もう遅いシンデレラ
火災保険って大事だねって話。
昔々、シンデレラと呼ばれる小汚い娘がおりました。
継母や義姉達はシンデレラが気に食わず、シンデレラに辛く当たって扱き使っておりました。
ある日のこと、お城で盛大な舞踏会が開かれることになりました。シンデレラも舞踏会を夢見ますが、意地悪な義姉達はシンデレラに留守番を命じました。
「ああ、私もお城へ行きたいわぁ……」
シンデレラが窓辺でため息を漏らしていると、そこへ魔法使いが現れました。
「可哀想なシンデレラ。私の魔法でお城へ連れて行ってやろう」
魔法使いが杖を振りかざすと、カボチャの馬車に綺麗なドレス、そしてガラスの靴が現れ、シンデレラは見事に変身を遂げました。
「それじゃ、行ってくるわね!」
シンデレラはカボチャの馬車に乗り、お城を目指しました。
「12時までには戻ってくるんだぞ! 魔法が解けてしまうからね!」
シンデレラはとても嬉しそうにお城へ向かいました。
しかし、あることに気が付きました。
「大変! ガスの元栓閉めたかしら!?」
今頃気が付いてももう遅いのです。カボチャの馬車はとっくにお城へ着いてしまいました。
「ま、いいか」
シンデレラは気を取り直して舞踏会へ参加しました。そして、王子の目に留まり踊ることが出来ました。
「おお、なんと美しい娘だ……!!」
しかしシンデレラはまたしてもあることに気が付きました。
(あれ? 私、玄関の鍵閉めたかしら……?)
今更気が付いてももう遅いのです。シンデレラは先程のガスの元栓の事もあり、とても気になって踊りに身が入りませんでした。
──ゴーン……ゴーン……
12時を知らせる鐘が鳴りました。
「ごめんなさい! 私、帰らないと……!!」
「ああっ! 待って……!!」
シンデレラはガスの元栓と玄関の鍵が気になって、帰ることにしました。
しかし、時既に遅し。家は泥棒に入られ、元栓の開きっぱなしから火事になっておりました。
「のわー!!!!」
懸命な消化活動も空しく、シンデレラの家はあっという間に焼け落ちました。
家が無くなったシンデレラ。継母達はシンデレラを捨てて別な男の家へと行きました。
そして──しばらくの後、ガラスの靴が合う女性を探しに王子がやってきました。
「おお! 貴女こそあの時の……!!」
シンデレラを見つけて喜ぶ王子。
「どうか私と、結婚して下さい!」
王子が結婚を申し込みますが、シンデレラは何処か浮かない顔です。
「ゴメンなさい。もう遅いんです」
「……?」
そこへ、一人のたくましい男が現れました。
「私、結婚しました」
なんと、シンデレラはその後、家を失ったショックで塞ぎ込んでおりましたが、見かねた消防士がシンデレラの心の支えとなってくれたのです。
やがて二人はめでたくゴールイン。しかも、火災保険に入っていたので、新しい家も直ぐに手に入りました。
「今、お腹に赤ちゃんがいるんです。私、とっても幸せです!」
シンデレラの笑顔はとても眩しく、王子はガラスの靴をそっと置いて帰りましたとさ。