探索をしてみよう
寒さとくすぐったさを感じ、目を覚ますと、焚き木が消えていました。
くすぐったさの原因は、枕代わりの丸めたリュックの上、私に擦り寄るようにくっつく紫色の羽毛です。
私が目覚めたのを感じたのか、パッと離れて、
「ギー!ギーーー!」
と威嚇した後、また飛んで行ってしまいました。
寒かったのでしょうね。
焚き木が消えてしまい、寒さを凌ぐ為にくっついていたのでしょう。
私は再び焚き木に火を付け、横になり寝たふりをしていました。
暫くすると紫色のオカメインコは三たびやって来ました。
焚き木に近づき、私の方を気にしながらも、丸まって目蓋を閉じます。
やはり寒かったようですね。
私は驚かせないように、なるべく優しい声を心がけて話しかけました。
「ねえ君、寒いのなら毛布の中に来るかい?
一緒に寝るときっと一人より暖かいよ。
私は君に危害を加えはしないよ。
信じられないかもしれないけど、信じてくれたら嬉しいな。
私は動かないから、君が暖かく寝たいなら、こっちにおいで。
私は先に寝るから、少しでも信じてくれたなら、毛布の中に入って来るといいよ」
紫色のオカメインコはじっと私の話を聞いています。
動物に話しかけるなんて…と仰る方はいますけれど、私は動物にだって言葉は通じると思います。
気持ちも通じると思っています。
「それじゃあ私は先に寝るから、気が向いたらおいでよね」
伝える事を伝えて、私は再び眠りにつきました。
明け方目を覚まし、そっと毛布をめくると、胸の上で寝ている小さな命。
体より心が暖まりますよね。
冷たい空気で目が覚めたのか、オカメインコはビクッとした後、隙間から飛び去って行きました。
残念です。
荷物はその場に置き、川で顔を洗い水筒に水を入れたら、食べ物を探しに出発です。
持ち物は水筒と木の棒、ウエストポーチの中はナイフとドリンク剤の瓶一本、それに昨日引き裂いた手拭いの残りを同じ様に引き裂き、半分の長さに切った物が8本入っています。
森の奥へ進み暫くしたところで、木の枝にリボンを結びます。
そこから進み、枝にリボンを……こうすれば帰り道に迷わないでしょうから。
リボンがなくなるまで進み、何もなければ、リボンを回収しながら戻り、別の方向へ進めばそのうち何か食べられる物も見つかるでしょう。
三つ目のリボンを結んだ頃に気づきましたが、オカメインコが付かず離れず付いてきているようです。
私に興味を持ったのでしょうか?
ふふふ、そうなら嬉しいですねえ。
一度目、二度目と空振りに終わり、三度目の挑戦だとも思いましたけれど、お腹空いて気力も落ちました。
昨日から焦げた生焼けキノコと出がらしキノコ、それにキノコの煮汁と川の水しか口にしていません。
先ほどから獣道を歩く足音より、お腹の音の方が大きいです。
川原であちらこちらに生えているキノコを焼いて食べることに。
今回は火から離して焦げないようにしましたけど、生焼け具合が酷くなっただけでした。
網でも有れば、スライスして焼けますが、無い物は仕方ないです。
空腹は紛れましたけど、ストレスは溜まります。
早くキノコ以外の食べ物を見つけないと。
三度目の探索の途中、緊急事態が発生しました。
無いと分かっていても、ついキョロキョロ探してしまいます。
ト……トイレ…………、あるわけないですよね。
小ならまだしも、生焼けばかり食べた弊害が、空腹とは違う音がお腹から響いてきています。
諦めて草むらへ入り、せめてもと土魔法を使います。
「小さな落とし穴」
出す物出したら何とか落ち着きました。
しかし困った事は続きます。
トイレが無いのに、トイレットペーパーなどあるわけがありません。
でもこれは大丈夫でした。
「ウォシュレット」
後は穴を埋めてしまえばいいですよね。
これで大丈夫、大丈夫じゃないのは、ずっと見られていた事です…、オカメインコに。
精神的にダメージがありますけど、見られていた事は忘れましょう。
四度目、五度目、何も見つかりません。
出したからか、お腹が空きました。
けれどキノコは暫く口にしたくありません。
六度目、二つ目のリボンを結ぼうとして上を向いていたら、足元の木の根に引っかかり、転んでしまいました。
なんだか立ち上がる気力がありません。
このままここで朽ち果てるのでしょうか。
幸せになるどころか、第二の人生開始早々に餓死ですか。
投げやりな気分になってきます。
そのままうつ伏せに倒れていると、何かが後頭部に当たりました。
顔を上げて辺りを見ると、中指ほどの黄色い物体が……。
それを手に取り、皮を剥いてみると、見たことのあるそれはやはり
「モンキーバナナじゃないですか!」
バナナは素晴らしいですよ、甘いし栄養価も高いし、腹持ちもいいし、皮も剥きやすく種もないので、簡単手軽に食べられますからね。
私は一口でそれを食べました。
ああ、甘さが染み入ります。
しかしこれはどこから来たのでしょう?
キョロキョロと見回してみると、オカメインコがモンキーバナナを一本足に掴み、飛んでくるではありませんか。
「君が持ってきてくれたのか?
ありがとう」
体を起こし座ると、オカメインコに向かい頭を下げ礼を告げます。
オカメインコは持って来たモンキーバナナを私の前に落とすと、
「ギーー、ギギ、ギーーー!」
と威嚇しました。
これはアレですかねえ、『つんでれ』とか言うやつなのですか?
一宿の恩返しですかねえ、ありがたく頂戴いたします。
私がまた一口で食べると、オカメインコは川の方へ向かって飛び、低い木の枝に止まると、「ギー」と鳴きながらこちらを見ています。
こちらへ来いと呼んでる気がします。
私が近づくと、また先の木に止まりこちらを見ているので、私の考えは間違っていないでしょう。
オカメインコに先導されて川へ戻った所で、彼(多分きっと雄ですね)は川向こうへ飛び、河原に降りてまた鳴きます。
川を渡れと言う事でしょうか。
サンダルの様な靴で川を渡るのは怖いので、裸足になって渡ります。
幸い深い部分でも太腿の辺りまででしたので、何とか渡りきることができました。
オカメインコに導かれるまま進むと、少し開けた場所にモンキーバナナが群生していました。
「おお…これはありがたい!」
そこにはモンキーバナナだけでなく、よくよく見るとビワも成っています。
ビワが成っていると言うことは今は5月あたりですかね。
とりあえず首にかけていた手拭いで包めるだけ採り、川へ戻ります。
どうやら川の向こうは実のなる木は無いのかも知れません。
拠点をこちらに移し、明日からはこちらを探索しましょうか。
『バナナは万能食』と、ある程度年のいった方は言いますから、バナナを運んでもらいました。
でも自分はバナナ食べれません。
味も食感も苦手です。
でもバナナ入りのデザートって多いんですよね……。
あ、枇杷も食べれません(苦笑)