妻がキレました…怖い!
「9日後にちょっと遠出をしてきます」
「何かあったの?」
「ちょっと…出入りとでも言いましょうか……」
「…………はぁ……」
クルトゥスさん帰宅後、妻と部屋に戻り説明を…と思ったのですけど、心配かけない様に言い繕うと一応は考えたのですけど、隠し事は苦手ですし、したく無いので、きちんと説明をする事にしました。
「………と言う事で、施設に居る子供達を救出して来ます」
「………………」
「怪我をしない様気を付けますから」
「………………………………」
「それともしかすると何人か保護するかもしれません」
「………………………………………………」
無言で俯いていた妻は、泣いているのか小刻みに震えています。
私達は子供を望んでいましたけど、その望みを果たす事は出来ませんでした。
家族に馴染めず弾かれた私達でしたから、沢山の家族が欲しかったのです。
そんな私達の元には新しい命は育まれなかったのに、世の中には子供の悲惨なニュースが溢れかえっていました。
育児放棄、虐待、置き去り、連れ去り、虐め、自殺………。
そんなニュースを目にする度に、何度憤りを覚えた事か…。
『捨てるくらいなら俺にくれ!
虐める様な子供を作らない様に寄り添えないのか!
死んでしまうほど追い詰められるまで気付かないのか!』
など思っても、それは第三者だから言える事なのでしょうね。
自分に子供が居て、きちんと育てられるなんて言いきれません。
でも、それでも、子供は自分の分身ではなく、一人の人間として、寄り添い、話を聞いて、自分で考えさせて、想像力を養って相手の事を考えられる、そんな風に育てられたら良いよねと、妻と話をしていた私には、子供が不幸になるのは己のことの様に辛いです。
全ての不幸な子供を救うなんて馬鹿なことは言いませんけど、知ってしまったからには、施設の子は全員救いたい……いえ、救います。
そしてそのうちの何人かは、私達の町でそだてるつもりです。
でも1人で育てるのは無理なので、妻に協力して欲しいのですけど……。
俯いていた妻が徐に顔を上げ、視線を合わせてきます。
微笑んでいますけど、その瞳は笑っていません。
「ジョニー……いえ、丈二さん」
「はい!」
「子供は全員連れて来てくださいね。
全員この町で育てましょう」
妻の背後にブリザードが見えました。
----全員預かって貰えるのなら助かる。
ホルノーン国内では隠しきれないだろうし、山脈のそちら側まではそうそう手が伸びないだろうから。
でもそこまで甘えて良いのだろうか。
クルトゥスさんからの手紙に念話で、妻が是非にと言っていると伝えたら、宜しく頼みますと手紙が来ました。
その手紙に、食糧や衣料品、生活雑貨などを寄贈するとも書かれていました。
着る物なんて、一枚一枚手作りの世界ですので、古着であっても頂けるのなら有り難いですよね。
お言葉に甘える事にしました。
決行日まで、妻は忙しそうに動き回っています。
保護した子供が怪我をしていたらいけないからと薬を作ったり、無駄に広い家の使っていない部屋を掃除したり、寝具(と言ってもベッドは間に合わないから布団ですけど)や机を入れたり、町の人から古着や布を集めたり。
町の住民には、子供を保護して町で育てる事になる、とだけ説明しました。
誰一人からも反対意見は出ませんでした。
流石私が選んだリーガルリリーの住民です。
手の空いている方々は、率先して妻を手伝ってくれました。
「ジョニーさんのおかげで幸せに暮らせてるんだから、そのお返しですよ」
「そうそう、仕事も無く、家に居場所が無かった俺に、住む場所と仕事をくれたんだからな」
「この町だと獣人だからって隠れなくて良いしな」
「今度結婚が決まったんですよ、子供が産めなくても良いって彼が言ってくれて。
この町に来たおかげです」
部屋を整えながら、町の人たちが笑顔で話しかけてくれます。
本当に【情けは人の為ならず】ですよね。
沢山の住民が手を貸してくれて、迎え入れる準備は万端です。
ちょっとしたトラブルと言えば、デイビッドの奥さんが、
「子供を不幸にするクソヤローなんか私が成敗してやる!!」
と、ホルノーンに飛んでいこうとした事ですね。
流石小型と言えども猛禽類、激しいです。
そんなデイビッドの奥さんの前に出たのはうちの妻です。
「うふふ、荒事は男性陣に任せれば大丈夫ですよ。
私達は傷ついた子供を温かく迎えてあげましょう。
ゴミの始末は任せましたからね、あなた達」
「「「「は、はい!!」」」」
この件に関してはうちの妻、とても怖いです。
私だけではなく、一緒に居たデイビッドやブルース達の背筋まで伸びましたから。
そして作戦決行日がやって来ました。




