東の魔王
東へ東へと進み、今私達は東の山の魔王の城へ来ています。
東の山の魔王は、見た目がとても魔王らしいです。
黒いストレートの髪に、金の飾りがジャラジャラ付いている黒い服を着ていて、頭に曲がったツノの付いた、眉間に深い皺のある年配の男性、白くて細っそりして品のあるアインと正反対ですね。
「…………何をしているのですか、あなたは」
アインが東の魔王に冷たい視線を投げ掛けます。
もしかして仲が悪いのでしょうか?
「余も学んだのだ。
見た目が物を言う場合もあると言う事を」
声も見た目に合った渋い声です。
「見た目に振り回されるのは小物のすることぞ。
お主の言いたいことも分かるが、今は内輪しかおらぬのだから、本来の姿になってはどうだ?」
ブルースも知り合いみたいですね。
「……………………然らば」
ぽいん と気の抜ける音がして、魔王の姿が消えました……と思ったら。
「もうさ、嫌になるよ!
だって訪れて来る奴、来る奴皆俺が魔王って信じないんだもん!」
視線をずーーっと下に落とすと、そこに居たのは、プニプニほっぺがぴかぴかしている三頭身の幼児!
プニプニほっぺをぷっくりと膨らせて、唇を尖らせている、黒髪の幼児は、腕を組んでいるつもりなのでしょうけど、組めていず、胸の前でクロスしているだけです。
黒髪はクリンクリンしているし、クロスした紅葉のお手手は、エクボができていますよ!
爪は桜貝の様だし、肌は水弾きの良さそうなツルスベだし、幼児特有の頭の大きさ…完璧な幼児が居ますよ!
うわー、近くで見ても可愛いです。
膨れっ面が解消されて、キョトンとした顔なんですけど、大きな目がこぼれ落ちそうです。
少し垂れ目気味で、黒目が大きい…たぬき顔ですね。
真っ直ぐで長かった髪は、クリンクリンのふわふわ天然パーマで、サイズの小さくなったツノがピョッコリ飛び出しています。
ああ、なんで可愛いのでしょう!
「……い………おい!ジョニー!」
「はっ!何でしょうか、何かありましたか?」
「何かありましたか?じゃないぞ、お前なんで東のを抱っこしているのだ」
「えっ⁈」
余りの可愛さに、無意識のうちに抱っこしてしまっていたようです。
どうりで近いと思いましたし、キョトンとしているはずです。
「すみません、あまりにも完璧(な幼児)過ぎて、無意識のうちに体が動いていました」
「そ、そうか?
俺は完璧(な魔王)か?」
「ええ、こんなにも(幼児として)完璧で素晴らしい方は見たことありません」
私の言葉に、腕の中の幼児が顔全体でニッコリと笑いました。
あ、心臓鷲掴みです。
「そ、そうか、そこまで言うのなら、俺の眷属にしてやらんこともないぞ」
「本当ですか?
是非私の家族になって下さい!」
「そこまで言われて拒否するのはな。
よし、それならお前は俺の眷属だ!」
「家族になって下さるのですね?
ありがとうございます」
「………ねぇ、この茶番止めなくて良いの?」
「家族と眷属って同じ物なの?」
チャックとシナトラの声は聞こえますけど、言葉の中身が脳に届いてこないほど、その時の私は幼児に夢中でした。
「前の魔王が50年程前に死んで跡を引き継いだけど、俺まだ150歳だし、魔力が多過ぎて体の成長が遅いんだ」
この東の魔王は、今では殆ど生まれてこない、この地で生まれた【純粋な】魔族なんだそうです。
魔族の増え方は分裂で、今居る魔族の殆どが分裂の分裂…つまり新しく生まれた魔族ではないそうなのです。
【純粋な】生き物の生まれ方は、長い年月をかけて、星の魔素のみが集まって生き物の形をとったモノ、なのだそうです。
とった形によって、【純粋な】魔族、【純粋な】王様トカゲ、【純粋な】動物……など呼び名は変わるそうですけど、【純粋な】王様トカゲは数千年生まれていないそうで、その王様トカゲは【エンシェントトカゲ】と呼ばれ、今も生きているのかどうかは不明なのだそうです。
動物の場合は【幻獣】と呼ばれるそうで、各種族毎に複数存在し、その種族をまとめるそうです。
【純粋な】魔族は【幻獣】ほど頻繁では無いですけど、それでもここ千年ほどは出現していなかったそうです。
長い年月をかけて形作る間に、沢山の知識と豊富な魔力、それに尽きぬほどの寿命を持って生まれて来るそうなのですけど、器の成長は保有する魔力が多い程、バランスを取る為に遅くなるのだとか。
つまり150年で2歳児程の成長しかしていない彼は、魔力が多過ぎて、成人男性の外見を得るまでに途方もない時間が必要になるとのことです。
つまり…(ほぼ)永遠の幼児………。
客室のソファーに座ってアインから説明を受けていたのですけど、
「ねえ、お兄さん、いい加減降ろしてくれないかな」
なんてことでしょう!先程抱っこから下ろしたはずの東の魔王が、今ではソファーに座る私の膝の上に乗っているではありませんか!
「何驚いてんの?
アインさんが説明してくれてる間に、魔王様がわざわざお茶を出して下さったのに、あんたひっさらって膝に乗せてたじゃん」
あー…幼児が魔法でそれぞれの前にお茶を出して、得意満面(に見えた)笑顔を見てから、自分の行動に覚えがありませんね。
「でも家族になって下さるんですよね?」
「おお、眷属にしてやるぞ」
「……………? 眷属?」
「……………? 家族?」
お互いに顔を見合わせて首を傾げていると、ブルースが呆れたように
「やっとお互いの齟齬に気づいたか」
と、ため息混じりで呟きました。
「ええー、家族じゃ無いんですか?
私と妻の子になって貰おうと思っていたのに」
「ちょっと待て、なんで俺がお前の子になるんだよ、俺の方が年上だぞ」
「だってこんなにも可愛い子、見たことないですよ。
世界中、私の前にいた世界も合わせても、こんなに完璧な幼児は居ません!
あなたを見たら他の幼児が全て霞んでしまいます!
チャックとシナトラも息子として可愛いですけど、あなた以上の幼児は二つの世界を探しても絶対に居ません!!」
周りの皆が引いていますけど、気になりません。
膝の上の魔王は一瞬キョトンとした後、口を引き結び、上目遣いにこちらを睨みつけてきます。
「幼児、幼児と言うんじゃ無いよ!」
一瞬怒ったのかと思いましたけど、引き結んだ唇の端がふよふよと緩んでいます。
「でもまあそこまで言うのなら、家族になってやってもいいぞ。
俺は器の大きな魔王だからな」
思わず力一杯抱きしめてしまいました。
クルクル天パの幼児は私の性癖です(笑)
初めはアインと同年代の魔王を思い描いていたんですけど、書いてみたらこうなりました。
見た目2歳児でも150歳なので、幼児語は使いません……必要な時以外。