彼女をご招待
「じゃあね、さおりちゃん」
僕は別れ際に彼女に手を振った。彼女の名は小暮沙織。
小柄でスレンダーなスタイルにセミロングの黒髪
つぶらな瞳に笑うとできるエクボが特徴のとんでもなく可愛い可愛い女の子です
何度も僕の方へと振り返りながら駅の雑踏へと消えていくさおりちゃん。
その姿が見えなくなるまで僕は視線を動かせなかった……
冒頭から仰々しく入ってしまいましたがこれは僕が彼女とデートした帰りに駅で見送ったというだけの描写であり
特に特出すべき事柄でもない。彼女とは明日になれば嫌でも学校で顔を合わすのだから……
いや待てよ、〈嫌でも〉という言い方は語弊があるな
明日再び彼女に会えることが楽しみでしょうがない僕にとっては
〈念願の〉とか〈渇望すべき〉とかの言葉に置き換えた方が良いのだろうか?
まあそんなことはどうでもいい、とにかく僕と彼女はラブラブだということをわかっていただければいいのである。
そう、長々と回りくどく語ってきたここまでの文章は単なる僕の〈のろけ話〉なのだ、誠にスミマセン。
もちろんこの謝罪は形だけの言葉であり本心では何とも思っていない事はここに明記しておきましょう
結局何が言いたいのか?と思った方も大勢いるでしょう、そういう人たちの為に簡潔に述べると
【僕の彼女は最高だ】という結論に至るのだ。
「あ〜あ、何で楽しい事はこんなに早く過ぎてしまうのか、早く明日にならないかな」
彼女と別れこんな独り言を呟きながら家路へと歩く僕。
あっとご紹介が遅れました、僕の名前は赤川慎吾。都内の公立校に通う高校二年生です
比較的レベルの高い高校でそれなりの成績を収め運動も人付き合いも無難にこなす、それが僕の表向きの顔です
〈表向き〉……というからには当然裏の顔がある、それはすぐにお話しすることになるでしょう。
「ただいま」
家のドアを開け玄関を入ると家族の物ではない黒い革靴が目に入ってきて
居間の方からは何やら熱い話し声が聞こえてくる。その瞬間僕の脳裏にある言葉が浮かんできた
〈またか……〉楽しいデートの気分が少しだけ害され小さくため息をついた
そんな僕を出迎えるように奥からパタパタとスリッパの音がしてある人物が僕の前に姿を現す。
「あら慎吾、早かったのね。晩御飯は?」
「ああ母さん。少し予定が狂ってね夕飯食べてないのだよ。何かある?」
「まあ、あるにはあるけれど、今はちょっと……」
母はチラリと奥の居間の方へと視線を向けた。
「またおじさんが来ているの?」
「ええ、まあ……」
「もういい加減に〈迷惑だから来るな〉って言えばいいのに、父さんは人が良すぎるよ」
「でも、そういう訳にもいかないでしょう……」
母はそれ以上語らず言葉を濁した。僕の手前表立ってはいえないだろうが
おそらく本心では僕と同じことを思っているのだろう。
奥からは僕たちの所まで激しく訴えかけているおじさんの声が漏れてくる
父さんは何とかなだめようと諭すように話していた、この場面に出くわすのはもう何度目だろう?
そう思った途端、急に疲れが出てきてまたため息が出てきた。
「おじさんが帰ったら呼んで、自分の部屋で待っているから」
「そうして頂戴、晩御飯はカレーだから温めればすぐだし」
「ああ、わかったよ」
僕は2階の自室へと階段を上がり部屋のドアを開けるとそのままベッドに倒れ込んだ。
「もういい加減諦めろよな、誇りとか名誉とか尊厳とか
一文にもならない事を……本当に馬鹿馬鹿しい」
僕は独り言のように悪態をついた。もちろんおじさんに対してである
それから四十分ほどして玄関から人が出て行く気配がすると、下から母の声が聞こえてきた。
「降りてきなさい、カレー温めているから」
「わかった、すぐ行くよ」
腹が空いていたので余計に苛立ってしまっていたのかもしれない
ゆっくりと階段を降り居間へと入ると父と視線が合う。
「おう、慎吾。帰ってきていたのか?」
「もう結構前に帰ってきていたよ、おじさんがいたから……」
「そうか、悪かったな、慎吾」
「父さんもいい加減におじさんに言ってやれよ、迷惑だって」
「そう言うな、おじさんはおじさんなりに一族の名誉を考えての事なのだから……」
「だったら自分達だけでやれよな、何で父さんや僕たちを巻き込もうとするのだよ‼︎」
「すまない慎吾、お前にも迷惑をかけるな」
「別に父さんが謝ることじゃ……」
こんなやりとりを何度した事だろうか……
僕と父さんは何をこんなにもめているのか?今からそれを説明しましょう
それは先ほど説明しなかった〈僕の裏の顔〉の事である、正確には〈僕達の裏の顔〉というべきであろう
おじさんとの会話でもよく出てくる〈一族〉と言う言葉、それが何を示しているのか
そう僕達の一家は【ヴァンパイア】なのである。
僕の父さんはヴァンパイアの中でも名門の血統であり、真祖と呼ばれた王の末裔らしい
だからおじさんは度々うちに押しかけてきては
【ヴァンパイアの名誉にかけて人間どもに思い知らせてやろう‼︎】と息巻いているのだ
もちろん僕達一家にそんな気は毛頭ない
一家揃って平穏に暮らしているのに何を好き好んで殺し合いなどしなくちゃならないのだ?
今は令和だよ?人を殺すとか有り得ないでしょ。
なぜこんなことになっているのかというと、それは僕のおじいちゃんの時代に遡る。
僕達吸血鬼は【夜の帝王】と呼ばれ〈不老不死のモンスター〉などと恐れられ畏怖の対象であった
各地で様々な伝説を残し、人々を恐怖のどん底に陥れた……らしい。
だが時代は流れそんな伝説はもはや昔話に過ぎなくなったのである
〈不死身のモンスター〉などといえば聞こえはいいが、この二百年余りの間にその数は激減したのだ。
その理由は我らが同胞ヴァンパイアはハンター共に狩られまくられたからである
一時期生物の頂点として栄華を誇った吸血鬼一族も
ロマネ法王朝率いるヴァンパイアハンター達の圧倒的なまでの数と戦闘力の前に屍の山を築き
本場ヨーロッパでも、もはや生存者は一人も居ないだろうと言われている
動物的にいえば【絶滅危惧種】といえよう。
僕の祖父はそんな戦いが嫌で日本へと逃げ延びた、その末裔が僕達である。
しかし名門と言われた王家の一族も次々と殺され、どうやら繰り上がりで僕の一家が最上位貴族となったらしい
だからこそおじさんは僕の父に〈ヴァンパイア一族の長として人間共と戦ってくれ〉
と頼んでもいないのに度々来るのである、全く迷惑な話だ。
そもそも人間と戦うって……この地球上に一体何人の人間がいると思っているのだ?
僕達はずっと一般市民として暮らしているし、父さんを含め人を殺めたことなど一度もない
人を襲って血を吸うとか時代錯誤も甚だしい、今時のヴァンパイアは抑制剤を使用し人間に近い体になることができる
だから僕は人の血を吸ったこともなければ空を飛んだこともない
こうやって腹を空かせてカレーを貪る高校生のどこに【夜の帝王】という面影があるのだろうか?
大体今時はヴァンパイアの弱点である〈太陽の光に弱い〉とか〈ニンニクが苦手〉とか
〈十字架が弱点〉など子供でも知っているのだ。
そんな状況で吸血鬼退治の専門家ヴァンパイアハンターに勝てると思っていること自体がナンセンスだ
馬鹿じゃないのか?とすら思えた。
もちろんおじさんもヴァンパイアなのだが父さんとは父親が違うらしく
本家の血筋では無いため力もそれほど無い。だからこそ兄である父さんに頼み込んでくるのだろうが
それはそちらの一方的な都合であり、こちらにしてみれば迷惑千万な話なのだ。
「どうしておじさんはそんなに戦いたがるの?人間と正面切って戦っても勝ち目がない事ぐらいわかるだろうに
それに僕は人間と戦いたくはない。彼女や友達を殺すとか有り得ないよ
考えただけでもゾッとする、頭がおかしいのじゃ無いの?と言いたいぐらいさ」
「おじさんは目の前で仲間を何人も殺されているからな、感情的になっているのだ。その辺りは察してやれ」
「それだって自分たちから仕掛けたからだろ⁉︎言っては悪いけれどそんなの自業自得じゃないの?」
「それは言い過ぎだ、慎吾。我々の同胞の中にはヴァンパイアというだけで殺された者が何人もいる
中には戦う意志などない者もいた、だからおじさんはあれほど感情的になっているのだ」
「でも戦ったとしても勝ち目なんかないし、余計仲間が死ぬことになるのだろう?
そんなの高校生の僕にだってわかるよ。僕達みたいに一般市民としてひっそりと生きていけばいいじゃないか
大体この地球上に何人の人間がいると思っているのさ
平穏に暮らしている僕達まで巻き込まないで欲しいよ」
僕は苛立ち交じりの口調で吐き捨てるように言い放った。
申し訳なさそうに顔を伏せる父さん。父が悪いわけではないのだからこちらまで申し訳ない気分になる
せっかくデートでいい気分になっていたのに台無しである。
「はいはい、難しい話はそこまでよ、慎吾。カレーのおかわりはいる?」
「ああ、もう一杯頼むよ、母さん。でもカレーってどうして家のカレーが一番美味しく感じるのかな?」
「そりゃあ母さんの料理の腕と愛情がこもっているからよ」
特げに力コブを見せる母とかすかに微笑んだ父、僕もこの空気を変えたくてあえて振った話題だったが
少しわざとらしかったかな?でも望んでもいない口論で空気が悪くなるのはお互い不幸だし
父さんだって本心は僕と同じはずだから……そんな時である。
「ただいま〜あれ、今日カレーだったの?まずったな、外で食べてきちゃった
知っていたら食べずに帰ってきたのに」
タイミングのいい所で帰ってきたのは僕の妹、美香である。
「あら、そうなの?でもたくさん作ったから明日の朝にでも食べたら?一日置いたカレーは美味しいわよ」
「う〜ん、美味しすぎると一杯食べちゃうからなあ、最近少し太り気味だし……」
「何を言うんだ美香、お前は全然太ってなどいないぞ。
今時の若者はすぐ太るだのダイエットだの言い出すが
男は少しぐらいぽっちゃりしている女性の方が好きなのだ
中学生なら一杯食べて成長しなさい‼︎」
父のいつもの口癖が始まった、僕に対しては比較的放任なのだが妹にはなぜか口煩い
世間で言われているように父親にとって娘は特別なのだろうか?僕には妹という以外、特別な感情は無いが……
「わかったわよ。パパはいつも、いつも……ちゃんと考えて食事しているから大丈夫よ
その日の運動のカロリー消費と、効率の良い栄養バランスの摂取
1カロリーの単位で認識しているから大丈夫よ」
妹に反論されて言葉を詰まらせてしまう父。
僕達の父さんはとある薬局で薬剤師をしている。
ヴァンパイア用の抑制剤を生成するために薬学の知識を必要だったため
その流れで自然と薬剤師になったという訳である。
そんな父が反論もできない程の知識を持ち合わせているのが僕の妹、赤川美香である
こいつは〈知の天才〉といっても過言では無い。
僕達ヴァンパイアは常人に比べ基本スペックが高い。
学校の成績でオール5を取ることなど雑作もない
ただあまり目立ちすぎるとヴァンパイアハンター共に目をつけられるため
成績もほどほどに調節しているという訳である。
そういったヴァンパイアの中でも美香は特に知能に突出していて
中学に上がる頃には東大の医学部に合格できる程の知能を持っていた
だから受験を控えた中学三年という時期にも関わらず遊び呆けているのである。
そんな訳でコイツには口喧嘩ではとても敵わない。
最後に勝ったのは美香が小学五年生の頃だったかな?
当時中学生になった僕は大人気なくコイツを言い負かした。
それがよほど悔しかったのだろう、美香はそれ以来徹底的に理論武装するようになり
ありとあらゆる本と読みまくり知識を貪るように吸収していった
それから妹は無敵の論破王へと進化を遂げる。
コイツがこれほどの天才になったのはある意味僕のおかげといえよう
何せ小学五年生の女の子が口喧嘩で
〈2012年にオックスフォード大学のメライア教授が発表した論文で〇〇ということが証明されているわ
そしそれを否定するというのなら、それに代わるエビデンスを提示してみなさいよ‼︎〉
と来るのである。メライア教授って誰だよ?
これ以来僕は美香に口喧嘩を挑むことを止めた。勝てない戦いはしない、これが僕のモットーだからだ
ちなみに四年前、最後にコイツに口喧嘩で勝った時の議題は確か……
〈キ○コ○山〉と〈○け○この里〉どっちが美味しいか?という内容だったと思う。
「そういえば美香、今日はどこにいっていたのだ?」
「今日は【スローマン】の舞台挨拶があったのよ、抽選でチケット当たったし、そんなの行くしか無いじゃない‼︎」
〈行くしか無い〉とはよくわからない理屈だがそれ以上はつっこまなかった
そこに踏み込むと怒涛の反論がくることが分かっているからである
妹はジャニアリーズ事務所のアイドルグループ【スローマン】の大ファンで
度々その話をしてくる、もちろん僕には全く興味のない話だが
ちゃんと聞かないと機嫌が悪くなるので仕方がなく聞くことにしている
言っておくがこれは屈服ではない、戦略的撤退である。
「美香、もうすぐ期末試験でしょ?ほどほどにしておきなさいよ」
ヤレヤレとばかりに母が美香に忠告する。
「は〜い、わかっているわよ、ママ」
この〈ほどほどにしておきなさい〉の言葉の意味は、世間一般的な
〈遊んでばかりいないで勉強しなさい〉という事ではなく
〈テンション上がり過ぎてテストで点数を取り過ぎないように〉という忠告だ
もはや大学教授を上回る知識を有している美香にとって中学の試験など九九を答える事と大差ないのである。
「そういえばお兄、今日デートだったのでしょう、どうだったの?」
興味津々に目を輝かせて聞いてきた、どうして年頃の女子というのはこういった話が大好きなのだろう?
「別に、どうって事ないよ……」
家族の前で彼女の話とか、恥ずかしくてできるか‼︎
しかしそんな僕の思いとは裏腹に決して空気を読むことはしない、それが僕の家族だからだ。
「慎吾、そこのところはどうなの?ママにだけ話してみなさいよ」
どうやら年頃でもない女性もこういった話は大好きのようである
みんなの前で〈ママにだけ〉と言っていることからもわかるだろうが、僕の母親は少し天然が入っている。
僕の母、赤川ちえみは元はただの人間である、ヴァンパイアの父と結婚し父に血を吸われ吸血鬼となった
いわゆる眷属というやつだ。だが父に従順というわけではなく
どちらかといえば僕の一家では母の方に主導権がある
今時の家族といえばそれまでだが、真祖の血筋を引く王の末裔が元一般女性の尻に引かれているというのもおかしな話だ。
これで〈一族の誇り〉だの〈ヴァンパイアの名誉〉だと言っている事自体滑稽である。
「慎吾、女性には優しくしなければダメだぞ。人生の先輩である父さんからの忠告だ」
そう偉そうに語るのが僕の父、赤川正一だ。
だが僕は知っている、父さんは母さん以外女性と付き合ったことがない
偉そうに女性を語るには経験不足だろうと僕は思う
ましてや母さんという特殊サンプルでしか経験がない状態で女性を語るのは危険極まりない行為だろう
そして父さんが血を吸ったのも母さんしかいない……
ここで皆様が知らない事を一つ教えよう。
僕達ヴァンパイアというのは生まれてすぐにその能力を開花させるのではない
もちろん常人を超える能力を持っていることは事実なのだが
世間で言われているような超人的な能力を持つためにはある儀式が必要なのである
それが〈人の血を吸う〉、つまり吸血行為である
ヴァンパイアは人間から吸血することによってこの能力を開花させ超人的な能力を得る
だからもし僕の父さんが本気で戦えばヴァンパイアハンターの十人や二十人は簡単に蹴散らすことが可能だろう。
だがそんな事はしない、父さんは僕と同じで平和主義者でありそんな事をしても無駄だとわかっているからだ
だから母さんと付き合って結婚する際に、自分がヴァンパイアだと打ち明けた時はかなり緊張したようだ
だが僕の母はこんな性格をしているので結構あっさりと受け入れたようである
要するにお似合いのカップルだったというわけだ。
そんな父さんの眷属である母も当然それなりの力は持っている
僕達が子供の頃、母の運転で買い物に出かけた時に誤って車の後輪を溝に落としてしまったことがあった
その際に母は軽く片手で自動車を持ち上げたのだ、そのことを今でも鮮明に覚えている。
抑制剤を使っていてもそれほどの力があるのだ
能力を全開にすればどれほどの力を持っているのか想像もつかない
だからこれだけは言える、この世で一番強い夫婦は多分うちの父と母だろうと。
世間には【モンスターペアレント】という言葉があるが、それを文字通り体現しているのはウチの両親だけだろう
だがそんな母の趣味は〈日向ぼっこ〉である、吸血鬼としてそれはどうなのだ?
というツッコミは控えていただきたい、それほどまでに僕達は一般社会に溶け込んでいる証拠と見ていただければ幸いです。
戦いを忌み嫌い、のんびりとした平和主義者。そんな二人の子供として生を受けたことを僕は嬉しく思っている。
「ねえねえ、どうなの慎吾?彼女とはどうなっているの?」
「いいか慎吾、女性というのは……」
いい加減しつこい。思春期の男子が親の前でそんな事を話す訳なかろう
その辺りの常識というモノを全く持ち合わせていないのも僕の不幸である
こんな二人の子供として生を受けた事を僕は悲しく思っている。
「ねえお兄、一度彼女さんをウチに連れてきなさいよ。私、会ってみたい‼︎」
「いいわね。そうしなさいよ、慎吾」
「くれぐれも丁重にお誘いしなさい、慎吾」
いつの間にか三対一の図式になっていた。
もうこうなったら僕の意思など関係なく、どこまでも勝手に話は進んでいく。
「どんな人なのかな?もしかしたら私の姉になる人かもしれないのでしょ?」
「そうねえ、優しい人だといいわね、嫁姑問題とか嫌だし」
「母さんみたいな人だといいのだけれどな」
なんだ、これ?話がぶっ飛びまくっているぞ、わかっていますか、僕まだ高校生ですよ?
そもそも彼女を呼ぶことが前提となっているし。
「じゃあいつにするお兄?私、その日は空けておくから」
「そうね、その日の前には美容院に言っておきたいし……」
「私もその日は空けておくから、そうだ、再来週の日曜日はダメだぞ
町内の寄り合いがあるから、父さん町内会の副長になったばかりだし」
あれよあれよと言う間に日取りまで決められそうだ。
なんだ、この流れ?お誘いするにしても相手がいることなのですよ
何を勝手に盛り上がっているのだよ……ヤレヤレ、本当にこの人たちは常識が通じないな。
「わかったよ。聞くだけ聞いてみるけれど、無理強いはできないからね
あくまで彼女がいいと言ったら……だよ」
「ああ、構わない。女性には優しく誠実に、失礼のないように
それとくれぐれも再来週の日曜日は避けろよ」
「ママ腕によりをかけて料理を作るわ。彼女さんは何が好みなの?
フランス料理のフルコースだろうが満貫全席だろうが作ってみせるわ、任せてちょうだい」
「ねえお兄、彼女さんがウチに来るのかどうか不安ならば
私が彼女さんの性格に合わせて三十六通りの誘い方を考えてみたわ
もっと正確にプロファイリングするから、彼女の情報を教えてよ
1997年に発表されたドイツのゲッヘルマン教授の論文によれば……」
相変わらず好き勝手な事を言いたい放題の我が家族
父さん、町内会の寄り合いがそんなに大事か?
吸血鬼の王の末裔であることより町内会の副長になった事を誇りに思っているのはご先祖様に対してどうなんだ?
母さんも満貫全席って、そもそもウチのテーブルにそんな大量の料理は並ばないだろう?
それと美香、ゲッヘルマン教授って誰だよ⁉︎
僕は複雑な思いを抱えながら昼間とは違う重たい気分のまま翌日学校へと向かうことになったのである。
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