妻の居る日常
妻が居ます。
お互いにやる事が有るので、一日中くっついている訳にはいきませんけど、生きて動いている妻と一緒に暮らせているのです。
朝晩の食事は、一緒にとっています。
家族とも一緒です。
寝る時は、週に一度ほどのペースで、私は家族の寝室で雑魚寝をします。
チャックの魔素の循環は随分と良くなっていますけど、ずっと一緒に寝ていましたから、妻を喚んだからと急に「これからは完全に別だよ」とはいきません。
私が寂しいです。
シナトラや白雪も一緒に、四人で一緒に寝ています。
最近私は、妻の作った薬を入れる為のガラスの小瓶を作ろうと、ガラス職人の方々と試行錯誤しています。
栓はコルクを使用予定です。
しかしながら、吹きガラスで薬用の小瓶は難しいですねぇ…。
町の運営は、相変わらずアインとコニーが主体ですけど、経理事務として雇っている、ドーディーさんがしっかりしてきたので、仕事を随分と割り振っているそうです。
え?私が町長でしょうって?
何かあった時に責任を取るのは私ですけど、細々した事は、素人が口を出す事じゃ無いですよね。
そう言うわけで、サーベラス商会も、アインにお任せしているのですけど、今年になって移住してきた方に、適材が居たのです。
商家の長女さんで、跡取りとして学んでいたそうなんですけど、最近【弟】ができたそうで、お役御免となったとか。
まあ、良く有る話ですけど、旦那さんが手を出した下働きの女性に子供ができてしまい、女性は隠して出奔。
一人で産んで育てていたけれど、病で育てられなくなり、旦那さんに「あなたの子よ…」と……。
怒った奥さんと娘さんは、離縁書を叩きつけて家を出て、うちの町へ移住して来ました。
浮気はいけませんよね。
しようとする気にもなりませんよ。
そんな母娘をまとめて雇い、商会をお任せする予定で、只今教育中です…アインが。
基礎はバッチリ出来ていますので、近いうちに雇われ店長?になってもらう予定です。
妻は薬師として、主婦として、バリバリと働いています。
薬師とは別に、服のデザインも頼まれたりしています。
ドレスとかでは無く、普段着の、ですけど。
ブラウス、スカート、ズボン、シャツ、ワンピースなどですね。
作務衣や貫頭衣みたいな服が支流の世界ですから、日本の普段着でもファッショナブルに見えるようです。
でも、まだ技術的に【小さなボタン】が作れないので、妻としては不満のようです。
え?私は何をしているのかですって?
今まで通りですよ。
ガラス工房で『こんなの作れないかな』と意見を出しに行ったり、移住希望者の面接したり、カカルの民や、ダイズスキーなどから、色んなものを仕入れたり、輸出したり、町中や農作地を見回ったり、ダンジョンに出かけて体を動かしたり、結界が作動しているかチェックしたり、ワープを使い、彼方此方へ挨拶回りや、採取やら、何やらかんやら。
……色々やっているようで、【仕事】と言えるのは、仕入れと輸出くらいな気もしないでは無いですけど…。
2月の頭には、新婚旅行へも出かけました。
………ワープを使い、日帰りですけど。
カカルの民のババ様や、ダイズスキーのポチさんに、妻を紹介して来ました。
「これがバター茶…、独特の風味だけど、嫌いじゃないかしら」
テレビで見ていたバター茶と多分同じものだと思われる物ですけど、私は苦手です。
狩りの獲物が少ない冬は、羊を潰して食べるカカルの民なのですけど、あの独特の匂いがなく、美味しいんですよね。
どうやら、薬草で下処理をするそうなのですけど、妻はその手法を教えてもらっていました。
普通に牛豚鶏を食べて、ジビエや羊などは家で作ってまで食べる事はなかったですからね。
「でもこの世界だと、食肉用に交配された家畜なんて居ないのだから、何でも美味しく食べれる様に、色々と知っておくに越した事無いと思うの」
とニッコリと笑った妻は、料理方法なども教えてもらっていました。
ダイズスキーでは………ポチさんのテンションがウザかったです。
「ちょっ!マジ奥さん召喚したの?
え?そんなのアリなの?
つか、ズルくね?
町つくって、色んな物に手広く手ぇ出して成功して、仲間にドラゴンや魔王なんかいて、更にリア充?
爆ぜろ!禿げろ!もげろ〜〜〜!!!」
落ち着いた後は、仲良くお茶をしましたけどね。
日本での生活や、こちらの世界のあるあるなどを、面白おかしく話してくれました。
勿論ヨルゼル氏の元や、コニーの城、北の城や南の港町、私が綺麗だと思った風景などを、妻と一緒に見て回りました。
日差しの温かい日には、家族も揃ってピクニックへ出かけたりもしました。
遠くへはワープ、近場はバスで移動したのですけど、妻はバスがお気に召した様で、一人でもゾウケシのポニーに乗って、町の近辺を散策しています。
私も時間が合えば、ドドに乗って一緒に行きます。
チャックやシナトラも付いてきて、皆でのんびりとバス移動を楽しんでいます。
そんなこんなな、妻と家族と一緒に過ごす、日常生活を送っていた2月の終わり、一人の来訪者によって穏やかな日常が崩れる事になりました…………。
次回から新章に入ります。
予想は付いているでしょうけど、大きなフラグ回収です。
暗い話になります、苦手な方はごめんなさい。




