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第3話 3人組

異世界(コッチ)に来て1ヶ月が経った。


補講室にいた私含め3人が最初に飛ばされたのは女神と思わしき女性の御前。


世界の危機を救って欲しいと言う身勝手な願いの後に達成すれば元の世界へ戻してやるとの説明を受けた。


だとすれば早々に終わらせて戻らねばなるまい。


あの脳を使う事を至上の喜びとする幼馴染(クグツ)との学力の差をこれ以上広げない為に。


大学生になれば多少クグツにも余裕が出来て私という存在が入れる隙も生まれるかもしれない。


そして同じ大学へ進む事が出来ればそのチャンスは大いに増える筈だ。


そして、私は神に断罪者という力を与えられた。


相手の背負う罪の重さによって無限の膂力を生み出す、敵である”常闇の化身”にとって天敵とも言える力。


話に聞く限り勝てない相手では無さそうだ。


ならば素早く手早く終わらせよう。


元の世界へ戻る為、


大好きな彼に想いを伝える為に。


こうして私、武藤伊鈴の冒険は幕を開けたのであった。




迫り来る魔獣を鈍鎚を振り抜き叩き潰す。


なんて醜い獣達なのだろう。


外見上は普通の動物を多少弄った様な感じなのだが”断罪者”の力によって罪を可視化出来るようになった私にとって醜悪そのものであった。


この世界に降り立った時、生物全てに罪が見えて思わず眉を顰めたのだが、魔獣と呼ばれる存在を見た瞬間それらはまだ可愛いものなのだと戦慄した。


例えるならばヘドロ。人々が背負う罪を濃縮して腐らせた様な、罪と言うより業と形容した方が丁度いい。


そんな魔獣を相手に私の力は無双の力を発揮する。


今も先程の魔獣を潰した鈍鎚をそのまま回転させ3匹纏めて削ぎ殺す。


「おいっ!前に出過ぎだっ!」


習得したばかりの魔法を使って仲間が追いかけてきた。


同じ補講組だった大男、工藤と親友の美穂。


彼らはそれぞれ守護者と光の魔女と言う力を授かっている。


「伊鈴ったらこんな汚れちゃって・・・女なら気にしなさいよね?」


そう言って魔法で私が浴びた返り血を洗い流してくれた。


「ははは・・・どうしても前衛だとね」


「はぁ、バリバリ戦える武藤が羨ましいぜ。俺は防御専門らしいから腕っ節は強いけど武器を器用に使えないからなぁ」


「いいじゃんいいじゃん。工藤君が守ってくれるから私は魔法に専念出来るんだし」


「そうだよ。もし私達の力が違っても私達女子を守るにはお互いに背丈が足りないし、2メートルあるあんたが適任でしょ」


「・・・だけどよぉ」


工藤は文句を言いながらも辺りに敵影が残っていないか確認する。


そして敵影が無かったのか警戒を解き身の丈程の大盾を背中に背負い込んだ。


「よっと。それじゃあ終わった事だし帰りますかね」


「そうね。次はもっと経験になる仕事が良いけど」


「私は楽なので全然良いけどね~」


駅のある街まで歩く。


私達は本国、ビェートレンへと帰路に着いた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「初めまして?かしら。クグツ」


「そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるが、まぁ改めて初めまして、ヴァレリール」


日の暮れた岬で俺達はn回目の”初めまして”を交わす。


「早速だが魔力の使い方を教えてくれ」


n回目の同じ要求。これから先、数多に未来は分岐するにしても俺達が出会う時は殆ど同じ。


運命の収束点、数ある分岐世界の分岐点。


ここから全てが始まる。


「えぇ勿論よ。魔力が無いあなたなんて無力そのものだものね」


そう言ってヴァレリールは揶揄う様な表情をこちらに向けると1枚の薄い金属板を取り出した。


「3日よ。3日で基本的なセットアップは全て終わらせる。ここから世界は更に多く分岐する、何が起こるか分からない。未来を観る事が出来る私達でも見通せない。だから全力で準備するわよ」


「分かった」


「とはいえここでは些か寒いわね。宿はとってあるから移動しましょ」


ヴァレリールについて行く。


風に乗って背中で2つに分けられた髪から良い香りが香ってきた。


未来の俺の記憶にあるサリメラの花の香り。


清涼感あるその匂いは俺の浮き足だった心を落ち着かせてくれる。


「サリメラの香。いい匂いだ」


「そうね。くどくないし頭がスッキリするし」


程なくして辿り着いた宿はこの世界の俺の金銭感覚からすると少し高い、小綺麗な宿だった。


「・・・はい、これクグツの部屋の鍵。私は着替えるから・・・そうね、20分程したら右に2つ隣の部屋に来て」


「分かった。一応入る時はノックするよ」


「当たり前でしょ。それじゃ」


ヴァレリールはエントランスから早々に去って行く。


俺も特に出来ることも無さそうなので自分の部屋だという部屋に向かった。


鍵を捻り入室する。


部屋の中には排水システムがちゃんとしてそうなユニットバスとベッドが備え付けられていた。


・・・後で体くらいは洗おう。


そもそも俺はスウェットとフリースという身の着のままこちらに来てしまったのだ、出来れば服も調達したい。


若干土の付いた服で寝そべるのははばかられたので下着となってベッドイン。


ヴァレリールが指定した時間までまだ少し時間がある。


俺はそっと目を閉じ記憶の整理を始めた。


そもそも未来の記憶と言っても過去の記憶と同じ様に”思い出す”まで大分アバウトな内容しか分からないし、整理する事で新しい事が分かるかもしれない。


揺らめくカンテラの光に照らされながらゆっくりと時間は過ぎていく。


・・・そろそろ時間だろうか。


時計が無いので具体的な時刻は分からないがそろそろ行っても良い頃合だろう。


部屋を出て右へ2部屋行くとなんだか少し緊張してきた。


なんだろう。何回か記憶の中では経験している筈だがやはり異性だと意識してしまうのはこの体がまだ若いという事なのだろうか。


「は~い。入って来て」


ノックをすると気の抜けた返事が帰ってきた。


「・・・香とか焚いて良いのか?」


「臭くは無いんだし良いんじゃない?」


そう答える彼女は20分前のシャツとパンツ、ロングコートのきっちりとした格好から打って変わってキャミソールの上からシャツを1枚だけ羽織るというラフ過ぎる服装に身を包んでいた。


「・・・警戒とかしないのか」


「あなた相手に?しないわよ。少なくとも私はあなたより強い訳だし、一体私達が何回未来を過ごしてきたと思っているわけ?」


「俺にその度胸は無いと」


「そういう事。信頼しているとも言えるわね。ほら、いつまでもそんな所に居ないでこっちに来なさい」


「・・・はい」


信頼していると言われ喜ぶべきなのか、度胸が無いと言われショックを受けるべきなのか分からないまま訓練は始まった。


「訓練と言ってもあなたに魔力を知覚してもらうだけなんだけどね。私には召喚とかさっぱりだし後は勝手にやってよ」


そう言うとヴァレリールは出会った時に見せた1枚の金属板をこちらに差し出す。


「片側を掴んでいて。私があなたから魔力を引っ張り出すから、あなたはその魔力が流れる感覚を感じ取りなさい」


「お、おう」


俺は彼女の言う通り、彼女が掴んでいるもう片側を掴んだ。


途端に猛烈な速度で吸い取られていく”何か”。


なるほど。これが魔力か。


知識だけでは無い今なら分かる。


魔力の源。


魔力の循環。


そして魔力の御し方。


「どう?少しは分かってきた?」


「あぁ。魔力とは何たるか何となく理解できたよ」


「あっそ」


そうして俺は気付く。


・・・このままだと搾り尽くされるっ!


その気付きは時既に遅く、魔力を吸い尽くされた俺は意識を放り出し、床に突っ伏す様な形になった。

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