可能性のある話
「そうですか、そのゴキブリとはモンスターではなく、ジョニーのいた世界ではよく発生する虫だったのですね」
無事殲滅を終え、ギルドに報告し、ランクアップも済ませ、宿でアインと合流です。
私たちの部屋で、アインとシナトラとお茶を飲みながら、今日の出来事を報告中です。
ブルースとチャックは、ブルース達の部屋でへばっています。
「モンスターではなく虫なら、魔石が出ないのは当たり前ですね。
しかしどこから来たのでしょうね。
私も聞いたことのない虫です」
「バビュンって早いし、飛ぶしで面白かったよ」
シナトラは元気です。
「遊ぶ用に一匹持って来たから見せてあげる」
マジックバックから、取り出されたゴキブリ……。
シナトラはバカです。
ピキッ! バシン!!
テーブルの上に置かれた瞬間、ゴキブリは凍りつき、目にも止まらぬ早業で、木製のマグカップの底で叩き潰されました。
「これは確かに生理的に受け付けませんね。
フタツオオツノに似てはいますけど、背筋がゾッとすると言いますか、胃がせり上がって来ると言いましょうか…。
私も無理です。
行かなくて良かったです」
アインはテーブルごと土魔法で包み込み、圧縮して潰し、窓から投げ捨てました。
テーブルを弁償して来ますと部屋を出るアインと、おもちゃが無くなったとガッカリするシナトラの温度差が……。
パーティのランクも【有名】のランク4になったし、目的地もわかった事だしで、明日か明後日にでも出発しようかと言う事になりました。
アインがこの国で知り合いに会ったそうで、挨拶に出かけて、夕食後の今、4人で部屋でまったりしながら、ブルースからランクの話を聞いています。
ランク3【一流】は、未開の地や、未踏破のダンジョンを踏破したり、新発見の魔獣の討伐などや、他の人が達成できなかったり、到達できなかった事を成功させると取得できるそうです。
ランク2の【英雄】は国の危機を救ったりすると到達できるのだそうです。
例えば、魔獣の異常発生(スタンピートと言うらしいです)を解決したり、疫病の蔓延をどうにかしたり、戦争で活躍したりなど。
ランク1【伝説】は、今までに3人しか居ないそうです。
船で大陸間を横断し、大陸を結んだ【交易の神】
大型で凶悪な魔獣の住処だった大森林に踏み込み、複数国、数百人規模で被害の出ていた魔獣を倒した【森の覇者】
残りの一人は機密として秘匿されているそうです。
一体何をやったどんな人なんでしょう。
「これも秘匿されている事なのだが、【森の覇者】が倒した凶悪な魔獣は、魔化した王様トカゲなのだ。
理性をなくし、国々を襲い、蹂躙し………人を喰らった…。
【森の覇者】は王様トカゲの亜人だ。
もし、【森の覇者】が王様トカゲの亜人でなければ、今頃全ての王様トカゲは殲滅されていただろうな」
お酒を飲みながら、ブルースはどこか痛そうな顔をして言葉を続けました。
「倒された王様トカゲは、【森の覇者】の子供だったらしい。
我ら王様トカゲは寿命は長いし、生まれて一人で餌が取れるようになるとすぐに独り立ちだ。
【森の覇者】は若いうちに数個の卵を産み、200を迎える頃に亜人化して冒険者となったそうだ。
冒険者として名が売れた頃、回って来た依頼がそれだった。
まさか相手が王様トカゲとは思わず受けて、倒してみれば一番最初に産んだ卵の子だったそうだ。
自分が腹を痛めて産んだ最初の卵…。
其奴は冒険者を辞め森に引きこもり、二度と森から出る事はなかったそうだ」
一緒に聞いていたチャックもシナトラも、神妙な顔をして黙っています。
「……覇者さんは女性だったのですね」
我が子を手にかけなければならなかったその方は、どれだけ心を痛めたのでしょう。
「我ら王様トカゲは強い。
力も強いし頑丈でもある。
魔力量も多いし、威力も高い。
…………万が一我が魔化したら…いや、しそうになったら…ジョニー、お前とアインとコニーで止めてくれ。
3人がかりなら元の姿でも殺せるだろう」
「嫌ですよ!」
縁起でもない言葉を否定すると、ブルースが真っ直ぐ私の目を見つめます。
「……酷いことを言っておるのは分かっておる。
家族であるお前らの手にかかりたいと言う我の我儘だ。
それにお前なら、これより先の王様トカゲの事も考えてくれるだろう。
……我は強い、だからこそ自分が恐ろしくもあるのだ」
ブルースの言いたい事はわかります。
強い王様トカゲが魔化して国を滅ぼしでもしたら、全ての王様トカゲが倒されてしまうかもしれません。
魔化はどんな生き物でもなる可能性が有るのですから、絶対にあり得ないとは言えないのです。
万が一そうなった時の話で、ブルースが魔化するとは限らない、それは分かっていますけど、分かっているのですけれど………。
「魔化って魔素を取り入れすぎてなるんでしょ?
ならチャック兄ちゃんが吸い取ればいいじゃん」
「は?」
重い空気を破るのはいつもシナトラです。
確かにチャックは魔素を上手く循環できないので、私にくっついて魔素を取り入れていますから、ブルースから貰うようにすると、少しは魔化の可能性が減るかもしれませんね。
「そんなことしてオレが魔化しちゃったらどうすんの?」
「んー、兄ちゃんが吸い取るみたいに、何かそんな道具かなんか無いの?」
「そんなの聞いたことないよ」
…………んん〜?
ジョニー「もしブルースから魔素を吸収するなら、これからチャックはブルースとなる事になるのですね、寂しいです」
チャック「そんな事言ってないじゃん」
ジョニー「これからも私と寝てくれるんですか?」
チャック「気が向いたらね!」
ジョニー「(ふふふふ、ツンデレ可愛いですね)」




