パパ君は言葉を選びながらさおりちゃんに忠告するが、当のさおりちゃんはどこ吹く風といった様子で答える。


「何を考えているのよ、パパが考えている様なことは無いわよ


じゃあ行こう慎吾くん」


あの、さおりちゃん。〈パパの考えている様なこと〉ってやつを


具体的に教えてはいただけないでしょうか?今後の交際方針に多大な影響を与えると思われるので……

 

僕たちは二階への階段を上がりさおりちゃんの部屋へと案内された。


「私の部屋に慎吾くんが来るなんて不思議というか、何か恥ずかしいね」

 

少し顔を赤めながら招待されたその部屋は白とピンクを基調とした家具やカーテン


ベッドなどでコーディネイトされた、まさに〈ザ・女の子の部屋〉というモノであった。


ベッドの上には大きなクマのぬいぐるみが置いてあり、本棚には数冊の少女漫画が並べられていた


部屋全体も綺麗に整頓されておいてきれい好きのさおりちゃんらしいと改めて感心させられた。


「可愛い部屋だね」


「あまりジロジロ見ないで恥ずかしいから、高校生なのに少し子供っぽいでしょ?」


「そんなことないよ。ウチの美香の部屋なんて、壁と天井にジャニアリーズ事務所の


【スローマン】のポスターが隙間のないぐらい貼られているからね


それに比べたら凄く可愛いと思うよ、男が憧れる女の子の世界だな〜って感じがするよ」


「そうなの、美香ちゃん、【スローマン】が好きなの……」


「ああ、いつも【スローマン】の結成時の事とか、いかにジャニアリーズ事務所が素晴らしいか


とかを自慢げに僕に話してくるよ。こっちにしてみれば本当にどうでもいい話なのだけれど


ちゃんと聞かないとアイツ凄く不機嫌になるからさ、まあ仕方なく」


そんな僕の話を聞いてクスリと笑ったさおりちゃん。


「偉い、偉い、ちゃんとお兄ちゃんしているのだね。


美香ちゃんは慎吾くんみたいなお兄さんを持って幸せだね」


「そうかな?アイツ絶対にそんなこと思っていないと思うけれど


結構僕のことバカにしてくるし」


「それも愛情表現の一種だよ。気兼ねなく言いたい事を言えるのは仲のいい兄弟だからだと思うし」


どこか釈然としないがまあ特に反論する必要性を感じなかったのでそのままスルーすることにした


以前に美香の話をいい加減に聞いていたせいで、後で〈これでもか〉という反撃を食らった覚えがある


その時は僕の人格を否定するような発言もあり、もうコイツの話にダメ出しするとか


いい加減に聞くことはやめようと心に決めたのだ……


とはカッコ悪くて言えなかった。


「ところでさおりちゃんのところは違うの、お兄さんがいるのだよね?」


「私と兄さんは慎吾くんのところとはちょっと違うかな


前にもいったと思うけれど、ウチは八つも歳が離れているせいか


兄さんはとにかく私を子供扱いするのよ。


小さい時はそれでもよかったけれど、中学くらいになってくると


あまり子供扱いされるのは嫌じゃない、だから結構反発していたかな?」


「へ〜意外だね、さおりちゃんの反抗期か、少し見てみたいけれど……」


「反抗期というほどではないけれど、兄さんにはちょっときつく当たっていたかな?


でもどれだけ反抗してもその態度は全然変わらずという感じだったわ


いつも私をからかうような口調であしらわれて……


まあ妹なんてそんなモノなのかな?と思っていたのだけれどね」


へえ~、そうか、やっぱり兄弟と言っても色々違うのだな……


僕がそんなことを考えていた時、〈コンコン〉という部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。


「はい、なあに?」


しおりちゃんがそう返事すると、ドアの向こうから声が聞こえてきた。


「しおり、いるのか?入るぞ」


その声に少し顔をしかめるしおりちゃん、ご両親の声ではないし誰だろう?


と思っていると、その答えはすぐにわかった。


「ちょっと待って、今鍵を開けるから、兄さん」


お兄さん⁉︎今話していたばかりの人物がそこに?しおりちゃんのお兄さんか


ご両親とは違う緊張感があるな……あれ、でもお兄さんって確か……


「さおりちゃんのお兄さんって確か海外に勤めているのだったよね?」


「うん、でも今度日本で仕事することになって、昨日帰ってきたのよ」


「へえ〜そうなの……」


その後も〈コンコン〉というノックの音はし続けた。


「お〜い、まだか沙織?」


「ちょっと待ってよ、兄さん、もう、本当にせっかちなのだから……」


ヤレヤレとばかりに鍵を開けるさおりちゃん、アレ?でも今の声どこかで……


ガチャリとドアが空き、中に入ってきたさおりちゃんのお兄さん。


「何だよ、随分と鍵を開けるのが遅かったじゃないか、着替えでもしていたのか?……


って、おっと、お客さまだったか⁉︎しかも男って……やあ、いきなりすまないね


僕の名前は【小暮翔】という、沙織の兄貴だ。初めまして、よろしく‼︎」


フレンドリーな態度で僕に右手を差し出してきたさおりちゃんのお兄さん


だがその瞬間、僕の顔から一瞬で血の気が引き言葉を失ってしまった


その理由はこのお兄様とは初対面ではないのだ。


なぜならこの人は、ヴァンパイアハンターの中でも選ばれし精鋭【四大天】の一人


昨夜戦ったばかりの相手【ウリエル】だからである。


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