表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
171/231

進めダンジョン 1

「ラルーセンさんは薬草に詳しいのですね」

私が言うと、「はは…」と乾いた笑いを漏らします。

「案内するからって、一夜漬けで覚えてきたってのも有るけど、採取依頼の多いのばかりだしな」

一夜漬けでもこんなに沢山の種類の見分けが付くのは凄いと思います。


「それにな、ネタバレするなら、わからないやつはこれを見てんだ」

言われて彼の手元を見ると、手のひらサイズのメモ帳?いえ、冊子の様ですね。

中には薬草の図柄と名称、2、3行の説明書きが載っている様です。


「依頼によくある薬草図鑑の簡易版だな。

ギルドで薬草採取の依頼を受ける時、申請すれば貸し出してくれるやつだ」

「成る程成る程」


依頼が一種類の薬草なら覚えるのも簡単ですけど、複数の薬草を採取する依頼なら、これが有れば便利ですよね。

続けて説明を受けなが進みます。


「ねえ父ちゃん、何にも出てこなくて退屈だよ」

先に進んでいたシナトラ達が寄ってきます。


ダンジョンの中を進んでいるにもかかわらず、一匹も魔獣が出てきませんね。

デイビッドが辺りを見回しながら尋ねてきました。


「俺はダンジョンって初めてなんだけど、ダンジョンの中って、魔獣がウロウロしてるって聞いた様な…」

「うむ、場所によっては魔獣も少ないが、一匹も出て来ぬとは…何かあるのか?」


ブルースが問いかけると、ラルーセンが頷く。

「もう少し奥へ行くと匂いが届くだろう」

言われてブルースとシナトラが辺りの匂いを嗅いでいます。


「何だか甘い匂いがするね」

「そうか?我には酒の匂いに感じるが」


私も周辺を嗅いでみましたけど、何も感じません。

「俺らみたいな人族にはまだ匂いは届かないだろう。

逆にあんたら亜人だとまずい事になるかもしれないから、布で口や鼻を覆った方がいいぞ」


ラルーセンさんに言われて、ブルース達は布で口と鼻を覆います。

……山賊かなにかの様ですね。


「うっわ、どんどん甘い匂いが濃ゆくなる」

「…この匂いの事?

オレにはミカンみたいな酸っぱい果物の匂いに感じるんだけど」

「え?これは肉の匂いじゃないのか?」


進んでいくと、チャックやデイビッドにも匂いは届いてきた様です。

私だけ何の匂いも感じないのですけど……。


〈いや、あんたって、常時風魔法で匂い対策してんじゃん 〉

!!そうでした!

家から出るとオートで風魔法を発動しているので忘れてました!


〈…………………………… 〉


風魔法を解除して……


「………………これは……」

化粧品とシャンプーと、柔軟剤?などと、お菓子の香りが混ざった様なこの香り、妻の匂いです!

心臓がきゅーっとなる匂いです!


思わずキョロキョロしてしまいましたけど、近くにいるわけ無いですよね……。

ああ…早く会いたい……、会って抱きしめて、胸いっぱいに妻の匂いを嗅ぎたい………。

ああ………こちらから更に強く漂って来る……………。


「ジョニー!!」


匂いに釣られフラフラと歩いていると、目出し帽を被った不審者が私の肩を掴んできました。

あ、違いますね、布の袋を頭に被り、目の部分をくり抜いているのですね。

どちらにせよ頭が冷えました。


頭が冷えたと同時に、足首に何か冷たい物を感じて下を見ると…


「うっわ、これってもしかしなくても触手?」

「いや、蔦だな」

隣に来たブルースが、剣で蔦を切りながら「アレを見ろ」と、顎で前方を指します。

「……うわー………」


視線を向けた先に有る…生えているのは、肉厚の黒と紫のマダラの花、巨大なラフレシア擬きが蠢いています。

そのラフレシア擬きからウネウネと触手…じゃ無い、蔦が伸びていて、どうやら私達を捕らえようとしている様です。


そして、そのラフレシア擬きの周りには、沢山の動物の成れの果てが………。


「あれは肉食植物の中で一番大きくて、一番厄介なやつだ。

動物だけじゃなく、人も食べるから、【人喰い花】と呼ばれているやつだ」

そのままかい!など突っ込むところじゃ無いですね。


「これが人喰い花…危ない花だってじいちゃんに聞いた事は有ったけど、この大陸には生えてないって聞いてたんだけど」

「我も初めてだな。

長い事生きておるが、幻臭げんしゅうは初体験だ」

「げんしゅー?幻覚じゃなくて?」


どうやらこの花の匂いは、【そのモノが一番心地よい香り】に感じるそうだ。

視覚ではなく、嗅覚に幻を感じさせ、誘き寄せてから蔦で絡め取り、肉を溶かして養分にすると………怖!


「だから皆違う匂いを感じたんだね」

「んでもって、こいつの養分になったせいでこの階層には魔獣が居ないって訳だ」

ラルーセンさんの言葉に、辺りを見回すと、私達と人喰い花の間以外、花の向こう側にも沢山の死骸が積み重なっています。

肉だけ消化するのでしょう、骨に溶けきれなかった毛や皮、肉片などがこびり付いた物が小山を作っています。

なのに漂って来るのは死臭ではなく、思い出の中の………。


「スッゲームカつく…とっととアレ始末しようぜ」

キレるなと言うのがムリだろ。

俺の中のアイツの思い出を愚弄する様なこのふざけたクソ植物、チリも残さず殲滅してくれる。


「ジョニー、ちょっと待った」

「あぁん?」


止めようとするオッサンを殴りもせずに睨みつけるだけで収めてる俺って、優しい奴だろ?




ガチギレジョニー、最愛の人の思い出の香りが、死体の山から漂って来るんですから、キレますよね。

死体の山から甘い匂いや酒の匂いが漂って来るのもビミョーですけど、デイビッドの肉の匂いは見た目とのギャップは少ない?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ