第1話 並行存在
──クラスメイト3名が学校内で行方不明となった。
その事は新聞やニュースにも取りだたされ世間をざわつかせる。
同じ高校に通う俺含め、生徒達は彼らが使用していた補講室を不気味がって使わなくなった。
彼らは補講組だったが故によく放課後使用していた場所。
3人の内の一人、鷺浦美穂の事はよく分からないが工藤彰吾と武藤伊鈴に関しては補講に向けての勉強を頼まれて付き合わされていたので間違い無いだろう。
俺も最初は衝撃こそ感じたものの大学受験の勉強に向き合っている内に頭の隅に消えていく。
社会も1ヶ月程経った今では大々的に取り上げる事も無くなり、学校の責任を問う記事が月2度程ニュースになるだけだ。
真剣に向き合っているのは彼らの親と一部のオカルトマニア達だけ。
そうして彼ら等居なくても平然と世の中は廻っていく。
それが人情なんてものとは対極にある社会の形だった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
突然だが今日は土曜日、普段勉強する中での唯一遊ぶ事の出来るチートデイである。
俺は朝起き上がり早速パソコンの電源を入れた。
やはり戦略ゲーこそ至高だ。
学校の周りの男子はやれカラオケだの、やれTPSだの吐かしているが、そんなのは人としての楽しみを放棄している様にしか思えない。
この頭をフルで回転させるこの感覚が堪らない。
最近は最高難易度のクリア時間も目減りしてきた、この調子では3時間クリアもそう遠く無いだろう。
「よっしゃっ!ここを突破出来れば後はスムーズだっ!」
脳汁ドバドバ。アドレナリン最高潮。
立ち上がって「うおっほーい」なんて奇声を上げる俺は背中に引力を感じ、引きずり込まれる。
空中を回転する中で視界に入ったのは俗に言うブラックホールの様な謎空間。
しかしそれを認識したからといって空間を掴める訳でも無い。
俺のノーデスタイムアタックチャレンジは謎の力によって中断させられたのであった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
暗い空間を抜け、俺は”世界”を観る。
金色に輝く数多なる世界の森。
それぞれの世界は無数にその枝を増やし、その分岐した先からまた分岐を繰り返し、その姿は樹木の様。
知覚すると同時に様々な人物の記憶が頭に流れ込んでくる。
医者、研究者、教師、冒険者、組合員、兵士・・・本当に様々な人生。
だが、その瞬間確信した。
これは数多世界、過去未来における”俺”の人生、記憶、経験。
記憶と自我が混ざり、一つとなる。
世界を囲む世界の構造を、仕組みを理解する。
世界を行き来する魂の輝きが美しい。
どうやら今俺は他世界へ招かれているらしい。
もう時期他世界に取り込まれると思った時、突如視界が白転し、目の前には所謂女神といった風貌の、デカい布一枚だけを身につけた少女が現れる。
外見年齢からすれば俺より一個や二個下なのだろうが、実年齢は那由多とかそういう次元で年を取っているのだろう。
「よくぞ我が召喚に応じてくれた。数多なる観測せし者よ」
「いや、あの、応じるとか無かっ・・・」
「コホンっ!」
抗議をもう立てるが成立しなかった様である。
「早速だが、状況を説明しようじゃないか。君も並行存在としての自我を覚醒させたばかりのようだしね」
女神はどこからともなく出現した腰掛けに腰を掛ける。
「とは言え君はどうやら過去や未来の分岐世界との君とも記憶を同調させているようだし、粗方の事は分かっているんじゃないか?」
「いえ、記憶が収まった様な感覚はあるのですが、未だ混濁していて・・・」
「なるほど。宜しい。では語るとしよう。まずは君の事だが・・・分かりやすく言うにはちと難解が過ぎるが、簡単に言えば世界と世界との距離を保つ為の楔だな。全ての魂と言うのはその身から解き放たれし時、輪廻の力に導かれ世界から世界へと移動しそこで新たな身体を得る。そうした自然の摂理を補助する為、世界と世界を個人であるという因果で結びつける、数多世界を囲むこの世界が生み出した楔。それが君であり、数多なる観測せし者達。で、そうした者達は個人であるという因果が世界を跨いでいるせいか我ら神と同じ様にこの世界を囲む世界を観測できるのだ」
そこまで言い切ると神は溜息を吐く。
「・・・どうやら君は君が私に召喚された影響について不安を覚えているようだが、問題は無い。君がいた世界にも君はいるのだからな。君は我に呼ばれた分岐世界の君でしかなく、彼の世界には君と分離した君がいる。影響など皆無に等しいのだ、安心しろ」
「分岐世界とはあの細い枝みたいな・・・」
「あぁ。それで間違い無い。次に我が君を召喚した理由だが、ここ最近身近な3人が消失したのではないか?」
「はい」
「・・・反応がイマイチだな。まぁ良いだろう。彼達は我が召喚し、力を与えて我が世界に放った。よりにもよってこの世界で顕現してしまった常闇の化身を討ち滅ぼす為にな」
常闇の化身?
「疑問があるなら口にだせ・・・何事にも負の面はあると言うものよ。魂はこの世界を発つ時ある程度の罪や穢れと言うものを置いていくのだ。それが溜まり、混ざって意志を持つようになった。それが常闇の化身。生まれい出る事は仕方の無い事であり自然の摂理なのだが放っておく訳にはいかんのだ。人を殺し魂を吸収していくにつれ、孰れ世界をも飲み込む強大な存在となる。そうなる前に倒さねばならん」
「私にその常闇の化身を倒せと、そういう事ですか?」
「いや、そうでは無いとも言いきれないが、件の3人を監視して欲しいのだ。彼等には確かに力を与えたが強大な力に代償は付き物、神が与える力など唯の人の魂には荷が重すぎる。端的に言えば精神汚染、それも重度のものだ。君には彼等にこの目的からの離反やこれ以上の続行は不可能だと判断出来る要因を確認したら彼等を殺すか、無理なら情報の収集をして来て欲しい」
「・・・精神汚染を引き起こす可能性のあるものを与えたのですか?」
幾ら相手が神であろうと知り合いに危害を加えるのは容認出来ない。
それに”殺せ”とはどういう意味なのか理解出来ない。
「不可抗力だ。我達神はあくまで世界を外側から守護する役割であり内部に干渉は出来ない。声を届ける位ならば出来るのだが、自ら力を振るったり、生物を無理矢理操ったりなどは出来ないのだ。それ故にこの世界へ巡ってきた魂や、自ら召喚した人物に力を与えるしか無くなるのだがその魂が如何なる状況に産まれるのかは予想出来ないのでな、だが召喚なら始めから意思疎通が取れて投じる位置もある程度融通が効く。だから彼等を召喚したのだ」
「殺せとは・・・それに情報を集めて何になると?」
「君も勘が悪いな。我が召喚するのだから彼等は質の良い魂であり、常闇の化身に取り込まれてはその成長を促してしまう。そして、君の利点は何より未来の自分の記憶を観る事の出来る点だ。つまり君の集めた情報は過去の君をより有利にする事が出来るという事。我としては君含め召喚した4人全員が生き残り常闇の化身を倒す世界線を作って欲しいんだ。常闇の化身は君達の劣化版の様な存在、つまりはこの世界限定の並行存在であり、一度倒せばその力を大きく失い、全ての分岐世界から消失するか後はこの世界の住民でも倒せる様になる筈だ」
神は俺の額に手を当てる。
「それでは頼んだぞ。まずは君の記憶にもおるのだろうがヴァレリールという女を訪ねると良い。彼女も君と同じ並行存在でね、きっと君を良い方向へ連れて行ってくれる筈だ。ついでに君にも力を与えてある。名を付けるならば”召喚術士”。意思ある者を呼び寄せる力だ。是非とも上手く使ってくれたまえ」
意識が遠のく。
「君の短くとも永劫ともとれるその旅路が恵まれたものになりますよう・・・君の元の世界ではこう言うんだったね。グッドラックッ!物部久沓っ!君の活躍に期待しているよっ!」
俺は世界に放り出された。
作品紹介にもありますがこれから七日間程、18時頃に投稿します。