小さな恋のメロディ……?
麓の町で過ごしていたヨーコーが城へやって来ました。
「町の暮らしは問題がありましたか?」
アインが問いかけると首を横に振り、ヨーコーは答えます。
「いえ…普通でした。
でも、わたしは皆さん…と一緒に居たいです」
おや?『皆さん』といいつつ、視線がルシーの方へ流れましたね。
「城へは来たくなかったのでは?」
「………城は怖いです…。
城に来るのは、とても不安で…怖いです。
それでも、皆さんと一緒が良いです……」
城にどんなトラウマがあるのでしょう。
そのうち話してくれますかねぇ。
「あなたが良いのなら、城へ滞在してください。
無理な様なら、せめて近くの…城下町の宿を手配しますよ」
アインの提案に、少し考えてから
「ここで良いです」
と答えるヨーコーの意思を尊重し、コニーに部屋を用意してもらいました。
城へ移ってきたと言いましても、私達はそれぞれ忙しくしていて、朝晩の食事と、その後の寛ぎタイム以外はヨーコーは一人で部屋にこもっています。
気まぐれにルシーが話し相手になっている様ですけど、本当に気まぐれで、5分も話すと、
「じゃあ私はもう行くね」
と、外へ出かけてしまうそうです。
振り回されていないかと、ヨーコーに尋ねたんですけど、
「顔を見られるだけで、嬉しい…です」
ですって!
野暮な事を聞いてしまった様ですね。
しかし、何もせずに篭ってばかりなのは、精神衛生上良くないと思い、アインに相談して、調理スキルを複写して渡しました。
これがあれば、材料と、大まかな作り方さえ覚えれば、あとは適当にしても、丁度良い火加減や良い塩梅で美味しいご飯が作れます。
私が作らなくても、ほぼ同じ味が再現できますので、食事作りはお任せすることにしました。
ヨーコーの時間潰し+部屋から出て他者と交流+おい食事にあり付けると、良いことだらけですね。
全部が全部、ヨーコーが作ると言う訳ではないので、何を作るか、他の人にどれを任せるかなどの話をすることで、城の料理人とも打ち解けてきた様です。
城の料理人の皆さんが、おおらかな方で良かったです。
そんなある日、依頼を受けに行こうとした私に、ヨーコーが尋ねてきました。
「ルシーさんは、どんな料理が好きですか?」
おやおやおやー、料理でアプローチですか?
胃袋掴んじゃいますか?
「肉料理ですね。
味付けのはっきりしたものが好きですけど、ステーキじゃあありふれたますからね、味噌ブタなんかどうかな?
作り方教えますよ」
漬けて焼くだけなんですけどね、生姜焼きも好きですけど、食べ応えのある味噌ブタの方が好きです。
……豚ロースの味噌風味とか言うんでしたっけ?
でもうちの呼び方は【味噌ブタ】なんです。
「美味しいー!」
「うん、これは美味いな」
「僕これ好き」
「ご飯が進むね」
ルシーだけでなく、ブルースやシナトラ達も絶賛です。
あまり肉を好まないチャックも、美味しそうに食べていますね。
「これはね、ヨーコーがルシーの為に作ったんですよ」
女性向けのメニューでは無い気がしますけど、肉食ですからね、彼女。
「私の為?」
あっという間に完食したルシーが、キョトンと首を傾げます。
ブルースとチャックとディビッドはピンときた様で、無表情を取り繕いつつ、聞き耳を立てている様です。
シナトラは…キョトンとしてますね。
「以前、犬から守ってくれました。
いっぱい会いに来てくれました…、いっぱい話しかけてくれました。
わたし、嬉しかったです。
ここが、ぎゅってなりました」
握った拳を胸に当て、目を瞑る。
「あなたは、わたしの特別……です」
おおー、告白タイムですか?
味噌ブタ前に、告白ですか?
残念な感じが漂いますけど、皆黙って見守っていますよ、ヨーコー頑張れ!
「あなたと居ると、ここが温かいです。
ぎゅってなって、涙が出そうです。
あなたが、特別です」
ルシーも黙ってヨーコーの告白を聞いています。
「あなたの事………」
聞いてて良いんですかね?
聞かないなんて言いませんけど。
ちょっと小っ恥ずかしいですね、甘酸っぱいですね、青春ですね。
「母さんって、呼んで良いですか?」
「「「「はっ?」」」」
私とブルースとチャックとディビッドの声が重なりました。
「小さい頃、わたしを抱きしめてくれた、いっぱい、会いに来てくれて、たくさん話をしてくれて、わたしを守って…………………。
もう会えない、母さん……。
あなたは母さんと、同じ匂いがします。
同じ様に優しい、わたしを守ってくれた。
母さんと似ています」
潤んだ瞳で見つめられたルシーは、ニッコリと聖母の様な微笑みを浮かべ、口を開きます。
「嫌よ」
「「「「はぁ⁉︎」」」」
「あら、だって私まだ生まれて20年よ?
番どころか雄と個人的な付き合いもした事ないのに、なんで同じ年頃の雄の親になんなきゃいけないの?」
「まあ、それはそうかも知れぬが、もうちと、こう…思いやりと言うか」
「それに見た目だって、ヨーコーの方が全然上じゃない?
そんなおじさんみたいな見た目の雄に「母さん」なんて呼ばれたら、他の雄から誤解されるでしょ」
まあ、ルシーの言う事もわかります。
実年齢は置いといて、見た目ですと、周りの誰よりも老け……落ち着いて見えますからね。
「でも、お友達ならなっても良いわよ」
ルシーの譲歩?により、ヨーコーは改めてルシーの友達となりました。
個人的にはもっと甘酸っぱい流れを期待していたんですけどね。
「友達?
初めてです、友達って。
これからよろしくお願いします」
ヨーコー的には友達でも良かった様ですね。
……しかし、母親は居ず、友達も居なかったって、どんな育ち方をしたのでしょうね。
そのうち話してくれますかねえ。
ヨーコー&ルシーのフラグ回収話。
二人をくっつけるパターンも有ったのですけど、ルシーはまだまだ縛られたく無いようです。
ヨーコーは母親の面影を追い求めたのか、恋だったのかは、本人のみぞ知る、と言う感じで。
このやりとりの後も、ルシーは今まで通り、気まぐれにヨーコーを尋ねる事でしょう。
そしてそれを嬉しく思うヨーコー。
二人の関係が変わるかどうかは、まだ分かりません。