クルトゥスさんの頼み・3
私が微妙な表情をしているのに気付いたのか、クルトゥスさんはお茶を一口飲み、気持ちを切り替えて続けます。
「国の治め方はそれぞれでしょうから、他者が口を出すのはどうかと思います。
それでも、母の残した記録石を見つけたからには、行動を起こさずには居られなかったのです」
記録石とは、日記の様な…いえ、録音機?ビデオレター?そう言った感じの物だそうです。
クルトゥスさんが国を出された理由が、見た目が美しく無いからと無性人だから。
虐待とまではいかないけれど、邪魔者扱いされて、家を追い出されのでしたよね。
その家に戻った理由が、父親が亡くなったか。
一番邪魔者扱いした父親が居なくなったとは言え、庇ってくれなかった家族の元に戻るのを良しとしなかったのが、ブルースと袂を分かった理由です。
郷に戻り暫くして母親も亡くなり、遺品を整理していた時に、隠してあった記録石をクルトゥスが見付けたそうです。
掛けられていた封印を解除し、それでも見るのを躊躇って一年程放置していたのですけど、命日に家族と共に記録を見て、隠されていたホルノーンの秘密を知ったそうです。
「大体おかしいと思いませんか?
蛇の亜人はどの種族の者と結ばれても、生まれてくるのは美しい子だと言う事が」
そりゃあそうですよね。
いくら蛇の亜人の遺伝子が強かろうと、両親のどちらに似るかなんて分からないし、隔世遺伝なんてのもあるのですから、必ずしも美形に生まれる事なんて無いですよね?
「現に私はこうして地味ですし、この顔は母親とそっくりなんですよ」
クルトゥスさんは正直申しますと、地味です。
モブフェイスです。
そっくりと言う母親も地味だったと言う事ですよね?
「ん?お母様は蛇の亜人だったのですよね?
蛇の亜人は皆さん美形なのでは?」
問いかけに、クルトゥスさんは首を横に振ります。
「いくら蛇の亜人が美しいからと言って、相手も美しいとは限りません。
筋骨隆々な方、肌の色の濃い方、太…ぽっちゃりな方など、種族によって美しさの基準は違います。
なのに蛇の亜人の子供は皆、色白で華奢で美しい………不自然だと思いませんか?」
「まあ、普通に考えてあり得ないよね。
血が混ざればどちらの特徴が出るかなんて、生まれて来なければ分からないんだし」
コニーの言葉にブルースも続けます。
「聞いておると、ホルノーンの者との間の子は皆蛇の亜人の様だが、そんな事あり得なかろう」
「そうですよね、いくら蛇の亜人の子であっても、片親は種族が違うのですから、蛇の亜人しか生まれてこない訳ないですよね」
そこで言葉を切ったクルトゥスさんに、嫌な予感がします。
「……ホルノーンの者達は、蛇の亜人以外が生まれたら、間引くのですよ」
「はぁ?」
思わず声が出てしまいました。
間引くって、アレですよね…生まれた子を…………。
「蛇の亜人で有っても、美しく無い者も間引かれます。
そうして、美しい蛇の亜人のみが生かされて、育てられるのです」
話を聞いて吐き気がしました。
蛇の亜人では無いから?美しく無いから?
そんな馬鹿げた理由で子供を殺すのか?
「…貴方のお母様は、貴方と似ていたのですよね?」
それまで口を挟まなかったアインが問いますと、クルトゥスさんは頷きます。
「間引いた子供は、その場で殺されるのでは無く、いくつか有る施設に集められます。
そして……そこで選別されるのです」
碌でも無い予感がひしひしとしてきますね…。
「いくら蛇の亜人が美しいからと言って、必ず狙った国に嫁げる、或いは婿に行く事が出来るのはおかしいと思いませんか?」
「えっと…魅了と言いますか、意思を操る事で嫁いでいるのでは?」
私の答えに首を横に振るクルトゥスさん。
「意思を操るには何年も側にいるか、幾度も幾度も体を重ねないと操ることは出来ません」
そう言ってましたね。
「ならどうやって?」
「簡単な事です、相手の好みをとことん調べて、その好みに合った相手を嫁がせるのです」
あー、そりゃあそうですよね。
人の好みなどそれぞれですから、自分のストライクの相手から結婚を申し込まれれば、高確率で受けますよね。
「父の様に地味な顔の好きな方や、好みが小柄な方、渋い方、声の良い方、歌の上手い方、芸術センスのある方、戦いの上手い方、胸の大きな方…髪の色が好きとか、食べ物の嗜好が合うとか、後は…性的嗜好が合うなど、細かく調べて、その好みに合う相手を向かわせます」
好みに合う美形…確かにそんな相手が見合い相手だったら、断られることは殆どないでしょう。
私は妻が居ますから、どんな相手でも断りますけどね。
「狙った国のトップやその周辺の者…側近や位持ちの好みに合った者を施設から選び、より好みに合う様に躾けて向かわせます。
そして、長い時間をかけて呪いにかけると」
話を聞いていて、子供を間引くのはいかがなものかと思いますけど、虐待されるわけでも無く、生かされて教育を受け、嫁ぎ先まで面倒見てくれる。
自由は無いでしょうけど、それはそれでアリかと思います…倫理面を無視すれば。
子供は親元で育てられるのが幸せだと言い切れません。
虐待や放置、育児放棄、日本でも散々子供の悲劇を耳にしました。
それよりはマシかな、と思ってしまったのですけど、話はここで終わりではなかったのです。




