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男らしさの意味

早出の当番で誰もいない教室に到着した僕は同じく早出当番のさおりちゃんを待つ


いつもは生徒で賑やかな教室もこの時間ではガランとした静寂に包まれていてどこかもの悲しさすら感じる


そんな中でさおりちゃんの席をジッと見つめ気持ちを落ち着かせた


そして待つこと五分ほど、ようやく姿を見せたさおりちゃんに早速挨拶をする。

 

「おはよう、さおりちゃん」

 

「あっ、おはよう慎吾君。随分と早いね、あっ、それと昨日はお邪魔しました」

 

ペコリと頭を下げるさおりちゃんは相変わらず可愛い


しかし昨日のトラウマが僕の頭を過る、まだ怒っているのかな?


アレにはちゃんとした理由があるのだがその理由を言えない以上


ご機嫌をうかがうしかない、僕は思わず息を飲んだ。


「あ、あの……さおりちゃん、昨日の事なのだけれど……」


「昨日の事って?」

 

何お事だかわからないといったそぶりを見せるさおりちゃん


いやわかるでしょ、それともワザと?僕はその事で眠れないぐらい悩んだのですよ。

 

「いやその、だから、つまり、えっ~と……」

 

例の〈意気地なし〉発言がずっといつまでも胸に突き刺さり続けている


私こと人類の敵【シルバーデビル】君なのでした。


しかもその事を彼女にズバリ聞けない時点で〈意気地なし〉


である事を自ら証明してしまったという何とも皮肉な結果である。

 

するとさおりちゃんは少しうつむいてボソリと言葉を発した。

 

「昨日は、ゴメンね、つい……忘れてくれると嬉しいな」

 

おお、どうやら未だに機嫌を損ねている訳では無さそうだ


しかも〈忘れてくれると嬉しいな〉とか反則級の可愛いセリフ、脳みそが溶けそうだ。


深々と脳に刻み込まれ絶対に忘れることなど出来そうにありませんが


この不肖、赤川慎吾その目標に向かって最大限に努力することをここにお約束する次第にございます。


「いや、昨日は僕が悪かったし……」


そんな僕の言葉を遮る様に人差し指を僕の口に当ててきたさおりちゃん。


「もう、その話はしないで……恥ずかしいから」


顔を赤らめ絞り出すように言葉を発する彼女はとんでもなく可愛かった


また僕の中で【さおりちゃん可愛かった場面ランキング】の一位が更新された。


少しの間、二人しかいない教室で沈黙という名の静寂が訪れる


おい、もしかしてこれはキスをするタイミングなのか?


ここで行かないとまた〈意気地なし〉と認識されてしまうのか?


いやいや、でもここは学校の教室だぞ⁉


今は誰もいないとはいえキスしているところを誰かに見られでもしたら……


さおりちゃんは僕に背中を向けてうつむいている


しかし僕にしてみれば、この態度は非常に判断に迷ってしまう


これはキスを待っているのか?それとも単に恥ずかしがっているのか?


一体どっちなのだ⁉オリバー教授でもゲッヘルマン教授でもいいから、どうか教えてください‼


え~い、もういい、ごちゃごちゃ考えるのも面倒になって来た


〈意気地なし〉の言葉が一晩中頭の中で鳴り響くという騒音被害はもう嫌だ


ここは男らしく、やってしまえ‼


僕はさおりちゃんの背中からゆっくりと距離を詰め顔を近づける


後はさおりちゃんの細い両肩を掴んでクルリとこちらに向け


ブチュっとやってしまえばいいだけではないか、何という簡単な作業工程


〈テイク イット イージー〉、一つ間違えば単なる変質者だが


〈意気地なし〉という言葉は言い換えれば男性失格と同義語である


それに比べれば〈変質者〉は前向きで男らしいといえなくもない


この判断基準に〈常識〉とか〈倫理〉とかの要素が薄い事は承知の上である


しかしももう二度と〈意気地なし〉といわれる事だけは御免なのだ


僕は目を血走らせてさおりちゃんの細い両肩を掴むべく両手を振り上げながら背後から忍び寄る


その姿は完全に変態ストーカーなのだが今の僕にとっては


〈男らしい行為〉として正当化されていた、しかし次の瞬間。

 

「ねえ慎吾君、実はね……えっ⁉」

 

急に振り向いたさおりちゃんは鬼気迫る勢いで間近に迫っていた僕を見て思わず硬直する


目を大きく見開き〈信じられない〉といった表情を浮かべ困惑していた


そんなさおりちゃんの反応を見て僕は初めてこの選択が間違っている事に気が付いた。

 

「違うのだよ、さおりちゃん、これはその、何というか、誤解、といいますか……」

 

必死に言い訳しようとする僕だったが主語も動詞も形容詞も無い弁明に説得力などあるはずも無く


もはや判決を聞くまでもなかった。さおりちゃんの表情が今の心境をありありと物語っている


もう何を言っても無駄だと悟った僕は下手な言い訳をすることを諦め


ガックリと肩を落とし、蚊の鳴くような声で謝罪した。

 

「ゴメン、さおりちゃん……」

 

半ば呆れ顔のさおりちゃんだったが僕の気持ちを察してくれた

のか


ようやく表情が柔らかくなると口元を緩め語り掛けてくれた。

 

「慎吾君、さすがに教室では……でも気持ちは伝わって来たよ」

 

僕はもう返す言葉も無かった、まともにさおりちゃんの顔を見る事すらできない


穴があったら入りたいとはこの事か、僕の場合


〈棺桶があったら入りたい〉というべきなのだろうか?実にくだらないな……

 

激しく落ち込む僕を見て何とか慰めようとしてくれる彼女だったが


その心遣いが余計に僕のプライドを傷つけた。


未遂とはいえ変質者まがいの行為をしようと画策していた僕に〈男のプライド〉って(笑)www 


と思う方も多いでしょう。でも本当に傷ついてしまったのだからしょうがないのです。


海より深く反省する僕の姿に、逆に罪悪感を覚えてしまったのか


さおりちゃんは申し訳なさ気な表情で目を伏せた。

 

「何か、ゴメンね」

 

この謝罪は僕にとってはトドメと言ってもいい一撃だった


もう消えたい、お日様の光を目いっぱい浴びて灰になりたい


男としてこれ以上格好悪い事ってあるのだろうか?

 

「あの、慎吾君。私の言いたかった事を伝えるね


昨日私、慎吾君の家にご招待された事を両親に話したの


そうしたら〈ウチにも連れてきなさい〉って言われて……


だからウチにも来てくれる?」

 

もう言葉を吐く事も出来ない程の大ダメージを受けている僕は


言葉を発することもなくコクリと頷いた


その後僕とさおりちゃんは無言のまま日直当番を黙々とこなした。


こうして僕はさおりちゃんの家【小暮家】へと招待を受けたのである。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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