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ギルドからの客・再び

「先日はサレレとアルジルが大変失礼致しました!」

部屋に入ってくるなり、開口一番に謝罪を述べたのは、三十代半ばの人族の男性です。


サレレとアルジルって誰?


いや、今目の前に居るのが、薬師ギルドから改めて派遣された方ですから、10日ほど前に来たあの小悪党の名前だとは分かりますけど、どちらがどちらなのか、最後まで名乗らなかったから判断つきません。

まあ、覚える気もないから別に良いんですけどね。


「総支部から派遣されました、ルスギー と申します、この度は本当にご迷惑をおかけしました」


直角になるほど頭を下げたルスギーさんに椅子をすすめて、お茶を出します。

ありがとうございますと、お茶を一口飲むルスギーさん。

そう言えばあの二人はお茶にも手をつけなかったですよね。


「それで、先日の件はその後どうなったのでしょう」

隣に座るアインが問いかけます。

「内内に済ませてこちらへの報告は必要ない…と考えている訳ではないですよね?」

更に突っ込むと、ルスギーさんは冷や汗をかきながら、報告をしてくれました。


どうやら西のそこそこ大きな国の薬師ギルドで、年配の男性は副ギルド長をしていたそうです。

そこでの評判は至って普通。

仕事も普通にこなすし、人付き合いも普通だったそうです。


勤続年数もそこそこ長くなって来たし、町のギルドですけど、出世の第一歩としてこの町へ派遣される事になったのだとか。


しかし、男性が西の国を去った後、次に副ギルド長となった方が、過去の帳簿や薬の在庫を細かに調べたところ、上手く隠蔽されていた書類の改ざんに気づいたそうです。


横領、薬草や薬の横流し、相手により値段を変えたり、僅かながら水増ししたり…とんでもない。


とても巧妙に隠されていて、新しい副ギルド長以外だと見つけられなかったそうです。

当然ギルド単位での犯行を疑われ、ギルド長を始め、全ての職員が調査され、そのギルドでは男性の単独犯だと確認が取れたそうです。


若い方の男性は、別のギルドの一般職員だったそうですけど、年配の男性が横流しした薬草や薬を内密でさばき、収入を年配の男性へ渡してた…売人ですね。

一旦別のギルドの職員を通す事で、発覚を防いだのでしょう。

バレましたけど。


そして今回地元から離れ、しかも小さな町のギルドだから、被っていた猫が剥がれたんでしょうね。

更に私の見た目が若いから、泣き寝入りでもすると思われたのでしょうか。

ふふふ、舐めたらあかんぜよ。


二人の処分は、ギルドからの追放と、損害賠償、水増し薬を売ったことで薬師としての活動停止処分、また、各ギルドへ犯行の通達もされて、どのギルドでも再就職が出来ないと、かなり厳しい処分を受ける事になるそうです。


まあ、薬なんて信頼出来ないと怖くて使えないですからね。

少しばかり“ざまぁ”と思ってしまいました。

だって感情のある人間だもの。


「そうですか、処分もキチンとされたのですね。

再発もなさそうですし、安心できます。

併し、そこまで詳しく話して良かったのですか?」

話を聞き終えたアインが尋ねます。


「勿論です。

こちらへも被害が及ぶところでしたし、ギルド全体の評判が落ちるからと隠蔽する事の方が問題ですから。

薬も商品です。

信頼が無いと売買は出来ません。

まして、内服して病を治す薬が信用出来ないとなると、命に関わる事になります。

薬師としてのプライドが有るのなら、犯行に気付かなかった落ち度も合わせて、罪を認め、情報は公開するべきだ、と総支部長はお考えです。

なのでお話しさせていただきました」


やってしまった事は仕方ない、それに気付かなかった方にも問題はある。

それでもやらかしを認め、隠す事なく公表し、反省を持って再発を防ぐ。

ギルドは大きな組織ですから、末端まで目が行き届かないのは仕方ない事かもしれませんけど、真摯な対応は心証が良いですね。


などと思っていたら、隣にいるアインが念話で話しかけて来ました。


『彼の発言に嘘は無いですね。

調べた事と一致します。

貴方が宜しければこのまま話を進めても大丈夫ですよ』


………うん、予想していたけど、全て事細かに調べたのですね、アインは。

どうやって情報を得たのかは聞かないでおきましょう。

だってアインなのですから。



「それで、この町に薬師ギルドをと言うお話は、このまま進めても宜しいのでしょうか?」

話終わってぬるくなったお茶を一口飲み、ルスギーさんが尋ねて来ます。


「そうですね、折角の薬草ダンジョンですから、状態の良いままでお渡ししたいですし…」

チラリとアインに視線を流すと、頷いてくれたので、アイテムボックスから、例の物の一部を取り出しました。


「コレを見つけたので、病の方の為になればと思うのです。

総支部長さんへお渡しいただければ、きっと有用に使って貰えるのではないでしょうか」

ルスギーさんは「失礼します」と片眼鏡……モノクルでしたっけ?を装着して白手袋をはめ、手に取ります。


「こ……これはもしや…………」

「ええ、人喰い花の花弁の一部です」

あ、驚いて目を見開いたから、モノクルが落ちましたよ、ルスギーさん。


「この大陸に生えてるなんて聞いたこと無いぞ!

それになんて新鮮なんだ!

これだけの量があればアレもソレもかなりの量が作れる」

ブツブツ呟いていますけど、そっちが素の口調なんでしょうね。


今取り出したのは、花びらの一部、20センチ四方程度の大きさですよ。

丸っと丸ごと出したら、失神でもするのでは無いでしょうか。

でも一度に出すのはやめときなさいと言われてるので、ちょっとずつ小出しにするのです。


「これは買い取らさせていただいて良いのでしょうか?」

「勿論です」

「でも、価格の判断が付きませんから、上の者と相談させていただいても?」

「大丈夫ですよ」

私が頷くと、少し言い淀んでから、

「…それで、これはこれ以上無いのでしょうか?」

と聞いて来ました。

当然でしょうけど、答えは決まっています。


「“今は”それだけです」


私の言いたい事が伝わったのか、

「わかりました」

と引いてくれました。

察しもいいし、態度も問題ないですし、この方なら信用しても良いかな。


「ではこれから宜しくお願いします」

私が笑顔で言うと、ルスギーさんもホッとした様に笑顔で返します。


「こちらこそ、信頼していただける様、真摯に努めさせていただきます。

末長くよろしくお願いします」



こうして下夏の中旬に、リーガルリリーに薬師ギルドが設立されました。




ジョニー「アインの情報網ってどうなってるのでしょうね」

ブルース「世の中知らない方が良い事もあると思うぞ」


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