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その名もシルバーデビル

「どういうつもりだよ、父さん、母さん‼」


僕はありったけの怒気を込めて詰め寄った。


「そう、怒るなよ、慎吾」


「そうよ、貴方の気持ちはわかるけれど、少し落ち着いて話しましょうね」


相変わらずマイペースの父さんと母さん。そんな普段通りの態度が益々僕を苛立たせる。


「僕が怒るのも当然だろう‼せっかくさおりちゃんが来てくれたのに


僕の気持ちがわかるだって?そんな訳無いだろう、だったら僕がどんな思いでいるか言ってみろよ‼」


このド天然夫婦に僕の繊細な気持ちなどわかるはずがない、わかってたまるか‼


「キスし損ねたから、そんなに怒っているのだろう?」


「もう少しだったものね。怒るのもわかるけれど


でも、あそこで躊躇した慎吾ちゃんが悪いのではないの?」

 

ちゃんとわかってやがる……それはそれでムカつくな。


「彼女があそこまでやってくれているのにいざとなったら怖気づくとか


父さんは男としてどうかと思うな」


「そうねえ、私だったらそんなヘタレ男は嫌かな……


せめて〈意気地なし〉とか一言言ってやらないと気が済まないわ」

 

僕の傷口を容赦なくえぐる我が両親


そうですよ、その通りですよ、だがアンタらにだけは言われたくはない


それに両親が認識している中でファーストキスが出来る程


僕は無神経じゃない、アンタらとは違うのだ。


「パパもママも言い過ぎよ、お兄だってお兄なりに精一杯頑張ったのだから……」

  

随分と上から目線でしかも何を偉そうに語ってやがる


どうやら善意の第三者を気取っているようだが、テメエも同罪だとわかっているのか?


二度とお前の前にさおりちゃんを連れてこないからな。覚悟しろ‼


「まあ、何だ、次から頑張れ、慎吾」


「ドンマイ、慎吾ちゃん」


「いつかはいい事あるわよ、私は信じていないし根拠も理屈も無いけれど


【幸福一定量の法則】に従えば、お兄の様に惨めで情けない経験も


この次来る幸福の為の布石と考えれば悪くないじゃない、頑張れ、お兄‼」


コイツ等、全く反省の色が見えないな。しかも僕に対して相変わらず真横を向きながら


しゃべっているそのシュールな態度が余計に僕を苛立たせる


まだ耳は復活していない様だな、そこだけは少しだけ嬉しい。ハッキリ言っていい気味だ。


だがそんな事で僕の留飲は下がらない。


どうやっても僕に対して反省の意と謝罪の言葉を述べないというのならばOKだ


こちらにも考えがある、見ていろよ……


さおりちゃんから受けた〈意気地なし〉という言葉は僕を動かすのに十分な理由となった


天然の両親のペースと妹の口撃にいつまでも下を向いている僕だと思うなよ


前を向いた僕の恐ろしさを見せてやる、いつまでも横を向いているお前等には負けないぞ‼


そんな時である。


〈チンチロチンチンリロリロ~♫〉


間の抜けた着信音が我が家の居間に鳴り響く


こんなおかしな着信音は僕や美香では有り得ない、鳴っているのは父さんのスマホである。


ポケットからスマホを取り出し画面を見た父さんは思わず顔をしかめた


その態度で誰が何の為にかけて来たのかわかった。


「もしもし、ああ、わかった、場所は?うん、わかった、すぐに行かせる……」


通話を切った父さんは両目を閉じてため息をつく。


「相手はおじさん?」


「ああ」


「で、場所は何処?」


「いつもすまない、慎吾……」


このやり取りはもう四度目である、何が起きたのか?というと


今の電話はおじさんからの救援要請だったのである。


本場のヨーロッパではもうすでに同胞のヴァンパイアは


絶滅の危機に陥っている事は先日説明したと思うが


行き場を失った同胞たちは逃げる様に出国し次々日本へと向かってきたのである


おそらくおじさんが情報を流しているせいだと思うが


王家の一族は既にほとんど死に絶え、王家の血筋で残っているのはもう父さんだけなのである


だから藁をもすがる思いでヴァンパイアの残党はこの日本に流れ着いて来るのだ。


しかしその数が多くなればなるほどヴァンパイアハンター共も一緒にやって来る。


〈ハンターどもに追われている同胞たちを助けて欲しい〉というのがおじさんからの要請だ


戦うというのではなく助けて欲しいと頼まれたら断れないのが


父さんの良いところでもあり悪いところでもある


そんな父さんの性格をよく知っているからこそおじさんは利用しているのだろうが


ではなぜ父さん自身ではなく僕が行くのか?という疑問にお答えしよう。


もちろんヴァンパイアとして覚醒している父さんと覚醒前の僕では力の差は歴然である


だがそれでも僕に任されるのには明確な理由がある


これは世間一般的にあまり知られていないのだが僕たち吸血鬼は


人間の血を吸うことで初めてヴァンパイアとして覚醒する


これを【覚醒の儀式】と呼ぶのだが、この【覚醒の儀式】をおこなう事で


我々ヴァンパイアは超人的な能力を身に付ける事ができるのである


だがそれは同時にヴァンパイアとしての弱点を引き継ぐことにもなるのだ。


前に述べた〈太陽の光に弱い〉〈ニンニクが嫌い〉〈十字架が苦手〉


などの吸血鬼定番攻略法の事である。


ヴァンパイアハンターどもはそこを徹底的に突いてくる


だからこそ圧倒的な身体能力を誇るヴァンパイアが


本来脆弱なはずの人間のハンターどもに勝てないのだ。


だからこその僕なのである。覚醒前の僕にはその手の弱点を突く攻撃がほとんど効かない


ヴァンパイア退治に特化しているハンター共だからこそ


その攻略法が効かない僕に対しては全くの無力なのだ。


前に妹の美香の事を〈知の天才〉と評したことがあったが


僕は〈身体能力の天才〉といえる存在なのである


少し前に100m走を2秒切れるだろうと話したことがあったが


僕がその気になればオリンピックの個人競技においてほとんどの種目で金メダルを取る事が可能だろう


もちろんそんな事をする気も無いが


だから同胞たちを逃がす為にハンター共相手に肉弾戦で大立ち回りをやってのけ


適当なところで引き上げる、もちろん誰も殺さない。


少しぐらいは怪我をさせる事もあるが基本的には打ち身程度に抑える


それだけの実力差があるから可能なのだ。


「ヤレヤレ、今日も厄介な事を押し付けられてしまったな


明日は確か日直で早出しなくちゃダメなのに……


そういえばまだ宿題やっていないし、今晩の録画の予約もしていなかった


なるべく早く片付けて帰るか……」


僕はそんな緊張感のない事を思いながら現地へと急ぐ


一応身バレしない様に、黒のジャージに黒の手袋、黒のシューズで固めてみた


顔だけは銀色のお面を被り正体を隠している。

 

「あれか……」

 

ほどなく現地へと到着すると暗くなった港のふ頭で同胞のヴァンパイア達が


ハンター共に囲まれて絶体絶命の危機を迎えていた


時間的に他の人間も見当たらない。


大きなコンテナだけがいくつも置いてあるもの寂しい場所であった。

 

「もう観念しろ、吸血鬼ども。我等の正義の前に灰となるがよい‼」

 

〈もうダメだ〉とばかりに目を伏せる吸血鬼たち


僕はそんな両者の間に割って入る様に降り立った


この時だけは自分が正義のヒーローにでもなった気分だが


世間的には向こうが正義の味方なのだろうな、まあどうでもいいが。

 

「で、出たな【シルバーデビル】‼」

 

ヴァンパイアハンター共は僕の姿を見て一斉に警戒し、そう叫んだのである。

 

えっ、【シルバーデビル】ってもしかして僕の事?随分な二つ名を付けられたものだな、


どことなく厨二っぽいが、ツッコミを入れると声で身元がばれてしまう可能性があるから


終始無言で通さなくてはいけないし、何だかなあ……


「今度こそお前の思い通りにはさせないぞ【シルバーデビル】


我々は人類の為、吸血鬼共を壊滅せしめんとロマネ法王庁より


命を受けた法王庁直轄攻撃部隊〈ドミニオンフォース〉


正義の名のもとに、今日こそは貴様の野望を打ち砕く、覚悟をしろ‼」


ロマネ王朝直轄部隊を名乗る男達は僕を睨みつけながら叫んだ。


えっ、何を言っているの、この人達……逆に聞くけれど、僕の野望って何ですか?


とりあえず思いつく事といえば、当面の目標として今度こそさおりちゃんとキスしたいとか


さおりちゃんと週末に水族館に行きたいとか


もっとさおりちゃんとイチャコラしたいという事くらいしか思いつかないぞ?


直近で言えば今晩の録画と明日の宿題と日直が気になるただの高校生だし。

 

そもそもこの格好だって、黒のジャージはユニ〇ロで買った物だし


手袋と靴はア〇ゾンで注文した。顔のお面に至ってはド〇・キ〇ーテで買ったおもちゃですよ⁉


それが人類の敵【シルバーデビル】とか、どんだけ……まあいい、サッサと済ませて帰ろう。

 

こうして僕は問題なくハンター共を退け同胞たちを逃がした後に帰路へと着いた。


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