王様トカゲ
それからも三人で森の中を進みました。
三人の仲も良好です。
チャックは元鳥ですので、木の実や果物を主食としていますが、亜人化したことにより雑食になったようで、お肉も食します。
お肉に関しては、脂っぽい物は苦手な様ですけれど、木の実のソースや果物と一緒に調理した物は好きな様です。
シナトラは調理した物も喜んでたべますが、たまに「新鮮な物が…」と、獲って来た獲物を頭からボリボリ食べたりもしています。
はっきり言ってスプラッタです。
私は塩やハーブを適当に入れても、美味しく出来上がるスキルのおかげで、食生活は充実しています。
私がこの世界に来てから10日程経った頃でしょうか、昼の準備でいつものように、私が火を起こしている間に、チャックが木の実や果物を、シナトラが肉を狩にと、役割分担で動こうとした時、それはいきなり現れたのでした。
「!!ジョニー!チャック!隠れるんだ!」
シナトラの叫びにチャック葉の茂った木の下に、蹲るようにしゃがみ、シナトラも太い幹の陰に隠れました。
何か大きな音が近付いて来るのは分かったのですが、状況の掴めない私は、その場に立ち竦んでしまいました。
ふと頭上に影がさしたので、条件反射で見上げたら、そのに居たのは
「………これはドラゴンですか?」
マンガなどは読みませんし、ゲームもやりませんが、テレビCMなどで目にする事があるドラゴンが、頭上でホバリングしていました。
「ちょっ!何ぼーっとしてんだよ!」
隠れていた木の茂みからチャックが飛び出して来て、私を突き飛ばし、シナトラが居るのとは別の木陰に入ります。
「あれってドラゴンだよね?
随分大きいねえ」
パッと見た感じですが、二階建ての一軒家くらいの大きさでしょうか。
山吹色をしたドラゴンは、爬虫類の様な瞳でこちらを見ている様です。
私の中ではドラゴンと言うと、坊やよい子だ〜の蛇っぽいやつなんですけどね。
刺繍も勿論あちらの龍でしたし。
あ、【竜】がこちらで、長い方は【龍】ですね。
うん、これは竜です。
…ん?この言い方って、英語の最初で習うアレみたいですね。
『This is a Dragon』
そんな現実逃避をしていましたけど、チャックの声で引き戻されました。
「ドラゴン?なにそれ?
あれは魔物寄りのトカゲで、王様トカゲだよ!」
トカゲ?
まあ見た感じ爬虫類ですけど、そこは一緒くたにして良いのでしょうか?
離れた木の影からシナトラが話しかけて来る。
「色んな魔法を使うし、なんでも食べるんだよ。
僕達も食べられちゃうのかも」
見上げれば確かに、鋭い爪も口の横にはみ出している牙も、私達くらいなら簡単に捕らえ、食べてしまいそうです。
「でもさ、王様トカゲってここ何十年も出てないって聞いてたよ!
なんで出て来るんだよ!」
「僕も初めて見たよ。
本当に居るんだね」
キリキリしているチャックに、隠れながらも興味津々なシナトラ。
私は逃げるべきかこのまま隠れているべきか、考えていたのですが、行動を起こす前にドラゴン……王様トカゲが降りて来てしまいました。
あの大きさの翼で、よくあの巨大を浮かす事が出来ますねえ。
バランス的に無理な気がするのですけれど。
近くで見ると、更に爬虫類っぽいですね。
苦手な方ですと、鳥肌が立つかもしれません。
そんなこんなを考えていると、急に頭の中に声が響きました。
『ほう、懐かしいような不思議な気配を感じて来てみれば、貴様は誰だ?』
初めての違和感に頭がクラクラします。
「初めまして、私は日本から来ました、後藤 丈二と申します。
この世界では『ジョニー』と名乗ることにしています」
ぺこりと頭を下げると、王様トカゲがずいっと顔を寄せて来ました。
『ニホン…は分からぬが、よその世界から来たと言う奴は、以前幾人か居たな。
なる程、だから気配が違うのか』
流石王様と名前が付くだけあって、話が早いです。
チャックやシナトラの時は、別の世界を理解させるのに苦労したのですよ。
『ではお前は、無性人ではないのだな?』
「私は男性ですよ」
『匂いではそうだが、どうも無性人の気配がするのだが、何か心当たりはあるのか?』
聞かれたので私は素直にこれまでの事を話しました。
聴き終わった後、『そうか』と言って、暫く何かを考え込んでいる様でした。
『お前はこの世界の事はあまり理解していない様だな』
「そうですね、案内人の方からいただいた【タブレット】のおかげで少しは学んでいますけれど、実際なにが分からないのかが分かっていないのです」
さもあらんと、また考え込む王様トカゲを邪魔しない様に、私も口を閉じます。
暫くして、いくつか質問をされました。
『お前はこれからも聞かれれば、この世界にいる経緯を話すのか?』
「聞かれれば答えますよ」
『すべてを話すことによってトラブルが起きたらどうする』
「どうしましょうね」
『これからも亜人を増やしていくのか?』
「そうですね、家族や仲間は多い方が嬉しいですから」
『それで起こりうるトラブルはどう対処するのだ』
「きっとどうにかなります」
『……どうにかなると思うのか?』
「どうにかするのです」
また黙り込む王様トカゲでしたけど、今度はいきなり笑い出しました。
『ハハハハハ、面白いなお前。
ちょうど退屈していたのだ、お前にこの世界を教える為に、我が同行してやろう』
急展開に唖然とする私の背後で、「え?ムリ」と呟いたのはチャックでしょうか。
『我は面白い事が大好きだ。
我が居れば千人力ぞ、共に在れるのを光栄に思うが良い』
「ありがとうございます」
あー、ありがとうとか言っちゃったよ、オレ達の意見は無視かよ、と叫んでいるのはチャックですね。
「ありがたいのですが、その大きさで一緒には無理だと思いますが」
『それは当たり前だな。
なれどお前が我に名付けをすれば問題なかろう』
「え?あなたも家族になってくれるのですか?」
『家族…か………、いや、家族ではなく仲間でも良いか?
我には別にソレが居るのでな』
家族が他に居るのでしょうね。
奥さんやお子さんでしょうか?
私にすれば、勿論家族が嬉しいですけど、仲間でも充分です。
「それでは私の仲間になっていただけますか?」
『うむ、よかろう。
名前をつけるが良い』
私は近づき、そっと足に触れました。
王様トカゲ…ドラゴンですからね、それならやっぱり……
「では、貴方の名前は【ブルース(リー)】で、どうでしょう」
『ブルースか。
よし、では今から我はブルースぞ』
ブルースの体が光り、滲んで小さくなっていきます。
光が治ったそこには、見た目はシナトラと同年代の、二十歳半ばに見える、金髪で背の高い男性が居ました。
どうやら山吹色だと思っていたのですが、金色のドラゴンだったようですね。
「もう少しご年配の方かと思いました」
私が言いますと、ブルースは、
「ハハハハ、我はそんな年寄りではないぞ」
と、笑いながら言いました。
こうして私達に、物知り(らしい)仲間が増えました。
竜が王様トカゲなら、龍は王様蛇?それとも足つき蛇でしょうか?
学者が居ない世界だと、細かい種族名は無いだろうな、きっとキノコも、主人公は何度も食べてるけど、違う種類なんだろなぁ、と思います