武器を選びました(私以外)
いやはや、歳を取ると涙脆くなるものですねえ。
今は19歳の身体だとしても、中身は56歳の中年ですから。
私を泣かせたと半泣きなっていたチャックに、妻を思い出しただけだと正直に告げ、宥めてからその場はお開きとなりました。
部屋で一人反省会です。
皆に気を遣わせましたし、チャックを驚かせてしまいましたね。
この一年間感情が麻痺していて、喜怒哀楽が薄かったのに、この世界に来てから感情の起伏が激しいように感じます。
死んだように生きていた一年の反動でしょうか。
明るい感情は表に出すのは悪い事では無いと思いますが、暗い感情は表に出すべきでは無いですよね。
私もいい年した大人なのですから、腹芸の一つでもできていたはずです。
マイナス感情を悟られないように心がけましょう。
そのまま眠ってしまったのですが、気づくとチャックがくっついて寝ていました。
寒かったのでしょうか、それとも年甲斐もなく泣いてしまった私に、寄り添ってくれているのでしょうか。
まだ出会って数日ですけど、なくてはならない存在な気がします。
眠るチャックの頭を撫でて、再度眠りにつきました。
朝起きると、またシナトラもベッドに居ました。
起き上がった私に気づいて目を覚ましたシナトラに、
「ジョニーさんずるいよ、なんでいつもチャックと寝てんの?
僕だけ仲間はずればっかで寂しいよ」
と、文句を言われてしまいました。
形は大人でも、まだ生まれて一年の子供ですから、独り寝は寂しいのでしょうね。
スペースさえ大丈夫なら、私は一緒に寝ても構わないですよ。
シナトラの声でチャックも目が覚めたようです。
「お、オレは寂しくなんか無いんだからね!
ただ昨日泣かしちゃったから、寂しがってんじゃあないかって思っただけだから!
オレが寂しいんじゃ無いから!」
一生懸命の言い訳が可愛くて、思わず笑ってしまいそうになりましたけど、ここで笑うと拗ねてしまいそうですね、我慢我慢。
クリーンの魔法をかけてもらい、スッキリしてリビング(と勝手に思っています)へ行きますと、アインとブルースが居ました。
ソファーに腰掛けるアインを見てシナトラが声を上げました。
「アインの髪がない!」
「その言い方!」
すぐさまチャックの突っ込みが入ります。
アインのキラキラとした長い髪が、肩甲骨の下辺りの長さに切り揃えられていました。
服装も、ギリシャ神話の神々みたいな白いワンピース?から、ポロシャツの様なシャツとピッタリとしたズボンに変わっています。
「長い髪は旅に出るには邪魔ですからね。
このくらいの長さなら結べば邪魔にならないでしょう」
言いながらポニーテールに結んで「どうです?」と私たちに見せます。
「お似合いだと思いますよ。
服もとても動きやすそうですし」
私の返答に、アインはニッコリ微笑みを返してくれました。
分裂したヨルゼル氏は勿論長髪で白い衣装のままです。
髪型と服を変えただけで、印象は随分と変わるものですね。
うん、アインとヨルゼル氏、と言う感じですね。
朝ごはんに昨日余った肉をスープにしました。
また肉料理です。
ご飯がないのならせめてパンが欲しいです。
主食は人族の住む村や町なら手に入るでしょうか。
「そう言えばあなた方は武器は持っているのですか?」
アインに聞かれましたけど、私の武器はナイフになるのでしょうか?
でもナイフを使って戦った事は無いんですよね。
武器にと思っていた木の棒は、ブルースに運ばれる時に落としてしまいましたし。
「僕は狩の時も爪だよ。
後は植物魔法で絡め取るよ」
「オレは戦う事なんてした事ないよ。
今はまだ魔法も使えないし、突く嘴もないし、戦う術はないね」
「我はブレスと魔法と爪と牙だが、人の形なら剣を使うな。
今は持ってはおらぬが」
皆戦う手段を持っているようですね。
「人の形になっても、小型の動物を狩るくらいなら爪でもどうにかなるのでしょうけど、武器は扱える様にしておいた方が良いですよ。
それぞれ魔法は使えるでしょうけど、場所によっては魔法で戦えない事もあるでしょうし」
そう言うと、アインは私達を武器庫に案内してくれました。
「どれでも使えそうな物を持って行って下さい。
私はこれです」
ベルトに付いていた20センチ程の筒を取り、勢いよく振り下ろすと、2メートルは優に超える白銀に輝く美しい槍となりました。
「邪魔ですからね、普段はこの大きさで」
言いながらもう一度振ると、元の筒に戻りました。
「使う時に魔力を流して本来の姿に戻る様にしています。
後はこれですね」
さらに振ると、今度はしなる白い鞭になりました、同じ筒なのに。
「流す魔力を変えているだけです。
この筒には二つの武器を記憶させているので、流す魔力に反応してどちらかの形を取り戻すのです」
「便利なのですねえ」
「我は剣なら何でも使えるが、大剣が好ましいな。
だが持ち歩くに不便だ、お前のそれみたいな機能にしてくれ」
ブルースが幅の広い大きな剣を、片手で軽々と操ってみせます。
格好いいですねえ、しかし持ち歩くには邪魔そうです。
「これは職人に施してもらった術式ですから、私にはできません」
「そうか、この剣気に入ったのだが、通常は腰に挿せる大きさ、魔力を流すと元の形になると使い勝手が良さそうなのだが」
仕方ないかと別の武器を選び始めるブルースに、アインが提案します。
「それなら町へ行って、術式を施してもらうと良いでしょう。
それまでは邪魔にならない剣を代用するのはどうですか?
町まではジョニーのマジックバッグに入れておけば問題ないと思います」
いいですか?とアインに聞かれましたけど、断る理由がありません。
私が頷くと、ブルースはいそいそと先程の大剣を持ってきました。
「大剣入れるダス」
「僕はこの剣がカッコいいからコレにする」
シナトラが選んだのは、ロングソードと呼ばれる剣だそうです。
柄の部分にシナトラの髪の色と似た、緑色の宝石?が埋め込まれています。
「コレは魔力を流すと、風の魔法を纏う剣です。
使うのにコツが要りますが、大丈夫ですか?」
アインが尋ねると、ニッコリ笑って元気に答えます。
「大丈夫じゃな〜い。
だって僕今まで武器なんて使った事ないもん。
これはここの石が僕とおんなじ色だから気に入ったの」
ああ、そうですよね。
つい先日まで虎…森オオネコでしたから、武器など使った事あるわけ無いですよね。
「それなら我が教えてやろう。
誰でも最初は素人だ、毎日鍛錬すれば、すぐに一端になれるだろう。
我が教えるのだからな」
ブルースが胸を張って言います。
「ホント?僕もすぐ使える様になる?
ジョニー父さんを守れる様になる?」
え?私ですか?
「ああ、任せるが良い」
「僕強くなってジョニーさんとチャック兄ちゃんを守るんだ」
なんて健気なんでしょう、まだ一歳の子供なのに。
思わず目が潤む私とは対照的に、チャックは…
「何で子供に守らなきゃなんないの?
自分の身は自分で守れるし!」
ちょっとご立腹ですね。
ジョニー「やっぱり使い慣れた物が良いですよね」
シナトラ「前いた所でも狩とかしてたの?」
ジョニー「そうですね…ある意味狩とも言えますかね!
詳細はそのうちに……想像つくでしょうけど