期間限定
ブルース以外にも居たのは知りませんでしたけど、確かにアイン達が治める西の地方では、王様トカゲだからと狙われる事はないと思います。
《嘘でしょ?
王様トカゲが狙われもせず、普通に生きていけるの?》
《全ての人が戦いを好んでするわけではないわ。
戦わぬ奴らからすれば、他種族を襲ってまで自らの欲望を満たすのは野蛮な事ぞ。
欲望を押し通そうとすれば、逆に自らが滅ぼされかねぬからな》
確かにそんなことをすれば、アイン達が黙っていないでしょう。
《うぬは若いゆえ、狭い範囲しか知らぬ。
なのにその少ない知識だけで全てを捨てるとは愚かぞ》
《そうですね、もっと色々な事を知ってからでも遅くないと思いますよ》
彼女は黙り考え込んでいます。
《それにうぬだとて卵は生みたかろう。
雌が卵を産むのは本能でもあるからな。
姿を捨てると卵は産めぬぞ》
卵…ではないですけど、女性が自分の子供を産みたい、好きな相手の子を産みたいと思うのは本能かもしれませんね。
私達男性が自分の血を残したいと思うのと同じ様に。
《……そりゃあ私も強い雄の卵は産みたいと思うわ》
《それに存外人の姿は不便ぞ。
翼は出して空は飛べる、爪を出して獲物は狩れる。
だが力は弱くなるし魔法の威力も落ちる。
魔素は溜まる一方だし、ちょっとの事で傷がつくし、病にも侵される》
王様トカゲの姿なら、硬い鱗に覆われていますから、多少の事で傷はつかないでしょうけど、人の体は簡単に傷付きますし、壊れますよね。
彼女はますます考え込んでしまっている様です。
二人の話を聞いていて、ふと思いついた事を提案してみましょう。
《期間限定で人になるのはどうですか?》
私の考えに、王様トカゲの彼女はキョトンとして、ブルースはニヤリと笑います。
《ほう、何か面白そうな事を考えついたな》
《ええ、ここで名前を付けるのも拒否するのも簡単です。
それに正直言いまして、彼女を家族に加えるには、彼女のことを知りませんし。
でもそれでは彼女にしこりが残るでしょう。
だからこそ、初めから期間を決めて一度人になるのはどうですか?》
若いからこそ簡単に姿を捨てると言います。
多くのことを知らないからこそ、安易な道があればそちらに進もうと考えます。
安易だと思われた道にも苦難があるとは考えつかない、それが若さだと思います。
どんなことであろうとも、人に言われた事とは、理解しても納得できません。
納得しない事はいつまでも『あの時ああすれば』と、しこりが残ります。
また、自分で体験して納得した事でないと、他人のせいにして、いつまでも目を逸らすことになります。
【自分】が【実際に体験】して【頭で理解】して【心で納得】する、そうすれば後悔も少なくなると思います。
後悔はどうやったってなくならないものですから。
体験のできる手筈があるなら、先達として手を貸すのが良い方法だと思います。
だからこそ、
《人となってブルースの言う不便な生活を送ってみて、それでも人として生きていこうと思うのならそのままで、元の姿に戻りたいなら名前を返してもらう、と言うのはどうでしょう》
私の言葉にブルースが頷きます。
《ふむ、知らぬなら知れば良いか。
不便さは口で言うても理解できぬだろうからな。
しかし甘いな、お前は》
《若い子に手を差し伸べるのも大人の役割でしょう?》
《その甘さも嫌いではないがな。
それでお前はどうする?
何も知らずに姿を捨ててしまうか、一度人として生きてみてどちらを選ぶか決めるのか》
ブルースの問いかけに、彼女は私達の高さまで頭を下げて来ました。
《色々考えてくれてありがとうございます。
宜しくお願いします》
先程まであった焦りの様な雰囲気が無くなり、少し穏やかな表情をしています。
隣にいるブルースを見ると大きく頷いたので、名前を付けて良いと言う事ですよね。
「くれぐれも真名を付けるなよ」
と、小声で言ってきますけど、流石にそれはしませんよ。
期間限定で返してもらう事になるかも知れないのですから。
期間限定の仮の名前と言えども、変な名前は付けられません。
……今までインスピレーションで付けてきましたし、コニーの名前は女性の名前ですけど、それは置いておいて。
やはり女性に付けるのならキチンとした……うーん…。
女性なら花の名前ですかねえ…マーガレット…ローズ……チューリップ…………花の名前が浮かびませんね。
いつものように歌からなら……ジュンコ…サチコ……港のヨーコ…いや、日本名はやめた方が良いですよね。
しかしこうして近くで見てみると、晴れ渡った空の様な綺麗な青い目をしていますね。
キラキラとダイヤの様に輝く鱗と、空色の瞳………。
彼女の頭にそっと手を当て、思いついた名前を告げます。
「あなたの名前は『ルシー』でどうでしょう」
彼女の体がぽうっと光って見る見る縮んでいきました。
この話は初め別パターンで考えていました。
遥か年上の雄達から、卵を産むためだけに迫られる事にキレて、「自由に恋愛をしたいから人になる!」と現れて、恋愛の末に駆け落ちしたジョニーが、恋愛は大事だと名付ける……。
なのに実際に書いていたら「そんなの私じゃないわ!」とばかりにこうなりました。
因みに名前から生まれたキャラです。
はい。あの偉大なるグループの曲です、すみません。




